レムナント2019/03/04

  • 20170803網状星雲

    A.網状星雲
  • 20190101_Sh2-240

    B.Sh2-240
  • 20171026かに星雲

    C.かに星雲(M1)

学生のころ天体の「レムナント」という言葉を初めて聞いたとき、そういう固有名詞なのだと勘違いして覚えました。やがて英語論文やWeb情報のなかで他分野でもremnantが使われていると知るに至り、「残骸」を表す一般名詞だったのかと再認識したわけです。

天文分野が好きな人にレムナントと言うと「超新星残骸」(supernova remnant)を思い浮かべるでしょう。超新星残骸は空のあちこちに残っており、有名どころでははくちょう座の網状星雲(上A画像)、オリオン座のバーナードループ、おうし座からぎょしゃ座にかけて広がるSh2-240(上B画像)、M天体トップのカニ星雲(上C画像)、南天の巨大なガム星雲などが挙げられます。大小様々存在し、昨今のナローバンド撮影ブームもあって、絶好の撮影対象でしょう。

でもこの記事で紹介したいのは天体のレムナントではなく、気象上のレムナント。下のDからIまでの画像、実はこれ先日まで発生していた台風2号およびそのレムナントなのです(元画像:NICT、地図等は筆者)。2月発生の台風として観測史上もっとも強くなった今年の2号、速報値ではありますが、最大風速、最低気圧、継続期間、猛烈なクラスだった期間、累積ACE値などほとんどのスペックで追従を許さないくらい抜きん出ていました。最終的に2月28日15:00JSTに熱帯低気圧へ落ち着いたので、下画像のDのみ台風状態なのです。でも翌日、またその翌日と渦構造を保っており、ついに昨日まで確認できました。今日はさすがに渦が消えましたね(※夕方追記)。

  • 20190227気象衛星

    D.2月27日
  • 20190228気象衛星

    E.2月28日
  • 20190301気象衛星

    F.3月1日

  • 20190302気象衛星

    G.3月2日
  • 20190303気象衛星

    H.3月3日
  • 20190304気象衛星

    I.3月4日

私は気象学者では無いから、どの段階までレムナントというのか正確には知りません。気象庁の地上天気図では3月2日21:00に熱帯低気圧表記も消えて、その後は何も描かれなくなりました。AがBに変わる過程で、Bとは呼ばずにAのレムナントと表現する境界が曖昧なことは分かります。仮に「元の特徴や構造が少し残っている」ことをレムナントとするなら、少なくとも上画像Hまで「残骸」と言えるのではないでしょうか。また呼び方はどうであれ、消滅後三日経っても他の気圧配置に紛れること無く渦がはっきり分かる台風なんて、少なくとも私の記憶にはありませんね…。どなたも指摘していないようですが、すごい現象としか言いようがありません。

実は天文分野でレムナントという言葉は超新星残骸だけでなく、木星などガス惑星の表面に見える模様の盛衰にも使われます。惑星模様を高精細に観測する方は天文ファン全体からすると少ないでしょうが、木星の小さな渦が消えかかって、上記の台風2号のような「渦の残骸」になってしまうことがあるそうです。現在小さくなりつつある大赤斑もいつかはレムナントになってしまうでしょうか。

つい先日、NASAが火星の天気予報を広報するサービスを始めたようです(→NASAニュース)。今後やってくるであろう宇宙航海時代には各惑星の気象情報がハンディツールで簡単に手に入るようになるでしょう。その頃にまたレムナントという言葉を耳にするかも知れませんね。

今日の太陽と花粉光環2019/03/05

20190305太陽
曇りや雨の天気が続き、三日ぶりの太陽観察となりました。とは言ってもあちこちに雲が湧き、全体的に薄雲も混じっている青空です。すっきり晴れているわけではありません。今夜から明後日にかけてまた天気が下り坂。

20190305太陽リム
左は10時過ぎの太陽。活動領域はありませんが、所々に模様の乱れが確認できます。プラージュと言えるほど明るくはないようです。プロミネンスが右上リムに見えました。足元を見るとまだ半分光球から出てないようで、衰えなければ明日にかけて全容が見えるでしょう。

20190305花粉光環
くすんだ空だったためスギ花粉の光環は見えないだろうと思ったら、大変濃く見えていました(右画像)。昨夜の雨上がりが早かったせいか、今日は朝から花粉が多くなったようです。スギの実が雨で湿っている内は花粉が飛ばないでしょう。

空にモヤが多いと、花粉が多い日でも光環は見えません。光の回折光が散乱して混じり合い、真っ白になってしまうからです。

千島列島から伸びる珍しいカルマン渦列2019/03/05

20190305カルマン渦列
左は本日3月5日9:00の気象衛星ひまわり画像(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。画像中央を見ていただくと、得撫島から南西にむかって「カルマン渦列」が伸びていますね。

この付近でカルマン渦列ができるのはそう珍しくないのですが、ほとんどの場合シベリアから南東や南南東へ向かう風に沿った列になります。今日とても目を引いたのは列の向きが珍しかったからです。画像右端やや下に低気圧の大きな渦があり、この外周に沿って段々中心へ向かう風の向きに渦列が並んだのが原因と考えられます。

衛星画像を調べたところ、朝の7時頃にはカルマン渦列の片鱗が確認でき、15時の時点でまだ存在していました。ただし低気圧が北東へ移動しているため、渦列が最も西へ向いたのは朝のうちで、その後ゆっくりと南向きに推移しました。

日本付近のメジャーなカルマン渦列発生地である済州島近海でも、昨年3月17日に西南西へ渦列が並んだときがあり、珍しい!と感動しました(→関連記事参照)。たまにこういうことが起きるので、衛星による地球観察は止められない面白さがあります。

急速に曇る中で岩本彗星を観察2019/03/06

20190305岩本彗星(C/2018Y1)
天気予報通り、5日夕方から低空に雲が湧き始め、6日に変わる頃には小雨が降り出しました。ただ、宵のうちわずかに星が見える時間があったため岩本彗星(C/2018Y1)を撮れるだけ撮っておこうと思いました。この時期は天気が安定しないため、例え10分でも新月期の晴れ間は貴重です。

まだ手元が見えるほど明るい内に準備時間が確保できたので、天文薄暮終了と同時に露出開始というスケジュールが組めました。肉眼ではオリオンの三つ星がほとんど見えないくらい霞んでいましたが、どうにか彗星をマニュアル導入。そのまま即撮影です。

北からも南からも雲が広がり、時々ガイド星をロストする酷い状況。撮影中に地震まで発生して望遠鏡が揺れてしまうレアなアクシデントもありましたが、しつこく撮り続けてトータル50分ぶんの画像をゲットできました(左上画像)。

岩本彗星は地球接近から半月あまり経って急速に暗くなりましたが、まだ8等程度をキープしているようです。画像から測ったコマ直径は少なく見積もって約3.8′角。1600mmオーバーの焦点距離で2分露出でもほぼ流れなくなりました。随分小さく、そして移動も遅くなりましたね。空が良ければもっと大きく見えたでしょう。間もなく夕空に月が回ってきますが、次に快晴で観察できるのはいつになるやら…。

参考:
岩本彗星(C/2018Y1)に関係する記事(ブログ内)