レムナント ― 2019/03/04
学生のころ天体の「レムナント」という言葉を初めて聞いたとき、そういう固有名詞なのだと勘違いして覚えました。やがて英語論文やWeb情報のなかで他分野でもremnantが使われていると知るに至り、「残骸」を表す一般名詞だったのかと再認識したわけです。
天文分野が好きな人にレムナントと言うと「超新星残骸」(supernova remnant)を思い浮かべるでしょう。超新星残骸は空のあちこちに残っており、有名どころでははくちょう座の網状星雲(上A画像)、オリオン座のバーナードループ、おうし座からぎょしゃ座にかけて広がるSh2-240(上B画像)、M天体トップのカニ星雲(上C画像)、南天の巨大なガム星雲などが挙げられます。大小様々存在し、昨今のナローバンド撮影ブームもあって、絶好の撮影対象でしょう。
でもこの記事で紹介したいのは天体のレムナントではなく、気象上のレムナント。下のDからIまでの画像、実はこれ先日まで発生していた台風2号およびそのレムナントなのです(元画像:NICT、地図等は筆者)。2月発生の台風として観測史上もっとも強くなった今年の2号、速報値ではありますが、最大風速、最低気圧、継続期間、猛烈なクラスだった期間、累積ACE値などほとんどのスペックで追従を許さないくらい抜きん出ていました。最終的に2月28日15:00JSTに熱帯低気圧へ落ち着いたので、下画像のDのみ台風状態なのです。でも翌日、またその翌日と渦構造を保っており、ついに昨日まで確認できました。今日はさすがに渦が消えましたね(※夕方追記)。
私は気象学者では無いから、どの段階までレムナントというのか正確には知りません。気象庁の地上天気図では3月2日21:00に熱帯低気圧表記も消えて、その後は何も描かれなくなりました。AがBに変わる過程で、Bとは呼ばずにAのレムナントと表現する境界が曖昧なことは分かります。仮に「元の特徴や構造が少し残っている」ことをレムナントとするなら、少なくとも上画像Hまで「残骸」と言えるのではないでしょうか。また呼び方はどうであれ、消滅後三日経っても他の気圧配置に紛れること無く渦がはっきり分かる台風なんて、少なくとも私の記憶にはありませんね…。どなたも指摘していないようですが、すごい現象としか言いようがありません。
実は天文分野でレムナントという言葉は超新星残骸だけでなく、木星などガス惑星の表面に見える模様の盛衰にも使われます。惑星模様を高精細に観測する方は天文ファン全体からすると少ないでしょうが、木星の小さな渦が消えかかって、上記の台風2号のような「渦の残骸」になってしまうことがあるそうです。現在小さくなりつつある大赤斑もいつかはレムナントになってしまうでしょうか。
つい先日、NASAが火星の天気予報を広報するサービスを始めたようです(→NASAニュース)。今後やってくるであろう宇宙航海時代には各惑星の気象情報がハンディツールで簡単に手に入るようになるでしょう。その頃にまたレムナントという言葉を耳にするかも知れませんね。