東京都立高校入試・地学設問のこと(更に別視点で)2016/03/24

設問
当ブログ3月5日の記事で取り上げた東京都立高校入試・地学設問を扱うのはこれで三度目になります。しつこいと言われそうですが、奇しくも設問に描かれた観察日と同じ日が巡ってきたので、更に別のアプローチを考えて記事にしました。試験に関係のある方だけでなく、多くのみなさんに「知識の点検」としてお考えいただければ幸いです。あらためて、設問は左の通りです。(引用元は東京都教育委員会・設問解答。)

ところで星空を観察するとき、私たちは星座を使って大雑把な位置を把握したり時計や定規代わりにすることがあります。「昔の人が考えた空想図」で片付けるのではなく、積極的に利用しているのです。たとえば「○●流星群は○●座の方向から流星がやって来るように流れる」とか「△▲彗星は明日の朝に□■座に見える」等々。

この記事では設問を解くために「背景に描かれた星座」の利用を考えてみました。今回は正確なシミュレーションソフトで知られるステラナビゲーターを駆使して検証図を作り、照らし合わせます。実際の空ではなくシミュレーターを使う場合、ソフト固有の癖やバグなどを考慮する必要がありますが、実績を信じることにしてこの記事内では触れません。(※図の日時はすべて設問に近い日時である2015年3月24日18:30に統一しました。)

まず設問に取りかかる前に頭の体操です。次のふたつの違いがはっきり答えられますか?

  • A:地球や金星、火星などの軌道を、北側から地球赤道面に対して垂直に見る。
  • B:地球や金星、火星などの軌道を、北側から地球軌道面に対して垂直に見る。


軌道図の見方
理科の設問を作る人・解答する人を問わず上のふたつを混同している場合があるようですが、明らかに違います。Aは要するに地軸に沿って軌道を見る方法で、難しい言葉では地球赤道面を基準にした「赤道座標系」と呼ばれる見方。対してBは地球軌道面を基準にした「黄道座標系」と呼ばれる見方です。季節が生まれる仕組みの解説で、よく右図が出てきますね。これを使うと図中の赤矢印と黄矢印のような差。驚くほど視線方向が変わるでしょう?

今回の設問[問1]では「地球の北極側」と明記してありますから、「地軸に沿って北極星に向かって離れ、十分遠くからくるっと振り返って軌道を見た図」ということですね。すなわち赤道座標系だと思ったのですが、図を見ると黄道座標系にも見えます。軌道を正円で近似的に描くのは黄道座標系の見方だからです。通常わたしたちが紙に軌道を描く場合、「紙の面に軌道面がある」と暗黙に想定しませんか?それはすなわち黄道座標系の見方を採っているということです。ですから私は設問文の書き方と設問図にとても違和感を覚えました。小さな事ですが「地球の北極側」と「地球の北側」とではニュアンスが異なります。

下図はステラナビゲーターによる作画です(都合により設問に対して90°ほど回転しています)。(a)図は黄道座標系で描いた火星までの軌道図。背景の暗い黄色線は黄道座標の目盛りで、太陽に重なった+印は黄道座標の南極です。(b)図は「赤道座標系」の同様な図。背景の暗い赤色線は赤道座標の目盛りで、太陽に重なった+印は天の南極です。また(c)図はそれぞれの軌道だけを重ねたもの。斜めから見ているぶん、紫線のほうがつぶれていますね。背景の星座も結構ずれています。図に描いてないから目に見えませんが、黄道座標系の地球を大きくズームアップすると、丸の中心は北極点ではありません。いわゆる北極線(=北極圏の南限)上のどこかです。こうした差があるため、場合によって補助線による解き方ではうまくいかないケースも生じるでしょう。

  • 黄道座標系での軌道図

    (a)
  • 赤道座標系での軌道図

    (b)
  • 座標系による軌道図の差

    (c)


星座と天体配置
ということで、ここでは設問図を「黄道座標系による作画」と仮定して話を進めましょう。各惑星の背景には星座が描いてあります。お馴染み「黄道十二宮」ですね。だいたい黄道に沿って並んでいるため、黄道座標系では横に並んで描かれます。設問の空を含む近辺を描いてみました(左図)。設問図との関係が分かるでしょうか?地球軌道面を真横から見たイメージです。

では少しズームしましょう。右下図では星座絵と星座境界線も入れました。設問からここまで想像できた方は素晴らしいと思いますが、思考のヒントが幾つもあります。例えば設定日が春分から間もないですから、太陽は春分点(天の赤道と黄道の交点)からあまり離れてないと推測できます。また、最初のスケッチには太陽が描かれていませんが、うお座の形と春分点の位置を覚えていた生徒さんなら地平下の太陽位置まで想像できたでしょう。

星座と天体配置
それから星座の大きさも大ヒントです。何度も空を見上げていれば、恒星を頼りに二天体間のなす角度(離角)を計れるようになるんです。月の視直径がおおよそ0.5°とか、オリオン座の縦長四角形は20×10°にすっぽり入るとか、北斗七星の端から端まで25°あまりとか、基本ですね。設問中の星座では右図のおひつじ座α−γ間が5°あまり、あるいはα−δ間は15°あまりです。視野角が分かっている双眼鏡で眺めるだけでも体験的に身につく技です。若い生徒さんならあっと言う間でしょう。

ここまで準備したところで、あらためて設問を見ましょう。観察者から見て火星と金星(と月)がスケッチの位置を実現するのは金星がどの位置かと言うことでした。言い換えると「火星と金星の離角(黄経差)が分かれば、その値で図に直接作画してダイレクトに求めれば良い」ことになりますね。設問図はある程度正確に描かれたものと信じて、おひつじ座の大きさと火星−金星間とを比べると15°前後かなと目測できます。(実際の空では約13.8°でした。)

地球から見た離角
それを今度は軌道図にあてはめます。たとえば地球中心と火星中心を結ぶ線をA、それを火星−金星間の離角だけ回転させた線をBとすれば、金星はB上に必ずいるはずです。地心ではなく地表から補助線を引くやり方でも、同様に線CとDを引ければD上にいるのです。(※この段階で、設問図が黄道座標系か赤道座標系かが問題になるのです。この解法では黄道に沿って経度差を測っています。そのまま赤道座標系にあてはめることはできません。)

作図すると左図の通り。実際の離角13.8°でやってみました。これを見る限り、「イでもウでもない」ちょうど間を通っていますね。BまたはDと金星軌道との交点に金星がいなくてはいけませんが、選択肢は描いてありません。でも紛れもなくこれは正しい解き方です。参考までに、前出の(a)図と(b)図で地心から火星と金星の離角を測ったところ、(a)図は13.9°、(b)図は13.8°でした。ピクセル誤差程度です。

試験会場では分度器が使えなくて作図できないかも知れませんが、諦めずに3月19日記事末尾に掲載した方法などで15°を作れた生徒さんはBやDに近い線が描けたでしょう。45°が作れれば三つ折りで15°になりますね。もちろん設問図の星座が正確に描かれていなければ離角も計れません。星仲間の知人からは「設問の星座線がいい加減」というツッコミもありました。

三次元の広大な宇宙空間を紙に押し込めるのですから、作図上いろいろな矛盾が生じることは十分理解できます。この設問は3月5日記事のような補助線による解答が正攻法というのも承知しています。でも「それ以外の解き方」をしてはいけないわけではありません。考え得るどんな解き方に対しても大きな矛盾が生じないよう、解がひとつに絞られるよう、作図の工夫をしなければいけないのです。これ、文句を言うのは簡単ですが、ご自身が設問を作る立場なら胃に穴が開くくらい悩む点でしょう。どうすべきかをぜひ考えてみてください。こうして記事を度々書くのも「様々な解き方を示しておきたい」「解法はひとつじゃない」という思いが本音です。

黄道十二宮
蛇足ながら…黄道に関連して右図を載せておきます。多くの方はこのような「星占いの星座」のイメージをお持ちでしょう。教科書にも出てきますね。1年間の公転の間に、太陽と反対側の黄道十二宮が入れ替わる…と伝えたいのです。ところが実際の恒星はとてつもなく遠いため、ある程度空の観察に慣れてくると図の間違い(勘違いしやすい点)に気付くでしょう。

例えば左側に見えるおとめ座が真夜中に見える地球からは両隣のしし座とてんびん座が見えても、更に隣のかに座・さそり座はもう昼間側の方向ですね。夜間には黄道十二宮のうち三星座しか見えない…という結論になってしまいます。

こうした誤解は図がスケール感を無視したが故に起きることで、実際は太陽に近い星座以外は夜間に全部見えます。また十二宮は黄道を12等分している訳ではなく、かなり幅にばらつきがあります。ではどんな図解をすれば良いでしょうか?これもぜひ考えてみましょう。(正解はありませんけど。)

桜が開花しました2016/03/24

20160324桜の開花
昨夕から今朝にかけては小雨まじりの空。月食どころか月影すら見えませんでした。本日昼過ぎまで雲が多かったですが、14時台から青空が多くなってきました。ちょうど通院で外出したため、往復の道で二日前のように桜の膨らみ具合を見てゆきました。

すると…もう家を出てすぐの公園で幹下から白いものがチラホラ見えるではありませんか。昨日は咲いてなかったので本日が開花日だったようですね。道中にたくさんある桜並木にも、株ごとにひと固まり、ふた固まりと開花を確認。これから約二、三週間、すっかり散ってしまうまで楽しみが増えました。

参考:
桜が満開です(2016/04/06)