アルテミス1・オリオン宇宙船はどこを飛んでますか?2022/11/21

アルテミス1・オリオン宇宙船星図1
リフトオフから早や5日。アルテミス計画のオリオン宇宙船はどのあたりを飛行しているのでしょうか?20日時点の最新データを元にいくつか図を描いてみました。

左は月に追いつきつつある20日ごろから24日ごろの様子。明け方の薄明中に登るおとめ座やてんびん座付近が描かれてます。緑線は白道で、黄色文字マーカーは月の位置、水色文字マーカーはオリオン宇宙船の位置、日時はJSTです(以下同様/星図はステラナビゲーター使用)。月は現在明け方に見えていますから、宇宙船の視位置もそのあたりに集中するのは分かりますが、こうして具体的な位置が分かると意識しやすいでしょう。夜明けの写真を撮る際は月と共に宇宙船の位置も含めておくと記念になります。なお図中で月位置が白道から外れるタイミングがあるのは、この星図が地心基準ではなく地表の観測地(茨城県つくば市)基準で描いている影響です。

新月は24日朝ですので、ちょうどさそり座頭部付近に太陽も輝いていることになります。晴れていれば直前23日の日出前、東の超低空に準・水平月が見えると思われ、このときはすでに宇宙船のほうが月より太陽離角が小さく、減速(逆行?)しながら月へ接近するのです。後述しますがこれはいったん月の向こう側へ宇宙船を離し、そのあとギリギリまで接近させて手前側(地球側)へスイングバイさせるコースをとるためです。

下A・B図は続く日々の星図。新月後、夕月が見え始まる頃は宇宙船も追随しますが、見かけ上は最大15°以上離れることもあります。こんなに離れて周回するとは意外でした。周回は満月前の12月6日ごろまで続き、その後帰路につきます。

  • アルテミス1・オリオン宇宙船星図2

    A.オリオン宇宙船星図2
  • アルテミス1・オリオン宇宙船星図3

    B.オリオン宇宙船星図3


では月を中心に考えた場合、オリオン宇宙船はどんな動き方をするのでしょうか?興味が湧いたのでこれも作図しました(下C・D図)。ふたつとも赤道座標系で、図の上方向が天の北方向、原点が月心です。横軸はEast Positiveで、月より赤経が大きいほどプラス値をとり左に離れます。地表の観測地から見たとき月の手前を横切るチャンスがあるかも検証したかったので、これも地心ではなく測心描画にしました(観測地は上星図に同じ)。ちなみに月の視位置は国内なら最大でも月直径の半分程度しかずれませんから、概ね日本のどこに設定しても似た図になるでしょう。

図Cは赤経差プラスマイナス20°・赤緯差プラスマイナス10°の広視野、図Dは図Cの中央を拡大し、各軸ともプラスマイナス2°の狭視野、原点中心に描かれた薄黄色の円は月の大きさです。また宇宙船ルートを大ざっぱに色分けし、水色線は月周回、緑線は月往路、オレンジ線は月復路、月より地球に近い場合は実線、月より遠い場合は点線にしています。

飛行ルートは月に対して次のようになっています。図中の(A)から(F)に対応させ想像してみましょう。

  • (A):地球を飛び立った宇宙船は月へ向かう。
  • (B):いったん月より遠方まで飛んで行く。
  • (C):月に超接近してスイングバイ(→本日21日21時から22時JSTごろ)し、地球側へ。
  • (D):そのまま月の引力に捕まって周回しつつ再度月より遠方へ。
  • (E):ほぼ一周して地球側へ来たタイミングでもう一度月に接近、スイングバイ。
  • (F):月の向こう側を通って帰路へ向かう。

他にも細かなからくりがありそうですが、大枠はこんな感じです。計画上は「月の手前を横切るオリオン宇宙船」という構図が2回ありますね。一回目は(C)フェーズに入った直後のタイミング・本日21日22:55ごろから22日00:15ごろまでですが、残念なことに月は細身だし、日本では月出前なので観察は無理。二回目は(E)の最終段階・12月5日23:55ごろから6日00:40ごろまでで、満月少し前の上に十分な高度もあります。宇宙船そのものが小さすぎてISSのようなシルエットは見えないと思われますが、この時間を狙って月を撮っておくだけでも良い記念になるではありませんか。

アポロ13号のように予定した飛行ルート通りに行かない可能性もありますから、これらの星図が最後まで正しいという保証はできません。しかしながら計画が順調に進み、大きな成果を期待したいものです。

  • アルテミス1・オリオン宇宙船・月心相対位置1

    C.月心相対視位置1
  • アルテミス1・オリオン宇宙船・月心相対位置2

    D.月心相対視位置2


外合後の金星を確認、BlueWalker3も初めてとらえる2022/11/21

20221121金星
昨日から今朝にかけてまとまった雨が降りました。昼には回復したものの雲が多く、太陽観察ができないまま夕方近くになってしまいました。さすがに低すぎるので諦めました。

日没前は低空までよく晴れていたので、金星と水星を探してみました。二惑星は本日21日13:04JSTに約1.274°まで接近しているはず。85mm+APS-Cの画角と沈みかけている太陽を頼りに探すと、金星はすぐ見つかりました(左画像)。でも水星は見えません。左画像では金星の左下、電線の間にいるはずですが、空の明るさとノイズに埋もれてしまってます。もう少し暗くならないとダメみたい。

20221121-0530UT_SOHO
右は太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラが本日とらえた金星と水星。両惑星とも外合を経て東(左)へ動いているので、もうすぐ写野から出てしまいます。最接近に間に合いましたね。

24日から左上画像の写野に月が入ってきます。低空までよく見渡せる場所+天気なら、25日には極細月が二惑星と共に見えるでしょう。月の近くにはもちろんアルテミス1・オリオン宇宙船もいるはずです。

20221121ブルーワーカー3
金星撮影後、日が暮れて1.5時間ほど経ったころ、大型の商業通信衛星として話題となっている「BlueWalker 3」が西空を通過したのでこれも観察してみました。BlueWalker3は今年9月10日にスターリンク相乗りで打ち上げられ、11月14日に太陽電池を兼ねた大型アレイアンテナの展開を終了したばかり。地上から見ると最大光度が国際宇宙ステーションに次いで眩しい可能性があるといわれ、改良を重ねて更に大型化した上で100基以上の衛星コンステレーションを構築する予定とのこと。電波天文学の使用帯域とも重複するため、天文学にとってスターリンク以上に厄介な存在になりそうです。

雲が多い中で撮影したため正確な明るさは分かりませんでしたが、今回はおそらく3等以下程度だと思われました(左画像)。黄色矢印に挟まれたところに軌跡が見えます。12月に入ると高いパスがいくつかあるようですから、様々な位相で撮影してみたいと思います。衛星コンステレーションについては明確な制限が無いままずるずると計画や打ち上げが進んでおり、しかもみんな慣れてしまったためか反対運動などは影を潜めてしまいました。便利になることは認めますが、後になるほど「迷惑だからやめてください」と言えなくなる雰囲気ができてしまってます。