春霞に負けない水星の尾2025/03/15

20250314水星の尾
昨夕は春霞で低空がくすんでいたけれど、かなり低くなった金星と水星を探しました。狙いは「水星のナトリウムの尾」を捕らえることです。一週間前にもトライしましたが、このときは尾が見易い条件に達してなかったため、確認できませんでした。

日没後すぐ金星を頼りに水星を探すと、貧相な姿が見えてきました。周囲が暗くなるのをゆっくり待てるほど高度はありませんが、尾は薄暮中になかなか見えないため、バランスが大事。頃合いを見て30秒×30コマほど撮影。このときPCモニターでは水星本体以外全く見えませんでした。

部屋に戻ってゴリゴリに画像処理すると、驚くほどの見事な尾が!左画像では約25分角の尾が写っており、周囲の恒星も10等近くまで確認できます。空が縞模様になっているのは電線の隙間から撮っているためです。撮影開始時の水星高度は7°、濃い春霞、標高わずか数十メートルの関東平野からの撮影…と言った悪条件オンパレードを加味するなら、とても明るい尾だったのではないかと想像できます。1000m級の山で見たらNaナローバンドフィルター無しで数度の尾が写ったかも知れませんね。

20250314水星の尾の星図
右図は撮影時におけるナトリウムの尾のシミュレーション(計算は自作プログラム/表示はステラナビゲーター)。尾の長さを0.03AUと仮定しています。白い四角は撮影範囲です。長さこそ足りませんが、尾の向きは完全に一致していますね。

今回はタイミングがとても良かったと思います。撮影時で計算すると、TAA(真近点角/True Anomaly Angle)は58.735°。尾が最も明るいとされる65°付近に極めて近かったのです。東方最大離角が3月8日だったのでまだ一週間しか経っていないことも幸いでした。叶わぬ夢だけれど、いつか高い山の透き通るような空でこの尾を見てみたい…。

20250314_18323満月
東を見ると満月が昇ってました。黄砂のような空のくすみ具合で、一面が真黄色です。日本では半影食でしたが、天リフさんによるチリリモートの皆既月食ライブを見なから観測気分に浸ります。

日付が変わる1時間あまり前に満月を撮影(左画像)。月の周りにはスギ花粉による光環が見えました。満月瞬時は過ぎているため、右リムが僅かに欠け始まっていますよ。フンボルト・クレーターチェーンが見えそうでしたが、期待したほどシーイングは良くありませんでした。

先日着陸成功したブルーゴーストからは「地球による日食」が見えたとのこと(記事末追記参照)。行く行くは地上と月面とで「日食月食同時中継」も夢ではなくなるでしょう。長生きしなくちゃね。

【追記:BLUE GHOSTから見た地球による日食】
各種ニュースやtweetでも流れてますが、BLUE GHOSTから見た地球による日食をGIF動画として掲載しておきます(ソースおよびクレジット:Firefly Aerospace)。搭載カメラが広角なので、日食の詳細までは分かりません。ベイリービーズのように見えるのは何でしょうか?地球は大気層があるので、月による日食のようなベイリービーズはできないはず。そもそも月から見た地球視直径は太陽視直径の3.4倍ほどもありますからね。雲の頭頂部などが光っているのかも知れません。

  • 20250314_BLUE GHOSTから見た地球による日食

    A.全体像
  • 20250314_BLUE GHOSTから見た地球による日食

    B.太陽付近の拡大


ところでこの動画を見て違和感を覚えました。太陽が左側からやってくる地球に隠されているような時系列なのです。月から見ると、太陽は約一ヶ月かけて東から西へ天球を一周しますが、地球は秤動の幅しか動きません。ですので、太陽のほうが速く移動し、今回は地球を北から南へ貫きつつ日没へ向かうと思っていたのです。

20250314_BLUE GHOSTから見た地球による日食
BLUE GHOSTからどんな日食が見えるのか、自作プログラムにより14日2時UTから13時UTまで一時間おきにシミュレートしてみたのが右図。BLUE GHOSTのランディング・ポイントは大雑把ながらNASAのこの資料によります。昨日から今日にかけて経度秤動はマイナスへ変化しており、地球から見た危難の海は東の縁へ追いやられる方向へ回っています。逆に危難の海にいるBLUE GHOSTからは地球が西(右)へ向かうように見えるはずなので、図の時系列は合っていると思われます。前述した「左から地球がやって来て…」というのは確かにその通りになってますね。ただ、地球と太陽の速度差がピンときません。

突貫プログラムなので細部が間違っているかも知れませんし、BLUE GHOSTのカメラが正しく水平を保持しているとも思えませんが、時系列はやはり太陽が上(地球の北側)から下へ貫く感じですね。うーむ、動画の順番が逆再生になってる気がします。どなたか詳細をご存知の方がいらっしゃったら教えていただきたいです。

20250314_BLUE GHOSTから見た地球による日食
【追記2】
上記のシミュレートを30分おきの計算図から動画にしてみました。時間と共に地球の北側に太陽が隠れ、右下側へすり抜けてゆくことが分かりますね。

ちなみにニュースやツイートなどで出回っているBLUEGHOST日食画像(ダイヤモンドリング風のもの)は4:30EDT=8:30UTCに撮影されたとのことで、このシミュレートとも一致してます。


久しぶりの水星2025/03/08

20250307_水星の尾
昨夕から夜半前まで薄雲が増えつつも晴れ間がありました。昼間吹いていた強風は徐々に収まってきたものの、天頂近くまでシーイングが乱れまくっていました。

ちょうど夕空に金星と水星が並んでいたので、久しぶりに水星の尾を捉えるべく望遠鏡を向けました。今期の宵側は東方最大離角(本日8日)の後から尾が見やすい時期へ移行する絶好のタイミング(→アーカイブ「水星の尾の見頃」参照)。昨宵時点ではまだ見やすいとは言えませんでしたが、一応撮っておくことにした次第。

金星も拡大撮影する予定だったため焦点距離を長めにした影響か、尾があるのかないのか分かりません(左画像)。あるとすれば方向角60°付近(画像の10時方向)です。強めの処理をするとモヤッと明るいですが、フィルターゴーストとか別の可能性もあります。元々まだ尾が光る時期に入ってないから、この程度でも仕方ありませんね。また晴れたら望遠鏡を向けてみましょう。

20250307_10063月
念のために書くと、水星のナトリウムの尾は常に出ていますが、光って見えるかどうかは太陽との相対速度に依存します。地上から観たとき「太陽から離れている」「高度がある」「光度がある」という三条件が揃う時期と、尾が光る条件というのは全く別の周期。今期は3月9日の週、中ごろまでです。後になるほど尾は輝くけれど、水星の高度や光度がどんどん下がります。ご覧になりたい方はチャンスを逃さないようにしましょう。この後金星も撮ったのですが、あまりのシーイングの酷さでボツ。もう内合が近いため、日没後の撮影は難しいですね。

米国月面探査機「Blue Ghost」に続いて7日2:30JSTごろ月面南極域に着陸したIntuitive Machines社の民間探査機「Athena」でしたが、ファーストミッションに続きまたも横転してしまい、太陽発電がままならず電池切れでミッション終了が告げられました。失敗は残念ですが、ここから多くを学んで欲しいものです。

昨夜の月に望遠鏡を向けると、あまりの悪シーイングに具合が悪くなるほどでした。一応撮ってみたもののうまくスタックしてくれません。偽模様だらけで不完全ですが右に掲載します。7日21:40頃の撮影で、太陽黄経差は約100.63°、撮影高度は約49.02°、月齢は7.49。見ごろを過ぎて明るくなったけれど月面X&LOVE地形が確認できます。画像下側・欠け際ギリギリにAthenaの着陸地点も写っていますよ。

14日の満月は南北アメリカを中心に月食が見られます。日本は北海道や東日本の一部で月出帯食(部分食の最後)となります。また19時JSTごろまでは全国的に半影食の状態が続いています。薄暮のころ昇った月を見ると上側(本影に近い側)が少し暗く感じるかも知れません。晴れたら観察してみましょう。

Blue Ghostが着陸した昨夕の月2025/03/03

20250302_03223月
日本の月面探査ミッションであるispace「HAKUTO-R」のRESILIENCEと共に打ち上げられた米国月面探査機「Blue Ghost」が昨夕3月2日17:34JSTごろ危難の海への着陸に成功しました。

一昨日の月・水星接近は雲だらけで見えず、昨日も一日雲が多くて夕方の天気は絶望的でした。ところが不思議なことに日没ごろから急速に雲が引き、30分ほどの晴れ間がやって来たのです。実機の着陸と地上からの月面撮影を同時に行える機会なんて滅多にないでしょう。Blue Ghost着陸シーケンスをYoutube配信で見ながら、空に見えてきた月と金星を撮影(下A画像)。その時はまだ空が明るくて微かだったけれど、30分ほど経つうちに美しい天体の並びが見えました(下B画像)。ただ、再び雲に覆われ始めたのでバタバタした観察になってしまいました。

ちなみにこのスナップは85mm+APS-Cの小さな拡大率ですが、原寸では金星が三日月状になっていることが分かります(右下画像)。以前の記事に書きましたが、本日3日は金星と月が同位相になる瞬間が訪れます(→2022年2月25日記事参照)。その次(3月28日)はもう明けの明星になりますから、今期夕方の同位相は今回が最後です。

20250302金星
左上の拡大画像は2日18:00頃の撮影で、太陽黄経差は約32.23°、撮影高度は約25.20°、月齢は2.34。危難の海は中央上寄り、何本かリッジのあるつるっとしたところです。この中ほどにあるごく小さなラトレイユ山(→詳細は「月世界への招待」サイトの東田さんによる撮影日記をどうぞ)の近くに着陸したようです。左画像撮影時でラトレイユ山から見た太陽高度を計算すると約3.73°でしたから、本当に欠け際ぎりぎりに着陸したことが分かりますね。ライブ配信を見ていても、周囲の地形に影が多かったです。

この後は全天が曇ってしまったので本当にラッキーでした。探査機はこれから約半月、太陽が沈むまでの間に色々な探査をするのでしょう。どんなことが分かるでしょうか。また、今回二度目の挑戦となるHAKUTO-Rは低エネルギー遷移軌道による省エネ飛行で時間をかけて月へ向かっており、今年初夏(5月下旬-6月上旬のどこか)に月着陸に挑みます。これも楽しみですね。

  • 20250302月と金星

    A.2日17:35ごろ
  • 20250302月と金星

    B.2日18:11ごろ


【追記】
今年から2031年夏まで「月と金星が相似形になる日はいつか?」という計算をしました。前出2022年2月25日記事表の延長です。位相角が同じなら輝面比も同じになり、「形が相似」と言えます。下表日時プラスマイナス6時間程度以内で両天体が同時に見える時間帯なら「ほぼ同じ形」として一緒に観察可能でしょう。

【月と金星の位相が一致する日時・2025-2031年8月内合まで】
日時(JST)位相角輝面比
2025-01-07 13:5787.1313°52.5024°
2025-02-04 10:36106.4851°35.8117°
2025-03-03 10:25138.1947°12.7293°
2025-03-28 16:35163.9893°1.9395°
2025-04-24 02:05123.0522°22.7298°
2025-05-21 12:0997.8183°43.1984°
2025-06-18 11:1080.7238°58.0597°
2026-07-22 21:0578.1466°60.2704°
2026-08-20 02:0794.3053°46.2464°
2026-09-16 19:14116.5862°27.6228°
2026-10-13 05:15153.8025°5.1361°
2026-11-07 04:34150.9104°6.3070°
2026-12-03 14:54114.0644°29.6118°
2026-12-31 08:3092.0960°48.1713°
2027-01-28 16:4076.5473°61.6322°
2028-03-05 15:3778.6717°59.8215°
2028-04-02 16:5295.8612°44.8940°
2028-04-30 00:45121.2068°24.0936°
2028-05-25 22:16164.6234°1.7898°
2028-06-20 04:37142.5316°10.3156°
2028-07-16 21:56108.7940°33.8917°
2028-08-13 17:2888.2725°51.5073°
2029-10-15 07:5383.9053°55.3086°
2029-11-12 11:04101.0265°40.4369°
2029-12-09 21:22128.0093°19.2105°
2030-01-04 23:52172.9661°0.3763°
2030-01-30 10:45133.4218°15.6318°
2030-02-26 13:23104.1390°37.7862°
2030-03-26 11:1685.7907°53.6700°
2031-05-30 00:2087.9399°51.7974°
2031-06-26 18:18108.7333°33.9418°
2031-07-23 09:41141.3904°10.9292°

  • 自作プログラムによる計算です。
  • 位相角と輝面比は地心位置に基づきます。
  • 位相角/輝面比の一致だけでなく、光っている向きも考慮しています。


奇跡的に見えたスノームーン2025/02/13

20250212_18006月
昨日は午後から天気が悪化する予報だったのに、夕方の時点ではほぼ快晴でした。少し風が残り、西から雨雲が近づいているものの、なんとか満月までは持つかも知れない。そう踏んで準備だけしておきました。

満月瞬時は12日22:53:24ごろ。薄雲が流れていたけれど何とか快晴。月も南中を迎えつつあり、とてもありがたいタイミング。晴れが持っている30分前にも保険で撮影しておき、満月瞬時にも本番撮影。12日23:01頃の撮影で、太陽黄経差は約180.06°、撮影高度は約66.16°、月齢は14.06。(※瞬時の少し前から撮影開始してますが、モザイクなので中間時刻を書いています。)像は30分前のほうが良く、明らかに上空が悪化しているようでした。どちらにしてもひと晩前よりかなり酷いので五十歩百歩です。撮影中からたびたび薄雲が横切り、飛行機雲も消えません。撮影の2時間後には雨がぱらつきました。本当に間一髪のスノームーン・ハントでした。

今回の満月は南側が欠けてますね。前夜は素晴らしい眺めだったバイイが全部照らされて、周囲に溶け込んでしまいました。北東リムのフンボルト海が見え出したから、秤動の変化が分かりやすい。縁の海やスミス海はまだ見やすい感じ。反対のオリエンタレ盆地付近はまだ兆しも感じられず…。この辺が楽しめるのは夏前ごろからでしょうか。8月や10月の満月前は盆地の外輪山と日照のタイミングがバッチリなのでお勧めです。

早朝に起きて西空を見ると、煌々と街を照らしていた月が西に低くなっていて、薄明と共に現れたビーナスベルトにちょこんと乗ったまま沈もうとしていました(下A画像)。運良く薄明光線が見えており、集中線のような光線の集合場所が太陽と正反対と分かるので、満月位置との比較ができますね(→2024年9月18日記事参照)。ビーナスベルト上部に接していると言うことは、もう地球影から外れて東に移動してると言うことです。

今年の地球影と満月期の位置関係を下B図に掲載しておきます。これを見ると、A画像の月は地球影の北側(画像右上方向)を経て東側へ抜けたわけですね。また3月と9月の満月は月食になることも分かるでしょう。どちらも皆既月食ですが、3月の満月瞬時は昼間ですから残念ながら日本では月食が見えません。いっぽう9月は全過程が見え、しかも最後は半影食のままビーナスベルト内に沈んでゆくオマケ付き。超低空ですが、ぜひ月没の瞬間までたっぷりお楽しみください。

  • 20250213ビーナスベルトに月没

    A.13日明け方のビーナスベルトと満月
  • 2025年・地球影と満月位置

    B.2025年・地球影と満月期の位置関係


20250212月を横切る飛行機
【おまけ】
撮影中に飛行機が横切りました。画面を見ていてビックリ…。成田や羽田が比較的近いため、こういうことはしょっちゅうです。