閏日と昼時間2024/02/29

閏日の昼時間
今日は閏日。今年の年号は4で割れるのですぐ分かります。ちょっと詳しい方なら「4で割れても閏年でないときがあるよ」とご存知でしょう。閏年の決め方は下記のようなルールがあるからです。

  • 西暦年が4で割り切れる年は閏年。
  • ただし西暦年が100で割り切れる年は平年。
  • ただし西暦年が400で割り切れる年は閏年。

小学生のころ「誕生日が2月29日の人は4年に1歳しか歳をとらない」などと冗談を言いあっていましたが、今はこんなこと言うだけでイジメになっちゃうのでしょうか。法律上は「生まれた日付の前日24時に歳をとる」と決まっているため、閏日生まれでも翌年2月28日の24時になったら1歳カウントアップされます。

さて前々から気になっていたのですが、概ね4年ごとにやってくる各閏日には全く差が無いのでしょうか?いえいえ、そんなことはありません。これを確かめるため、年によって差異が敏感な「昼時間」を計算してみましょう。ここでの昼時間は「日没時刻から日出時刻を引いたもの」とします。(※一定条件下の大気差も考慮し、1/1000秒の桁まで求めています。)

左上図は日本経緯度原点における閏日の昼時間。縦軸単位は時間で、概ね11.38時間(11時間23分)前後をふらついていることが読み取れるでしょう。前述ルールの通り、1700年、1800年、1900年などは非閏年(平年)、2000年や2400年は閏年。毎閏日ごとグラフが上昇し(昼時間が長くなる)、非閏年かつ100の倍数年を挟む前後で一気に下降していますね。また100の倍数年でも閏年ならば上昇は止まりません。下降のタイミングで減る昼時間は2分程度のようです。

このように書くと、昼時間の変化が閏日に関わる特別な出来事に勘違いされますが、このような変化は一年のどの日でも起こっています。試しに2月28日および3月1日について同様に計算すると下A・B図のようになります。(※閏日のグラフに揃えるため、閏年かどうかに関わらず横軸間隔を4年おきにしています。)ぱっと見、上昇下降の傾向はそっくりですね。

でも、よくよく見てください。「下降のタイミング」が閏日前と後とで違うことに気付けた方は鋭いですね。ここまで別グラフにしていたものをまとめた下C図をご覧ください。2月28日の昼時間は「非閏年かつ100の倍数年」にはまだ上昇を続け、その次の閏日に下降しています(緑矢印)。いっぽう3月1日は「非閏年かつ100の倍数年」に下降しています(赤矢印)。閏日挿入によって太陽の視位置がほぼ一日分ずれますから、前日の変化と後日の変化に違いが出てしまうのです。この「変化の変化」とでも言うべきものは太陽の方位角や高度など、視位置に関係する全てに影響します。2020年の閏日の記事「ダイヤ富士撮影ポイントの変化と閏日」なども参考にしてください。

閏日生まれの方は年齢が不連続にならないよう法律で守られているけれど、普段あまり気付けないところでこうした不連続性が現れます。今ごろ毎年同じところから日の出や「ダイヤモンド○○現象」などを撮影している方はこうした差異を体感しているかも知れません。

  • 2月28日の昼時間

    A.2月28日の昼時間
  • 3月1日の昼時間

    B.3月1日の昼時間
  • 2月末から3月頭の昼時間

    C.2月末から3月頭の昼時間


2025年の暦要項が発表される2024/02/01

立春と二百十日の変化
本日2月1日付官報で、国立天文台から2025年の「暦要項」が発表になりました。これをもって正式な2025年の祝日や日曜などが正式なものとなり、来年のカレンダーがデザインされます。(世に出回っている2026年以降のカレンダーは国が認めた公式のものではない、と言うことです。)

パラパラ見ていて、雑節の「二百十日」に注意がいきました。このころは台風シーズン真っただ中であり、関東大震災とも絡めて9月1日が防災の日になっていることは皆さんご存知の通りですが、このところ二百十日が「8月31日」というパターンが目に付くなぁと感じていたのです。今年も来年も8月31日です。1900年以降では1988年から8月31日のケースが始まっていますね。

当ブログで時おり二十四節気の変化を取り上げてきました。近年の前後数百年を見ると、どの節気の日時も概ね三日幅にわたる上下変動があります。二百十日は立春から209日経った日ですから、どんな変化をするのか気になりました。そこで立春と合わせて描いたのが左上の図です。左の縦軸は立春瞬時で、2月の何日かを表しています。(時刻は小数化しています。4.5なら2月4日12:00。)また右の縦軸は二百十日の日付で、時刻に関わらないため日付のみの離散的な分布になります。

私はもう少しばらけるのかと思ったのですが、うまく三日間のどれかに収まるようですね。閏年の影響で立春が2月5日正午を過ぎる日もあるけれど、閏日が挿入される年は二百十日経つのに一日分余裕があるため、9月3日まで到達するのを抑制する効果があることも分かりました。逆に、立春が2月4日正午より早い年では日付が足りず、一日戻って8月31になる傾向も見て取れます。しかしまぁ、不確実な天然の天体時計なのに何百年、何千年単位でほとんど狂わず使える暦の仕組みを作り上げた先人達には驚かされますね。

2024年のうるう秒調整はなくなりました2024/01/08

2017年1月-2023年12月のLOD累積
国際地球回転・基準系事業(IERS/INTERNATIONAL EARTH ROTATION AND REFERENCE SYSTEMS SERVICE)から本日1月8日に「2024年7月1日(同年6月末UT)のうるう秒挿入はない」と発表がありました(→IERS News:2024年1月8日UT付けBULLETIN-C67)。これにより、少なくとも今年いっぱいUTC-TAI = -37秒が維持されることが確定しました。

左図は2017年のうるう秒挿入直後を原点として、1日ごとのLOD(Length of Day:1日の実測長)差分値を足してゆき(水色線)、正確な時を刻む原子時計に対して自然に基づく時計がどれだけズレているか(緑線)を表したグラフ。(※測定データは昨年12月1日までを利用。)また、LODと24時間=86400秒との差の日々の値(薄青線)、および31日移動平均(赤線)をグラフ化したのが右下図です。毎年この発表があるたびに作図してきました。最後のうるう秒挿入(2017年1月8:59:60JST)から今年の正月で丸7年経ち、今年一年間もうるう秒はありませんので、8年間うるう秒無し確定。観測史上最長を再更新ですね。この半年ほど世界時とのズレはゼロに近く、ズレ量は緩やかにプラス側へ復調傾向にあるようです。マイナス閏秒の危惧は無くなりそうですね。

既に去年から報道されていますが、第27回国際度量衡総会(2022年11月開催)によって「2035年までに閏秒を無くす」「今後100年間は協定世界時を閏秒なしで運用」などの指針が決まりました。従って向こう10年あまりのどこかで今回のような発表は無くなると思われます。ただし自然の生みだす不確実な地球時計と、世界時を管理している絶対ズレない原子時計との差が無くなる訳ではありません。閏秒を使わくなることを「ズレが無くなった」と誤解されることが一番恐れることでしょう。

2015年1月-2023年12月のLOD差分変化
産業界は閏調整のない一貫した時計を使えると喜んでいるようです。世界をがんじがらめにしているコンピューターシステムは1秒の修正忘れだけでもクリティカルエラーを起こし、立ち行かなくなると考えられるからです。IT業界にとって閏調整のない世界こそが理想郷なのですね。では、閏調整を無くすことで困る人はいないのでしょうか?いちばん混乱するのはアマチュア天文関係者ではないかと個人的にぼんやり思います。

天文のプロやハイアマチュアは現象を計算したり観測するのに、途切れたりジャンプしたりせずに一貫して宇宙を流れる「暦表時(ET)」「地球時(TT)」「地球力学時(TDT)」といった時間軸を考案し使ってきました。ですから閏秒など地球自転の不確実を気にすることなく矛盾もない天文計算や観測管理が可能です。ところが最終的に私たちが使っているのは時計が刻む時刻であって、この時刻は原子時計(TAI)に同期した世界時(UTC)に準じます。つまり、UTCとTAIとは未来予測できないズレを内包しています。アマチュアレベルで使う天文カレンダーに載っている現象時刻は「TDTで求めた時刻にズレを加算しUTCを生成する」という過程を必ず経て時計時刻に換算されています。逆に、何かの天文現象を観測したら、そのとき読み取った時計時刻からズレを引いてTDTなどの天文共用の時刻に直してから解析や研究に使う必要があります。

例えばアーカイブ「地球の近日点通過日と遠日点通過日」には2200年の地球近日点通が

   2200年1月6日00:25:45TT = 2200年1月6日09:24:35JST

とあります。この表でTTの値は200年経っても変わりません。いっぽうJSTの値は現行システムで閏秒を推測し、時差も加算した時刻になっています。将来はズレが予測より少し変わると思われますからプラスマイナス数秒程度の誤差をはらんでいます。(※上の等号は、厳密にはニアリーイコール「≒」や「≈」で表現すべきものです。)ただ、この計算を行った時点で大まかなズレ量の修正は済んでいますから、現在表示している日時から大きく外れることはないでしょう。ですが「100年間は修正しない=修正してはならない」との勧告に準じてしまうと、天文計算のしきたりに関係なく「ズレ予測を全く修正していないエセ天文カレンダー」が出回ってしまう可能性も否定し切れません。

本来このUTCやJSTへの修正(換算)過程は閏秒があろうがなかろうが必ず必要です。今後「閏」の扱いがどうなろうとも、天体観測や計算をやっている人は「その時点のズレの量」や「未来のズレの予測」を知らなければ正確な現象カレンダーを編むことができません。ややこしいのは100年から1000年オーダーで前後する予測が必要なときや、TDTで管理されていない過去データとの比較が必要なときでしょうか。「天文分野ではプロアマ問わずTDT表現を使うこと」にするなら間違いはないけれど、それにしたって現象記録を腕時計やネット時計に頼る限りズレ量の把握と変換が都度必要ですよね。

閏秒を使わないシステムでは将来の時計がズレを含んでいないため、2200年になったとき自分の腕時計とTTとの差はそのとき調べなければ分かりません。従って100年先、200年先の天文現象を単純変換でUTCやJSTにしても意味が無く、結局計算時に閏秒累積=原子時計と世界時のズレを修正しておかなくてはならないわけで、現状と全く同じ労力が必要になると思われます。

   2200年1月6日09:24:35JSTに地球が近日点を通過する

という表現を見て、それがいつの時点のズレ修正なのか、あるいはズレを修正してないのか全く分からないことが問題になりそうです。ズレを考慮した0:00JSTは今日に入りますが、考慮しない0:00JSTは実際のところ昨日なのか今日なのか分かりません。天文分野に限るなら修正してあるだろうと考えられますが、例えば地震発生や津波到達時刻、満潮時刻といった地球内外の事象が微妙にクロスオーバーしている分野の時刻管理や分析には軋轢が生じないでしょうか?日本は分野の縦割りが強いのでとても心配です。津波予想が時計より1分遅れていたら、命に関わるでしょう。

個人的には閏秒修正が入ってない時計を使い続けることは地球時計とズレたまま生活することになるため、例え1秒内外のことだろうと生理的に嫌ですね。新年のカウントダウンだって、もし100年経って数十秒もずれているなら天文学的には正しくないイベントに成り下がります。

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

2024年の日出最遅シーズン到来2024/01/05

2024年・日出最遅日マップ
新年も5日を過ぎ、徐々に2024という数字に馴染み始まってきたかと感じる今日このごろ。でもまだ日付を書くときつい2023と書いてしまいます…。

冬至から折り返して昼間時間が僅かずつ長くなってきましたが、いっぽうでお正月ごろは日出時刻がまだ遅くなり続けていました。でも左の日出最遅日マップが示す通り、3日の北海道道北を皮切りに「今年いちばん遅い日の出」が南下を始めており、今日は東北北部、来週頭の連休には本州の半分が「日の出が早まる」方向に転じます。以降、夏至に向かってどんどん日が長くなるでしょう。

雪深い地域はまだしばらく降雪が続くと思われますが、今年は総じて雪が少なめの傾向らしいので夏の“水がめ”が心配ですね。きっと「地球沸騰」と言われた昨年同様に暑いでしょうから。まだ冬なのに夏の心配だなんて鬼に笑われますが、適度の雪や雨が日本を支えていることは確かです。どうかご用心くださいませ。


20240105太陽
さて、明け方に曇った空は日が高くなると共に解消しました。当地近くのアメダス気温は14時時点で13度近くまで上がっています。

20240105太陽リム
左は10:10過ぎの太陽。左端やや下に新たな黒点群が出てきました。昼時点でまだ採番されていませんが、黒点数は多そうです。近くにプロミネンスも出ています。

参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)