旧正月と立春2025/01/29

2025年・新月の位置
本日は新月日。瞬時は21:35:58なので夜になってからですね。今年の新月と太陽との位置関係は左図のとおり。5・6月は北側に離れ、11・12月は南側に離れ、太陽至近を通るのは3月と9月です。ご覧の通り日本で日食が見えるタイミングではありませんが、3月はヨーロッパやロシア北西部、アフリカ北西部、グリーンランドなどで部分日食(サロス149)、9月はニュージーランドや南極の一部で部分日食(サロス154)になります。

さて、新暦でも旧暦でも今年最初の新月なので、本日は旧暦の正月(旧正月)と言うことになります。まもなく立春を迎えますが、立春と旧暦元日とのタイミングが近いことから様々な呼び名や考え方が生まれ、親しまれてきたようです。

以前に朔旦冬至というのを紹介しました。月始まりを示す新月日(朔)と、古くに年始まりとされた冬至が同一日(または非常に近い日)になることを表し、概ね19年周期で訪れます。似たように、年初めの朔(旧暦元日)と立春が同じタイミングになることは「朔旦立春」と言われ、おめでたい日として扱われました。現代の暦ルールに従って計算すると、立春は狭い日時に比較的規則正しく集約され、2000年代なら2月3日または4日です(下A図/赤丸は朔旦立春)。いっぽう旧暦元日は規則はあるものの、かなり広範囲に分布することが分かります(下B図)。このため、朔旦立春の出現は間隔が大きく不規則になりがちで、単純に○○年周期とは言えません。しかも不思議なことに2000年代は2038年の一回のみ。何だか不安になっちゃいますね…。

朔旦立春にならない年は、立春前に旧正月が来るか、立春後に旧正月を迎えるかに分かれます。前者は「新年立春」、後者は「年内立春」と呼ばれます。また年によっては旧暦年初と年末の二回立春になったり、年初・年末とも立春が来ないことがあります。二回立春がある年は「双春年」、全く無い年は「無春年」と呼ばれ、結婚を控えたりする風習もあったとのこと。

今回は旧暦と立春の関係・分類を1600年から2400年まで計算して調べました。結果の一部を記事下表に掲載しておきます。よくよく見ると、日付や新年立春の出現などに19年のパターン(メトン周期)が現れていて面白い。このことが分かり易いよう表内に「周期性」欄にインデックスを振っておきました。(※この番号自体に意味はありません。)たとえば3のインデックス行は毎回旧暦1月9・10日ごろで、新年立春・双春年である、と言った具合。とは言え、日付まで完全に一致するわけではなく、朔旦冬至と同様に“近い日”になるだけです。(日付が完全一致するなら朔旦立春の周期も19年になるはず。)

今年は今日の正月の後に立春が来ますから「新年立春」、そして2026年は年内立春なので旧暦2025年末にもう一回立春を迎えることになり、「双春年」でもあります。月の満ち欠けで一年の暦をまとめる旧暦と太陽・地球間の運動に基づく近代の暦との間には、まだまだ奥深い文化があるようです。

  • 立春の日付変化と朔旦立春のタイミング

    A.立春の日付変化
  • 旧暦元日の分布

    B.旧暦元日の分布


【立春の種類】
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
1950年2月4日 18:20:321949年12月18日年内立春単春年1
1951年2月5日 00:13:131950年12月29日年内立春無春年2
1952年2月5日 05:52:401952年1月10日新年立春双春年3
1953年2月4日 11:45:401952年12月21日年内立春無春年4
1954年2月4日 17:30:291954年1月1日朔旦立春単春年5
1955年2月4日 23:17:241955年1月12日新年立春双春年6
1956年2月5日 05:11:431955年12月24日年内立春無春年7
1957年2月4日 10:54:261957年1月5日新年立春双春年8
1958年2月4日 16:49:001957年12月16日年内立春単春年9
1959年2月4日 22:42:001958年12月27日年内立春無春年10
1960年2月5日 04:22:581960年1月9日新年立春双春年11
1961年2月4日 10:22:151960年12月19日年内立春単春年12
1962年2月4日 16:17:121961年12月30日年内立春無春年13
1963年2月4日 22:07:361963年1月11日新年立春双春年14
1964年2月5日 04:04:471963年12月22日年内立春無春年15
1965年2月4日 09:45:591965年1月3日新年立春単春年16
1966年2月4日 15:37:431966年1月14日新年立春双春年17
1967年2月4日 21:30:441966年12月25日年内立春無春年18
1968年2月5日 03:07:191968年1月7日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
1969年2月4日 08:58:491968年12月18日年内立春単春年1
1970年2月4日 14:45:421969年12月28日年内立春無春年2
1971年2月4日 20:25:221971年1月9日新年立春双春年3
1972年2月5日 02:20:111971年12月21日年内立春無春年4
1973年2月4日 08:04:101973年1月2日新年立春単春年5
1974年2月4日 14:00:041974年1月13日新年立春双春年6
1975年2月4日 19:59:101974年12月24日年内立春無春年7
1976年2月5日 01:39:271976年1月6日新年立春双春年8
1977年2月4日 07:33:231976年12月17日年内立春単春年9
1978年2月4日 13:26:571977年12月27日年内立春無春年10
1979年2月4日 19:12:171979年1月8日新年立春双春年11
1980年2月5日 01:09:271979年12月19日年内立春単春年12
1981年2月4日 06:55:231980年12月30日年内立春無春年13
1982年2月4日 12:45:281982年1月11日新年立春双春年14
1983年2月4日 18:39:411982年12月22日年内立春無春年15
1984年2月5日 00:18:441984年1月4日新年立春双春年16
1985年2月4日 06:11:471984年12月15日年内立春単春年17
1986年2月4日 12:07:411985年12月26日年内立春無春年18
1987年2月4日 17:51:391987年1月7日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
1988年2月4日 23:42:481987年12月17日年内立春単春年1
1989年2月4日 05:27:091988年12月28日年内立春無春年2
1990年2月4日 11:13:591990年1月9日新年立春双春年3
1991年2月4日 17:08:231990年12月20日年内立春無春年4
1992年2月4日 22:48:161992年1月1日朔旦立春単春年5
1993年2月4日 04:37:081993年1月13日新年立春双春年6
1994年2月4日 10:30:551993年12月24日年内立春無春年7
1995年2月4日 16:12:501995年1月5日新年立春双春年8
1996年2月4日 22:07:511995年12月16日年内立春単春年9
1997年2月4日 04:01:571996年12月27日年内立春無春年10
1998年2月4日 09:56:501998年1月8日新年立春双春年11
1999年2月4日 15:57:021998年12月18日年内立春単春年12
2000年2月4日 21:40:221999年12月29日年内立春無春年13
2001年2月4日 03:28:492001年1月12日新年立春双春年14
2002年2月4日 09:24:052001年12月23日年内立春無春年15
2003年2月4日 15:05:192003年1月4日新年立春単春年16
2004年2月4日 20:56:122004年1月14日新年立春双春年17
2005年2月4日 02:43:022004年12月26日年内立春無春年18
2006年2月4日 08:27:162006年1月7日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
2007年2月4日 14:18:122006年12月17日年内立春単春年1
2008年2月4日 20:00:242007年12月28日年内立春無春年2
2009年2月4日 01:49:472009年1月10日新年立春双春年3
2010年2月4日 07:47:502009年12月21日年内立春無春年4
2011年2月4日 13:32:562011年1月2日新年立春単春年5
2012年2月4日 19:22:232012年1月13日新年立春双春年6
2013年2月4日 01:13:252012年12月24日年内立春無春年7
2014年2月4日 07:03:162014年1月5日新年立春双春年8
2015年2月4日 12:58:282014年12月16日年内立春単春年9
2016年2月4日 18:46:022015年12月26日年内立春無春年10
2017年2月4日 00:34:032017年1月8日新年立春双春年11
2018年2月4日 06:28:292017年12月19日年内立春単春年12
2019年2月4日 12:14:192018年12月30日年内立春無春年13
2020年2月4日 18:03:192020年1月11日新年立春双春年14
2021年2月3日 23:58:472020年12月22日年内立春無春年15
2022年2月4日 05:50:472022年1月4日新年立春単春年16
2023年2月4日 11:42:332023年1月14日新年立春双春年17
2024年2月4日 17:27:072023年12月25日年内立春無春年18
2025年2月3日 23:10:282025年1月6日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
2026年2月4日 05:02:072025年12月17日年内立春単春年1
2027年2月4日 10:46:182026年12月28日年内立春無春年2
2028年2月4日 16:31:142028年1月9日新年立春双春年3
2029年2月3日 22:20:462028年12月20日年内立春無春年4
2030年2月4日 04:08:282030年1月2日新年立春単春年5
2031年2月4日 09:58:182031年1月13日新年立春双春年6
2032年2月4日 15:48:572031年12月23日年内立春無春年7
2033年2月3日 21:41:352033年1月4日新年立春双春年8
2034年2月4日 03:41:102033年12月16日年内立春単春年9
2035年2月4日 09:31:342034年12月26日年内立春無春年10
2036年2月4日 15:19:562036年1月8日新年立春双春年11
2037年2月3日 21:11:382036年12月19日年内立春無春年12
2038年2月4日 03:03:492038年1月1日朔旦立春単春年13
2039年2月4日 08:52:562039年1月12日新年立春双春年14
2040年2月4日 14:39:552039年12月22日年内立春無春年15
2041年2月3日 20:25:112041年1月3日新年立春単春年16
2042年2月4日 02:12:542042年1月14日新年立春双春年17
2043年2月4日 07:58:492042年12月25日年内立春無春年18
2044年2月4日 13:44:212044年1月6日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
2045年2月3日 19:36:222044年12月17日年内立春単春年1
2046年2月4日 01:31:102045年12月29日年内立春無春年2
2047年2月4日 07:18:082047年1月10日新年立春双春年3
2048年2月4日 13:04:442047年12月21日年内立春無春年4
2049年2月3日 18:53:312049年1月2日新年立春単春年5
2050年2月4日 00:43:552050年1月13日新年立春双春年6
2051年2月4日 06:36:182050年12月23日年内立春無春年7
2052年2月4日 12:23:102052年1月4日新年立春双春年8
2053年2月3日 18:13:172052年12月15日年内立春単春年9
2054年2月4日 00:08:122053年12月27日年内立春無春年10
2055年2月4日 05:56:072055年1月8日新年立春双春年11
2056年2月4日 11:47:292055年12月19日年内立春単春年12
2057年2月3日 17:42:532056年12月30日年内立春無春年13
2058年2月3日 23:34:532058年1月11日新年立春双春年14
2059年2月4日 05:24:232058年12月22日年内立春無春年15
2060年2月4日 11:08:382060年1月3日新年立春単春年16
2061年2月3日 16:54:122061年1月13日新年立春双春年17
2062年2月3日 22:47:332061年12月24日年内立春無春年18
2063年2月4日 04:31:432063年1月7日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
2064年2月4日 10:15:242063年12月18日年内立春単春年1
2065年2月3日 16:04:162064年12月28日年内立春無春年2
2066年2月3日 21:49:592066年1月9日新年立春双春年3
2067年2月4日 03:37:592066年12月21日年内立春無春年4
2068年2月4日 09:29:432068年1月2日新年立春単春年5
2069年2月3日 15:21:332069年1月12日新年立春双春年6
2070年2月3日 21:22:352069年12月23日年内立春無春年7
2071年2月4日 03:11:382071年1月5日新年立春双春年8
2072年2月4日 08:57:502071年12月16日年内立春単春年9
2073年2月3日 14:53:372072年12月27日年内立春無春年10
2074年2月3日 20:42:112074年1月8日新年立春双春年11
2075年2月4日 02:31:322074年12月19日年内立春単春年12
2076年2月4日 08:20:522075年12月30日年内立春無春年13
2077年2月3日 14:04:072077年1月11日新年立春双春年14
2078年2月3日 19:58:252077年12月21日年内立春無春年15
2079年2月4日 01:44:172079年1月3日新年立春単春年16
2080年2月4日 07:29:062080年1月14日新年立春双春年17
2081年2月3日 13:27:072080年12月25日年内立春無春年18
2082年2月3日 19:13:262082年1月6日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性
2083年2月4日 00:59:382082年12月18日年内立春単春年1
2084年2月4日 06:47:562083年12月28日年内立春無春年2
2085年2月3日 12:31:132085年1月9日新年立春双春年3
2086年2月3日 18:27:492085年12月20日年内立春無春年4
2087年2月4日 00:16:372087年1月2日新年立春単春年5
2088年2月4日 05:59:362088年1月12日新年立春双春年6
2089年2月3日 11:56:082088年12月23日年内立春無春年7
2090年2月3日 17:43:482090年1月5日新年立春双春年8
2091年2月3日 23:32:232090年12月15日年内立春単春年9
2092年2月4日 05:30:262091年12月27日年内立春無春年10
2093年2月3日 11:20:142093年1月8日新年立春双春年11
2094年2月3日 17:18:452093年12月18日年内立春単春年12
2095年2月3日 23:08:492094年12月29日年内立春無春年13
2096年2月4日 04:48:392096年1月11日新年立春双春年14
2097年2月3日 10:43:492096年12月21日年内立春無春年15
2098年2月3日 16:30:522098年1月3日新年立春単春年16
2099年2月3日 22:11:252099年1月14日新年立春双春年17
2100年2月4日 04:02:132099年12月26日年内立春無春年18
2101年2月4日 09:41:532101年1月7日新年立春双春年19
立春瞬時(JST)旧暦朔旦判定単双判定周期性

  • 自作プログラムによる計算です。
  • 将来の日時は閏秒ズレが予測できないため近似値となります。
  • 単双判定の欄で「単春年」という言葉は「双春年」に対して便宜上作った言葉です。この記事内のみの表現ですのでご留意ください。


参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

2025年のうるう秒調整はなくなりました2025/01/07

2017年1月-2024年12月のLOD累積
国際地球回転・基準系事業(IERS/INTERNATIONAL EARTH ROTATION AND REFERENCE SYSTEMS SERVICE)から1月6日UT付け(発表は7日夜JST)に「2025年7月1日(同年6月末UT)のうるう秒挿入はない」と発表がありました(→>IERS News:2025年1月6日UT付けBULLETIN-C69)。これにより、少なくとも今年いっぱいUTC-TAI = -37秒が維持されることになりました。最後のうるう秒挿入(2017年1月8:59:60JST)から今年の正月で丸8年。来年までうるう秒はありませんので、9年間うるう秒無しは確定。観測史上最長を再々更新です。

左図は2017年のうるう秒挿入直後を原点として、1日ごとのLOD(Length of Day:1日の実測長)差分値を足してゆき(水色線)、正確な時を刻む原子時計に対して自然に基づく時計がどれだけズレているか(緑線)を表したグラフ。(※測定データは昨年12月1日までを利用。)また右下図は、LODと24時間=86400秒との差の日々の値(薄青線)、および31日移動平均(赤線)をグラフ化したもの。一昨年までは一日が24時間より少ない傾向が強かったですが、去年はプラスに転じる時期が長くなりました。当面は多少の変動はあれど「ほぼ24時間」という期間が続くのかも知れません。

2020年1月-2024年12月のLOD差分変化
一方で昨年7月5日に「観測史上最短の一日」という記録も出ています。2022年6月29日の記録更新時には「史上最短日」などというニュースを国内外問わず結構見かけたけれど、昨年の記録更新の際はマイナス1.65ミリ秒という大幅更新にも関わらず報道を全く見かけませんでした。人間が慣れてしまったのかな?ネットを検索しても2022年の件しか出てきません。wiki「Leap second(閏秒)」の項も2022年の記録のまま更新されていませんね(2025.1.7.現在)。

右グラフの範囲内だけ見ると、移動平均の赤グラフは去年からマイナス側へ引き戻されている傾向も感じます。24時間より短い日が2021-2022年並に戻ると、再び史上初の「閏秒削除」という話になるでしょう。1日あたり1ミリ秒という小さな世界でも1000日続けば1秒になるんです。現在のように急速な温暖化が進めば南極や北極の氷が溶け、海が赤道付近に多く集まり、海底との摩擦が大きくなり、自転を遅くする要因となる…といった主旨の研究も進んでいます。

世界規模で2035年までに閏秒という仕組みを無くすことは既に決定されています(廃止に関する議論は国立天文台・暦Wikiにある解説を参照)。それまでに閏秒挿入/削除が起こるかどうか、見守りたいと思います。

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

2025年の初日の出・初日の入りマップ2024/12/31

2025年・初日の出
2024年も暑い一年でした。「情熱がたぎる」ほうの“熱い”なら大いに結構なのだけれど、気温の暑さは避けようも無く、気力と体力と電力を奪い取ってゆきますね。来年はどうなってしまうのでしょうか。

2025年の初日の出と初日の入りを計算し、同時曲線として地図に起こしました。自作プログラムによる計算で、標準大気の大気差まで考慮してありますが、標高は考慮していません。地図内時刻はJST表記です。この時期は日本全土の夜明けが1.5時間程度で済んでしまうのに対して、暮れるのに2.5時間もかかり、両者に大きな差があります。弓形の国土に対する同時曲線の傾きや進行方向の違いに注目してください。

2025年・初日の入り
計算しているうちに前日との違いが気になったので、2024年12月31日の日の出入りも地図化しました(下A・B図)。「初日(はつひ)」の対義語…つまりその年最後の日の出入りの呼び方がよく分からなかったので、ここでは「末日(まつひ)」と言うことにしました。「終日」は意味が違うし「大晦日」はお日さまのニュアンスを含んでいませんからね。一年最後の太陽を何と呼ぶのかご存知の方がいらっしゃったらお教えください。

12月31日と翌1月1日の日の出入りを比べると興味深いことが分かります。ぱっと考えて「同じように一日ぶんずれる」と考えがちだけれど、ズレ量は日の出と日の入りとで異なるんです。元日ごろは冬至後であり、既に日没時刻が伸び始めています(→12月2日記事参照)。対して日の出はまだまだ遅くなってる最中で、1月上旬から中旬にかけて折り返し点を迎えます。

地図同士を比べると、日の出の同時曲線はほとんど一緒の位置ですが、日の入りは屋久島一個ぶんくらい北東にずれています。同じ地点で考えると、日の出は大晦日と元日とでほぼ同じ(10秒程度の差)だけれど、日の入りは1日当たり1分程度ずつ早まっているんです。よほど博識な方でも無い限り、こんなこと言われないと気付かないでしょう。私たちが頭に構築してる一日の経過って、案外勘違いしてることが多いかも知れませんよ。

  • 2024年・末日の出

    A.2024年・末日の出
  • 2024年・末日の入り

    B.2024年・末日の入り


参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

高高度の月食は起こるのか?2024/12/20

20180131皆既月食
2024年12月11日記事では高高度の満月を扱いました。いつも拙ブログをピックアップしてくださる天リフ・山口編集長さんが12月17日配信中に「高高度の皆既月食を見てみたい」とぼそっと放った一言がとても面白い着眼点と思ったので、深入りしてみました。

近年の皆既月食で高高度だったのは、配信中にも「たつまる」さんがチャットコメントしてた2018年1月31日のもの(上画像)。このとき皆既最大時刻(1月31日22:30ごろ)は南中の1.5-2時間前、月の赤経が夏至点と秋分点の間あたりでした。月食が日本の高い空に見えるには「月食最大時が南中に近い」かつ「月が夏至点付近にいる」場合が理想と言えそうです。夏至点とは黄道上のおうし座とふたご座の境界あたり(M1とM35の間あたり)にあって、ここに太陽が来れば夏至になる位置。太陽だけでなく、月や惑星に置き換えれば北半球で南中高度が高くなるのです(※天頂より北を通過しない北緯に限る)。ちょうど今の木星や二ヶ月前の火星がそうですね。冬の悪シーイングも最小限で済むといったメリットは大きいですよ。

月がどれくらいの頻度/周期で高高度になるのか考えてみましょう。このような考察で問題になるのは、独立した条件が二つ以上重なること。例えば「最高高度」かつ「満月期」と言ったことです。「高度が高くなる」と「満月期を迎える」は互いに独立した周期なので、いわば速度の違う長針と短針がいつ交わるか探すような話になります。

月が黄道の特定位置…例えば夏至点に最接近するのはひと月内に必ず一回あって、その周期を「1恒星月(約27.32166155日)」と呼びます。いわゆる月の公転周期ですね。対して満月になる周期はおなじみ「1朔望月(約29.53058886日)」。両者は2日あまり違うので、ある満月がぴったり夏至点にあっても、次の満月は2日ぶん夏至点から遠くなってしまうでしょう。違う周期を同時に満たすケースを拾うのは面倒なのです。ここには答えを書きませんから、時間がある方は面倒さを味わいながら解き明かしてみてください。

赤道座標系・黄道座標系・白道座標系
月食の話をする前にもう一度「高高度満月」を正確に捉えてみましょう。私たちが地上から天体の運動を考えるときは赤道儀と同じように赤道座標系を使うほうが便利です。いっぽう、月や惑星は黄道に近いところを動くため、地球軌道面の延長である黄道座標系を使うと便利。このため、両者の関係性を知る必要がありますね。

小難しく言うと、天球の赤道と黄道が交差する位置が春分点・秋分点というふたつの分点(交点)、それぞれから黄道に沿って90°離れた位置が夏至点・冬至点というふたつの至点。この四つの点は互いの位置関係を決める要になります。天体の赤緯と観測位置の緯度が決まれば南中時の最高高度は一意に決まるけれど、黄道から離れずに分布する月や惑星は四つの点を行き交って赤緯を変えてしまいます。だから分点至点を基準にふたつの座標系のずれを把握することが大事なんです。

高高度満月を考えるときも「月が夏至点付近にいる」条件は必須に思えます。ところが事態はかなり複雑。天球上で月の通り道を表す白道が黄道に対してずれているからです。黄道に対し白道は約5.1°傾斜しているので、前述の赤道・黄道の関係と同じように交点と至点を考えることができます。地球から見た太陽の交点至点と区別するため、ここでは「月の交点・至点」あるいは「白道の分点・至点」などと言うことにしましょう。右上に模式図を掲載します。ふつう地球と太陽の関係を示すのにこんな天動説みたいな図は描きませんが、月軌道との類似性を表現するため敢えてこうしました。

白道の夏至点は黄道面に対して白道が最も北に離れる点ということ。従って、もし月の夏至点と太陽の夏至点が重なることがあれば、赤道座標からのズレは黄道のズレに白道のズレが加算され、「そこを通る月は夏の太陽より高く見える」ことになるでしょう。ただしその時に満月とは限りません。満月が夏至点にいるためには、反対位置…つまり冬至点に太陽がいなければならないため「もしふたつの夏至点が重なる年の冬至ごろに満月になったら高い空を通る」ことになります。でもそれが実現する周期となると「太陽と月の夏至点方向が重なる」「月が夏至点近傍」「そのとき満月になる」という三条件の成立が必要。数が増えてしまったよ…。

事態を混乱させているのは月軌道が固定されてないこと。ゆっくりですが、月の交点至点は黄道に対してずれてしまうし、軌道面内でも近地点方向が刻々と変わってしまうんです。「もし月の夏至点と太陽の夏至点が重なることがあれば…」と書いたけれど、実は滅多に重なりません。交点のずれが元の位置に戻るのに約18.6年もかかりますから、「最高高度の満月」の実現はこの周期が支配的になってしまいます。ここまでの苦労はいったい…。

気を取り直して、いよいよ高高度月食を考えてみましょう。月食の時は太陽・地球・月が概ね一直線に並びます。前出の座標系図に照らし合わせると「月黄緯がゼロ付近でなければ月食が起きない」ことが分かります。白道が黄道から離れた位置で満月になっても太陽・地球・月は一直線になりませんよね。つまり、月食は白道の春分点(昇交点)か秋分点(降交点)で満月になる必要があるのです。これは日食も同じ。簡潔に言うと、日食も月食も黄道近辺でしか起こりません。

月の黄緯変化と各種タイミング(2020-2021年)
もし白道交点の方向がいつまでも変わらなければ毎年決まった時期に日食や月食が起こることになりますが、前述した通り白道は刻々と向きを変えます。なので、日食や月食はまんべんなく年間にばらけます。実際の周期性は図化したほうが分かりやすいかも知れません。左図は月の黄緯変化に注目したグラフ(赤線)。2020年からの2年間です。このグラフに追加して、満月瞬時(赤丸)、月の二至二分点瞬時(青丸)、地球の二至二分(緑丸)、および発生した5回の月食(灰色楕円点線)を描きました。

満月から次の満月までが1朔望月、春分から次の春分が(地球の)1年…という具合に、こんなグラフにも様々な周期が潜んでいます。また、黄道ゼロラインに沿って白道の昇交点・降交点が並んでますね。高高度満月を考えるときは白道の夏至点近くで満月になるケースを探しましたが、月食の場合は前述した通り必ず交点近くで起きるのでした。グラフ内の5回の月食もすべてそうなっています。

高高度月食はこれらの条件を満たしつつ、更に地球が冬至の時期である必要があります。月食時の月黄緯がゼロ付近と決まってるため、月食高度に白道のズレが加算される余地はありません。かくして「月食最大時が南中に近い」かつ「夏至点付近にいる満月」という最初に予想した通りの条件が必要だと確認できました。頭の中だけで頻度や周期を導くのも骨が折れますから、高高度月食に関しては記事下表に数値計算結果を掲載しておきます。表を見ると二つの条件を満たす月食は少なく、10月から3月まで分布が広がってますね。もはや黄緯が大きいアドバンテージは薄いようです。近い将来では2029年の年明けすぐに始まる皆既月食が高高度スタート。皆既最大で天頂に見える訳ではないけれど、石垣島では欠け始まりから40分足らずでほぼ天頂という好条件です。今すぐ旅行会社に予約を。

なお、面白いことを考える人がいるもので、223朔望月≒242交点月が成り立つことが古くから知られていました。これは6585.3212日≒18年11日に相当し、この周期を経て起きた日食/月食は欠け方や食分、継続時間などがとても良く似た状況を生みます。サロス周期と呼ばれるものです。「日付が同じ日に同じ形の月が見える」性質を持つ19太陽年≒235朔望月(メトン周期)も広く知られてますね。一見すると平々凡々に過ぎる日常から、自然界に折り重なった見えざる周期を見いだす探求心は人間が持つ宝と言えましょう。

【高高度の月食/1900-2100年/日本経緯度原点】
食最大日時(JST)種類食分食最大時の
高度(°)
食最大時の
地心距離(km)
本影食開始時
の高度(°)
本影食終了時
の高度(°)
本影食内の
南中高度(°)
1901-10-28 00:14:33部分0.22164.672357457.667.39158.037南中なし
1907-01-29 22:37:16部分0.71065.646398353.449.42772.37572.640
1908-01-18 22:20:52半影-0.57165.635406274.4------
1911-11-07 00:36:00半影-0.17564.614366009.0------
1920-10-27 23:10:54皆既1.40066.803371272.754.90659.47367.045
1924-02-21 01:08:11皆既1.60159.816379066.764.21641.50165.212
1927-12-09 02:34:26皆既1.35247.856363472.767.01627.592南中なし
1934-01-31 01:41:59部分0.11360.441403109.567.05552.629南中なし
1935-01-20 00:46:51皆既1.35170.435404425.770.78950.09074.901
1936-01-09 03:09:14皆既1.01643.436388148.063.02023.212南中なし
1944-12-29 23:48:50半影-0.01776.310381847.4------
1946-12-09 02:47:44皆既1.16345.376356805.563.95826.234南中なし
1955-11-30 01:59:15部分0.11954.198358367.661.29046.667南中なし
1957-11-07 23:26:46皆既1.02969.945394438.960.03659.44169.946
1958-10-28 00:27:06半影-0.31461.944406166.1------
1961-03-02 22:27:56部分0.79955.283400747.639.98861.23561.331
1963-12-30 20:06:42皆既1.33640.957362027.021.11061.010南中なし
1974-11-30 00:13:20皆既1.29172.827374396.671.14254.94675.854
1982-12-30 20:28:42皆既1.18145.740357153.926.64164.782南中なし
1989-02-21 00:35:20皆既1.27663.324402843.860.85447.26065.124
1999-02-01 01:17:29半影-0.02562.759378543.3------
食最大日時(JST)種類食分食最大時の
高度(°)
食最大時の
地心距離(km)
本影食開始時
の高度(°)
本影食終了時
の高度(°)
本影食内の
南中高度(°)
2009-02-09 23:38:13半影-0.09067.221364028.1------
2011-12-10 23:31:49皆既1.10576.680397268.763.51563.94676.687
2012-11-28 23:32:58半影-0.18974.548406348.1------
2018-01-31 22:29:49皆既1.31663.092360201.945.14670.55370.835
2022-11-08 19:59:11皆既1.35840.224390652.918.37761.075南中なし
2029-01-01 01:52:04皆既1.24759.331377593.576.23938.564南中なし
2037-01-31 23:00:28皆既1.20667.866358083.451.94869.15671.449
2039-12-01 01:55:17部分0.94454.754404948.672.02634.322南中なし
2046-01-22 22:01:26部分0.05460.589360847.855.82165.288南中なし
2049-11-10 00:51:00半影-0.35563.624383376.3------
2059-11-19 22:00:24部分0.20665.524367679.556.58772.644南中なし
2066-01-12 00:03:36皆既1.13675.105399743.565.69159.60575.506
2066-12-31 23:28:58半影-0.13075.862406023.1------
2068-11-09 20:45:48皆既1.01649.902363069.831.32266.442南中なし
2076-12-10 20:33:41皆既1.44548.540387368.126.79669.610南中なし
2078-11-19 21:38:50半影-0.90762.225356715.2------
2087-11-10 21:04:23皆既1.50053.035356999.133.09169.112南中なし
2091-03-06 00:57:12皆既1.28256.408359514.359.29741.58460.140
2094-01-02 01:58:55部分0.88857.645403587.774.29737.623南中なし
食最大日時(JST)種類食分食最大時の
高度(°)
食最大時の
地心距離(km)
本影食開始時
の高度(°)
本影食終了時
の高度(°)
本影食内の
南中高度(°)

  • 自作プログラムによる計算です。201年間に起こる457回の月食を全て調べました。
  • 本影食は皆既食前後の部分食を含む月食状態です。半影食のみの状態は含みません。
  • 観察地において、食最大時・本影食開始時・終了時・本影食中の南中時のいずれかの月高度が60°以上になるケースをピックアップしました。
  • 本影食の時間の中で南中が起こる場合はその高度を記しています。高高度月食になるケースは南中時間と食最大が近いケースになるでしょう。
  • 「南中なし」のケースでは、食終了後に南中するか、南中後に食が始まるかのどちらかです。
  • 半影月食では食最大時の高度みの判断です。
  • 月の南中時刻や月高度は観察場所により変わりますが、食最大時刻は変わりません。
  • 月や地球の大きさ、大気の厚さなどの定数としてどの観測値を採用するかによって食分や本影時刻が若干変動します。