東京都立高校入試・地学設問のこと(別視点で) ― 2016/03/19
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東京都立高校入試・地学設問のこと(更に別視点で)(2016/3/24掲載)
東京都立高校入試・地学設問のこと(更に別視点で)(2016/3/24掲載)
当ブログ3月5日の記事で取り上げた東京都立高校入試・地学設問のことは、いまだにくすぶっているようです。私たち大人は好きなだけ時間をかけて議論できますが、こどもたちは卒業、入学、新生活と、どんどん進まざるをえないでしょう。こどもたちが地学嫌いにならないよう、大きな後悔を残さないよう、素早い対応が望まれますね。
ここでは、あまり議論されてない別の視点でこの設問を考えたので記事にしておきます。前回のような補助線を全く使わない方法です。前記事をご覧になってない方は先にそちらをお読みください。設問は左の通りです。(引用元は東京都教育委員会・設問と解答。)
外合からイの位置までのなす角をA、ウの位置までを同様にBとします(右下図参照)。みなさんはこの角が目測でどれくらいと思いますか?Aは60°よりちょっと小さいかなぁ…、Bは90°をちょっと越してるかなぁ…、55°と95°?…という感じですね。実際に設問の図から測ってみたら、A=54.1°、B=93.8°でした。
いっぽう、地球と金星の会合周期は約1.6年(約584日)です。これは中学地学の範囲外と現役の先生に伺いました。知識として知っている生徒さんはいるかも知れません。高校地学なら公式を習ったり計算しますね。図中の金星が地球から見て日々均等の配置と仮定するなら(※実際はそんなことありませんが)、外合位置から内合位置まで292日で180°の位置変化を生むわけです。これは1日あたり0.62°という量ですね。ただし実際の空では2015年3月24日を含む外合から内合まで295日かかっていますから0.61°です。
では図のイやウは外合から何日経った位置なのでしょう?AやBを0.62で割ればすぐ求まります。分度器が使えない試験の場でどうやって角度を測るかは大問題ですが、最初に目測したようにそれぞれ55°、95°とした場合、イとウはそれぞれ外合から約89日後、約153日後です。図の計測値で計算しても88.8日後、153.8日後になりますから、そう大きく外してませんね。あとは外合か内合かどちらかの日付が分かれば、加減算だけでイとウの日付まで特定できるでしょう。
この設問だけでは外合や内合の日が特定できませんが、実際の観察をしている生徒さんなら知っていたかも知れません。外合が2014年10月25日、内合は2015年8月16日でした(※国立天文台計算/黄経差による黄経外合・黄経内合です)。この設問の次ページにある<結果2>を読むと「8月14日が内合らしい」ことがほのめかされていますので、重要な手がかりですね(※この8月14日は赤経内合です。前述の黄経内合とは少しずれがあります)。
以上から、イは2015年1月22日頃、ウは同年3月27日頃となります。またエの位置の少し手前で起こる「東方最大離角」が6月7日だったことまで知っていたら、これも思考のヒントになるでしょう。細かい計算をしなくても「外合から9ヶ月半で内合、5ヶ月弱ならその真ん中」なのですから、間違っても外合から150日経っている3月24日がイの位置でないことは明らかですね。
ここまで何とかたどり着いた生徒さんなら、「該当する答えがない」か「ウが設問の日付に近い」と考えるのではないでしょうか?現実にどれだけ空を観察したり天体カレンダーを把握してるかが試験の目的なら、設問者はこういう解き方を期待していたのかも知れませんね。ただしこれは図のデフォルメの程度によって解が変わりますし、補助線を使った解答と矛盾する可能性もあるでしょう。そもそも惑星会合を「日々均等配置」と仮定する前提に少し狂いがありますから、この方法で設問を作ったり解答するのは慎重に吟味する必要があります。※なお天文計算で2015年3月24日0時JSTの外合位置−太陽−金星が作る角度を求めると約92.959°(黄経のみ/黄緯差は無視)でした。ウに極めて近いですが、東京都教育委員会が示した正解はイです。
せっかく設問に金星の形が載っていますので、ここから推し量る事も大切です。ただ、実際に観察をしたことがある方は「形から推し量る難しさ」も体験しているでしょう。左に掲載した画像は実際にこのフェーズを私が拡大撮影した実際の金星(元記事はこちら)。等間隔ではありませんが、外合後から内合直前まで並んでいます。設問の3月24日に近い3月22日撮影画像が入っているのですが、左から何番目と思いますか?画像では視直径の違いも見て取れるので分かりやすいですが、小型望遠鏡・100倍以下の観察では左側6、7番目まで違いがほとんど分かりません。3月22日の金星は左から5番目、ひとつ左側は3月4日、ひとつ右側は4月25日です。
上で計算した「イ:2015年1月22日」に近いのは左から2番目の1月11日撮影画像。まだ低空のためぼんやりしています。2番目と5番目の違いが実際の空で分かるのは相当な機材や設備、毎日抜群の空に恵まれた人だけです。 右にそれぞれの実写画像を並べてみました。設問中の拡大像と見比べてみましょう。イとウのどちらに近いですか?外合から内合へ向かう金星では、外合から6ヶ月くらい経たないとはっきりした違いは出ないでしょう。もっと前から違いが分かるという人は予め「違うことを知っている」ために、そういう目で見てしまっているのです。犯人を知ってる推理小説を読むようなものです。教科書的知識のみを描いた頭のまま自然観察するのは好ましいことではありませんね。
今回問題になっていることも、正解に対する先入観から問題を作ってしまったところにある気がします。初めて学問に向き合うこどもたちは正解も何もありません。むしろどれほどバリエーション豊かな答えを出すのか、どういう理由でそう考えるのか、とことん付き合ってあげるべきでしょう。実際に目で見える事象だけから「答え」らしきものを導くのは大人だって難しいのですから。
設問と全く関係ありませんが、ご存じない方にはとても役立つ知識です。A4版の用紙を使うと左図のような角度がだいたい計れます(少数以下を四捨五入)。身近な紙で作る「簡易分度器」というわけです。
線aは短辺と長辺を重ねて作った斜め45°のライン、線bはA4版の対角線、線cは線bで折ったときに長辺が作るライン。この折り目を見るだけでも角度見積もりが格段に精度アップしますよ。同比率の違うサイズやB版でも同様です。他にも色々な折り目を作って、もっと違う角度が測れるかも知れません。「A4長辺三等分で約10cm(99mm)」など、長さを測ることもできますよ。あれこれ試してみましょう。面白いやり方があればぜひ教えてくださいね。
線aは短辺と長辺を重ねて作った斜め45°のライン、線bはA4版の対角線、線cは線bで折ったときに長辺が作るライン。この折り目を見るだけでも角度見積もりが格段に精度アップしますよ。同比率の違うサイズやB版でも同様です。他にも色々な折り目を作って、もっと違う角度が測れるかも知れません。「A4長辺三等分で約10cm(99mm)」など、長さを測ることもできますよ。あれこれ試してみましょう。面白いやり方があればぜひ教えてくださいね。