またしても雲に邪魔された月観察2019/10/17

20191017_21101月
昨夜から今朝にかけて晴れる予報が出てたので、2019年10月11日記事の予想通り「月面K」と「オニール橋」が見えるかどうか確認したかったけれど…残念ながら南西から雲が押し寄せ、ベタ曇りになってしまいました。それでも夜半前後に断片的な晴れ間が数分だけ横切ってくれたので、月面全体ワンシーンのみ撮影ができました。拡大撮影用に用意したもう一台の望遠鏡は無駄になりました。

左はほぼ日付変更頃の撮影で、太陽黄経差211.01°、撮影高度は約60.5°、月齢17.85です。撮影時に雲がないぶん、前夜よりは乱れなく撮影できました。この位相のころは輪郭が面白く、遠目に見ると危難の海だけペッコリ凹んでいるのです。

下弦ですから、月面Kもオニール橋も場所の確認ができます(右下画像/元画像から原寸大トリミング)。ただし見頃予想時刻よりだいぶ前のため明るいですね。


20191017月面地形
画像左側のオニール橋はそれなりにそれっぽく写っていましたが、良く見ると危難の海のほうまで日が届いています。オニールが見たという「橋」や「橋の下を通りぬける夕日」はこの3、4時間後の日照が最適だったでしょう。また画像右側の月面Kは見頃まで約6時間(日の出後)もあって、地形をよく知らないとK字型を辿ることさえ困難。晴れていれば月が低くなる前の薄明中なら確認できたかも…と思われます。

安定しない空模様にまたしても翻弄される結果でしたが、この1枚だけでも得られる情報はたくさんあります。また次の機会を楽しみに待つとしましょう。次回の「K地形」は11月15日21時過ぎ(→アーカイブ「月面の観察」参照)、また「オニール橋」は12月15日6時過ぎ(薄明中で見辛いかも)。自分一人の観察だけでは天気や見晴らしなどままなりませんが、全国各地で観察事例が増えれば予測精度は確実に向上します。今回に限らず「見えた!/見えなかった!」という方はぜひ情報をお寄せください。ご自身のブログなどに観察詳細を載せるのもいいですね。過去の記録でも構いません。ゆくゆくはオニール橋などギリギリな現象予報も見頃条件を特定し、アーカイブしたいと考えています。

台風になるかも知れない熱帯低気圧発生2019/10/17


20191017-1500熱帯低気圧
2019年10月15日記事にちらっと登場した熱帯低気圧ですが、本日15:00「台風になるかも知れない熱帯低気圧」になったと気象庁から発表がありました。左は発生時刻の気象衛星画像(画像元:NICT/画像処理・地図等は筆者)。オレンジ点線円は熱帯低気圧中心の直径1000km円を表しています。

現在は西進しており、沖縄や先島諸島へ向かうことなくルソン島付近を通過する見込みです。日本への影響は避けられそうですが、接近地方へ行かれる方やお住まいの方は十分ご注意ください。

10月になると日本へ接近する台風は少なくなりますが、アジア全体での台風シーズンは終わっていません。この熱帯低気圧の東にもゆっくり発達している低気圧がふたつ続いていますので要注意。

【追記】この熱底は台風20号になりました(→関連記事

真夏の札幌は東京に比べて涼しいか?2019/10/17

東京・札幌の最高気温差
来年夏に行われる東京オリンピックのうち、マラソンと競歩の実施場所を札幌に変更するかも…というニュースが昨日流れ始めました。実際にどうなるかはさておき、頭の中のイメージだけで物事を語るのは危険。夏場に東京と札幌とで暑さの状況がどれほど違うのか、具体的にデータを集計比較してみましょう。

気象庁のアメダスデータを使って両都市の最高気温差を単純比較すると左図の様になりました(2010年から昨日まで)。夏は札幌のほうが気温が高い時もあるのです。ですが、この様な単純比較でどうこう言えません。例えば「上回ったのは何時間か」「そのときの天気や気圧配置はどうだったか」など考慮すべきでしょう。たまたま東京に台風が来て涼しかったかも知れないし、わずか10分間高かっただけなのに「一日中ずっと上回っていた」かの様にカウントされてしまう比較はこの場合適切ではありませんね。「二人の人間の体温比較」くらい複雑なお話しなので、気象対比は単純作業だけで分かることじゃないのです。

【東京と札幌の真夏日&猛暑日日数】
種別東京札幌
2010年真夏日日数71日20日
猛暑日日数13日0日
2011年真夏日日数61日11日
猛暑日日数4日0日
2012年真夏日日数66日20日
猛暑日日数6日0日
2013年真夏日日数58日9日
猛暑日日数12日0日
2014年真夏日日数45日12日
猛暑日日数5日0日
2015年真夏日日数47日6日
猛暑日日数11日0日
2016年真夏日日数57日11日
猛暑日日数3日0日
2017年真夏日日数51日7日
猛暑日日数2日0日
2018年真夏日日数68日8日
猛暑日日数12日0日
2019年真夏日日数55日18日
猛暑日日数12日0日
ここ10年間におけるそれぞれの真夏日日数と猛暑日日数は右表の通りになりました。(※今年2019年は昨日10月16日までの合計です。)札幌でも30度を超す日があり、年によっては20日に及びます。また断片的出現ではなく、今年の様に連続出現する傾向にあります。

でも東京に比べたら三割以下で、総合的には涼しいと言えますね。猛暑日が全く無いだけでも、スポーツ選手にとって大助かりでしょう。

熱中症や暑いシーズンのスポーツを語るとき、気温だけで考えてはいけません。屋内・屋外問わず、湿度の影響も大きいからです。私が2017年8月1日記事を書いたとき、真っ先に取り上げたのがWBGT(Wet Bulb Globe Temperature)、通称「暑さ指数」です。暑さ指数は気温と同じ「度」の単位ですが、湿度の影響も折り込まれた数値。もちろん専用の測定器で測る必要があります。環境省による解説ページをご一読ください。

運動するしないに関わらず、注意を要する4つのWBGT温度区分が以下の様に設けられています。日本の夏は湿度が高いので、下記のWBGT気温区分を通常の気温計で測ると+3、4度高い環境に相当します。気温が低くても湿度が高ければ危険、と言うことなのです。

  • 21度以上25度未満:注意(積極的に水分補給)
  • 25度以上28度未満:警戒(積極的に休憩)
  • 28度以上31度未満:厳重警戒(激しい運動は中止)
  • 31度以上:危険(運動は中止)

前出の環境省サイトで各地のWBGT測定値が公開されています。そこから東京と札幌の値を使い、2013年から2019年の夏期を含む一定期間について集計しました。いくつかの切り口からグラフを描き、東京と札幌とで対比させたのが下の図Aから図Hです。図A・Bは「厳重警戒」と「危険」が1日ごとに何時間出現するか、7年間の平均を示しています。7月末から8月半ばにかけて、東京は2時間もの危険時間を含む厳重警戒時間が7時間以上も存在するのです。対して札幌は最大でも2時間未満。

図C・Dは一日の中でWBGT区分それぞれが出現するのは平均何%かを1時間ごとに示したもの。オリンピック相当期間のみを集計しました。また図E・Fおよび図G・Hは、WBGTの日最大値と日最小値について、5月から9月まで年別に描いたグラフ(5日間移動平均)。今年は札幌でもオリンピック相当期間に「厳重警戒」となりました。

仮に札幌でマラソンや競歩を行うとしても、たまたま暑い年に当たってしまうかも知れません。今回比較に使ったデータは競技コースで測ったものではないという点も注意すべきです。しかしながら、命を危険にさらすリスクは東京ほど高くはないだろうと言うことが科学データから客観的に推測できることが大事。これは選手だけでなく、野ざらしで応援する観客にも重要なこと。北海道に上陸する台風が少ないのも大きなメリットですね。もちろん「東京より涼しいから競技会場を移す」という単純な話でないことは想像に難くありません。競技期間の気象検討なんて会場を東京に決める数年前から行うべきで、今頃こんな話をしてることが異常です。

  • 東京・WBGT別出現時間幅

    A.東京・WBGT別出現時間幅
  • 札幌・WBGT別出現時間幅

    B.札幌・WBGT別出現時間幅


  • 東京・WBGT別出現時間帯

    C.東京・WBGT別出現時間帯
  • 札幌・WBGT別出現時間帯

    D.札幌・WBGT別出現時間帯


  • 東京・WBGT日最大値の変化

    E.東京・WBGT日最大値の変化
  • 札幌・WBGT日最大値の変化

    F.札幌・WBGT日最大値の変化


  • 東京・WBGT日最小値の変化

    G.東京・WBGT日最小値の変化
  • 札幌・WBGT日最小値の変化

    H.札幌・WBGT日最小値の変化


参考:
アーカイブ:真夏日と熱中症(ブログ内)
想定外と言わないために(2018/08/10)
こんな暑い時期にオリンピック?(2017/08/01)
夏の気温対決・沖縄vs茨城!(2015/07/17)