今日の太陽:X7クラスフレア発生2024/10/02

20241002太陽
昨夜から今朝は曇り。当初は晴れ間がある予報だったから明け方の彗星を撮るべく待機していましたが、二日連続で曇られました。今日は朝から回復し、30度を越えています。気象庁アメダス速報値の本日0時から16時までの集計による夏日地点数は616、真夏日地点数は192、猛暑日地点数は0、国内最高気温は埼玉県越谷ポイントの33.3度。

20241002太陽リム
左は10:10ごろの太陽。南半球がとても賑やか。中でも活動領域13842では今朝7:20JSTをピークとしたX7.15クラスフレアが発生。(※SolarMonitor.orgでは13844、Spaceweather.comでは13842と情報が食い違っています。位置的に842と思うのですが詳細不明。)これによりハワイの経度の赤道付近を中心とした電波のブラックアウトが発生したと考えられます。日本も太陽が見えるので範囲内ですが、縁に近いため重篤な危機は免れたようですね。CMEは10月5日ごろ地球に衝突するので、また低緯度オーロラが見えるでしょうか?

北半球、左縁やや上から大きめの黒点が登場しました。右端には素晴らしいプロミネンスも見えています。ちょっと休んでは活発になる繰り返しですね。

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右はSDOサイトからの引用で、X7フレア直後の太陽。

気象衛星がとらえた金環日食の月影2024/10/03

20241002_0150JSTひまわり画像
日本時間で今日未明に金環日食が起こりました。日食中心帯はハワイの南海域から赤道をまたぎ、南米を横切って大西洋に抜けるコースです。

もちろん日本からは全く見えませんでしたが、日本の気象衛星ひまわり9号はハワイまでカバーしていますから、日食月影が写ることは予報できました。左画像は本日3日1:50の画像(画像元:NICT)。朝焼けに染まる太平洋のやや北寄りに暗い部分が広がっていますね。ハワイ付近では1:30JST前ごろ日出時に日食が始まっている「日出帯食」でした。左画像はそこから少し経って、月の影が赤道に向かう途中の様子です。

影の付近を切り出してアニメーションにしたのが右下画像。クリックして再生してください。ひまわりから見えない向こう側に移動しつつ南下してゆく様子が分かるでしょうか。

今回の日食はまさにアメリカの気象衛星GOES-18(WEST)とGOES-16(EAST)のためのような位置でした。下A・B画像として、日食月影を捉えたそれぞれの衛星画像を掲載します(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。金環日食ですから皆既食ほど影が濃くありませんが、それでも月の影があることははっきり分かりますね。なおGOES-16に写ってるブラジル北東の巨大な渦はハリケーン「KIRK」。

20241002_ひまわり日食
気になるのが、「金環日食中に紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)は見えたのか」ということ。両者を一枚に収めた画像がそのうち天体写真投稿サイトに出てくることを期待します。

次の日食は来年3月と9月の部分食。それぞれ北極圏と南極圏をカバーする高緯度日食です。最大食分が0.8を越えているので人工衛星が捉えられるぎりぎりの減光と思いますが、高緯度ですからかなり見え難いでしょうね。その次は2026年2月の「南極金環日食」と8月のグリーンランド皆既日食。これまた高緯度日食です。一日中夜が来ない空での日食なんて新鮮で幻想的…。

  • 20241002_1730UT_GOES18

    A.GOES18-17:30UT
  • 20241002_1900UT_GOES16

    B.GOES16-19:00UT


参考:
アーカイブ「静止気象衛星による日食月影の可視範囲」

今日の太陽:X9クラスフレア発生2024/10/04

20241004太陽
昨夜から今朝は曇り時々晴れ時々雨。足早な雲と目まぐるしい天気の変化。雲間から星が見えるのに雨が降っていて稲光も光る。なんとも不思議な空模様でした。朝からも日差しがあるのに雲が多く、南風が蒸し暑い…。昼には30度を越えました。10月なのにねぇ…。風も強いです。

20241004太陽リム
左は11時過ぎの太陽。雲をかいくぐって何とか撮影しました。2日朝にX7クラスフレアが起きたばかりなのに、昨夜は21:18JSTをピークとするX9.05クラスフレアが発生。前回と同じ活動領域13842と思われます。中央子午線を過ぎたばかりなのでもろに地球に向いてますね。今回もSOHO画像がSnowStormで埋まるほどには至らなかったけれど、それなりに強いコロナ放出でした。前回ぶんは今日、今回分は明後日に地球へ達しますから、晴れていたらオーロラ探してくださいね。

下A画像はX9フレア直後のSDO画像。異様に明るいです。以前も書きましたが、Xの上のクラス名は決められてないため、発生したときは何と呼ぶんだろう?下B・C図は5月以降、今日までのX線フラックスデータで月ごとの変化をグラフ化したもの。Xクラスが頻出する時期はおおよそ固まっていて、緩やかに変動しています。(Xクラスとは、ピークが10-4から10-3の間になった状態。ピーク値下限が10-5、10-6、10-7、10-8と下がる毎にMクラス、Cクラス、Bクラス、Aクラスと呼びます。ちなみにこのグラフはY軸が対数目盛りです。)

  • SDO20241003_122556_1024_0131

    A.SDO 3日のX9フレア
  • 202405-07_X線フラックス

    B.X線フラックス5月-7月
  • 202408-10頭_X線フラックス

    C.X線フラックス8月-10月頭


20241004光環
太陽観察の合間に雲が薄くなるタイミングできれいな光環が現れていました。

サングレイザー・ATLAS彗星に思う2024/10/05

SOHO-C_2024 S1_星図
長い尾をなびかせた紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)の人気は目を見張るものがありますが、その影で見つかった別のATLAS彗星(C/2024 S1)も「久々の大物クロイツ群彗星か!?」と盛り上がりが異常でした。「でした」と過去形で書いたのは、IAU公式発表で軌道が露になったことで、時間と共に「見辛いかな?」「明るい時期が限られるかも」などと少し冷静になってきたように感じられるからです。

ATLAS彗星は10月初頭現在うみへび座のアルファルド近くを南下しつつあり、まさに紫金山・ATLAS彗星の長い尾の先に位置します。近日点通過は10月28.4598日(TT)、日本時間で28日20:01ごろ(※本日5日0時現在の情報)。近日点距離は0.008313AU=1243607.099kmで、太陽直径より近いですね。崩壊せずに残ったら奇跡でしょう。

左は自作プログラムによる作画で、太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラ写野を横切るであろうATLAS彗星の通過位置をシミュレートしたもの。書いてある日付はUTです。「彗星の近日点通過日時」と「地球から見て太陽に接近する日時」は全く別物で、異なることが多いのですが、今回は1時間程度のずれで一致しています。なお狭い範囲を写しているLASCO-C2カメラの場合はおおよそ右下図のようになるでしょう。

SOHO-C_2024 S1_星図
SOHOの写野は縦横幅が約16°ですから、この写野内の様子を一般の望遠鏡で見ることはできません。太陽近くではマイナス8等といったトンデモ光度予報がなされていますが、写野外ではせいぜい4等以下。仮に長い尾が出たとしても本体が太陽から離れてない状態なので、紫金山・ATLAS彗星よりも薄明に溶け込み、探し辛いと考えられます。実際のところ当日にならなければ分かりませんね。

ちなみに紫金山・ATLAS彗星もSOHO写野を横切ります(左下図)。おお、もうすぐだ!近日点は9月27.7日TTに通過していますから、この図はあくまで見かけ上の太陽接近です。世界中のどの国でもこの様子は見えないでしょうから、SOHOのサイトでお楽しみください。この星図から脱する12日以降は夕空で見えるようになるでしょう。

SOHO-C_2023 A3_星図
ところで、ATLAS彗星発見後の加熱っぷりが鼻に付いたので書いておきます。

現在は彗星の情報をIAUが一括して統制しており、ここからの発表を持って正式な彗星になります。発見報告しても直ちに公開・公認とはならず、軌道や動向がある程度正確に求まらないと発表されません。近年の突発天体発見などは見つけた天文台サイトや自動化されたサーベイプロジェクトBOTが独自に公表してしまうので「最初の発見」の意味合いは曖昧になりつつあり、問題視されているようです。「科学発展のためなら誰が最初かなんて関係ない」という意見はごもっともですが、悪意を持てばいくらでもフェイク情報を生み出せる世の中ですから、利権を伴わない公的機関による事実確認は大事でしょう。

公式発表前の新彗星(仮)はいったんIAUのCPPC(The Possible Comet Confirmation Page)で公開され、追跡観測が行われます。ここに情報が出た後に同じ彗星を「発見」しても、発見扱いにならない訳です。知らずに直前に撮った写真に写っていても、それは追跡観測の一部。またCPPCの段階で太陽に近いとなかなか精測観測が集まらないため新彗星認定に時間がかかります。岩本彗星(C/2020 A2)西村彗星(C/2021 O1・C/2023 P1)はまさにこの状況でした。

ATLAS彗星の公式発表は確か10月1日22時UTのCBET-5453でしたが、それ以前はCPPCで「A11bP7I」の符号で扱われてました。私が「A11bP7I」を知ったのは9月29日明け方に天文ベテラン知人から舞い込んだメールです。クロイツ群かも知れないとのことで、以降ずっと軌道要素を追いかけました。

彗星や小惑星の発見で追跡観測が大事なのは、発見者の名前を絞るためではなくて、どんな大きさでどんな軌道かを特定するため。既知天体と軌道が一致するかどうか、そもそも彗星なのか、デブリなどの人工物じゃないか、あるいは地球や他の惑星などとぶつかる危険性はないか、といった状況を正確に把握するためです。「A11bP7I」の初期軌道要素を見ると(少なくとも私には)明確なクロイツ群には見えず、もう少し精測位置観測が必要に感じました。

ところがこの段階でもう「クロイツ群だ」「明るくなるぞ」「第2の池谷・関彗星だ」などと騒ぐ人が現れ始めました。夢を抱き想像を掻き立て議論するのは自由ですが、軌道が定まってないのにツイート、リポスト、配信まで流れる始末で、本当にこれでいいのかと思いました。よく「偽の救助要請」でリツイートが埋まって本当の救助要請が探し出せないトラブルを耳にしますが、「とりあえず流行に乗っかっておこう」って発想も似たような現象でしょう。今回は最終的にクロイツ群候補天体(サングレイザー彗星)に落ち着いたから良いようなものの、数日経てば公式発表があるのに、それすら待てない世の中は嘆かわしいと思います。

下図はGet NEOCP orbitsサイトから拾い集めた「A11bP7I」の最初期から最後+IAU公式までの軌道要素17セットを使ったATLAS彗星の位置(ステラナビゲーターによる)。小さくて見えませんが「C/2024 S1」の後ろに番号がふってあり、大きい番号ほど新しい軌道要素になってます。初期段階は軌道決定がままならず、強制的に一部の要素をクロイツ群に当てはめたものもありました。それでは軌道が近くても信憑性ゼロですね。

A図の10月1日(0:00UT)では、どの軌道要素を使ってもほぼ一致しました(左のは紫金山・ATLAS彗星)。ところが10日、20日と経つうちにどんどんずれてきます。D・E図を見ると近日点通過ごろの混乱っぷりがわかりますね。そして太陽通過後はもっとばらばらです(F図)。広がり幅は6°以上に及び、このうち4番目の軌道要素はまだ太陽に向かっている最中でした。

十分な精測位置観測が集まらない状態では、このように軌道がうまく定まりません。彗星に関心が薄い人にとって「だいたい合ってる」ように見えても、これではダメなのです。「明るくなるかも」「尾が長いかも」という本来の不確定要素に加えて、軌道がまだ不明瞭な状態で煽り記事を配信したりツイート・リポストする情報伝達のあり方っていかがなものかと考えさせられた今回でした。「まだまだ分からないことが多いと言っておけば許される」という万能免罪符的な考え方は「これから私は嘘をつきます」と言ってるのと同じでしょう。

まずはご自身で一次情報を確認し、しっかり計算し、実物のATLAS彗星を観測してから発信しませんか?見えない位置ではないのですから。万が一近日点を越えられないなら、太陽に接近する前の今しか観察できませんよ。


★公式発表に至るまでの軌道要素を用いたATLAS彗星の位置(初期軌道要素のばらつきを可視化)★

  • 20241001_2024S1

    A.10月1日
  • 20241011_2024S1

    B.10月11日
  • 20241021_2024S1

    C.10月21日


  • 20241028_2024S1

    D.10月28日
  • 20241029_2024S1

    E.10月29日
  • 20241105_2024S1

    F.11月5日


【メモ:SOHO写野計算が合っているかどうかのチェック】
昨年1月に通過した96Pで計算し、実際のSOHO画像(2023年1月29日から2月1日まで)と合わせてみました。シミュレートは画像中心に太陽がいますが、SOHO画像の太陽(中央白丸)は画像中心からずれているため、外枠でフィットさせることができません。位置合わせは太陽基準に行いました。またプログラム上は「SOHO位置を太陽・地球系のL1位置に固定」として計算してますが、実際はL1を中心に変動しています。このため計算ずれが生じることもあります。更には彗星軌道要素も日々変化しますから、通過当時の軌道要素を使わないとずれの一因になるケースもあります。なお軌道計算が正確にできる惑星では非常によくフィットしました。SOHO画像は左右方向が黄経方向です。撮影光学系の歪みは分からないため補正していません。(※L1:ラグランジュポイント1:太陽と地球を結ぶ軸線上にあり、地球よりも約1%太陽に近い。)

  • SOHO-96P_星図

    G.シミュレート
  • SOHO-96P_星図+実際のSOHO画像

    H.実際の画像と減算合成

1995年に打ち上げられたSOHOの搭載カメラは1024×1024ピクセル。C3カメラはピクセルサイズ21µm角のCCDで、56″角相当。よって1024px×56″角=15.93°の画角。またC2カメラは同じセンサーで1pxが11.4″角相当だから1024px×11.4″角=3.24°の画角。ちなみにボイジャーのCCDは800×800ピクセル。それであれだけ高解像度画像を撮っていたのだからすごい。(※当時から高度なモザイク撮影&デローテーション&合成技術があった。当然だが被写体も撮影カメラ自身も高速で動いている。)