オリエンタレ盆地が見やすいシーズンです2026/05/08

20211128オリエンタレ盆地付近
今年四月に月周回してきたアルテミスII・オリオン宇宙船からの画像でも評判になったオリエンタレ盆地(オリエンタレ・ベイスン)が地球から見えるシーズンが始まっています。とは言え、端にわずかに現れた地形を観察するのはなかなか難しい。そもそもいつ見えるのか分からん、という方も多いでしょう。

前回「見やすいシーズン」とされたのは2021年秋を中心としたプラスマイナス1年間でした。(※3年間ずっとではなく、3年の中の限定された日々のみ。)今回は2027年夏をピークとするプラスマイナス1年間です。後述しますが、リム地形は秤動の関係で地球側を向いたり裏に隠れてしまうのを繰り返すため、いつ、どれくらい地球側を向いてくれるか分かれば見やすい時期が絞れると言うわけ。

そのグラフを記事下A図に示しました。前回も含めご覧ください。図は盆地代表点として、内包する「東の海」のIAU登録座標で計算しています。縦軸は右下図で言うと「観察者・対象地形・月心が作る角P」で、これが90°以上にならなければ観察者には見えません。(※経験的に92〜93°以上にならないと見えた気がしません。)観察者位置が地上ではなくアルテミスIIのような場合でもこの条件は成立します。ゲームプログラミングにおける衝突判定みたいなもの(分かり難い例え…)。また、全く同様に観察者を太陽に置き換えると「照明判定」することもできます。オリエンタレ盆地が“見える”ためには「地球側に向いている」だけでなく「日が当たっている」ことも大事ですからね。

リム地形の見え方判断
グラフの上下は一朔望ごとに繰り返されます。つまり秤動や月距離がどうであれ、ほとんどの朔望内にオリエンタレ盆地が地球側を向く日(90°を越える日)があるのです。ただそのとき満月前だったら光が当たらないから視認できません。地球照を撮れば浮き上がる可能性はあるけれど…。

「観察者からも太陽からも90°以上」という条件を満たしたところがピンクの線。縦軸が大きいほど良く見えることを意味しますので、2021年と2027年に極大があると判断できます。およそ半年ごとに全く見えない時期をはさむのが面白いところ。その時期は盆地が地球を向くとき必ず影になってしまうのです。

下B図は同じグラフの今期だけ大きくしたもの。ピンクの線は今年4月から始まっていて、6・7月に大きくなります。2027年は6・7月ピーク、2028年は8月ピーク。「月世界への招待」サイトで東田さんが発表している予報ともほぼ一致します。下C図は逆に期間を2000年からの50年間に広げたもの。こうすると様々な周期が入り乱れていることが直感的に分かると思います。

  • オリエンタレ盆地の見やすさ

    A.盆地の見やすさ(1)
  • オリエンタレ盆地の見やすさ

    B.盆地の見やすさ(2)
  • オリエンタレ盆地の見やすさ

    C.盆地の見やすさ(3)


リムの動きの周波数解析
興味本位で、図Cのデータを周波数分析したらどうなるだろうとフーリエ解析してみたのが左図。最初なんにも出ないグラフだったのですが、小さな範囲をみてみたらビックリ。私たちがよく見にする周期が出てきました。

ふつう日常で目にする周波数って数十Hzから数万Hz程度ですよね?でも、例えば1朔望月は平均29.5日間隔だから、Hzに直すと29.5日の逆数=29.5×86400秒の逆数になるので、約0.00000039Hzという小さな値なのです。1年周期なんてもっと小さなヘルツです。倍音みたいな成分もグラフに出てますよ。オリエンタレ盆地予報を計算してたのに、面白過ぎる深みにはまりました。

ところで、オリエンタレ盆地中央に広がる「東の海」は東西幅・南北幅ともに10°も広がる大きな地物。その最も東寄りでも西経90°、つまり地球から見て“裏側”にカテゴライズされます。いつも地球に表側を見せ続けている月面は、大雑把に言えば中央子午線からプラスマイナス90°(西経90°〜0°〜東経90°)の範囲しか見えないわけです。でもわずかな首振り運動、つまり秤動によって、裏側の極く一部が見え隠れします。この見え隠れする帯状の範囲を「秤動域」と称することもあります。

秤動には“クセ”みたいのものがあります。天文年鑑を毎年買ったとき、一番始めに秤動図のページをじっくり眺めるのが私の楽しみ。秤動図と言うのは「月面中央の緯度経度変化」を図化したものなので、2026〜2028年のように「左下がり・右上がり」という首振りにならなければ、月面左下・8時の方向にあるオリエンタレ盆地が地球側を向くことは絶対にありません。図を見ればそうしたことをある程度予測できます。

天文年鑑には一ケ月毎のグラフが載ってるけど、じゃあ1年分まとめて描いて、毎年比べたらどうなるだろうとやってみたのが下D・E図。1996年から2043年まであります。どうですか、クセ、分かりますか?意図的に6年ごと改行しています。上下に位置するグラフ同士、そっくりでしょう?目の肥えた方なら、三段下のグラフ同士が更に似ていることも看破できるでしょう。これを反映して図Cには6年周期の大きなうねりが出てますし、周波数分析でも6年と言う周波数が検出されました。

惜しむらくは、今期が「明け方の水平月シーズンではない」こと。オリエンタレ盆地に水平月は関係ないだろう?と思われるかも知れません。しかしながら実際に観察すると、今期のオリエンタレ盆地観察は意外に月が低いと分かるでしょう。明け方の水平月シーズン真っただ中だった前期は、未明の月が高高度に達したところで暗いうちから観察できたため、見やすさ抜群でした。今期ご覧になる方はこの点を注意してくださいね。

実際の観察では、東の海ははっきりしないけど外輪山はよく見えた、といったこともあるでしょう。月面の秤動域観察には非常に奥深い世界が眠っています。ぜひその門をくぐってみましょう。

  • 秤動1996〜2019年

    D.秤動図(1996〜2019年)
  • 秤動2020〜2043年

    E.秤動図(2020〜2043年)


  • 秤動域・東側

    F.秤動域・東側
  • 秤動域・西側

    G.秤動域・西側
【付記:裏側の秤動域は想像以上に見えない】
かなり前から秤動域を可視化できないかとあれこれやっています。自分用にとてもシンプルなものですが今回作った地図を上F・G図として掲載しました。通常の月面座標の原点と月心を通る線を自転軸に置き換え、地球側を南極と見なして計算したものです。こうすると基準月縁が新たな赤道になり、緯度が概ねプラスマイナス10°以内は秤動域になりますね。上図で赤ベルトが地球側の秤動域、青ベルトが裏側の秤動域です。元々の経緯線は緑線で描いてあります。秤動域を一周全てつなげたままだと横長になってしまうため、東側と西側に分けました。直径100km以上のクレーターと海のみ描いてあります。この図は正積図法のため、同じ大きさの丸は実際の面積が同じになります。

秤動域とオリエンタレ盆地
月の北極を12時としてクロックポジションを当てはめると、30°ごとに1時の方向、2時の方向…と12分割できて便利。オリエンタレ盆地は8時の方向ですね。丸い線はIAUが定めた地物直径をそのまま描いたので、実際の地形境界と異なるでしょう。ただ、おおよその敷地面積と近くの地物との位置関係が把握できます。なお地球は有限の距離から月を見ているため、厳密には中央の水平ラインが少しだけ手前(図の下寄り)になります。

オリエンタレ盆地が見やすい時期に観察すると記事冒頭の画像(2021年11月28日明け方撮影)のようになりますが、このときの赤青ベルトをStellariumで正確に再現すると左図のようになります。奥の青の領域が驚くほど狭いですねぇ。この程度でも「非常に見やすい」のです。詳細な観察は小さな望遠鏡では太刀打ちできず、かなり拡大できる良質の光学系が必要だと分かるでしょう。

クロックポジションを定めると、秤動に応じて見やすい時期を予測できるようになります。下に2026年ぶんを掲載しました。そう言えば先週に撮影した5月1日の満月はフンボルト海がとても良く見えていました。下表で1時の方向を調べると見やすい期間に挙げられていますから、ファクトチェックができましたね。こうやって過去に観察した月面の状況確認にも使えますす。もっと長期間の予報はこちらに掲載しました(※別のブログサーバーに移ります)。併せてご利用ください。

【秤動域のクロックポジションと見やすい期間】
2026年
12時3月7日〜3月14日・4月3日〜4月10日・4月30日〜5月8日・5月27日〜6月4日・6月23日〜7月1日・7月20日〜7月28日・8月16日〜8月23日
1時4月1日〜4月2日・4月28日〜5月2日・5月25日〜6月1日・6月21日〜6月29日・7月18日〜7月27日・8月15日〜8月23日・9月14日〜9月19日・10月13日〜10月16日
2時3月31日〜4月2日・4月26日〜5月2日・5月23日〜5月30日・6月19日〜6月27日・7月17日〜7月25日・8月15日〜8月21日・9月14日〜9月17日・10月13日〜10月14日
3時3月2日〜3月3日・3月28日〜3月31日・4月24日〜4月29日・5月21日〜5月27日・6月18日〜6月24日・7月17日〜7月22日・8月15日〜8月18日
4時1月31日〜2月1日・2月27日〜3月1日・3月25日〜3月29日・4月22日〜4月26日・5月20日〜5月24日・6月18日〜6月20日
5時1月1日〜1月4日・1月29日〜2月1日・2月24日〜2月28日・3月23日〜3月27日・4月20日〜4月24日・5月19日〜5月21日
6時5月19日〜1月3日・1月26日〜1月31日・2月22日〜2月27日・9月1日〜9月6日・9月28日〜10月3日・10月26日〜10月30日・11月22日〜11月26日・12月19日〜12月24日
7時6月9日〜6月13日・7月7日〜7月12日・8月3日〜8月9日・8月30日〜9月5日・9月27日〜10月2日・10月26日〜10月29日・11月24日〜11月26日
8時5月11日〜5月14日・6月7日〜6月13日・7月5日〜7月11日・8月2日〜8月8日・8月29日〜9月4日・9月26日〜9月30日・10月26日〜10月28日
9時4月11日〜4月15日・5月9日〜5月14日・6月5日〜6月12日・7月3日〜7月9日・8月1日〜8月5日・8月29日〜9月1日
10時2月13日〜2月15日・3月12日〜3月16日・4月8日〜4月14日・5月6日〜5月13日・6月3日〜6月9日・7月2日〜7月6日
11時1月14日〜1月16日・2月10日〜2月15日・3月9日〜3月16日・4月5日〜4月13日・5月3日〜5月10日・5月31日〜6月6日・6月30日〜7月2日


今日の太陽2026/05/07

20260507太陽
昨夜から今朝は曇り時々小雨。午前中も雲多かったけれど、わずかに日が差したタイミングで太陽観察できました。

20260507太陽リム
左は10:40前の撮影。いつもの1/4程度しかフレーム稼げないまま、再び厚い雲に…。中央上、活動領域14432は中央子午線を越えました。長いダークフィラメントは途切れつつももうすぐ右リムへ。右リムからは細かなプロミネンスがたくさん出てました。

2026年の台風5号が発生2026/05/06

20260506-0600UT台風5号
気象庁によると、昨日5日15時から台風になるかも知れないと告知されていた熱帯低気圧が、本日15時に台風5号「ハグピート/HAGUPIT」になりました。直前の台風4号発生から26日と12時間後の発生、4号消滅から。16日と6時間後の発生になりました。昼間の発生は1号以来ですね。

左画像は5号発生時刻の気象衛星ひまわり画像(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。赤点線円は台風中心の直径1000km円。ナチュラルカラー処理のため、薄水色の雲は活発に上昇した氷粒状態、白やグレイの雲は低層の水粒状態を表します。

気象庁の予報によると5号は15時現在まっすぐ西北西に進んでおり、曲がるそぶりは見せていません。9日までは北緯10度以下の低緯度ですからね、これからどう動くかしっかり見守りましょう。

今日の太陽2026/05/05

20260505太陽
端午の節句&二十四節気の「立夏」となる本日は明け方にぐっと冷えて、朝から透明度の高い青空が広がりました。蒸し暑くて曇っていた昨日とは大違い。明け方までは雲が多くて月も朧でしたが、太陽は良く見えていました。

20260505太陽リム
左は9時ごろの撮影。ところどころに巻雲があって若干の光量変化があったものの、まずまずの像。Hαでは見えませんが左上リムに小黒点を伴った活動領域14434・14435ができました。南半球の14431は間もなく中央。あちこちに小規模プロミネンス。右端には浮いているものもありました。