火星の衛星を撮影してみました2016/05/30

日付が5月29日に変わる少し前、地球接近直前の火星を撮影するのに併せてやってみたこと、それが「火星の衛星の撮影」です。火星にはフォボスとダイモスというふたつのお月さまが回っています。でも名が知られている割に、木星や土星のメジャーな衛星に比べ、観察や撮影例をプロやハイアマチュア以外であまり聞きません。挑戦意欲をそそられ、前々から撮影したいと思っていました。

火星の衛星たちは普段14等から15等といった暗さですが、衝や地球接近で火星本体が明るくなるのと一緒に11等台まで増光します。これだけ聞くと「余裕で写せる」などと思ってしまいそうですが、そうは問屋が卸しません。すぐ側にマイナス2等の火星がいるからです。母天体の光に埋もれることなく11、12等の衛星を捉えることは至難の業。できるだけ衛星が母天体から離れた位置を狙う必要があるのですが、今回の地球接近の場合、遠い方のダイモスでも火星中心からの最大離角は60秒角程度、フォボスは25秒角程度。火星本体の視直径が18.6秒角ありますから、離角は本体半径を差し引いて考えなくてはいけませんね。小口径で見えるメジャーな二重星くらいは離れているけれど、いっぽう光度差はシリウスA&Bよりもはるかに大きいです。恒星のような点光源ではなく火星本体が面積を持つため、各種の干渉縞や光学系の反射ゴーストが強くなる恐れもあるでしょう。

いずれにせよ、火星接近時でないとできないチャレンジなことは確かです。案ずるよりなんとやら、いろいろ条件を変えながら撮影しました。撮影後の画像処理も何十回となくやり直し、ようやくそれらしい像を取り出すことができました。下左は28日22:42撮影(前後4分間程度の画像を合成)の画像で、下右はGuideによる確認星図です。

  • 20160528火星衛星画像1
  • 20160528火星衛星の星図1

中央の明るいバッテンが火星。反射望遠鏡の斜鏡スパイダーによる回折を受けています。(※反射系で撮影する場合は必ずスパイダーの光条を衛星のいない向きにしなくてはいけません。)火星位置でスタッキング処理したため、数分間の火星+地球の公転で背景の恒星が移動しました。衛星も自転で若干移動しています。(※このときは両衛星とも最大離角位置ではなく、もっと近いです。)

続いて、念のために時間を空けて撮影した別画像。下左は23:38撮影(前後4分間程度の画像を合成)の画像で、下右はGuideによる確認星図です。こちらはフォボスが火星光芒に埋もれてしまいました。上画像と比較すると、恒星は右から左へ移動してますが、フォボスは火星に近づき、ダイモスは遠ざかるように動きました。

使ったのは16cm反射望遠鏡で、アイピースによる拡大撮影、光路の途中にフィルター付きという環境のため、内部で複雑な反射ゴーストが出ています。本来はこんな複雑な光学系を使うべきでないのですが、もともと火星本体を撮影する状態でそのまま衛星を撮ろうとしたため、汚い絵面になりました。とにもかくにも、何とか検出することができて満足。いつかもっとシンプルな光学系ですっきり撮影できたらいいなと思います。

  • 20160528火星衛星画像2
  • 20160528火星衛星の星図2

参考:
2016年火星の地球接近・アンタレス接近に関する記事(ブログ内)

まもなく火星が地球に接近!2016/05/29

  • 20160528火星
  • 20160529土星

いよいよ2016年5月31日朝に火星が地球に最接近します。この接近は「火星とアンタレスが接近」(→関連記事1関連記事2)といった「見かけ上」ではなく、実際にふたつの惑星が接近する現象です。上は昨夜日付が29日に変わる直前の火星と直後の土星(同倍率)。両惑星はさそり座に並んで輝いています。空全体が霞んで気流もやや悪かったものの、火星は土星本体をも凌ぐ大きさになっていて、模様が良く見えました。約24時間前の画像5月23日の観察と模様の違いも比べてみましょう。

地球と火星の接近図
前回の接近は2014年4月14日でしたから約2年1ヶ月半ぶり。他の惑星と地球は周期性をもって近づいたり遠ざかったりしており、これを「会合周期」と言うこともあります。周期と言っても時計のように正確ではなく、ある程度のブレ幅があるんです。例えば火星の場合、ここ50年間では接近から接近まで2年と37日くらいのこともあれば2年と68日くらいのこともあります。

右は1980年から2039年までの60年間に起こる全ての接近を図に描いたもの。接近計算はCalSkyによります。(→アーカイブ:惑星カレンダー参照。)地球軌道に対して北側から垂直に見下ろし、できるだけ実際の位置と距離比に近くなるよう正確に作図しました。背景はステラナビゲーターによる星図で、現時点の黄道座標に合わせてあります。詳しく見ていただけるよう大きな画像にしました。(※国立天文台サイトにも似た図があります。)みなさんはどの接近を覚えていますか?また、何年先の接近まで観察できそうですか?

地球や火星の軌道は正円ではなく楕円ですので、ひとくちに接近と言っても間隔が狭いところや広いところがありますね。また接近のとき、「太陽−地球−火星」は一直線になりません。衝=最接近ではないのです。両惑星はこの図に対して奥行き方向にも若干のズレがあります。ひとつひとつの接近のなかで、距離がかなり近くなる時を「大接近」、遠いときは「小接近」、どちらでもなさそうなら「中接近」と表現することもあります。今年は中接近、2年後の2018年は大接近ですね。面白いことに…よく考えれば当たり前なんですが…、遠い過去未来まで想定しなければ、何月に接近するかによって大・中・小接近の振り分けがおおよそ分かります。

火星の大きさ比較
火星の場合、もっとも接近する時期と一番遠い時期とでは距離が4倍から7倍ほども変化し、また接近同士を比べても5600万km以下から1億100万km以上まで様々なケースがあります。当然見かけの大きさは激変しますから、表面の模様まで観察できる大接近のチャンスはとても貴重なのです。

左図は近年で一番近かった2003年の大接近と、今年2016年の中接近、そして来年もっとも遠くなる2017年8月の見かけを比べた図です(Stellariumによる作図)。もう、衝撃的ですよね…。関東は月末のお天気が悪そうですが、全国のみなさん、望遠鏡で火星を観察する機会を作ってぜひじっくり楽しんでくださいね。

参考:
2016年火星の地球接近・アンタレス接近に関する記事(ブログ内)