新・月探査時代、アルテミス計画の第一歩2022/11/17

20221117_27221月
下弦の月が輝く日、アポロ計画から60年ぶりの有人月探査「アルテミス計画」の第一歩となるロケットが打ち上げられました。幼少期にアポロの中継をテレビで見た記憶がぼんやり残る世代として感慨深いものがあります。

左は本日17日3時過ぎに撮影した月。太陽黄経差は約272.21°、撮影高度は約49.01°、月齢22.31。夜半まで通り雨が降る天気でしたが、明け方にかけて透明度のよい月夜になってくれました。欠け際に光り残るアペニン山脈。うっすら見える直線壁。下弦側の月面N地形も見えてきました。夜に飲まれるマギヌス。バイイも見えてきたし、オリエンタレ盆地のへこみも感じられます。いずれも印象深いものばかり。

今回打ち上げられたArtemis-1…正確にはSLSロケット+オリオン宇宙船は無人であり、代わりに無人探査機などを積み込んでいます。アポロ時代のように単純な月面往復だけではなく、様々な目的を抱き合わせた先駆的な複合ミッションを想定し、更には補給所建造や、そこから火星へ向かう計画まで見込んでいるとのこと。今回だけでも行き帰りとも複雑な軌道を辿るようで、とても楽しみですね。

地球に近い位置なら望遠鏡でとらえることができないだろうかと考え、昨日打ち上げ中継を見ながらサイトを辿ってみました。(その過程で天リフさんが少し前に特集記事を組んでたことを知りました。ううっ、見逃してた…。)度重なる打ち上げ延期のためかアルテミスのサイト情報は少し混乱しているように感じましたが、片隅に11月打ち上げの場合の位置情報(地心基準のXYZ座標)がこっそり載っているのを探し当て、日本から空のどこに見えるか計算するプログラムを1時間ほどかけて作りました。ただ、このデータ自体は少し前に生成された「予定」であり、昨日の打ち上げが少し遅れた事などは考慮されてないため、そのままじゃダメなのでは、という懸念もあります。打ち上げ後も更新されなかったため、どうしようか不安に駆られていました。

アルテミスの視位置
こういうとき役に立ってくれるのがJPL-HORIZONSです。打ち上げ前の探査機がHORIZONSに載ることはありませんが、打ち上げ後しばらく経つときちんと反映してくれるのです。夜中になってArtemis-1が選択できるようになり、正確な位置情報を手にすることができました。やはり前述のプログラム計算値とは少し異なっていました。

右図は打ち上げ後から地球に戻る直前までほぼ全行程のアルテミス視位置(ステラナビゲーター使用)。日付マーカーは0:00JSTの位置です。視点は当ブログ基準の茨城県つくば市に設定しましたが、日本のどこから見てもだいたい一緒です。緑線は「白道」で、アルテミスが月へ向かっていることがよく分かりますね。1日周期で小さく波打っているのは自転を伴う地表から観察してる影響。もちろん探査機が月を周回する影響も含まれるでしょう。行きと帰りがイレギュラーな軌道を取るので、面白いルートになっています。※いちおう「人工衛星」ではありますが、TLEで表現できない軌道ですから、ステラナビゲーターへの衛星登録はできません。

あまり明るくないとは思いますが、仮に撮影できるとしても打ち上げ直後か帰還直前しかありません。月に行ってしまったら小さなボディはアマチュアの望遠鏡じゃ見えないでしょう。残念なことに24日が新月、30日が上弦ですから、月面の光る面積が少ないシーズンに相当し、「月を横切るアルテミス」が見える可能性も少なそうです。(第一そこまで大きくありません。地球近くを周回する暗めの人工衛星月面通過なら比較的大きいため撮影は簡単なのですが…(撮影例1 撮影例2)。)そこで、今朝方さっそく撮影に挑戦しました。正確な位置を入手してからわずか数時間の猶予しかありませんでした。

20221117アルテミス位置付近
HORIZONSが正しければ明け方4時台におとめ座といっしょに登ってくるはず。アルテミスのお母さんとも言われるデーメーテール(=おとめ座との説が強い)とツーショットなんてエモい!慎重に位置を特定し、高感度短時間露光で撮影してみました。短時間と言っても高速フライバイや超接近小惑星ほどではないため、30秒間隔です。ですが仕上げてみるとそれらしい像は見当たりません。約20分おき・三つの時間帯に分けて撮影したけれど、いずれも同様でした。とても暗かったか、あるいは位置がズレていたか…。いずれにしても失敗ですが、結果がどうであれ、自分の頭と身体を精いっぱい使ってチャレンジしてみることが大事です。

アルテミス計画はこれからたくさんの困難なステージを乗り越え、進められることでしょう。その時々にどんな月が頭上を飾っていたか記録してゆくと、良い思い出になるかも知れません。受け身で情報を浴びるのではなく、タイミングを見計らいつつ自身をフル活用し切り開いてこその人生です。

【2022.11.19追記】
写らなかった根本原因が分かりました。結論から言うと撮影位置が約1°ほどずれていたのです。本日HORIZONSからあらためて位置データを取得して精査したところ、撮影日に使用したデータと少し異なっていたのです。どうやら初期(打ち上げ7時間後頃)に公開されていたものが打ち上げ直前に設定された「補正前」のデータのようでした。仮に自身の機材が写せるスペックだったとしても、間違った位置では写らないのも当然です。

現在公開されているものは補正済みの正しい位置を算出してくれるようです。ただし今後運行トラブルなどが起こって軌道修正される可能性はゼロではありません。位置情報はできるだけ直前に再取得して確認すると良いですね。



今日の太陽2022/11/17

20221117太陽
朝のうち少し雲が出たけれど、すぐ快晴に。ところが昼からはどんよりです。

20221117太陽リム
左は10:10過ぎの太陽。一昨日頃から見え始まっていた左やや下の黒点周囲は活動領域13147、また先行していた微小黒点周囲は13148と採番されました。大きな黒点たちはプラージュを光らせながら右上に消えつつあります。南半球の長いダークフィラメントは切れてしまったかな…?左下からも長いプロミネンス+フィラメントが入ってきましたね。