また一ヶ月ぶりのパンスターズ彗星2022/04/02

20220402パンスターズ彗星(C/2017 K2)
4月初日はぱっとしないお天気でしたが、夜半前には快晴になりました。未明に高くなってきたパンスターズ彗星(C/2017 K2)を久しぶりに撮影してみました。

予報よりも少し暗いようで、11等台の観測値が多いみたい。でも一ヶ月前の撮影よりしっかりした姿になっていました。地球との相対位置関係で動きが遅く、極小となる4月12日ごろは1時間あたり1.4″程度しか動かない有様。尾が巻いているのでしょうか、頭部の光り方にムラを感じます。9月に入る頃まで増光の様子を追いかけられる彗星ですから、チャンスを見つけて観察してみてください。

今日の太陽2022/04/02

20220402太陽
快晴の状態で明け方前に気温が0度まで下がったのは久しぶりでした。朝から数時間は爽やかに晴れましたが、昼前には雲が多くなってしまいました。桜が散り始めています。

20220402太陽リム
左は9:30頃の太陽。南半球の大きな黒点の左に広がった活動領域12981がダイナミック。その左に小さな黒点を伴った12982、赤道を挟んで北半球に12983があります。右上リム近くの12975のプラージュが目立ちますが、この撮影後に11:56をピークとするM2.9クラスの強いフレアが発生しています。左下リムからも次の活発な領域が登場しそう。プロミネンスやダークフィラメントもたくさんあって楽しいですね。

新月当日の夕方に月は見えるのか?2022/04/03

20220402_01354月
昨夕は雲量7割ほどの酷い空でした。夕空の細い月を楽しみに日没前から待機していたのになかなか見つかりません。ようやく雲から出てきたときは18:30を過ぎており、高度は4°を切っていました。左画像は電線の隙間から薄雲越しに捉えたもので、撮影時の太陽黄経差は約13.54°、月齢は1.13。弦傾斜は25.84°まで寝てきており、どんどん水平月に近づいている様子が見て取れます。淡いけれど地球照も見えますね。撮って出しの画像はもっと明るくコントラストも非常に弱い状態です。

今月は1日が新月日でした。小の月なこともあり4月の新月は1回きりですが、来月も1日が新月、月末に二度目の新月がやってくる「ブラックムーン」になります(→アーカイブ「新月とブラックムーンの一覧」参照)。

ところで4月1日の新月瞬時は15:24:25…つまり夕方に近かったことと、月が太陽の南側を通った(→太陽より先に月が沈む)ことにより、新月当日に月を観ることはできませんでした。思い返しても近年に「新月当日の夕方」に月を見た記憶がなく、難しいものだなと感じます。月齢換算で1未満…ではなく、最高でも0.6とか0.7未満となるので相当な困難が予想できるでしょう。イスラム圏で知られるラマダンの新月観測が成り立つのは乾燥した気候で低空も見通せる土地に育まれた宗教故と思われます。(もっともイスラム教徒のみなさんは世界各地で新月観測を行っていますが…。)

では日本で新月日の月は絶対に見えないものでしょうか?そんな疑問にかられ、ちょっとした計算プログラムを作り調べてみました。下図Aは「新月当日の日没時における月高度」と「翌日日没時の月高度」をグラフ化したもの。今年2022年始めから2年間に起こる全ての新月を網羅しています。観察地設定は当ブログ基点の茨城県つくば市としました。なお「昼間(太陽が空に見える状態)のうちに探す」という選択肢は除外します。

新月当日の場合、日没直後の極細月は明るいうちに沈むため正に時間との戦い。十分な視界が確保でき、運良く低空まで快晴だとしても、国内の気象条件の中で探し出す猶予は日没から20分も無いでしょう。このため、日没時点で月ができるだけ高いチャンスを知っておく必要があります。グラフの青線を見ると今年なら7月29日、来年なら5月20日などが該当しそうですね。もし年間に1、2回チャンスがあるなら、根気よく探せば数年で見つけられそう。(※天体高度は観察地によって少し変化しますのでご注意。)

ところが…!対象期間を拡張し、2000年から2050年まで51年間の全新月についてグラフ化した下B図をご覧ください。このチャンスが不安定で不規則であることが分かるでしょう。5°台止まりが何年も続く期間もあれば、7°を超すようなチャンスもあります。正直、日没時点で5°では金星でも厳しい…。B図の範囲では2050年2月22日の9.24°が最高値でした。

これらのチャンスは「新月瞬時が0:00JSTから離れない」「日没が遅い時期」「夕方の白道がそそり立つ時期」など複数条件が幸運にも重なったときに限られ、そうでなければ今年10月25日や来年11月13日のように新月翌日ですら5°を下回るときもあるのです。性質上、水平月が見やすい条件とも合致しますね。ただ、少なくとも関東圏では春霞や天候不安定なシーズンとも重なってしまうため厳しいわけですが…。いつの日かしっかり見てみたいものです。

  • 新月日と翌日の日没時月高度

    A.日没時月高度
  • 新月日と翌日の日没時月高度(長期)

    B.日没時月高度(長期)


移動する静止気象衛星ひまわり2022/04/05

20220402気象衛星ひまわり
新年度が始まっています。あまり代わり映えがしないと感じる方も多いと思いますが、「18歳で成人」など大きく変化するような世の中でもあります。良い方向に変わってゆくと良いなと願わずにいられません。

あまり知られていませんし、公式報道もまだ無いため定かではありませんが、計画上では2022年内に「気象衛星ひまわり8号」が引退し、既に2016年11月に打ち上げられた「ひまわり9号」が運用の任に付く予定です。8号は9号のバックアップとして待機状態に移行します。静かな変化だけれど、個人的には大きな事象として捉えています。とは言え、両基とも同じスペックで作られているようなので、わたしたちが受け取るものは何も変わらないでしょう。それとともに、次の10号はどうするのかという期待(心配)もありますね。予算が削られてる省庁とは言え、さすがに気象衛星はアジア圏の生命を守る観測機器の要ですからねぇ…。

ところで、以前から「静止衛星を拡大撮影したい」という願望を抱いていました。なにも衛星の形を見たいと言うわけではなく、衛星の動きや地球影による食を自ら確かめたかったのです。静止気象衛星ひまわりなどはかなり正確な静止軌道に乗るため、数百mm程度の直焦点撮影で数十分以下の露出では動きが感じられません(→2016年11月25日記事参照、これは250mm程度の直焦点撮影)。でも実際の静止衛星は微小な動きを伴っています。時期にもよるでしょうが、ひまわりの場合は今年4月始めの時点で1日間あたり南北方向に最大0.08°程度、東西方向に0.03°程度、計算上の移動がありました。

悪天続きの関東ですが、3日前の4月2日未明に僅かな晴れ間があったので長焦点(1600mmオーバー)で固定撮影を試みました。春分・秋分プラスマイナス20日程度の時期は深夜に衛星が地球の影に隠される「食」があるため、この時間帯を避けての撮影です。他の観測もあったので、この日の露出は40分強にとどめました。両基は接近しており同一写野に入ります。それが冒頭画像。

気象衛星ひまわりの位置
小さい線分のうち右が現行の8号、左が待機中の9号。やはり拡大するとちゃんと動いていますね。意外にも各衛星が違う向きに違う速度で動いていたことは新鮮な驚きです。固定撮影のため恒星が線状に写っています。恒星が微妙に波打っているのは大気のゆらぎ。途中に隙間があるのはコマ間の書き込み処理で15秒のインターバルを空けているためです。一番明るく写ってる恒星線分はμVir(3.95等)。ちなみに各衛星は小さなカメラモニターでもリアルタイムで視認でき、フレーミングは簡単でした。

計算上の位置と合うかどうかも確かめてみました。撮影時に最も近い元期の衛星軌道要素(TLE)で両衛星の測心視位置を計算したものが右図。観察地設定は当ブログ基点の茨城県つくば市としました(注:私の撮影はつくば市ではありませんが近隣の街です)。赤線部分がほぼ撮影時刻に相当し、両画像を重ねると10″角未満の誤差で一致しました。図の小さな方眼マス目は木星がはみ出るくらいの幅ですから、木星が円盤状に写せる光学系なら1時間程度の露出で移動が捉えられるでしょう。冬至あたりに12時間以上かけて撮影し、移動円弧の半分を写し取るのも楽しそうですね。

なおこの図の東西方向は赤経ではなく時角です。当たり前ながら赤経で静止衛星位置を描くと時間とともに「恒星に対して」大きく移動してしまい、普通の星図に描いたら訳が分からなくなるでしょう。この部分の扱いが、同じ移動天体である彗星や小惑星などと大きく異るところですね。静止衛星は「地球に対して」ほぼ静止しているため、地球から見て静止した座標系で描かないと実態がつかめません。時角の東西基準は子午線ですから、見上げた空の中で移動しない天体は座標値も変わらないわけです。(※赤経は左プラス、時角は右プラスのため、X軸の向きも正反対です。)

もうひとつの目標である「静止衛星の地球影による食」は今回撮影できませんでした。もう数日で食期間が終わってしまうのに天候不安定はまだ続きそうなので、秋までお預けになりそうです。