水星とプレアデス星団の最接近 ― 2022/05/01
昨夕から天気がゆっくり下り坂。日没時点で低空に雲があり、先行して高層雲がだんだん迫っているようでした。5月1日明け方の金星・木星の接近は絶望的。でも宵に見える水星とプレアデス星団(すばる)の接近は楽しめそう。ベランダから眺めることにしました。
明るいうちにカメラや双眼鏡を用意。日没15分後にはシリウスが見えました。水星の東方最大離角が前日29日でしたから探しやすい時期だったにも関わらず、目に止まったのは日没30分後くらい。薄雲に覆われていたため減光していたのかも知れません。左画像は19時過ぎの撮影で、左上の明るい星がアルデバラン、周囲の細かい星がヒアデス星団、右下寄りにこじんまりとプレアデス星団があり、その近くにある輝星が水星です。画像下半分は縞々模様状の雲が写り込んでいます。微光星をあぶり出す強めの画像処理を施してありますが、実際の空ではすばるの存在確認がやっとでした。
水星とプレアデス星団の接近はこれまでも何度か観察チャンスがあったけれど、しっかり晴れてくれたのは2015年4月-5月以来でしょうか。しょっちゅう機会がありそうに思えるけれど、きちんと計算してみたら意外にチャンスが少ない現象でした。
右表は2000年から2050年までの51年間で「水星とすばるの離角が6°以内」「水星と太陽の離角が15°以上」を満たすリストです。水星が太陽近くを回る都合上、すばるが太陽近くに来る時期…つまり4月下旬から6月中旬に限られます。
当然夕方だけでなく明け方にも接近チャンスはあるはず。黄道近くに輝くすばるの近くを太陽が通るのは5月21日前後だから、この日の約20日前か20日後に水星がすばる近くにいることが「太陽からある程度離れて見やすい」条件にマッチするのです。でも右表を見る限り4月末から5月頭の宵空に偏っており、6月上・中旬の明け方のチャンスはほとんどありません。計算期間を1900-2100年まで広げても傾向は同じでした。
更にじっくり見ると、宵のチャンスは1°台や2°台が多いのに、明け方のチャンスは5°台ばかり。1900-2100年に起こる71回で最接近日の月別統計を取ったら、4月の離角平均は1.70°、5月は2.13°、6月は5.66°でした。明け方の接近チャンスは5°を下回りません。これはどういうことなのでしょう?
みなさんへの宿題にしても良いのですが、天文計算しなくてはいけないからちょっと難しいかも知れませんね。ということで、「太陽を基準にしたとき、水星はどこに見えるか」という図を描いてみました(記事末の図)。これは2000年から2050年までの見かけの水星位置を黄道座標系で表しており、原点に太陽がいます。薄黄色線は地心から見た水星位置で、プレアデス星団までの離角が6°以下になる場合はピンクの線にしました。プレアデス星団の黄緯は+4°あまりなので、その位置に緑線を描いています。横軸は左(黄経の東)が正の向きであることにご注意ください。
まずは水星の見かけ位置が「潰れたトーラス」を横から見た様になることに驚かされますよね。なんと言ったら良いか…「立体スピログラフ」みたいな感じ。太陽の影響で他のどの惑星よりも複雑な運動をしているのに、地球から見たらドーナツの表面を這い回っているなんて…。
天球上の位置を描いた平面図なので本来は奥行きの概念がありませんが、「水星がすばるに近いときの地心距離はどうなのか」が分かるよう、ピンク線は遠いほど暗く(暗赤色)、近いほど明るく描きました。同じ太陽近傍でも、外合か内合かが区別できますね。ちなみに左画像は太陽観測衛星SOHOサイトからの引用で、2019年5月20日の例。太陽北側にプレアデス星団、右に水星が明るく光っています。このときは外合直前だから太陽よりずっと奥にあり、左(黄経の東)へ移動しています。
緑線上を一年に一回すばるが通るとき水星が6°以内になるのは決まってドーナツの底面(黄道の南側)から向こう側を通って(外合を経由して)上面に登り、再び南下して地球手前で内合するまでのルートのどこかに限られるということ。もちろん経路上で連続してすばる接近ということではなく、ごく短い期間が何回も積み重なってピンク線を構成しています。
この接近経路の中で一番プレアデス星団に近いのが左側、トーラス北面に登りきった時ですね。水星がこの位置にいるのは西空で東方最大離角前後にあるころ。こうした傾向が「明け方の接近より夕方の接近のほうが近い」という現実に結びつくようです。いやぁ、面白い。
明るいうちにカメラや双眼鏡を用意。日没15分後にはシリウスが見えました。水星の東方最大離角が前日29日でしたから探しやすい時期だったにも関わらず、目に止まったのは日没30分後くらい。薄雲に覆われていたため減光していたのかも知れません。左画像は19時過ぎの撮影で、左上の明るい星がアルデバラン、周囲の細かい星がヒアデス星団、右下寄りにこじんまりとプレアデス星団があり、その近くにある輝星が水星です。画像下半分は縞々模様状の雲が写り込んでいます。微光星をあぶり出す強めの画像処理を施してありますが、実際の空ではすばるの存在確認がやっとでした。
水星とプレアデス星団の接近はこれまでも何度か観察チャンスがあったけれど、しっかり晴れてくれたのは2015年4月-5月以来でしょうか。しょっちゅう機会がありそうに思えるけれど、きちんと計算してみたら意外にチャンスが少ない現象でした。
【すばると水星の接近・2000-2050年調べ】
最小離角日時 (JST) | すばる・水星 離角(°角) | 水星・太陽 離角(°角) |
---|---|---|
2002-04-30 15:49 | 1.54 | 20.38 |
2004-06-06 3:17 | 5.34 | 15.02 |
2008-05-03 6:52 | 2.03 | 17.40 |
2009-05-01 2:51 | 1.41 | 19.55 |
2010-06-10 23:24 | 5.98 | 19.08 |
2015-05-01 14:08 | 1.66 | 19.80 |
2017-06-07 15:26 | 5.50 | 16.14 |
2021-05-04 16:03 | 2.16 | 16.39 |
2022-04-30 12:35 | 1.37 | 20.58 |
2028-05-01 16:40 | 1.79 | 19.06 |
2029-05-01 11:30 | 4.02 | 15.80 |
2030-06-09 2:57 | 5.67 | 17.21 |
2034-05-06 2:39 | 2.29 | 15.32 |
2035-04-30 19:26 | 1.45 | 20.65 |
2041-05-02 22:13 | 1.93 | 18.19 |
2042-05-03 7:21 | 1.92 | 17.05 |
2043-06-10 13:22 | 5.84 | 18.26 |
2048-04-30 12:57 | 1.57 | 20.29 |
2050-06-07 3:10 | 5.37 | 15.21 |
- 自作プログラムによる計算です。
当然夕方だけでなく明け方にも接近チャンスはあるはず。黄道近くに輝くすばるの近くを太陽が通るのは5月21日前後だから、この日の約20日前か20日後に水星がすばる近くにいることが「太陽からある程度離れて見やすい」条件にマッチするのです。でも右表を見る限り4月末から5月頭の宵空に偏っており、6月上・中旬の明け方のチャンスはほとんどありません。計算期間を1900-2100年まで広げても傾向は同じでした。
更にじっくり見ると、宵のチャンスは1°台や2°台が多いのに、明け方のチャンスは5°台ばかり。1900-2100年に起こる71回で最接近日の月別統計を取ったら、4月の離角平均は1.70°、5月は2.13°、6月は5.66°でした。明け方の接近チャンスは5°を下回りません。これはどういうことなのでしょう?
みなさんへの宿題にしても良いのですが、天文計算しなくてはいけないからちょっと難しいかも知れませんね。ということで、「太陽を基準にしたとき、水星はどこに見えるか」という図を描いてみました(記事末の図)。これは2000年から2050年までの見かけの水星位置を黄道座標系で表しており、原点に太陽がいます。薄黄色線は地心から見た水星位置で、プレアデス星団までの離角が6°以下になる場合はピンクの線にしました。プレアデス星団の黄緯は+4°あまりなので、その位置に緑線を描いています。横軸は左(黄経の東)が正の向きであることにご注意ください。
まずは水星の見かけ位置が「潰れたトーラス」を横から見た様になることに驚かされますよね。なんと言ったら良いか…「立体スピログラフ」みたいな感じ。太陽の影響で他のどの惑星よりも複雑な運動をしているのに、地球から見たらドーナツの表面を這い回っているなんて…。
天球上の位置を描いた平面図なので本来は奥行きの概念がありませんが、「水星がすばるに近いときの地心距離はどうなのか」が分かるよう、ピンク線は遠いほど暗く(暗赤色)、近いほど明るく描きました。同じ太陽近傍でも、外合か内合かが区別できますね。ちなみに左画像は太陽観測衛星SOHOサイトからの引用で、2019年5月20日の例。太陽北側にプレアデス星団、右に水星が明るく光っています。このときは外合直前だから太陽よりずっと奥にあり、左(黄経の東)へ移動しています。
緑線上を一年に一回すばるが通るとき水星が6°以内になるのは決まってドーナツの底面(黄道の南側)から向こう側を通って(外合を経由して)上面に登り、再び南下して地球手前で内合するまでのルートのどこかに限られるということ。もちろん経路上で連続してすばる接近ということではなく、ごく短い期間が何回も積み重なってピンク線を構成しています。
この接近経路の中で一番プレアデス星団に近いのが左側、トーラス北面に登りきった時ですね。水星がこの位置にいるのは西空で東方最大離角前後にあるころ。こうした傾向が「明け方の接近より夕方の接近のほうが近い」という現実に結びつくようです。いやぁ、面白い。
今日の太陽 ― 2022/05/03
5月は悪天で始まり、もう梅雨かと思うような空模様。三日目にして明け方にようやく晴れました。時折雲がかかるものの、今日は暖かくて季節相応の過ごしやすさ。昨日は八十八夜、明後日は立夏。早いものですね。
左は13:20頃の太陽。やや強風で、シーイングも悪いです。中央左下にごちゃごちゃした小黒点群ができており、活動領域13004と採番されました。また赤道をはさみ反対側にもかすかな黒点群があって、こちらは13005です。13004の左にも微小黒点がありますがまだ採番されていないようです。活動領域の大部分が右半球ですね。
右下や左やや下など各地に大きなプロミネンス。宙に浮いて見えるものもあります。左下からは活発な領域が現れつつありますので期待しましょう。
左は13:20頃の太陽。やや強風で、シーイングも悪いです。中央左下にごちゃごちゃした小黒点群ができており、活動領域13004と採番されました。また赤道をはさみ反対側にもかすかな黒点群があって、こちらは13005です。13004の左にも微小黒点がありますがまだ採番されていないようです。活動領域の大部分が右半球ですね。
右下や左やや下など各地に大きなプロミネンス。宙に浮いて見えるものもあります。左下からは活発な領域が現れつつありますので期待しましょう。
夕方の月がきれいでした ― 2022/05/04
先月に続いて今月も1日が新月でした。5月30日にも新月があるため、ひと月に2回新月が起こる「ブラックムーン」です(→アーカイブ「新月とブラックムーンの一覧」参照)。1日の新月時には南米などで部分日食が見られました。米国気象衛星GOESの画像では南米の日没時頃ごく淡い月の影が写りこむのを確認できましたが、食分が大きくないため極めて淡すぎて取り出せませんでした。
先月の記事に書いた通り、1日は新月にも関わらず当地・茨城で日没時の月高度が4°弱あったため、「新月日の月」が見える可能性もゼロではありませんでしたが、そもそもひどい天気…。昨日3日にやっと晴れたため、夕方の月を楽しむことができました。
左上画像は3日19:10過ぎの撮影で、撮影時の太陽黄経差は28.79°、撮影高度は16.41°、月齢2.57。極細と言うには太くなりすぎました。画像水平を正しく合わせてあり、弦傾斜は21.94°。今後は次第に傾斜が大きくなってゆくでしょう。夕方の水平月はまだ先で、2025年から2033年ごろまでの2月から4月の宵空で度々目撃されるようになるでしょう。
撮影中、月の東側に明るい星が接近しているのを見つけました。これはおうし座のV1116星(6.0等)。まもなく掩蔽されるタイミングでビックリ。(別の作業があったため掩蔽観察はできませんでした。)それにしても高倍率デジカメでちょちょいと撮影しただけなのに、11.5等程度まで確認できることに驚かされました。
暮らしの中では日の出入りで分割してしまうけれど、地平を取り払ったら、月・水星・太陽・金星・木星・火星・土星(+天王星・海王星)が107°内、つまり空の半分内に偏ってしまう配置です。もっとも3月頃は50°内に揃ってましたから(肉眼で見える見えないを問わなければ)すごいことですよね。
先月の記事に書いた通り、1日は新月にも関わらず当地・茨城で日没時の月高度が4°弱あったため、「新月日の月」が見える可能性もゼロではありませんでしたが、そもそもひどい天気…。昨日3日にやっと晴れたため、夕方の月を楽しむことができました。
左上画像は3日19:10過ぎの撮影で、撮影時の太陽黄経差は28.79°、撮影高度は16.41°、月齢2.57。極細と言うには太くなりすぎました。画像水平を正しく合わせてあり、弦傾斜は21.94°。今後は次第に傾斜が大きくなってゆくでしょう。夕方の水平月はまだ先で、2025年から2033年ごろまでの2月から4月の宵空で度々目撃されるようになるでしょう。
撮影中、月の東側に明るい星が接近しているのを見つけました。これはおうし座のV1116星(6.0等)。まもなく掩蔽されるタイミングでビックリ。(別の作業があったため掩蔽観察はできませんでした。)それにしても高倍率デジカメでちょちょいと撮影しただけなのに、11.5等程度まで確認できることに驚かされました。
暮らしの中では日の出入りで分割してしまうけれど、地平を取り払ったら、月・水星・太陽・金星・木星・火星・土星(+天王星・海王星)が107°内、つまり空の半分内に偏ってしまう配置です。もっとも3月頃は50°内に揃ってましたから(肉眼で見える見えないを問わなければ)すごいことですよね。
超新星SN2022ihzは何者!? ― 2022/05/04
一昨日に「SN2022ihzを観測してみて」という板垣公一さんのお声を伝えてくれたのは星仲間の(の)さんでした。一風変わった超新星だとのこと。どこの銀河か位置を調べると…Host Galaxyが存在しない…だと!?
SN2022ihzは4月25日にATLASサーベイでうみへび座に発見された超新星。既にIa型(Ia-91bg-like)と分光もされていました。発見時は18.045等、フィルターや等級システムの差はあれど、発見前後一週間程度の観測リポートによれば19-18等を維持していました。ところが板垣さんが撮影したところ15.4等まで大像光してるとのこと。
一昨日夜は雷雨のち曇りだったため望遠鏡は出せませんでしたが、昨夜から今朝にかけて一晩中晴れてくれました。出遅れると建物に隠れる位置なので、宵空明るいうちに機材をセット。暗くなったらすぐ撮影です。透明度の悪さや日中の強風が少し残り、おまけに撮影開始直前に地震が発生してバタバタしました。慌ただしくも撮影したのが左上画像。うむ、明るい!
一見すると「新星」とか「突発天体」のようで、銀河の無いところに超新星という不自然さが奇妙です。南西(右下)にNGC2974が写っていますが、これをHost Galaxyとするには遠すぎる…。仮に同程度の距離とするなら、大雑把に13等くらいまで増光する見積もりになるでしょう。宇宙望遠鏡Swiftも観測体制に入ったようです。いったいどんな天体なのかプロの分析が気になるところ。地上で写真を撮りつつ続報を待つとましょう。いつも最先端の話題を提供してくださる(の)さんや板垣さんに大感謝です。
ついでに、望遠鏡を同じ姿勢にさせたままSN2022ewj、SN2022hrsも撮影。両者とも板垣さんの発見です。最後に小惑星1989 JAを撮って夜明けを迎えました。1989 JAは明るさ・速度ともぐんぐん増大中です。それにしても一晩みっちり天体観察できたのは久しぶり。明け方の金星と木星がとてもきれいでした。
SN2022ihzは4月25日にATLASサーベイでうみへび座に発見された超新星。既にIa型(Ia-91bg-like)と分光もされていました。発見時は18.045等、フィルターや等級システムの差はあれど、発見前後一週間程度の観測リポートによれば19-18等を維持していました。ところが板垣さんが撮影したところ15.4等まで大像光してるとのこと。
一昨日夜は雷雨のち曇りだったため望遠鏡は出せませんでしたが、昨夜から今朝にかけて一晩中晴れてくれました。出遅れると建物に隠れる位置なので、宵空明るいうちに機材をセット。暗くなったらすぐ撮影です。透明度の悪さや日中の強風が少し残り、おまけに撮影開始直前に地震が発生してバタバタしました。慌ただしくも撮影したのが左上画像。うむ、明るい!
一見すると「新星」とか「突発天体」のようで、銀河の無いところに超新星という不自然さが奇妙です。南西(右下)にNGC2974が写っていますが、これをHost Galaxyとするには遠すぎる…。仮に同程度の距離とするなら、大雑把に13等くらいまで増光する見積もりになるでしょう。宇宙望遠鏡Swiftも観測体制に入ったようです。いったいどんな天体なのかプロの分析が気になるところ。地上で写真を撮りつつ続報を待つとましょう。いつも最先端の話題を提供してくださる(の)さんや板垣さんに大感謝です。
ついでに、望遠鏡を同じ姿勢にさせたままSN2022ewj、SN2022hrsも撮影。両者とも板垣さんの発見です。最後に小惑星1989 JAを撮って夜明けを迎えました。1989 JAは明るさ・速度ともぐんぐん増大中です。それにしても一晩みっちり天体観察できたのは久しぶり。明け方の金星と木星がとてもきれいでした。