かんむり座T星の増光に備えておこう2024/03/26

20170603かんむり座
「かんむり座T星」が間もなく(年内・秋ごろまでに)新星となって明るく見える、というニュースを最近やたら目にします。調べるとNASAのこのニュースが発端らしい。

かんむり座T星は左画像の位置にある反復新星(回帰新星/再帰新星/Recurrent Nova)として知られます。英語のRecurrentという単語は、近ごろ転職や転属、退職後の再雇用などに伴う「リカレント教育」など“学び直し”の場面で使われるから耳にすることが多くなりましたね。

この星が遠くない将来に明るくなるだろうというニュースは少なくとも5、6年前には既に流れていました。当ブログでも直近では2021年8月11日記事に明記しています。そんな中、約1年前の去年3月にT星の減光(ディップ)が始まったことで、いよいよか!と現実味を帯びてきたようです。(※ATel#16107の情報はこちら。

20210810_T CrB
前例に倣うと、増光すれば2等級に達し、肉眼で見える期間はせいぜい1週間程度。NASAの見立てでは増光時期予測が「2024年の2月から9月のどこか」とのことですから、明日にでも明るくなるかも知れないし、夏を越すかも知れません。ずいぶん大雑把に聞こえるかも知れませんが、宇宙規模の大事件をここまで絞り込めるのはすごいことです。

私たち星好きは起こったことを真っ直ぐ受け止めて、ねじ曲げず記憶と記録に残すことが肝心と思われます。まずは「以前との比較」ができるよう、冒頭画像や右画像のようなT星を含むかんむり座領域を軽望遠レンズで画像に残したり、「かんむり座+西隣のうしかい座」や、「かんむり座+東隣のヘルクレス座」を広角レンズで撮っておくと良いでしょう。次の下弦頃までは月明かりがあるけれど、その後しばらくは撮影好機です。

現在かんむり座は夜半に東の中空に昇っています。7月には宵の天頂、9月には宵の西空に移ってゆくでしょう。冬までずれ込んだら低くなってしまいますが、宵と明け方の一日二回観察可能になります。果たして本当に明るくなるか、それはいつなのか、興味津々ですね。しっかり準備しておきましょう。

小惑星バウアスフェルダ観測キャンペーン2024/01/13

20240112小惑星Bauersfelda
日本プラネタリウム協議会(JPA)が小惑星「(1553)バウアスフェルダ」観測キャンペーンを行っていると耳にしたので、昨夜の晴れ間に撮影してみました。

カール・ツァイス社が投影型機械式プラネタリウムを作ったのが1923年だから、今年度は「プラネタリウム100周年」なのだそうです。光学技術者のウォルター・バウアスフェルド(Walther Bauersfeld)はプロジェクトの中心人物だったそうで、小惑星(1553)Bauersfelda(バウアスフェルダ)に名が残っています。100周年にちなみ、この小惑星を撮影してみようという試みのようです。

衝の時期には15等台前半まで増光するので、多分8cmから10cm程度の望遠鏡(長焦点)でも写せるでしょう。左上画像は12.7cm望遠鏡で光害の多い街中から撮ったもの。PCモニターでもはっきりした星像を結びました。ただシーイングがとても悪かったため、星像はかなり肥大しています。関東の冬では、こればかりは避けようがありません。

小惑星Bauersfeldaは5年弱で太陽を回るメインベルト小惑星です。こんなこともなければ目を向けてもらえない小天体でしょう。ぜひキャンペーンに参加して思いを馳せてみてください。氏の作った機械は現代で大きく進化し、1世紀経った今もたくさんの人を楽しませいてます。

ベテルギウス近くを通り過ぎた小惑星Leona2023/12/14

20231213ベテルギウスと小惑星Leona
昨夜は快星でしたが、21時ごろから急速に透明度が低下、夜半過ぎには薄曇りとなりました。別件で望遠鏡を出していましたが、時間が余ったためベテルギウスに向けてみました。まだ小惑星Leonaが近くにいるはずです。

左はベテルギウスとLeonaのツーショットで、Leonaは40分露出の動きが線状になっています。12月11日記事に掲載した画像と位置の違いを比べてみてください。この間にベテルギウスの近くを通ったことが分かりますね。

掩蔽の日から数日経って、様々な画像や動画があちこちのサイトに掲載されるようになりました。例えばSpaceweather.comに投稿されたイタリアのDomenico Licchelli氏の画像スペインのSebastian Voltmer氏の画像は大きな減光の様子や色まで変わったことがたいへん分かりやすく、素晴らしいと感じました。

当日はYoutube中継も見ていたのですが、皆さん慌てていたのかなんだか的を得ない内容ばかりで、安定した番組は少なかったように思います。ビッグニュースではあっても現象自体は繊細で短時間なのですから、現象前後に中継の撮影設定(カメラの向き、露出、ズームなど)を変えてはならないでしょう。まぁ過ぎたことを言っても仕方ありませんね。多くの観測者の結果がまとまってくることを期待して待つとしましょう。

もうすぐ小惑星Leonaによるベテルギウス掩蔽2023/12/11

20231211ベテルギウスに接近する小惑星Leona
今日朝現在、太陽を周回する小惑星は1338195個発見されています。その多くはここ20年くらいに発見された直径数十m以下のものですが、天文アマチュアが発見に貢献した1980年ごろからの20年間は、小型望遠鏡+フィルムで撮影できるくらいの大きいサイズで占められました。このころはまだ小惑星番号が4桁だった時代。総数が10000個を超えた等というニュースに驚いていましたから、三桁も違う現在を想像もできませんでした。

これだけ多ければ小惑星が遠方の恒星を隠す、いわゆる掩蔽現象(一般には恒星食と言われることが多い)が頻繁に起こっているだろうと容易に想像できるでしょう。実際、年間で何百回もの予報が出されています。たいていはターゲットの恒星が暗いケースが多いけれど、ごく稀に明るめの(…といっても望遠鏡必須)掩蔽もあります。観測経験を持つ方もいらっしゃるでしょう。これもアマチュアの貢献が大きい分野。「面的」に配置した多数の望遠鏡で掩蔽観測することで、その小惑星の形が分かってしまうのですから実にエキサイティングですね。

「2023年12月にオリオン座のベテルギウスが掩蔽される」というニュースを聞いたときは本当に驚きました。明るいにも程があるだろうという事例で、一生に一度のレベルでしょう。HAL研の早水勉さんの資料によれば過去にレグルスやポルックスなどの事例があったようです。黄道に近い恒星はメインベルト小惑星の通り道でもあるため、明るさに関わらず掩蔽される確率が格段に高いというわけですね。

20231212LeonaによるαOri掩蔽図(IOTA)
今回ベテルギウスを隠すのは小惑星Leona(319)。ベテルギウスは「大きさ」を持って見える巨星ですが、偶然にもLeonaを地球から見た視直径もベテルギウスとだいたい同じだそうです。ただしLeonaは別の掩蔽観測で楕円状に見える断面があると分かっているため、自転の状況によっては完全に隠すのか、金環食になるのか、当日観測してみるまで分かりません。日本からは見えないのは残念ですが、中継もあるようなので期待しましょう。現象は明日12日10:08JSTから10:26JSTの間とのこと。(注:時間をかけてゆっくり明滅するのではなく、暗くなるのは数秒間だけです。現象時間に幅があるのは「観測位置によって起こる時間が異なる」と言う意味です。)

昨夜は雲が多かったのですが、夜半過ぎまで少し雲間があったため、ベテルギウスと小惑星Leonaをツーショットで撮影してみました(冒頭画像)。移動軌跡がもっと線状になるまで露出したかったけれど10分あまりで雲に阻まれました。Leona自体は三桁の番号がほのめかす通り、かなり早く(1891年10月)に発見された大きいメインベルト小惑星。現在は14等前半と明るく、10cm台の望遠鏡で難なく写ります。明日の現象を過ぎても数日はベテルギウスとツーショットの撮影が可能でしょう。右上図はIOTAの資料からの引用で、掩蔽予報図です。米国フロリダ南端では東に登ったオリオン座、カスピ海付近では西に沈みつつあるオリオン座で現象が見えます。一瞬だけベテルギウスを失ったオリオン座を見ることになったら一生の記念になるでしょうね。許されるなら現地で見たかったけれど…。

このような予報には極めて正確な小惑星の軌道計算が必要です。小さな天体は単純な楕円軌道を回っているわけではなく、惑星の引力も受けています。互いに刻々と位置を変える惑星と小惑星との力関係を何年も積み重ねて今の位置に存在しているわけですから、気の遠くなる精度の計算と修正、検証が大切です。また、観測者の立つ地球の運動とか時間管理(地球自転のふらつき等)も注意を払う必要があります。この分野で長年地道に活躍しているみなさんに敬意を表します。