思いがけず三日月が見えました2021/05/15

20210515宵空
15日は記録的な早さで四国、中国地方以西が梅雨入りし、関東の天気も芳しくありませんでした。朝のうち盛大に内暈が出現。その後は日差しが弱まり、夕方近くまで比較的厚めの雲が空を覆っていました。

「たしか今夜は三日月か…無理かなぁ…」などと思いながら日没後にベランダへ出ると、なんと、かなり雲が引いているではありませんか(左画像)。前日の宵は薄雲越しに二日月が確認できたものの、撮影は全くできない有様。それから比べれば雲泥の差でした。急いで簡単ながら機材を組みました。

まだ明るいうちに何カットか保険撮影。その後、30分ほど経って暗くなってからも雲に十分な隙間があったので、再度撮影。無事、5月の三日月を記録することができました(下A・B画像/B画像は地球照込で仕上げました)。気流が落ち着いていたせいか、カメラファインダー越しでもたくさんのクレーターが観察できました。

三日月の左上、10°弱離れて火星が輝いていました(下C画像)。と言っても火星は四捨五入で2等星まで減光してしまったため、あまり目立ちません。月背後にあるふたご座の星のひとつかな?って思っちゃうほど地味でした。でもC画像内では月に次いで二番目に明るい星ですよ。16日宵には2°余りまで接近しますが、少なくとも関東の天気は雨予報…。冒頭画像のアングル内には他にも水星と金星がいたはずですが、雲が邪魔で全く見えませんでした。

夢中で月を観察していた同じ時間帯に、コアモジュール「天和」と国際宇宙ステーションの通過が立て続けにありました。カメラを向け直すのも面倒なので撮影はしませんでした。天和のほうは雲でよく分かりませんでしたが、さすがにISSは雲越しでも明るく輝いていました。思いがけず、宵空のプレゼントにほっこり。

  • 20210515夕空の月

    A.5月15日宵の月(月齢3.65)
  • 20210515夕空の月

    B.三日月と地球照
  • 20210515_月と火星の接近

    C.月と火星


センタームーンを観よう・補足2021/05/13

測心秤動比較(2021年5月・中心付近)
5月5・6日に掲載した「センタームーンを観よう」の記事に関して、いくつかのご意見やご質問をいただきました。そのなかから二点をピックアップして補足説明いたします。観察の参考になれば幸いです。


★国内での測心秤動の差は?
本編では当ブログの基点として使っている茨城県つくば市(市役所位置)での測心秤動図を掲載しました。「国内では概ね同様の傾向」とは言っても、日本は直径3000km円からはみ出るほど大きいため、それなりに差が出ます。では、どれくらいの差なのでしょうか。

具体例を挙げたほうが分かりやすいので、本編に掲載した秤動図のうち、今月5月の中心付近プラスマイナス4°を拡大してみました(左図)。この中に、つくば市以外の比較として札幌(北海道庁)、福岡(福岡県庁)、那覇(沖縄県庁)の三地域も一緒に描き込みました。新月と満月のマーク、近地点通過時(×印)、遠地点通過時(+印)が確認できます。いちばん秤動がずれているあたりを測ると、札幌-那覇間で0.4°未満。緯度秤動と経度秤動に分解すればもっと小さいです。同じ日時の観察に限って言えば、これを超えることは滅多に無いでしょう。

こうして拡大すると分かりやすいのですが、遠地点通過のころより近地点通過のころのほうが「バネの様な測心秤動の伸び幅」も「地域間のまとまり具合」も離れています。月が近く、動きも大きいため、観察位置差による月面の向きの差が目立って大きくなるわけですね。


★秤動がいちばん大きいときは?
2021年5月の秤動
タイトルがセンタームーンですから「秤動がゼロに近いタイミング」に拘って探ってきましたが、逆に「秤動が最大になるときはいつなのか?」が気になる方も多いでしょう。むしろ「裏側を見たいから」という理由で、こちらのほうが需要があるかも知れません。

期間や範囲などを区切ったとき、注目する観測値が取りうる最大値または最小値は「極値」と呼ばれます。秤動の場合、ひとことで極値と言っても様々な解釈があるでしょう。ここでは以下の6種類について計算しました。

  • 地心経度秤動がプラス側に最大/マイナス側に最大
  • 地心緯度秤動がプラス側に最大/マイナス側に最大
  • 測心経度秤動がプラス側に最大/マイナス側に最大
  • 測心緯度秤動がプラス側に最大/マイナス側に最大
  • 地心秤動が中心から最も遠い
  • 測心秤動が中心から最も遠い

2021年秤動極値
経度秤動の極値は地心または測心の秤動図で「最も右側/左側の点」ということ。緯度秤動なら「最も上側/下側」ですね。また、ある日時の秤動位置を緯度経度ではなく「真の月面中心からの離角(=秤動量)」と「月面北極方向からの方向角」で表したとき、秤動量が最大になるポイントが見つかるでしょう(右上図/2021年5月の例)。もちろん経度秤動や緯度秤動の極値とは異なる日時になります。

この秤動量最大点も地心と測心とで異なり、同じ様な位置になることもあれば右上図のように全く違う方向角の場合もあります。更には、集計期間によっても変化するし、「毎年5月は似た傾向…」なんてこともありません。とにかく変幻自在なんです。

秤動極値は具体的に計算して結果を示したほうが良いので、ひとまず今年2021年分を左図および下表に提示します。前後20年分ほど1年ごとに計算しましたので、後日アーカイブに収めたいと思います。秤動が大きな時期に月面を見ると、地球から見えない面の一部が見えます。秤動を厳密に調べ、10年くらいかけてリム近くに見える全方向の裏側地形を観察する、といった凄まじい試みも楽しく、やりがいがあるでしょう。なかなかに奥が深い秤動の世界。更に学んでいきたいと思います。

【2021年・緯度経度秤動の最大】
項目最小日時最小秤動(°)最大日時最大秤動(°)
地心緯度秤動最小最大2021年11月27日 14:14-6.8532021年6月2日 14:036.849
地心経度秤動最小最大2021年4月21日 22:08-7.9752021年12月11日 1:207.886
測心緯度秤動最小最大2021年11月27日 2:09-6.6622021年11月12日 15:067.665
測心経度秤動最小最大2021年4月22日 0:34-8.5412021年12月11日 11:278.345

【2021年・秤動量の最大】
項目最大日時離角(°)方向角(°)
地心秤動量最大2021年12月10日 15:3610.343310.934
測心秤動量最大2021年12月10日 11:3211.251312.668

  • 自作プログラムによる計算です。
  • 計算量が膨大なので、1分おきに計算したものの極値としました。


センタームーンを観よう・Part22021/05/06

20210526月食最大時、月が天頂に見える場所
★月はどこを見いているのか
測心秤動図を描くことでセンタームーンに近い日が推測できるようになりましたが、芋づる式に疑問が湧きます。例えば「測心秤動のグラフがぴったり原点を通るような場所を特定できないだろうか」とか「日本のなかでは、いつ、どれくらいの頻度でセンタームーンが見えるのか」等々…

月面において、例えば月面X地形がいつ見えるか?、〇〇クレーターの見頃は?、と言った「日照予報」なら、月食と同様に地球のどこで観察するかに関係なく計算できるため、予め結果をストックできます。当ブログ予報ページでも、計算結果をみなさんの地方に合わせて表示させているだけです。でも、測心秤動は計算過程で観察地情報が必要になるため、事前に計算できません。アルゴリズムを簡略にすることは可能ですが、最初から簡素化に逃げるのは良くないと思い、無い知恵を絞ってしばらく悩んでいました。

ある日ふと脱線思考で「月が天頂に見える場所はどこか」を考えていました。例えば今月の満月は皆既月食で、月食最大時は2021年5月26日20:18:42JST。このとき南半球ポリネシアの海上、南緯20°44′14.77″・西経170°16′00.19″では月がきっちり天頂に見えます(左上図/Stellariumでシミュレート/オレンジ線が地平座標目盛り)。さぞ絶景でしょうね。このような思考遊びを重ねるうちに「そもそも真の月面中心はどこを向いているのか?」と逆転の発想に至ったことが解決(のひとつ)に結びつきました。

地球のどこかで月面がセンタームーンになっているとき、真の月面中心に立っている人から見ると「地球が天頂付近に輝きながら自転している」はずです。球体としての月の中心と真の月面中心を通る直線を延長して地球と交わるならば、逆にその交点位置から月を見たら「完全なセンタームーン」になるでしょう。そして、月の公転運動や地球自転とともに交点位置は常に動くはず。実際の見かけの関係は光速が有限であるが故、単純に幾何学的に考えてはいけませんが、ともかくこの方法を発展させれば算出できそうです。


★完全なセンタームーンが見える場所
2021年・月面センターの方向
かくして出来上がったのが右の「パーフェクト・センタームーンマップ」。2021年の丸一年間、10分おきに真の月面中心が向いている位置を世界地図に落とし込んだもの。地球は回転楕円体とし、標高は考慮しません。黄色のドットが10分おきの位置、うち0:00・6:00・12:00・18:00JSTは日時ラベルをふりました。距離による光の到達遅延は考慮してあります。(※地球側からの観察が前提です。)

赤線は満月期を含む上弦から下弦までの月相、つまり見かけの月面中心に光があたっている期間、青線は新月を含む中央が光っていない期間です。(※光が当たっていれば、見かけの月面中心と真の月面中心が一致していることを撮影で確認できます。)この地図に載っていない日時は真の月面中心が地球を向いていないわけで、地球のどこから見ても完全なセンタームーンは見えません。過去何年か計算したけれど、2019年と2020年には一本もありません。前期最後に現れたのは2018年のクリスマスイブの晩からクリスマス朝に見えた月でした。

予想通り実に複雑な曲線群ですが、この地図が描けたおかげで完全なるセンタームーンが見える場所が特定できました。アジアからアフリカ経由で北アメリカに続く8月30日のラインのように、途中で赤線が青線になるケースもありますよ。各ルートがぶつ切れなのは、月出と月没のタイミングで月が見えたり見えなくなったりするため。地図に示したすべての緯度経度から月の測心秤動を再度検算したところ、計算誤差が大きくなる各ルート末端付近を除けば、経度秤動はプラスマイナス0.5″未満、緯度秤動は同10″未満に収まりました。パーフェクト・センタームーンと言っていいんじゃないかと考えられます。

記事PART1に載せたように、今月の満月はセンタームーンにかなり近いですが、日本では少しだけずれていましたね。右上地図を見ると5月26日のラインが北アメリカ東海岸からメキシコ湾にかけて伸びており、ここが完全なセンタームーン位置と分かります。ただしこの位置では皆既月食になる前に月が沈んでしまうのが残念…。月食とセンタームーンとは直接関係なく独立して起こりますから仕方ないですね。

2021年・月面センターの方向(日本付近)
日本からパーフェクト・センタームーンが見えるチャンスはあるでしょうか?あらためて、同じデータを使って日本付近を詳しく描いてみました(左地図)。こちらは1時間おきにラベルをふり、【 】内にその時の太陽黄経差を併記しました。太陽黄経差は新月が0°、上弦90°、満月180°、下弦270°を表します。日本域を横切る、または近くに差し掛かっているラインは8月16日、8月31日、9月27日、10月24日の4本。

8月31日のケースは下弦をわずかに過ぎているため、月面中心は影に入っているでしょう。(※それでもセンタームーンには違いありません。)ちょうど東北地方南部の福島県を0:00JST過ぎに通っていますから、試しに福島県庁位置(標高は0m固定)で0:05JSTの測心秤動を計算すると経度秤動=0.00088°、緯度秤動=-0.00456°と出ました。限りなくセンタームーンですね!。またこのとき、福島から1700km以上離れた沖縄県庁で計算すると経度秤動=0.10188°、緯度秤動=-0.07222°でした。目指す精度にもよるでしょうが、2000km程度離れても0.1°内外のずれで済むなら、ほぼ誰もずれは見抜けないでしょう。つまり「パーフェクト・センタームーンマップで予報ラインが日本近くの日時は、全国的なセンタームーン日和」と言って良いのではないでしょうか。個人的には秤動値がプラスマイナス0.5°以下ならセンタームーンの名に十分ふさわしいと考えています。


★今年末までの秤動図
二年に渡るセンタームーンの追求成果を二回シリーズでお届けしました。「正常な状態を知らなければ、異常を語ることはできない」という思いがあります。「ズレが右上だの左下だの言ってるけど、生まれてこの方、真っ直ぐな月面を見たことないじゃん!」というのが最初の動機でした。ぶっちゃけ、こんな細かいことを気にしなくてもセンタームーンは楽しめます。「今夜は月の向きが少し気になる」という意識を持っていただけるだけでも嬉しいのです。また、センタームーン当日のみ一回限りの“点観察”ではなく、そこに至る過程や、そこから変わりゆく過程も含めた“線観察”、“面観察”を心掛ければ、楽しさは倍増するでしょう。

最後に、今年5月から12月までの月別秤動図を掲載しておきます。前出地図と併せてご利用ください。12月には秤動のグラフが中心から離れ始めますのでシーズン終了ですね。秤動図からはセンタームーンの日時を類推できるだけでなく、記事末に緑文字で書いたようなことも推察できますよ。ぜひ有効活用してくださいね。なお、次のセンタームーンシーズンは2024年晩春から2025年晩冬にかけてですが、このときは回数も少なく、またいずれも中心が光っていない月相。向こう5年でセンタームーンが十分楽しめるのは今年のみと言って良いでしょう。特別すごいことが起きるわけでも、刺激的な楽しみがあるわけでも無いけれど、『特等席』で見る機会を知らずに見逃すのはもったいない!チャンスを活かすも殺すも皆さん次第ですよ!(→補足へ続く→Part1へ戻る

  • 2021年5月の月面秤動

    2021年5月
  • 2021年6月の月面秤動

    2021年6月
  • 2021年7月の月面秤動

    2021年7月
  • 2021年8月の月面秤動

    2021年8月


  • 2021年9月の月面秤動

    2021年9月
  • 2021年10月の月面秤動

    2021年10月
  • 2021年11月の月面秤動

    2021年11月
  • 2021年12月の月面秤動

    2021年12月


  • 自作プログラムによる計算で、ベースの暦表はNASA-JPLのDE421を使用しました。精密軌道計算で有名なHORIZONS-Webと高い精度で一致します。線やマークが重なって見辛いところもありますがご容赦を。
  • 表記時刻や距離は、国内で発行されている書籍や天文サイトのデータと異なる場合があります。どちらが間違いということでなく、採用してる計算体系の差ということです。
  • 月面の事象は一ヶ月に二回起きることがあります。例えば2021年7月を見ると下弦が二回起こりますね。ブルームーンやブラックムーンもその一例です。
  • 表記時刻はJSTです。各日区切りの小ドットは0:00JSTです。
  • 青系曲線のうち濃青色は月が空に見える時間帯、薄水色は沈んでる時間帯です。
  • 小ドットに注目してみると、上弦近くでは0:00JST前後に月没、下弦近くでは0:00JST近くに月出を迎えていることが分かります。日々少しずつ月の出入りが変化することも読み取れるでしょう。
  • 近地点(×マーク)や遠地点(+マーク)が月相マークに近いかどうかで、その月相が大きく見えるのか、小さいのかを判別できます。例えば×マークが満月に極めて近いなら「スーパームーン」になるでしょう。
  • 同様に、×マークが新月に極めて近いとき皆既日食が起こると「継続時間が長い皆既日食」になり、また+マークに近い新月での日食なら皆既にはならず、金環日食になります。
  • 北極側から地球を見ると観察者は自転で反時計回りに動くため、視線は月の右側(経度プラス側)から左側(同マイナス側)へ変化します。従って濃青色線も必ず経度が減る方向に変化することが読み取れます。
  • 目が肥えてくると、その他いろいろ細かいことにも気付けるでしょう。ぜひ解読してください。


センタームーンを観よう・Part12021/05/05

20210427満月の中心
★いよいよ『センタームーン』の時期はじまる
以前、みなさんにこんな問い掛けをしたことがありました。

  • 望遠鏡で真の月面センター(月面座標の経緯度が0°の点)を、これまでに見たことがありますか?

  • 真の月面センターが「見かけ上の月面中央」に一致した月を、これまでに見たことがありますか?

  • (→2019年1月20日記事参照

左画像は先月の満月(2021年4月27日23時過ぎ撮影)の中心付近。月齢に関わらず、欠けているところを含めた月面の縁は真円に見えますから、「見かけの中心」が存在します。いっぽう、月面には地球と同じ様に赤道や本初子午線(経度ゼロの線)が定められていますから、月面上に「真の中心=月面座標原点」も存在します。ちょっと天文をかじった方ならどなたでも「月面はいつも同じ面を地球に向けている」という知識をお持ちでしょう。ところが、この画像のように、ふたつの“中心”はたいていずれています。しかも、ずれは日々変化するのです。

ごく稀にふたつの月面中心がほぼ一致して見えることがあります。それこそが「センタームーン」。簡単に言えば「月が真正面から見える日時」です。でも、上記の問い掛け以降、実際にご覧になった方はいらっしゃるでしょうか?リンク記事の通り、「月面座標の経緯度が0°の点」は、月の中央付近が光っている時期…概ね上弦後から下弦前ならいつでも確認できるでしょう。でも「見かけ上の月面中心」と「真の月面中心」が極めて近い日は2019年春から今年春まで一度も起こっていません。どんなに月を真正面から見たくても、この2年あまり地球上の誰も見ることができなかったのです。

月面がわずかに首を振るように見える“見かけ上の動き”は秤動と呼ばれます。秤動の詳しい説明を始めると冊子が出版できるほど大量になるため割愛しますが、主要な原因は月軌道と地球との位置関係に由来します。地球から見て月の経度方向に振れる成分を「経度秤動」、緯度成分を「緯度秤動」と呼び、日時とともに変化する見かけの月面中心の経度と緯度をグラフ化することができます。図化したものは秤動図と呼ばれ、天文年鑑などいくつかの書籍や月面アプリで調べることができるでしょう。今年元旦の記事にも掲載した秤動図(2018年から2021年まで1年ごと)を下に再掲します。

  • 月の秤動(2018年)

    2018年
  • 月の秤動(2019年)

    2019年
  • 月の秤動(2020年)

    2020年
  • 月の秤動(2021年)

    2021年


以下、二回シリーズでセンタームーン現象と今年の予報を詳しくご紹介します。いつもの通り理屈っぽいところも多々ありますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。なお誤解を生まないよう、次のように言葉の意味を統一して使用します。「月面センター」という表現はAにもBにも使います。
  • A.真の月面中心…月面座標で経度・緯度ともゼロの地点(二次元座標としての原点)
  • B.見かけの月面中心…観察地から見て月の縁を円とみなしたときの中心(月の視位置)
  • C.月の中心…球体(楕円体)として考えた月の中心(三次元座標としての原点)
  • ※それぞれ、中心を中央と表現することもあります。


★秤動図に慣れよう
秤動図から読み取れる「日時、経度秤動、緯度秤動」は3つで1セット。これが「ある日時に見た月面中心の経度と緯度」を表します。上図の通り非常に複雑な曲線なのですが、どちらの軸もプラスマイナス8°を超えることはほぼありません。また、「真ん中付近を避ける時」と「真ん中付近を横切る時」がそれぞれ準周期的に集中する傾向が分かるでしょう。時計回りに変化するときもあれば、逆のときもあります。一ヶ月の途中で向きが変わることだってありますよ。秤動図で言えば、グラフが原点に極めて近い日時こそ「センタームーン」。みなさんが「月を真正面から見ることができる日」なのです。

2021年12月の秤動図+月面中央傾斜度図
秤動図は天文ファンでも馴染みが少なく、少し癖があるため、読み間違いしやすいかも知れません。例えば、調べたい日時をグラフでたどったら右上(第一象限/経度緯度ともプラス)だったとしましょう。このとき「月は右上を向いている」と勘違いする人は意外に多いです。でも実際は真逆で、「月面の右上地域が中央に寄っている=真の月面中心は左下を向いている」という意味なのです。

月面地図に今年12月の秤動を直接描いた右図で練習してみましょう。秤動を示す赤線の開始点は□印で囲ってある2021年12月1日0:00JST、終了点は△印で囲ってある2022年1月1日0:00JST。緑+印で示した真の月面中心の周りを一ヶ月かけて時計回りに変化していますね。黒文字で示したように「12月6日はトリスネッカー・クレーターが見かけの月面中心近くにある」という具合に読み取ります。同様に、11日はヒギヌス谷、21日はハーシェル・クレーター、年末にはメスティング・クレーターがそれぞれ月面中心近くに見えるでしょう。

ちなみに12月2日の近くにあるメスティングA・クレーターは、かつて月面センターを特定する際に使われた由緒ある地。秤動図を毛嫌いせず、ある程度慣れることで誤解なく読み取れるようになるでしょう。秤動は中心付近だけでなく月面全体…特に縁近くの地形の見え方に大きく影響しますよ。当ブログ右メニュー「月面の観察」内の月面文字地形の日照予報カレンダーに月面中央経度・緯度を併記しているのはこれが理由です。

私たちの知覚は微妙な向きにも敏感です。繁華街で友人と待ち合わせたり、学校の集会で壇上から全校生徒を見るなどの場面で、誰なのか判別できないほど遠くに立ってる人物の顔の向きが「自分を見ている」か「見ていない」かを感じ取れる能力があると聞きました。普段から「動物の視線を感じる」人も多いでしょう。初めてお月さまを見るとなかなか表情を読み取れませんが、意識して一年も観察していれば秤動はすんなりと頭に入ってきますよ。慣れてくると「今日はセンタームーンに近いなぁ」とか「右上に寄ってるね」などと、何も調べなくても分かるようになるでしょう。


★地心と測心の終わりなき戦い
センタームーンはいつなのか、細かいことを気にしなければ手っ取り早く秤動図から読み取ることができます。グラフが中心近くを通る日時を読み取り、見かけの月面中心に日が当たってる月齢か調べればよいだけですから簡単。(※日が当たってなくてもセンタームーンは成立します。確認できないだけです。)ただし、前出の様な秤動図は「地球中心から見た値」であることに注意しなくてはなりません。ふつう私たちは地表から月を眺めます。地表の特定位置(=測心:観測者中心の意味)から見た秤動は、地心(地球中心の意味)での秤動とかなり差があるからです。もちろん同じ地表でも、日本とアメリカみたいに大きく離れた二箇所では秤動が変わるでしょう。

待ち合わせの例え話では、遠くに立っている友人があなたを見つけて手を振ったとき、隣にいた赤の他人が勘違いして手を振り返す漫画的シチュエーションが起こる場合があります。(経験者は語る…。)でも隣の人との距離が離れるほど友人の顔の向きの差も顕著になるため間違いは減るでしょう。この例えで重要なのは「友人が顔の向きを変えたわけではない」こと。

月に話を戻すと、全く同時刻でも観察地が違えば秤動が違うということ。地球上の異なる観測地では、観測地間距離や月までの距離差が月面を見込む角度の差を生み、「地心秤動と測心秤動は異なる」「同一時刻でも観察場所によって測心秤動が違う」という結果に現れるのです。ひとりの観察者が地上で一切動かなくても地球の自転によって視点が変わるため、嫌でも秤動が変わってしまう、というわけ。地球では(地心も含めて)最大約12700kmもの位置差ができますから、結構な違いですよ。正確さを追求すればするほど避けて通れない問題になるため、なかなか厄介ですねぇ…。

2021年5月の月面秤動
私たちが実際に見ている秤動は「軌道の関係で月面が地心方向に対して見かけの向きを変える」現象だけでなく、「観察者の位置に起因する視線の変化」が組み合わさっているのです。後者は日周秤動と呼ばれます。前出の赤線グラフは日周秤動抜きの秤動ですから、勘違いしないようにしましょう。

左に今月5月の「地心秤動・測心秤動グラフ」を掲載しました。(※測心位置は当ブログ代表点の茨城県つくば市です。)地球に最も近い天体ですから、地心と測心とでこんなにも差が出てしまうんですね。この図を簡単に説明すると、赤系の線やマーカーが地心秤動、青系は測心秤動です。両方とも月初めが□印、翌月初めが△印、小さなドットは毎日0:00JST位置(1日・11日・21日は文字ラベル付き)、新月・上弦・満月・下弦・近地点通過時(×印)・遠地点通過時(+印)の各瞬時位置にマーカー、図の下部に具体的数値が記してあります。

青線が壊れたバネのように描かれてますが、よく見ると赤線の同一日近くを一日一回周っていることに気付くでしょう。これは正に地心と測心との差=日周秤動ですね。青線の一部が薄水色になっているのは月が沈んで見えない時間帯を表します。こうして5月の測心秤動を見ると、26日の満月のころ秤動値がゼロ近くになっていると気付けますね。特に皆既月食が終わった27日0:00JSTごろからどんどん原点に近づき、朝の月没まで数時間は経度秤動・緯度秤動ともに1°未満。この傾向は全国的に大きく変わらないでしょう。つまり、今年5月からいよいよセンタームーンシーズンが始まるのです。

ところでこの図はつくば市での計算ですが、任意の位置で測心秤動が簡単に計算できるなら、詳細なセンタームーン予報全国版が出せるでしょう。でもみなさんがどこで月を観察するか、私は知りません。測心での予報は場所を特定する必要があるから、日本全国を網羅するような予測の出し方だとJRの時刻表並みになってしまいます。(印刷本は最近あまり見ないけど。)月視位置や秤動の計算そのものも複雑で、仮にWebアプリ化など可能だとしても個人で維持管理するのは負担が大き過ぎます。実は冒頭のリンク記事を書いたころ、この問題でずいぶん悩みました。その後2年の歳月をかけて勉強や計算プログラム改良を重ねることになったわけですが…そのお話はPart2でお伝えしましょう。(→Part2へ続く