大赤斑を地球に置いてみると…2019/03/29

19790304voyager1-GRS
木星は3月13日に西矩の位置を過ぎ、まだ明け方低いながらも見頃が始まっています。4月11日に留、6月11日に衝、8月12日に留、そして9月9日に東矩と進み、約半年にわたって観望好期になります。なお合は年末の12月28日です。

毎年衛星食や大赤斑の予報をまとめていますが、遅れ気味ながら今年もただいま作業進行中。その途中、大赤斑の状況が気になったので少し時間を取って整理してみました。

昨年2018年5月9日の記事に書きましたが、木星の大赤斑は長年の観測から大きさや位置、色合いを変えることが知られています。私が惑星探査機ボイジャー時代に覚えたのは「大赤斑の横幅が地球直径の3倍」つまり4万kmほどあるということ。これが現在は1.5倍より少ない程度まで縮小してしまいました。

20190322地球と大赤斑
左上画像はNASA映像ライブラリからの引用で、ボイジャー1号が1979年3月4日に撮影した大赤斑のクローズアップ。まだ十分に大きい頃ですね。大赤斑に対する私の印象は正にこの様な感じです。ふとこの縮尺比をそのまま地球に当てはめたらどうなるか気になり、やってみたのが右画像。ベースの地球はちょうど1週間前の3月22日12:00(画像元:NICT/画像処理は筆者)。オーストラリアが二つのサイクロンに襲われていた時期です。

比率を変えずに木星を地球の大きさまで縮めたときの大赤斑の大きさが赤点楕円。いちばん大きい頃を基準にしました。長径は超大型台風クラス、短径は大型台風クラス。オーストラリアに写っているサイクロンはどちらも大型一歩手前くらいなので、大赤斑がとんでもない大きさだと実感できますね。地球ほど四季がないため太陽放射起因の寒暖の差はないのかも知れませんが、このような大規模構造体が100年レベルで消えないと言うことは本当に不思議です。

大赤斑ドリフトマップ
もうひとつ面白いのは位置が変わること。通常地球のように地形が地面に固定されていれば、地球自転=地形自転になりますが、大赤斑はガスの中に浮遊しているので足が地に着いてないような状況です。木星系に定められた座標を使うと、大赤斑の位置は一ヶ所に留まることなく、日々緩やかに移動しているのです。

ちょうど経度0度付近にあった1972年以降、今年1月までのデータを元に適宜補完しつつ、「地球に大赤斑があったら中心はどこにいるか」と言う地図にしたのが左上図。一定速度ではなく時々戻ったりしますが、長い目で見ると次第に東へ向かっており、あと3、4年でスタートラインまで戻って、新たな一周に突入しそうです。なお大赤斑の緯度は広く知られている南緯22°を採用して描きました。

奇しくも先週のトリプル・サイクロン、3月中旬にモザンビーク周囲へ壊滅的被害をもたらしたサイクロン「IDAI」、嵐にほぼ無縁である南大西洋に24日ごろ突如発生したトロピカルストーム「IBA」、あるいは現在マダガスカル東沖を南下中のサイクロン「JOANINHA」など、大赤斑と同緯度で大きく発達している嵐がたくさんあり、惑星間のsynchronicityを感じます。惑星をしっかり観察してない方、情報に疎い方は大赤斑の微々たる変化等には気付かないでしょうが、静かに光る星々も意外なほど変化しています。