上弦前の月を眺める2024/03/17

20240316南の海付近
昨夜も晴れていましたが地平から30°あたりまではモヤが多く、はっきりしません。夜半前から雲が多くなり、今日明け方にかけて度々にわか雨も降りました。宵のうちに月を眺めました。前夜より風が少ないぶんマシでしたが、相変わらず冬のようなシーイング。揺らぎが多いキャプチャでは強い画像復元系の処理で二重リムが頻出しますので、悩みどころです。

左画像の南の海付近が秤動に恵まれ、とてもよく見えました。2024年2月19日記事で「シュレディンガー谷は見えるか?」という検証をしましたが、このときの撮影と同等の秤動でした。リム沿いにリッテンハウスやシコルスキー、モールトンあたりが確認できるので、位置的にはシュレディンガー谷の一部まで届いていますが、シーイングが悪過ぎて前述の二重リムが出ています。二重リムは月の縁だけでなくクレーター周囲などコントラストのある至るところに出ますので、地形の判別を難しくする要因です。それでも2月の時より影が多い位相ですから見やすいことは確かです。

下A画像はポシドニウスからラモントにかけての構図。スミルノフ尾根などのリッジが美しい。ベッセルの影が明暗境界まで達していますね。ヤンセンの北にあるヤンセンRは、下1/3ほど暗くなっていますね。これはアルベドが違うのではなく、僅かな傾斜があって影が濃くなっているようです。上弦側でしか見えないので気付き難いです。いっぽうプリニウス谷を包むように東西に延びる地域は、北側よりも少し暗くなっています。これは傾斜地の影ではなくアルベドが低いのです。ですから位相に関係なく暗く見えます。

ラモントのそば、アラゴーから南に延びる谷がミジンコの足のようにたくさんの筋を伸ばしていました。アラゴーに寄り添うふたつのドームはじっくり見るとかなり歪なことが分かります。ドームと言うとお椀を伏せたような綺麗な形を想像してしまうのですが、これだけ大きいと均等な造成は無理だったのでしょう。ハワイのマウナケア火山やキラウエア火山だって等高線を見ると決して丸くはありません。富士山だって整った丸い等高線は上1/3くらいまでで、裾野までみると逆三角形あるいはひし形になっています。

下B画像は神酒の海周辺。ひと晩前は見えなかったテオフィルスやキリルス、カタリナが朝を迎えました。アルタイ断崖も光を浴びてます。SLIMも次第に温まることでしょう。前日より若干細かな地形が見えるけれど、まだまだ安定しませんね…。

  • 20240316ラモント、プリニウス、ポシドニウス

    A.晴れの海から静かの海にかけて
  • 20240316神酒の海付近

    B.神酒の海付近


風に曝されながらお月見2024/03/16

20240315神酒の海付近
昨夕から今朝にかけて気温が高く透明度の悪い快晴。低空には薄雲も流れていました。宵と夜半過ぎは結構な風が吹き、機材を出すか迷ったのですが、天高く輝く月に誘われて望遠鏡を向けてみました。立地の関係で、宵の撮影は周囲の車両の振動や家屋排気の影響がとても大きく、昨夕はそれに風の影響も加わって散々でした。ダメ元で撮った中から二枚掲載。

左画像は朝を迎えた神酒の海付近。フラカストリウス内の細い谷が見やすい月相なのにはっきり写ってないので、それくらいのコンディションだったと理解できます。

海の西部を南北に走る低い山脈が影を落とし、その西側がまだ真っ暗です。この30分後にもう一度見たらかなり明るくなっていてびっくり。いかにこの山脈が低く“光の決壊”がしやすいか分かります。ピッコロミニからのびるアルタイ断崖の一部が光り始めていました。

神酒の海の北西に接した大きなクレーターはテオフィルス。クレーター壁の一部が朝を迎えつつありますね。テオフィルスの西隣がSLIMのいるキリルス。16日宵にはSLIMに太陽が当たり始めるでしょう。前回通信が回復したのは2月25日19時頃でしたから、電源が同一条件で再々度復活するとしたら3月26日8時JSTごろです。はたして機器は月面二夜を過ごせるでしょうか?楽しみです。

20240315タルンティウス、コーシー、マクロビウス
もう1枚は右画像。危難の海西部や静かの海東部、豊かの海北部あたりです。タルンティウスの連鎖クレーターは全く解像しませんでした。でもコーシー周辺やガードナーのメガドームを囲むあたりに無数に点在するドームは良く見えます。画像左上、愛の入江北部にあるレーマー近くから北へ向かう太い谷はレーマー谷。画像には半分も収まっていないほど長くのびています。まだ光が当たっていませんが、谷の西にはポシドニウスがあります。昨夕は東壁が光り始めていたので、今夜見えることでしょう。

豊かの海などに見られる表層の微妙な濃淡はなかなか表現しづらい対象です。標高のある地形なら影ができるので、明暗境界に近い位相で撮影すればはっきり分かるけれど、地質の濃淡(アルベドの違い)は影ができません。明暗境界が近いと光量が減って、かえって濃淡が分かりにくくなるなります。カラーセンサーだと色の違いになってくれるので表現しやすいのですが、白黒センサーではそれも難しい。バンドパスフィルターなどを工夫すれば炙り出せるのかも知れませんね。

宵空を飾る月と彗星2024/03/15

20240314_05586月
昨夕も良く晴れて、月と木星が縦並びに輝きました。月の上にはプレアデス星団やヒアデス星団も見えました。何十回も脳裏に焼き付け、カメラに収めた光景ですが、最近はどうにも写真で切り取ることがチープに感じてしまい、なかなか食指が動きません。やはり人間の眼は偉大ですね。

左は14日19:20前の撮影で、太陽黄経差は約55.86°、撮影高度は約35.21°、月齢は4.05。このあたりの膨らむ速度は速いですね。スミス海や縁の海も良く見えます。危難の海北部には「月世界への招待」サイトで東田さんが記事にされていた光点(アラニの白斑)がやたら目立っていました。小さな光条付きクレーターとはとても思えない明るさです。似たような光点はけっこうあちこちに見つかりますから探してみてください。

ひと晩前にようやく日が差したエンディミオンも明るくなり、アトラスも夜明けを向かえつつあります。豊の海を流れ落ちるリッジが素晴らしい。レイタ谷やジャンセンの一部も見えてきました。二、三日後には南の海付近の秤動が最良になるでしょう。17日に上弦を迎えます。

20240314_ポン・ブルックス彗星(12P)
月観察に引き続き、ポン・ブルックス彗星(12P)も撮影してみました。天文薄暮終了時にはもうかなり低くて、大気減光の影響が大きいです。しっかりしたイオンテイルとともに、ここ数日は太いダストテイルも目立ってきました。街中から捕らえるのはかなり難しいですが、良い環境に出かけられる方はぜひ記録してください。

光度ピークまで残り1ヶ月余り。でも来月に入ると薄暮中に見え出す頃には高度15°を下回ってしまい、双眼鏡で探すのも写真を撮るのもかなり難しくなるでしょう。

準水平月の季節2024/03/14

20240313_04212月
昨夕は久しぶりに美しい月が見えました。少し風が残っていましたが、ワクワクしながら日没を待ちました。すぐ近くに木星も見えています。

左は13日18:20過ぎの撮影で、太陽黄経差は約42.12°、撮影高度は約32.00°、月齢は3.02。画像上下を月の南北に揃えてあるので伝わらないと思いますが、実際は舟のように横倒しになっており、撮影時の弦傾斜はなんと12.059°。パッと見た目には水平月と言えなくもない状態です。

2021年9月1日特集記事「横たわる有明月を観よう・Part2」・文末の表を見ていただくと、来年からしばらくの間、晩冬から春にかけて見える夕月が弦傾斜プラスマイナス5°内(日本経緯度原点)という「水平月」になります。今年の春もその状態に近い訳ですから当然でしょう。沖縄あたりだともう完全に水平月ですね。太陽が真下にあることが感じられ、そのぶん地平線からも離れているため、日没から月没までの時間が長いことも納得できるでしょう。春限定ですが、大慌てで細い月を撮影しなくて済むことになりますね。

もうこんなに見えるのかと言うくらい月齢が進んでいて、シーイングは酷い状態ながらも南東火口列やフンボルト・クレーターが良く見えました。これだけリムから離れていたら、拡大すればフンボルト連鎖クレーターも見えたでしょうね。(余裕が無かったのでじっくり見ることはできませんでしたが…。)ゲミノス内部は真っ暗、エンディミオンはRay現象が起こっているようです。

月を眺めているうち少し雲が出てきてしまいましたが、大急ぎで近くの突発天体を撮影。三重県の中村祐二さんが10日19:13ごろおうし座に発見した14.7等の天体です(下A画像)。天気が思わしくなくてずっと撮影できなかったけれど、ようやく撮れました。若干青白いような…?

この後更にどんどん雲が増え、夜半まで曇ってしまいました。未明にはほぼ回復。今度は11日3:36ごろ群馬県の小嶋正さんがへびつかい座に発見した11.5等の明るい突発天体も撮影(下A画像)。この天体は他に板垣公一さん、山本稔さん、藤川繁久さん、中村祐二さん、Andrew Pearceさんも独立発見しています。中村祐二さんはひと晩に二つ発見ですね。

この天体は直ちに広島大学のかなた望遠鏡により分光され、He/Nクラス新星の初期段階と分かりました。既に「V4370 OPHIUCHI」という名称も付いています。実際に導入するとクリムゾンスターかと思うほど真っ赤でビックリしました。明るいうちにぜひ見てください。

  • 20240313_TCP J03271877+0557433

    A.TCP J03271877+0557433
  • 20240314_TCP J17395720-2627410

    B.TCP J03271877+0557433