5月の新月はブラックムーン、満月は月食 ― 2023/05/01
国立天文台による2023年の暦要項によれば、今年は12回の新月と13回の満月があります。うち、5月の満月は6日に起こり、日本では未明から明け方にかけて半影月食になります。また新月は5月20日、ちょうど4月のハイブリッド日食から一朔望月が経ち、これは「ブラックムーン」に相当します。
新月のほうから説明しましょう。満月に対する「ブルームーン」のように、珍しい新月として「ブラックムーン」の呼称があります。いくつか定義がありますが、主なものはブルームーンと全く同じ二種類の決め方。ひとつは「二至二分で分けた季節の区切りのなかで四回の新月が起こった場合の三回目」、もうひとつは「一ヶ月の間に二回の新月が重複した場合の二回目」です。
今月のブラックムーンは二至二分の決め方によるもの。今年の春分瞬時(3月21日6:24)から夏至瞬時(6月21日23:58)の間に3月22日、4月20日、5月20日、6月18日の新月がありますので、三回目の5月20日がブラックムーンなのですね。去年の2022年5月30日もブラックムーンでしたが、このケースは5月1日にも新月があったため、月間重複による二回目という後者の決め方でした。来年2024年12月にも二回の新月があるので、三年連続ブラックムーン、更に言うと2025年8月も二至二分によるブラックムーンがあるので四年連続になります。こんなこともあるんですねぇ…。(※なお8月31日満月は月間重複のブルームーン。お忘れなく。)
いっぽう5月6日未明の満月は西に傾く最中の半影月食になるため、全過程を観察するには視界の善し悪しが決め手になるでしょう。記事冒頭の図はNASA-Eclipseサイトからの引用で今回の月食図(日時表記がUTなのでご注意!)。月は地球影の南側・本影すれすれをかすめていきますので、日本から見ると上側(天頂側)がかなり暗くなると思われます。日本の西の地方ほど有利になりますが、福岡県で計算しても月食最大時(6日2:23JSTごろ)の高度が30°を下回っていますから、高いビルや樹木などに邪魔されない場所でご覧になってください。
2023年4月23日記事で「2023年の太陽に対する新月付近の位置」という図を示しました。これを「地球影に対する満月付近の位置」に置き換えてみると右図のようになります。地心計算で日時表記はJST、黄経黄緯の差分を図化しました。原点は地心から見た地球影中心。5月6日の満月が地球影のすぐそばを通ることが分かるでしょう。
同様に10月29日の満月も地球影のギリギリまで接近、これが浅い部分月食を起こします。残念なことに月食最大時は今回の半影月食より高度が低く、しかもそろそろ夜明けの時間です。でもまぁ暗いうちに早起きするだけでも楽しめそうですね。観察眼が鋭い方は、この図で5月と10月とを比べたとき同じプラスマイナス6時間でありながら10月のほうが長いグラフだと気付いたことでしょう。単位時間あたりの移動量が大きい→速度が速い→月までの距離が近い、と発想が及べばすばらしい!今年10月は年間で最も近い満月なのです。
参考:
アーカイブ:満月とブルームーンの一覧
アーカイブ:新月とブラックムーンの一覧
新月のほうから説明しましょう。満月に対する「ブルームーン」のように、珍しい新月として「ブラックムーン」の呼称があります。いくつか定義がありますが、主なものはブルームーンと全く同じ二種類の決め方。ひとつは「二至二分で分けた季節の区切りのなかで四回の新月が起こった場合の三回目」、もうひとつは「一ヶ月の間に二回の新月が重複した場合の二回目」です。
今月のブラックムーンは二至二分の決め方によるもの。今年の春分瞬時(3月21日6:24)から夏至瞬時(6月21日23:58)の間に3月22日、4月20日、5月20日、6月18日の新月がありますので、三回目の5月20日がブラックムーンなのですね。去年の2022年5月30日もブラックムーンでしたが、このケースは5月1日にも新月があったため、月間重複による二回目という後者の決め方でした。来年2024年12月にも二回の新月があるので、三年連続ブラックムーン、更に言うと2025年8月も二至二分によるブラックムーンがあるので四年連続になります。こんなこともあるんですねぇ…。(※なお8月31日満月は月間重複のブルームーン。お忘れなく。)
いっぽう5月6日未明の満月は西に傾く最中の半影月食になるため、全過程を観察するには視界の善し悪しが決め手になるでしょう。記事冒頭の図はNASA-Eclipseサイトからの引用で今回の月食図(日時表記がUTなのでご注意!)。月は地球影の南側・本影すれすれをかすめていきますので、日本から見ると上側(天頂側)がかなり暗くなると思われます。日本の西の地方ほど有利になりますが、福岡県で計算しても月食最大時(6日2:23JSTごろ)の高度が30°を下回っていますから、高いビルや樹木などに邪魔されない場所でご覧になってください。
2023年4月23日記事で「2023年の太陽に対する新月付近の位置」という図を示しました。これを「地球影に対する満月付近の位置」に置き換えてみると右図のようになります。地心計算で日時表記はJST、黄経黄緯の差分を図化しました。原点は地心から見た地球影中心。5月6日の満月が地球影のすぐそばを通ることが分かるでしょう。
同様に10月29日の満月も地球影のギリギリまで接近、これが浅い部分月食を起こします。残念なことに月食最大時は今回の半影月食より高度が低く、しかもそろそろ夜明けの時間です。でもまぁ暗いうちに早起きするだけでも楽しめそうですね。観察眼が鋭い方は、この図で5月と10月とを比べたとき同じプラスマイナス6時間でありながら10月のほうが長いグラフだと気付いたことでしょう。単位時間あたりの移動量が大きい→速度が速い→月までの距離が近い、と発想が及べばすばらしい!今年10月は年間で最も近い満月なのです。
参考:
アーカイブ:満月とブルームーンの一覧
アーカイブ:新月とブラックムーンの一覧
今日の太陽 ― 2023/05/01
昨夜から今朝は曇り。朝からは徐々に回復し、昼前から五月晴れ。でもなぜか夜は大荒れの予報が出ています。
左は12:40ごろの太陽。左上リムに黒点の団体さんが現れ、早速活動領域13293と採番されました。南半球の団体さんはだいぶ右に寄りましたね。左下、高緯度のプロミネンスが気になります。昨日の時点でSILSOカウントによる2023年2月までの黒点集計をアーカイブに掲載しました。2022年は無黒点日数が全ての月でゼロなので、いよいよ本格的な第25太陽周期のピークが到来しつつあるようです。※各周期のピークでは無黒点日数ゼロが数年程度継続します。
左は12:40ごろの太陽。左上リムに黒点の団体さんが現れ、早速活動領域13293と採番されました。南半球の団体さんはだいぶ右に寄りましたね。左下、高緯度のプロミネンスが気になります。昨日の時点でSILSOカウントによる2023年2月までの黒点集計をアーカイブに掲載しました。2022年は無黒点日数が全ての月でゼロなので、いよいよ本格的な第25太陽周期のピークが到来しつつあるようです。※各周期のピークでは無黒点日数ゼロが数年程度継続します。
マジックムーンによる月面表現 ― 2023/05/02
左の月面画像をご覧になってください。どういった印象を持たれるでしょうか?通常の満月画像とは違うようだし、上弦画像の地球照を強調したものとも違うようだし…。不思議な雰囲気を受けることでしょう。
この画像は今年2月6日0時台に撮影した満月と、4月28日22時台に撮影した上弦を、それぞれ大きさを一致させて重ねた合成画像なんです。違和感なく繋げるため個別の処理を施してありますが、直径を合わせる以外にアフィン変換やモーフィングなどマッチさせるための変形処理はしていません。つまり「二枚の原画にはもともと秤動によるズレがほとんど無かった」というのが重要な点。無論、狙って撮りました。
フィルムで撮っていた時代から上弦と下弦をうまく繋げた「立体感のある月面全図」を何度か試したことがあり、また諸先輩の実践例も見せていただきました。でもいつだって秤動によるズレが立ちはだかり、理想とする像には程遠い…。
デジタル時代になってやっとフィルム代を気にせずジャンジャン撮りためることができるようになったけれど、やはり異なる日の月面はそう簡単に繋げられませんでした。逆にこのズレを利用すると3Dメガネを使った立体写真が作れるので、興味がそちらに流れてしまいました。
4、5年前から自作プログラムによる正確な秤動計算ができるようになったため、再び月面の立体表現を考えるようになりました。そんなおり、ブログ「photo.nomata」のTerujiさんが同様の合成を考えておられることを知って、情報交換しつつ、ひとまず「秤動差が極めて少ない満月+上弦または下弦」を目指すことにしました。ふたつの月相をピタリと合わせる「マジックムーン(Magic Moon or Magical Moon)」の呼称はTerujiさんの発案です。
とは言え、秤動値は天文年鑑にあるような地心秤動ではなく観測地から見た測心で計算する必要があり、しかも上弦と満月でぴったり一致するチャンスがあるとは思えない。ある程度の許容誤差を見込んで「実現し得る日時の組み合わせ」をリストアップした上で、その日にひらすら月を撮りためてゆくしかありません。スタートしたのは2021年の終わり頃だったでしょうか。(それまで太陽黄経差を意識した撮影は10年以上続けていたけれど、正確な秤動値が分からないため意識できませんでした。)
ちなみに左上画像での秤動は下記の通り(いずれも測心計算)。
緯度秤動・経度秤動とも差は0.4°未満。これくらいであれば合成ズレは直径10kmくらいの小クレーター1、2個ぶん程度なので、極端に大きなサイズで閲覧しない限りほぼ目立ちません。
右図は2023年2月1日0:00から5月1日0:00まで三ヶ月間の測心秤動図の例。私の観測地に近い茨城県つくば市を代表点として計算しました。青線が薄いところは昼間、濃いところは夜間。このなかで、2月満月と4月上弦が接近していますね。数年ぶん計算を進めると、このようなチャンスが何度も見つかるのです。期間や位相にこだわらなければ図の色々なところで異なる位相同士が近い組み合わせが生まれるでしょう。秤動は年々変化するので計算年に寄ってしまいますが、1時間単位で撮影を微調整できれば測心秤動差が0.5°以内におさまるチャンスは意外にあるもの。当日の天気はどうしようもありませんけどね。
合成の方法も様々考えられます。左上画像では満月側の明るさを少し落としつつコントラストを上げ、上弦の長所である欠け際の立体感と、満月の長所である光条の広がりが両立するよう心がけました。単純な加算や加算平均だけでなく、上弦など陰影のある側を輝度信号の増加分またはマスクとして使うことも可能でしょう。作業中に面白いと思ったのは、半月時にカスプや明暗境界に現れる「単独で小さく光る地形」がどのクレーターのどの山頂なのか、ひと目で分かるようになったこと。今回の合成では月面X&LOVE地形も全部入りましたが、これも満月画像単体では特定が困難です。上弦と下弦、三日月と二十六夜月などを組み合わせるも良し。異なる位相を三種類以上組み合わせるも良し。あまり科学的な意味合いを考えず、アートとして扱うのも良し。表現方法は無限です。
3Dの球体に画像をマッピングしてちょっと回せば、こうした合成はあっという間にマッチできます。でもそれをやってしまったら面白くないし、足りない月縁部分が破綻するのでカットするしかありません。自然の巡り合わせに身を委ね、アナログで合成のチャンスをつかみ取るほうが何百倍も深い感動を味わえます。
この画像は今年2月6日0時台に撮影した満月と、4月28日22時台に撮影した上弦を、それぞれ大きさを一致させて重ねた合成画像なんです。違和感なく繋げるため個別の処理を施してありますが、直径を合わせる以外にアフィン変換やモーフィングなどマッチさせるための変形処理はしていません。つまり「二枚の原画にはもともと秤動によるズレがほとんど無かった」というのが重要な点。無論、狙って撮りました。
フィルムで撮っていた時代から上弦と下弦をうまく繋げた「立体感のある月面全図」を何度か試したことがあり、また諸先輩の実践例も見せていただきました。でもいつだって秤動によるズレが立ちはだかり、理想とする像には程遠い…。
デジタル時代になってやっとフィルム代を気にせずジャンジャン撮りためることができるようになったけれど、やはり異なる日の月面はそう簡単に繋げられませんでした。逆にこのズレを利用すると3Dメガネを使った立体写真が作れるので、興味がそちらに流れてしまいました。
4、5年前から自作プログラムによる正確な秤動計算ができるようになったため、再び月面の立体表現を考えるようになりました。そんなおり、ブログ「photo.nomata」のTerujiさんが同様の合成を考えておられることを知って、情報交換しつつ、ひとまず「秤動差が極めて少ない満月+上弦または下弦」を目指すことにしました。ふたつの月相をピタリと合わせる「マジックムーン(Magic Moon or Magical Moon)」の呼称はTerujiさんの発案です。
とは言え、秤動値は天文年鑑にあるような地心秤動ではなく観測地から見た測心で計算する必要があり、しかも上弦と満月でぴったり一致するチャンスがあるとは思えない。ある程度の許容誤差を見込んで「実現し得る日時の組み合わせ」をリストアップした上で、その日にひらすら月を撮りためてゆくしかありません。スタートしたのは2021年の終わり頃だったでしょうか。(それまで太陽黄経差を意識した撮影は10年以上続けていたけれど、正確な秤動値が分からないため意識できませんでした。)
ちなみに左上画像での秤動は下記の通り(いずれも測心計算)。
- 2月6日0:42…緯度秤動・-6.244°、経度秤動・-1.206°、太陽黄経差178.67°
- 4月28日22:25…緯度秤動・-6.202°、経度秤動・-0.816°、太陽黄経差96.82°
緯度秤動・経度秤動とも差は0.4°未満。これくらいであれば合成ズレは直径10kmくらいの小クレーター1、2個ぶん程度なので、極端に大きなサイズで閲覧しない限りほぼ目立ちません。
右図は2023年2月1日0:00から5月1日0:00まで三ヶ月間の測心秤動図の例。私の観測地に近い茨城県つくば市を代表点として計算しました。青線が薄いところは昼間、濃いところは夜間。このなかで、2月満月と4月上弦が接近していますね。数年ぶん計算を進めると、このようなチャンスが何度も見つかるのです。期間や位相にこだわらなければ図の色々なところで異なる位相同士が近い組み合わせが生まれるでしょう。秤動は年々変化するので計算年に寄ってしまいますが、1時間単位で撮影を微調整できれば測心秤動差が0.5°以内におさまるチャンスは意外にあるもの。当日の天気はどうしようもありませんけどね。
合成の方法も様々考えられます。左上画像では満月側の明るさを少し落としつつコントラストを上げ、上弦の長所である欠け際の立体感と、満月の長所である光条の広がりが両立するよう心がけました。単純な加算や加算平均だけでなく、上弦など陰影のある側を輝度信号の増加分またはマスクとして使うことも可能でしょう。作業中に面白いと思ったのは、半月時にカスプや明暗境界に現れる「単独で小さく光る地形」がどのクレーターのどの山頂なのか、ひと目で分かるようになったこと。今回の合成では月面X&LOVE地形も全部入りましたが、これも満月画像単体では特定が困難です。上弦と下弦、三日月と二十六夜月などを組み合わせるも良し。異なる位相を三種類以上組み合わせるも良し。あまり科学的な意味合いを考えず、アートとして扱うのも良し。表現方法は無限です。
3Dの球体に画像をマッピングしてちょっと回せば、こうした合成はあっという間にマッチできます。でもそれをやってしまったら面白くないし、足りない月縁部分が破綻するのでカットするしかありません。自然の巡り合わせに身を委ね、アナログで合成のチャンスをつかみ取るほうが何百倍も深い感動を味わえます。