昨夜は正真正銘のスーパームーン2025/11/06

20190220_18194満月
スーパームーンという言葉が乱用され始まって久しいですが、昨夜11月5日の満月は地心距離で104位、測心距離では6位(いずれも1900年からの200年間に起こる計2474回の満月での順位/測心基準は茨城県つくば市)という好成績で、文字通りスーパームーンでした。残念ながら当地・茨城県南部は小雨交じりの空で見ることができませんでした。(左は2019年2月20日4時過ぎの満月。このときの順位は地心67位、測心7位。)

アーカイブ「大きい満月」に掲載してある日時を見ると、上位に来るのは11月から2月頃の満月がほとんどです。また測心基準の比較では、観測位置が月に近い「南中時刻」に集中することも分かりますね。

なぜ冬場に集中するのでしょうか?その前に、「満月と近地点通過とのタイミングが合うのに法則性はあるか」を探ってみましょう。

右下図は今年プラスマイナス10年間すべての満月において、満月瞬時に一番近かった近地点通過時とのずれをグラフ化したもの。横長で見辛くて申し訳有りません。青線がずれ量(日数換算/時刻差は小数に組み込まれる)、また赤線は満月瞬時の地心距離(km)。横軸の日付は全部書くと読めなくなるので、ひとつおきに間引いてあります。

満月瞬時と直近の近地点通過時とのタイミング
青線がゼロに近いほど「満月と近地点通過のタイミングばっちり」ということになります。日付を見ると冬にしか起こらない、といった癖は無く、どの季節でも起こっていますね。ということは、月の近地点を比べると「夏に遠く冬に近い」という変化があることを示唆しています。ひとことで「近地点では月が地球に最も近くなる」といっても、毎近地点ごと同じ距離とは限らないのです。もちろんタイミングぴったりだとしても、たまたま昼間だったら見ることはできません。ですので「測心(観察地)を基準とした比較」という考え方も大事なのです。

国立天文台・暦wiki「近地点と遠地点は平等にならない」を見ていただくと分かりますが、月軌道は太陽引力の影響で季節変化がかなりあります。特に最近距離に影響が大きく現れます。月軌道の方向(近地点や遠地点の方向)も8.85年周期で回転、また地球も近日点(1月始め頃)と遠日点(7月始め頃)がありますので、総合的にみると月が地球に近くなるのは「地球近日点通過日プラスマイナス2ヶ月あたりに満月と近地点通過が離れずに起こるケース」と言うことになるのでしょう。その中でさらに遠近を競うのが元々のスーパームーンの主旨だったと思いますので、「毎年起こる」とか「今年は3回も起こる」なんいてう言い方は胡散臭さしか感じません。

月が地球に近くなることで大きく見えるスーパームーンの裏には、とても複雑な軌道の仕組みが隠されています。「今年一番大きな満月」と「近年稀に見る大きな満月」は明らかに違うでしょう。例えば3年前の2022年7月14日は年間最大でしたが、全満月比較では200位にも登場しない大きさでした。「スーパー」という形容を使い過ぎれば安っぽさばかり目立ち、有り難みを失います。使いどころを考えなければいけないよ、というお話しでした。

名月が決まらない旧暦2033年問題2025/10/06

20240917中秋の名月
星はそれほどではないけど月を眺めるのは好きと言う人が、私の知り合いだけで3人もいます。(いずれも天文が趣味ではない方々。)夜を煌々と照らす月に惹かれる方は、ひとつの街に何人かいらっしゃるのでしょう。「花が好き」「森が好き」というくらい、日本人には当たり前の感性なのかも知れません。個人的には空気が澄んだ秋に何度お月見しても良いと思うのですが、近年は寧ろ星空にどっぷり浸かりたいガチ天文ファンのほうが月を嫌う傾向がありますね。何という悲しい矛盾でしょうか。

それはさておき、2033年に「中秋の名月の日付を決めることができない」という由々しき事態が起こります。「旧暦2033年問題」と呼ばれるものです。中秋の名月だけでなく、2033年の夏から翌2034年春までの旧暦に関係する一切の日取りが一意に定まりません。例えば我が家にある「月刊住職」2016年1月号には「友引が決まらない旧暦二〇三三年問題」と題して冠婚葬祭の現場が大混乱になるかも知れない状況を憂いた解説記事が載っています。今から10年近くも前に取り上げられてるんですよ。単なる天文界の小さな話題ではなくて、神社仏閣や結婚式場など日本人が日頃関わってる界隈でこそ『大問題』になるのです。

伝統的七夕が遅かったことを取り上げた2025年8月29日記事で、旧暦ルールでは「中気が入らない月を閏月にする」決まりなのを紹介しました。このルールで2033・2034年の旧暦を分割すると記事下A・B図のようになります。中気(★マークの二十四節気)を見て行くと、旧暦七夕の月に必ず含まれる「処暑」まではうまく割り振られているけれど、秋分・霜降・小雪・大寒・春分が立て続けに朔(旧暦の月初め)になります。旧7月の翌月から7ヶ月間をまとめると「中気が1つ入る月が2つ、中気が2つ入る月が2つ、中気が入らない月が3つ」になるのです。これのどこに問題があるのでしょうか。

試しに「中気がなければ閏月」を全部適用すると処暑以降は「7月・閏7月・8月・9月・10月・閏10月前半」で2033年が終わり、2034年は「閏10月後半・11月・閏11月」でやっと春分の前まで来ます。おやおや、旧暦では年末に達してないのにもう春…。こんな非現実な月数では困ってしまいますね。

実は旧暦にもうひとつ大事なルールがあって、「春分を含む月は2月、夏至を含む月は5月、秋分を含む月は8月、冬至を含む月は11月とする」というもの。これは閏月の過不足により二至二分が大きくズレないようアンカーの役割を果たします。つまり問題の期間は「どこを8月/11月/2月にするか」「それに伴いどこに閏月を置くか」の決め手がありません。月の番号を飛ばしたり矛盾させることなく割り振らなければ朔望や六曜(大安や仏滅など)も決められないから、そこにぶら下がる各種行事もいつ行えば良いか決められません。これが2033年問題の本質です。現在も残る旧暦の仕組み(天保暦)になってから初めての出来事でした。

現代日本に「公的に旧暦を定める機関」は存在しません。問題発生まで残り10年を切ってしまったのにいまだ解決策は無く混乱したまま。カレンダー業界も戦々恐々。大きくは国立天文台・暦wikiで述べられている三つの案のどれかを採用するしか無さそうですが、どれを採っても何らかの「特別扱い」にならざるを得ません。もう旧暦をすっぱりと無くしていいんじゃないか、といった強硬意見もちらほら。結婚式やお葬式に大安や友引を気にする人は少数派になりつつありますからね。人の世はゆっくり変わるもの。いつかは変化を受け入れてゆかねばならないし、古い格式や作法にいつまでもこだわったって得することもありません。(回顧主義者はメリットデメリットなんて気にしないと思いますが。)

初詣や七五三、十三参りから冠婚葬祭の日取りに至るまで、歴史や宗教的意義、日取りにまつわる深い由緒をきちんと理解して臨むというより、思い出に刻むための家族行事・季節イベントとして向き合う方も多いと思われます。「旧暦は農業に欠かせない」等のイメージがただの都市伝説で、旧暦はとっくの昔に形骸化していることは1981年刊の理科年表読本「こよみと天文・今昔」(著:内田正男氏)でも既に指摘されていました。なれば、これからの人生の節目に対して、多くの人に受け入れられる「旧暦にとらわれない新しい日本文化」を再構築するのも悪くないでしょう。時期を同じくして閏秒廃止も行われるようですから、暦の仕組みを刷新するのに好都合かも知れませんよ。

どの旧暦特別案を採択するかで2033年の名月や翌年の旧正月の日付が変わりますが、別に満月の回数が増えたりしませんから天文ファンは例年と変わらず過ごすことでしょう。公開天文台などでは複数回の名月観賞が催されるかも知れません。天文年鑑や現象カレンダーはどう書くでしょうか?前年から編纂が始まるので、2030年ごろまでには方針を決めなくちゃなりませんね。5年カレンダーや3年日記帳なども発売される時代だから、実際の業界内混乱はそろそろ始まってるのかも。六曜入りのカレンダーは業者によってかなり異なりそう。残り7、8年を生暖かく見守りましょう。

  • 新暦と旧暦の区切り(2033年・仮)

    A.新暦と旧暦の区切り(2033年・仮)
  • 新暦と旧暦の区切り(2034年・仮)

    B.新暦と旧暦の区切り(2034年・仮)


【少しだけ深く…】
大昔から研究改良を重ね使われてきた太陰太陽暦。そのなかで現代日本に細々と残っているのは「天保暦」です。1844年(天保15年)から明治5年の太陽暦導入まで公の暦として使われました。一般に日本で旧暦と言ったら天保暦を指します。(※中国などの旧暦はまた違いますからご注意。)更に厳密に言うと、最新の力学で計算した天体運行は旧暦当時の計算法と少し違うため、同じルールで旧暦計算しても当時の暦を正しく再現したとは言えません。当時の暦再現には計算誤差をひっくるめて考える必要があります。

天保暦より前は二十四節気を日割り分割する平気法が使われていました。これだと15.2日ごとに二十四節気がやってきて分かり易い反面、実際の太陽運行とずれてしまう欠点があります。太陽は近日点で速く、遠日点で遅く動くため、一定距離の移動時間にムラがあるからです。

実物の運行に合わせ天保暦からは定気法(太陽視黄経を24等分する)を導入。でもこれはこれで困ったことが起きます。二十四節気の間隔が14日から16日の間で伸び縮みしますから、一般市民は次の節気が予想しにくい→誰かが正しい計算をして暦を配布する必要あるのです。政府お抱え天文技師の重要度が増したと思われます。江戸時代初期から木版印刷による頒暦が流通するようになったそうですが、旧暦の歴史で大事なことは「朝廷や幕府による暦の一元管理」という点ですね。当時の暦の原本などは国会図書館デジタルアーカイブとして新法暦書新法暦書続編などが残っており、どなたでも閲覧可能です。メチャクチャ面白いのでぜひ解読してみてください。旧暦2033年問題は「地球近日点に近い側(1月初旬を含む前後数ヶ月)では二十四節気の間隔が狭まるため、2節気ぶんの間隔が1朔望月に肉薄して起こった問題」と言い換えることもできるでしょう。


気象衛星に写ったかも知れない皆既月食2025/09/20

20150928気象衛星ひまわり月食(仮想)
知人のterujiさんがご自身のブログで「ひまわり9号による月食が見える可能性は?」と題して考察されています。気象衛星ひまわりの写野にはわずかながら宇宙が写る領域があるため、たまたま月食が写ることはないだろうか、と言うことです。私もだいぶ前に考えつつほったらかしにしていたので、計算してみました。

結論から言うと、あり得ることです。月は3月と9月に「満月かつ赤緯ゼロ付近」の状態になるため、もしこの時期の正午ごろ月食が起こったら「太陽・ひまわり・地球・月」の順にほぼ一直線に並んで、ひまわりからも月食が見えるのです。このとき正確に春分点・秋分点で月食が起こることは滅多にないので、ひまわり撮像のウィークポイント、赤道と両極(宇宙が写る範囲が極端に狭い/右下画像参照)を通る月食は少ないと見なして良いと思われます。

「本影直径1.5°に対して、ひまわりから見た地球は17°もあるから、隠れて見えないのでは?」と思ってしまいそうですよね。でも大丈夫。ひまわりは地表と共に15°/hという高速公転してますから、月が地球背後に隠れるのは最長でも1.5時間程度で済みます。多くの月食は継続時間/経路がそれなりに長いため、「だいたい正午ごろ」起こってくれればひまわりの全球撮像タイミング(毎10分おき)のどこかに引っかかる可能性は大きいでしょう。

ひまわりの撮影スキャンライン
※地球外の階段状部分は宇宙空間/赤道と両極は狭い
今月上旬の皆既月食は赤緯がマイナス7°前後で起こったため気象衛星の撮像幅に入っていますが「日本で見えた=ひまわりの背面で起こった」ので写る道理がありません。もし西経93°の赤道上空にある静止衛星が宇宙をとらえていたら、地球と月食のツーショットになったでしょう。GOES-16が近かったのですが…残念ながら宇宙まで撮ってるのはひまわりだけなんですよね。

ひまわり8号・9号が稼働している2015年七夕から今日まで調べると、2015年9月28日正午頃に皆既月食、2024年9月18日正午頃に浅い部分月食がありました。それぞれの日を詳しく調べると、ギリギリで撮影できてなかったことが分かりました。撮影間隔が10分ではなく、例えば2分だとしたら2015年のチャンスは冒頭画像のように写ったはず。もちろんこれは想像図ですよ(地球画像はNICT、月画像はStellariumによるはめ込み)。ほんの数分ズレていたらなぁ…。見てみたかったですね。ちなみに台湾付近に写ってる台風は21号。

もしひまわり次号以降も赤道上空の同じ場所で観測したとして、残念ながらこの先は良いタイミングが大幅に減ってしまいます。写るかどうか分からないタイミングを待つよりも、別の科学衛星が宇宙から月食を観測したり、アマチュア用のリモート宇宙望遠鏡の実現のほうが早そうですね。

※下画像は2019年3月20日10:50(左半分)と11:10(右半分)にひまわりが撮影した実際の画像。春分近くなので満月に近い状態で地球とのツーショットを実現しています。こういうタイミングで月食だったらとてもカッコいい。(月が見やすいよう輝度と色調を調整してあります。皆既月食の場合は相当暗くなるでしょうね。)

20190320気象衛星からの地球と月ツーショット


参考:
アーカイブ:人工衛星が観た地球
土星と地球のツーショット探しに苦労する(2024/09/01)
金星、地球とのツーショット始まる(2024/08/21)
秋分と金星、太陽、そして地球(2019/09/23)
気象衛星が見た春分満月前の月と地球のツーショット(2019/03/26)
金星が地球の北極側を通過(2017/02/23)

月食中の地球影移動&ターコイズ2025/09/11

20250908月食シミュレート
「月食中の地球影の移動が今ひとつ分からない」「恒星時追尾で月食経過を連射し、比較明合成した地球影は偽物なのか」といった月食関連の質問をいくつか受けたので、分かる範囲でお答えします。

★地球影は変な動きをする
最初から言葉で説明しても分かり辛いので、まずは左のStellariumシミュレーションGIF動画をご覧ください。これは先日の皆既月食を含む、9月7日15:00JST(月出前)から8日12:00JST(月没日)まで、30分ごとの月と本影円・半影円を描いたもの。もちろん地心ではなく地上(日本経緯度原点/東京)から見た見え方です。同じことはステラナビゲーターでも可能です。

背景の恒星が動いていないことから、恒星時追尾すれば月と地球影がこんなふうに動くよ、ということなんですが、一瞬「えっ!?」となりませんか?地球影は見えませんから、こんな奇妙な動きをしてたなんて想像つきませんよねぇ。また、よくよく見ると月も直線状に動いてなくて、緩やかに波打って移動しています。

以前に「ほしぞloveログ」のSamさんが悩んでいらしたように、普通にガイドして合成したら、影が上下左右に移動したぶん「変形した影」を抽出することになってしまうでしょう(→2022年12月14日記事参照)。たまたま変形量が少なくて丸い影っぽく見えることはあっても、それは偶然の産物に過ぎません。特に本影食が月出没に比較的近い今回のようなケースは、順行→逆行または逆行→順行に切り替わるために影移動が遅いので変形が目立ちにくい、というだけの話です。

地球影が動くのは「有限の距離」を見ているからです。影なので実体はありませんが、もし影の中心がピカピカ光る点だったら、その点は地心から見て太陽と反対方向にあり、かつ月と同じ距離にあるという条件を満たします。この仮想点は地球の公転に従って1日に約1°(1年で360°)西から東へ順行します。いっぽう日本にいるみなさんは自転によって東へ猛スピードで回転してますから、地球近傍で動きが遅いものは恒星に対して相対的に西へ逆行して見えます。月程度の距離でも自転に伴う逆行速度が勝ってしまうため、仮想点の順行速度を上回ってしまうのです。

仮想点が東から上るころ逆行が始まり、西へ沈むころ順行に戻りながら、少しずつ公転ぶんを消化してゆくのです。この一連の動きが冒頭のGIF動画に全て入っています。なお月の公転は観測者の自転による逆行よりずっと早い(1ヶ月弱で360°)ため、逆行に屈するすることなく東へ進みます。それでも視点移動に伴う南北の揺れがあって、緩やかに波打って見える、と言うわけです。

もし連射や動画で正確に影を描きたいなら、影の位置を予め計算し、時々刻々と移動する影を追尾するような架台制御を考えてみましょう。今の時代なら「1分ごとにちょっと移動して撮影」と言ったスケジュール撮影機能を駆使すれば実現できそうな気がします。

★ターコイズは青じゃない
かつてブルーベルトと呼ばれた時代もありましたが、すっかりターコイズフリンジに駆逐されてしまいましたね。ブルーが定着せず「トルコ石のような青緑」が流行るとは、よほどのこと。20年近く前にNASAの記事で使われ始めた表現だそうですが、古くて元記事が見つかりませんでした。この縁取りの色は実際に分光観測もされているため、陰謀論やアーティファクト説はまず無いでしょう。私もどちらかと言ったらいまだに懐疑的なのですが、「写ってないから存在しない」「写ったから存在する」などの短絡的な見方がダメなことは分かります。やはりきちんとしたエビデンスの追求が不可欠ですね。

ターコイズは青と違います。絵の具にはターコイズブルーやターコイズグリーンがあって、それぞれ独特の風合いがあります。Webで無理に表現すると、ターコイズブルーターコイズグリーンになります。でも普通ブルーやグリーンは付けず、ターコイズのみでこの系統の色彩群をまとめています。撮影した画像をわざわざこの色に似せる必要はありませんが、青一辺倒じゃないと言うのは実際に眼視観察すると分かります。

20141008皆既月食
大気組成のうち雲が到達できる10kmまでが対流圏、その上の成層圏にあるオゾン層を通過できた光がフリンジの色を作ります。よくオゾン層は紫外線を吸収して生物を守ってると聞きますよね。もう少し具体的に言うと波長300nm以下(紫外線)をほどんど吸収、440-800nm(600nm前後が最も多い)を少しだけ吸収するそうです(理科年表サイト参照)。可視光域では概ね「R:G:B= 1.0 : 1.2 : 1.8」程度の比率で通過して月まで到達するので青緑の縁取りになると言うわけ。この比率だと真っ青にはなり得ません。せいぜいブルーグレイとか浅葱鼠(あさぎねず/伝統色のひとつ)とかです。

「赤を吸収し青だけ通す」といった極端な説明が出回り過ぎてるけれど、そうじゃありません。しかもこの光が届くのは本影の縁の約0.05°角(=3分角→月軌道付近で約400km幅)のみ。そこが全部ターコイズと言うわけではなく、地球影中心に向かってだんだん青が減り、代わりに夕日色や赤銅色が混ざり始めます。だから、太くて青いマーカーで描いたような縁取りになってる画像を見ると、青ばかりにとらわれて階調を削り過ぎちゃってるなぁと残念に思うんです。

双眼鏡や低倍率望遠鏡でじっくり観察すると、確かに影の縁はブルーグレイに感じるんだけど、すぐ内側から広範囲にわたってくすんだ緑や黄緑が結構広がってるなって感じるんです。面積が広いだけに、私には青よりも緑のほうが目に残る。肉眼で見えるのだから色温度なんて関係ありません。色彩強調した写真よりも肉眼のほうが微妙なグラデーションが分かりやすいですね。右上画像は10年以上前、当ブログを始めたころの皆既月食で、何度も何度も実物を見て脳内記憶し、撮った画像を記憶に寄せて再現したもの。NASAの科学者がブルーと表現しなかった気持ちがとても分かりました。

TopoLuno
月食の色再現については様々な観測を元にモデル化が進んでいます。最も優れたサイトのひとつをご紹介しましょう。Abdurrahman ÖZLEMさんのサイトにあるメニューとひとつ「TopoLuno(Topocentric Lunar Simulator)」です。(※説明ページ最下部に実行リンクがあります。)最新の研究を元にwebブラウザ上で月の色などをなるべく正確に再現するもので、月食だけでなく月出没の歪みや色変化など、たくさんのことができます。左は今回の月食を再現した作業中のスクリーンショット。「そうそう、これだよ、これ!」と叫んでしまいそうな再現性ですね。時刻経過に対する露出倍数や、ダンジョンスケールが変わったら(空気の汚れ具合が変わったら)どう見えるのか、と言ったことも再現できます。あくまでシミュレーションであることを理解した上で参考にすると良いでしょう。

このwebアプリの仕組みを学べば、月面から見た地球大気の発光シミュレーションも作れそうな気がします。元々月食に関係ない分野ですが、地球大気を薄いレイヤーの塊と見なし、大気差や蜃気楼現象などをモデル化する研究は随分前から盛んに進められており、私もいくつか論文を読んだことがありました。太陽光を地上観測者で止めず宇宙まで延ばせばいいだけの話なので、理屈上は難しくありません。問題なのは太陽が点光源ではなく面であり、また大気は三次元的に広がるため、微小な屈折光を大気全体・太陽全面について延々と積分しなくてはならない、と言った計算コストの面でしょうか。パソコンで賄えるような規模まで簡略化する必要があるでしょうね。いつか暇になったらやってみたいことです。

【補記】
20220910名月
通常の月面は色が無い世界のように見えます。登りたての満月や沈みかけの三日月が黄色やオレンジに見えるのは大気のせいで、月そのものの色じゃありません。ですが、カラーカメラで月を撮って大気の影響を無くすキャリブレーションをした後、これでもかと言うくらい彩度を上げると様々な色が見えてきます。これは月表面の岩石の色です。

左上画像は2022年9月の名月をノーマル処理したもの(左側)と、彩度アップしたもの(右側)。かつてNASAが月面組成を調べて疑似カラーマッピングし、「ミネラルムーン」と表現したこと(このページを参照)に倣い、2010年台からこうしたカラフルな月面表現をアマチュアもミネラルムーンと呼ぶようになりました。ちなみに皆既中の月はこのミネラル色も含んだ色調になってるんですよね。

flickrなどに素晴らしい天体写真を投稿しているManuel Hussさんなどはミネラルムーンの名手で、単純な彩度アップでは表現できないカラフルで高精細な月面はいつ見ても感動します。ひとつ言えるのは現在のミネラルムーンがNASA画像のような疑似カラーではなくて、本来の色を出そうとしているところ。静かの海は大部分が青っぽく、晴れの海は茶色っぽい。こうした違いはチタン含有量とか、風化の年代を表す指標なので、どんな色や明るさなのかが重要な意味を持つからです。彩度は変えても、意味なく色相は変えないのがミソです。

さて、この事実を踏まえた上で…。

撮影したカラー天体画像の仕上げは大きく二種類の系統に分かれます。ひとつは(1)ありのままを目指すスタンス。もうひとつは(2)科学的にできるだけ本来の色になる補正を施すスタンス。例えば夕日を撮ると太陽は茜色になりますから、(1)の人は夕日の色(見たままの色)を目指すでしょう。でも(2)の人にとって太陽光は色温度(ホワイトバランス)の基準なので、カラーで撮っても色付いてるのはNG、茜色を排除したりフラット補正やら大気差補正をしまくるでしょう。どっちが正しいとか間違いという話ではなくて、何を目指すかで立場ががらっと変わるということ。まじめに取り組むなら、どちらの視点もすごく大事です。

国内でもユーザーが増えてきたPixinsightではSPCCのような機能ができたおかげで「本来の色」にものすごくこだわって仕上げる(2)の人が多くなりました。でも月面画像に関して正確性を追求する方は少ないようです。上で述べたようなターコイズフリンジの表現も千差万別。各々が想像する「私だけのアナタ(ターコイズフリンジ)」になってしまうのはなぜでしょうか?望遠鏡でじっくり見てその通りに仕上げる(1)の人でもなければ、前述ミネラルムーンのような「本当は何色か」にこだわる(2)の人でもない。誰かがやってたから自分も真似てみたっていう方も少なくありません。趣味だからいいんだけどさぁ、月だけ扱いが適当過ぎるのヒドくない?どうして星雲並みにとことんこだわってくれないの?…などと思ったり。月面専用SPCCみたいな機能があったら良いのになぁと夢見ています。