100点満点の皆既月食&天王星掩蔽でした ― 2022/11/09
昨晩は好天に恵まれ、皆既月食と天王星の掩蔽の過程を途切れることなく楽しむことができました。二台の望遠鏡を駆使して撮影&電子観望しつつ、肉眼や双眼鏡でも観察しました。気温が大幅に下降したため途中でピントチェックに苦労したこと以外は文句の付けようがない条件の良い現象進行でした。自分が行った観察や調べたこと、考察などを当記事に記録しておきます。
上画像は今回の月食を10分おきに撮影したものから地球影の様子を浮かび上がらせたもの。19:00から21:00の撮影で、19:10と20:50は省いてあります。月食のたび、このような合成画像を目にすることがあるでしょう。影の中の色や月が地球影のどこを通ったかなど一目瞭然ですね。当ブログでは2014年10月8日の皆既月食や2018年1月31日の皆既月食でも似たような画像を掲載しています。各々の月面画像は個別に撮影し、あとで適切に配置して全体を作り上げる手法を使っています。
もしみなさんがこのような画像を作ろうとしたとき、位置決めをどのようにするでしょうか?例えば画像ごとに月座標を調べて配置する?あるいはシミュレーションソフトで撮影時間の月食星図を描き、それを下絵にして位置決めする?フィルムや印画紙時代から同様のことを試みた諸先輩だったら、カメラの多重露出機能を使ったり、地球影に相当する円をコンパスで描いて、それに沿って適当に切り張りしたご経験があるかも知れませんね。
実は座標やシミュレーションソフトによる配置は、正確なようでいながら間違った地球影をあぶり出してしまいます。上画像全体をカバーできるレンズを用意し、撮影範囲を固定したまま恒星時追尾して撮影しても同様です。月食中の月は移動しますから、該当位置に並んでいれば良さそうに思えるし、実際にそうして地球の影らしき輪郭も出てくるでしょう。ですがこの考えは「地球の影は移動しない」という前提でない限り通用しません。そう、月食中だって地球は公転を続けてますから、当然、影のほうも移動してるんです。(神経質なことを言うと、影の直径だって少しずつ変わります。)
右図は座標(地心視赤経赤緯)にそって並べた場合と、地球影(本影や半影)の移動まで考慮して並べた場合とでどれくらい違うか、今回の月食について計算したもの。赤や青の小さなドットが10分おきの月中心位置で、食最大時の地球影位置を原点としてあります。部分食開始・終了まで含めると、およそ画像ひとつくらいずれてしまうことが分かるでしょう。座標やシミュレーションソフトをよりどころとする配置だけでは、地球影が間延びしてしまうのです。(※本来は天球が球面なので、こうした直交座標での配置にも図法的歪みがあります。これは取り除くとができません。)一番現実的なのは地球影(本影・半影)が表示できるソフトで撮影時の月も一緒に表示させ、全部の地球影中心を一致させた下絵を作り、それに合わせて配置する方法です(ステラナビゲーターの近年のバージョンでは「地球の影の追尾」モードで自動補正が可能)。ただしこれも地球影を一致させるのに画像を動かすと図法的な歪みの異なるもの同士を重ねることになるため、結局なにを基準にコンポジットしているのかますます不明確ですね。
左画像は最初の画像に加え、部分食の時間帯・18:00から22:00まで10分おきの撮影まで加えた地球影の抽出・最終版。ここまで並べると圧巻です。ただ、質感をキープするのに縮小しないまま配置した原画が24000px×16000pxというとんでもない大きさになり、苦労しました。月食で見える地球の影はこの画像の通り境界がはっきりしませんから、座標補正の違いは言われないと気付けないかも知れません。
私も以前は地球影移動を補正せず、月位置のみでの並べ方をしていたのですが、どうしてもこの違いが気になっていました。素人目に気付けない些細なことでも、こういったこだわりは大切です。誤差を知りつつも解決策がなく従来通り行うことと、誤差の存在を知らないまま行うこととは天と地ほど違います。地球影の移動は太陽位置を調べればすぐ分かりますから、気になった方は計算してみてください。いつか、半影食も含めた更に高精細で完璧な画像を仕上げてみたいものです。
今回は月食中に天王星が掩蔽されるという、大忙し必至のブッキングでした。左は8日20:33ごろの撮影で、皆既のピークから30分あまり過ぎ、天王星掩蔽まで残り10分に迫った様子。画像上方向が天の北にあわせてあります。月の左上がほのかに青緑色を帯びていますが、これは俗に言う「ターコイズ・フリンジ」の影響。強い青に染まってる月食画像も見かけますが、それはカメラ内蔵の画像処理エンジンが強調してしまったせいで、本来のターコイズ・フリンジではありませんからご注意。月の左側、青緑の輝星が天王星。天王星と皆既中の月とどちらが面輝度が明るいか事前に分からなかったのですが、予想に反して天王星のほうがかなり明るかったです。今回はとにかく色の対比が美しいですね。
右は左上画像から約1時間後の撮影。掩蔽から復帰し、月から次第に離れつつある天王星の大きさが感じられるように写し取ってみました。丸い点に過ぎませんが、明らかに恒星像とは異なる見た目がとても面白いのです。事前に撮り慣れていたおかげで、天王星の明るさと月食面の明るさの両立が可能になりました。練習は十分にしておくものです。地球影の縁近くがターコイズフリンジの影響と思われる青緑に近い発色になっています。
下A・B画像は天王星が月に掩蔽される様子を強拡大撮影したもの。(全体の風景や月周囲の広角撮影は行わず、天王星掩蔽を中心に拡大撮影に挑みました。)Aは掩蔽開始の瞬間、Bは完全に消えるまでのGIF動画(クリックで閲覧可能)で、およそ100倍速になっています。天王星が消えていったのは一日前の月画像に写っているラグランジュやピアッツィ・クレーター付近。アルベドの低い暗い地形を照らし合わせると分かります。また出現はデモナックス、ヘール、ノイマイヤーがある辺りです。一番苦労したのが「天王星が隠れてる間、いかに望遠鏡の方向をキープするか」ということ。天王星は惑星なので恒星時運転に対して動きますが、赤道儀には天王星追尾モードなどありませんし、自動導入も強拡大写野へ一発導入できるほどの精度はありません。ずれないようにするのに知恵を絞りました。
モニター越しですが、天王星と月面が接触する付近で両者が同化するかのように見えた瞬間がありました。もちろん月には地球のような濃い大気層がありませんから(月の)大気屈折や蜃気楼のようなことは起きるはずありませんが、私たちはこれらの現象を(地球の)大気越し・望遠鏡越しに観察していますから、いわゆるブラック・ドロップ効果に近いことが起きる可能性はあるでしょう。
今回の現象を紹介した記事やニュースを何十件も読みましたが、ほぼ100%「天王星食」あるいは「惑星食」と書いてありました。「月食」と「惑星食」のどちらも「食」と表現されていますが、全く違う現象です。別天体の影に隠される現象が「食/eclipse」、別天体そのものが隠す現象は「掩蔽/occultation」(参考:国立天文台・暦Wiki)。日本語の「惑星食」は昔から慣例的に使われているに過ぎません。残念ながらこのことにきちんと言及しているニュースはひとつも見かけませんでした。間違いではなくとも、特に科学系サイトや解説ニュースではひとこと説明して欲しいところです。
2022年11月8日記事の囲み欄で、皆既月食に向かう月は南極域・北極域ともにバランスよく地形の影が見えることを示しました。では月食を終えた直後の満月ではどうでしょうか?
皆既中は太陽・地球・月がほぼ一直線に並びますが、月が地球影中心を通らない限り完全に直線と言う訳ではありません。ただ、月表面がとても暗くなってますので地形の影の有無確認は難しいでしょう。ここでは半影食まで終わった8日23時過ぎに撮影した月をご覧ください(左画像)。どうですか、影のある地形は見つかりましたか?
北極域はつるつるに見えます。ですが、右上のフンボルト海から右回りにリムを見ると、特に右下を中心にわずかな影が出始まっていることが分かるでしょう。皆既食最大時からわすが3時間で、もう影ができるんですね。画像撮影時の太陽黄経差は約181.53°、地心位相角(地心・月心・日心がなす角)は約1.576°でした。
ではもっと遡って、部分食は終わったがまだ半影食中である22時ならどうでしょう?それが右画像。右下部分が少し暗く、まだ半影中であることを物語っています。左上の23時画像でいちばんはっきり影が分かるキュリー・クレーターを見てみましょう。暗いから思いっきり明るくしてコントラストを付けると、インサート画像の通り、しっかり影ができていることが確認できますね。位相角が1°を超えてくる辺りからもう影ができそうだと予想できます。
これらの事実は「リムぎりぎりの地形を楽しみたい」「月面の裏側をできるだけ広範囲に観察したい」というニッチな要望に有用な知見となるでしょう。月食が終わった後でもこうした様々な観察テーマを探すことができるんですよ。
今回は皆既月食と惑星掩蔽の二大イベントが同時に起こると言うことで、何百年ぶりの…とか、次は何百年後…とか煽るようなキャッチコピーがたくさん見受けられました。滅多にない貴重さなのは間違いありませんが、「見逃すと次は無い」という言い方では悪天に見舞われた地方の方が希望を無くしますし、人は何百年も生きられません。次の月食や惑星掩蔽の予告くらい紹介しないのは不親切に感じました。
月の軌道(白道)は黄道に対して5°あまり傾いた面ですが、固定されているのではなく年々移動しています。2022年2月17日記事内に右図を掲載しました。これがまさに月軌道がずれてゆく様子そのものです。いっぽう各惑星は概ね黄道に沿った場所に分布し、かつ各惑星ごとに公転し、日々ゆっくり移動します。水星・金星・火星以外は移動が大きくありませんし、どの惑星よりも月のほうが圧倒的に速く移動するため、いったん月軌道が惑星に近くなったら「まとまった期間に同じ惑星が連続して掩蔽される」という傾向があるのです。
今回は日本から天王星の掩蔽が見えました。では2022年に「世界のどこかで天王星掩蔽が見えた回数」をご存知ですか?なんと12回もあったんですよ!最初が2月8日、最後は12月6日。来年にかけては火星掩蔽が5回、木星が4回、天王星もまだ続いてて3回、海王星が3回起こります。そういえば毎月のように「今夜は月と木星が接近」などとささやかなニュースが流れますが、掩蔽とは究極の接近なのです。惑星が掩蔽されるのは(世界規模で考えたら)さほど珍しくはないんです。
月食も惑星掩蔽も世界中でそれなりに起こっているけれど、「日本で見えるかどうか」「見やすいかどうか」ということはまた別問題。私たちが手軽に行き来できる陸域は限られますからね。下表に月食と惑星掩蔽の予報(2035年まで)を掲載しました。見やすいものがあったらぜひ観察計画してください。なお下表は日本経緯度原点(東京)で見える条件でセレクトしています。月食は月が見えれば観察場所の制限はありませんが、惑星掩蔽は東京で起こらないけれど地方では起こる、といったケースもあります。見逃さないよう、天文情報誌やサイトを入念に調べてみてください。
★月食経過画像から地球影を作る
上画像は今回の月食を10分おきに撮影したものから地球影の様子を浮かび上がらせたもの。19:00から21:00の撮影で、19:10と20:50は省いてあります。月食のたび、このような合成画像を目にすることがあるでしょう。影の中の色や月が地球影のどこを通ったかなど一目瞭然ですね。当ブログでは2014年10月8日の皆既月食や2018年1月31日の皆既月食でも似たような画像を掲載しています。各々の月面画像は個別に撮影し、あとで適切に配置して全体を作り上げる手法を使っています。
もしみなさんがこのような画像を作ろうとしたとき、位置決めをどのようにするでしょうか?例えば画像ごとに月座標を調べて配置する?あるいはシミュレーションソフトで撮影時間の月食星図を描き、それを下絵にして位置決めする?フィルムや印画紙時代から同様のことを試みた諸先輩だったら、カメラの多重露出機能を使ったり、地球影に相当する円をコンパスで描いて、それに沿って適当に切り張りしたご経験があるかも知れませんね。
実は座標やシミュレーションソフトによる配置は、正確なようでいながら間違った地球影をあぶり出してしまいます。上画像全体をカバーできるレンズを用意し、撮影範囲を固定したまま恒星時追尾して撮影しても同様です。月食中の月は移動しますから、該当位置に並んでいれば良さそうに思えるし、実際にそうして地球の影らしき輪郭も出てくるでしょう。ですがこの考えは「地球の影は移動しない」という前提でない限り通用しません。そう、月食中だって地球は公転を続けてますから、当然、影のほうも移動してるんです。(神経質なことを言うと、影の直径だって少しずつ変わります。)
右図は座標(地心視赤経赤緯)にそって並べた場合と、地球影(本影や半影)の移動まで考慮して並べた場合とでどれくらい違うか、今回の月食について計算したもの。赤や青の小さなドットが10分おきの月中心位置で、食最大時の地球影位置を原点としてあります。部分食開始・終了まで含めると、およそ画像ひとつくらいずれてしまうことが分かるでしょう。座標やシミュレーションソフトをよりどころとする配置だけでは、地球影が間延びしてしまうのです。(※本来は天球が球面なので、こうした直交座標での配置にも図法的歪みがあります。これは取り除くとができません。)一番現実的なのは地球影(本影・半影)が表示できるソフトで撮影時の月も一緒に表示させ、全部の地球影中心を一致させた下絵を作り、それに合わせて配置する方法です(ステラナビゲーターの近年のバージョンでは「地球の影の追尾」モードで自動補正が可能)。ただしこれも地球影を一致させるのに画像を動かすと図法的な歪みの異なるもの同士を重ねることになるため、結局なにを基準にコンポジットしているのかますます不明確ですね。
左画像は最初の画像に加え、部分食の時間帯・18:00から22:00まで10分おきの撮影まで加えた地球影の抽出・最終版。ここまで並べると圧巻です。ただ、質感をキープするのに縮小しないまま配置した原画が24000px×16000pxというとんでもない大きさになり、苦労しました。月食で見える地球の影はこの画像の通り境界がはっきりしませんから、座標補正の違いは言われないと気付けないかも知れません。
私も以前は地球影移動を補正せず、月位置のみでの並べ方をしていたのですが、どうしてもこの違いが気になっていました。素人目に気付けない些細なことでも、こういったこだわりは大切です。誤差を知りつつも解決策がなく従来通り行うことと、誤差の存在を知らないまま行うこととは天と地ほど違います。地球影の移動は太陽位置を調べればすぐ分かりますから、気になった方は計算してみてください。いつか、半影食も含めた更に高精細で完璧な画像を仕上げてみたいものです。
★月食中の天王星を見たい
今回は月食中に天王星が掩蔽されるという、大忙し必至のブッキングでした。左は8日20:33ごろの撮影で、皆既のピークから30分あまり過ぎ、天王星掩蔽まで残り10分に迫った様子。画像上方向が天の北にあわせてあります。月の左上がほのかに青緑色を帯びていますが、これは俗に言う「ターコイズ・フリンジ」の影響。強い青に染まってる月食画像も見かけますが、それはカメラ内蔵の画像処理エンジンが強調してしまったせいで、本来のターコイズ・フリンジではありませんからご注意。月の左側、青緑の輝星が天王星。天王星と皆既中の月とどちらが面輝度が明るいか事前に分からなかったのですが、予想に反して天王星のほうがかなり明るかったです。今回はとにかく色の対比が美しいですね。
右は左上画像から約1時間後の撮影。掩蔽から復帰し、月から次第に離れつつある天王星の大きさが感じられるように写し取ってみました。丸い点に過ぎませんが、明らかに恒星像とは異なる見た目がとても面白いのです。事前に撮り慣れていたおかげで、天王星の明るさと月食面の明るさの両立が可能になりました。練習は十分にしておくものです。地球影の縁近くがターコイズフリンジの影響と思われる青緑に近い発色になっています。
下A・B画像は天王星が月に掩蔽される様子を強拡大撮影したもの。(全体の風景や月周囲の広角撮影は行わず、天王星掩蔽を中心に拡大撮影に挑みました。)Aは掩蔽開始の瞬間、Bは完全に消えるまでのGIF動画(クリックで閲覧可能)で、およそ100倍速になっています。天王星が消えていったのは一日前の月画像に写っているラグランジュやピアッツィ・クレーター付近。アルベドの低い暗い地形を照らし合わせると分かります。また出現はデモナックス、ヘール、ノイマイヤーがある辺りです。一番苦労したのが「天王星が隠れてる間、いかに望遠鏡の方向をキープするか」ということ。天王星は惑星なので恒星時運転に対して動きますが、赤道儀には天王星追尾モードなどありませんし、自動導入も強拡大写野へ一発導入できるほどの精度はありません。ずれないようにするのに知恵を絞りました。
モニター越しですが、天王星と月面が接触する付近で両者が同化するかのように見えた瞬間がありました。もちろん月には地球のような濃い大気層がありませんから(月の)大気屈折や蜃気楼のようなことは起きるはずありませんが、私たちはこれらの現象を(地球の)大気越し・望遠鏡越しに観察していますから、いわゆるブラック・ドロップ効果に近いことが起きる可能性はあるでしょう。
今回の現象を紹介した記事やニュースを何十件も読みましたが、ほぼ100%「天王星食」あるいは「惑星食」と書いてありました。「月食」と「惑星食」のどちらも「食」と表現されていますが、全く違う現象です。別天体の影に隠される現象が「食/eclipse」、別天体そのものが隠す現象は「掩蔽/occultation」(参考:国立天文台・暦Wiki)。日本語の「惑星食」は昔から慣例的に使われているに過ぎません。残念ながらこのことにきちんと言及しているニュースはひとつも見かけませんでした。間違いではなくとも、特に科学系サイトや解説ニュースではひとこと説明して欲しいところです。
★月食直後の月に影はできるかな?
2022年11月8日記事の囲み欄で、皆既月食に向かう月は南極域・北極域ともにバランスよく地形の影が見えることを示しました。では月食を終えた直後の満月ではどうでしょうか?
皆既中は太陽・地球・月がほぼ一直線に並びますが、月が地球影中心を通らない限り完全に直線と言う訳ではありません。ただ、月表面がとても暗くなってますので地形の影の有無確認は難しいでしょう。ここでは半影食まで終わった8日23時過ぎに撮影した月をご覧ください(左画像)。どうですか、影のある地形は見つかりましたか?
北極域はつるつるに見えます。ですが、右上のフンボルト海から右回りにリムを見ると、特に右下を中心にわずかな影が出始まっていることが分かるでしょう。皆既食最大時からわすが3時間で、もう影ができるんですね。画像撮影時の太陽黄経差は約181.53°、地心位相角(地心・月心・日心がなす角)は約1.576°でした。
ではもっと遡って、部分食は終わったがまだ半影食中である22時ならどうでしょう?それが右画像。右下部分が少し暗く、まだ半影中であることを物語っています。左上の23時画像でいちばんはっきり影が分かるキュリー・クレーターを見てみましょう。暗いから思いっきり明るくしてコントラストを付けると、インサート画像の通り、しっかり影ができていることが確認できますね。位相角が1°を超えてくる辺りからもう影ができそうだと予想できます。
これらの事実は「リムぎりぎりの地形を楽しみたい」「月面の裏側をできるだけ広範囲に観察したい」というニッチな要望に有用な知見となるでしょう。月食が終わった後でもこうした様々な観察テーマを探すことができるんですよ。
★これからの月食と惑星掩蔽
今回は皆既月食と惑星掩蔽の二大イベントが同時に起こると言うことで、何百年ぶりの…とか、次は何百年後…とか煽るようなキャッチコピーがたくさん見受けられました。滅多にない貴重さなのは間違いありませんが、「見逃すと次は無い」という言い方では悪天に見舞われた地方の方が希望を無くしますし、人は何百年も生きられません。次の月食や惑星掩蔽の予告くらい紹介しないのは不親切に感じました。
月の軌道(白道)は黄道に対して5°あまり傾いた面ですが、固定されているのではなく年々移動しています。2022年2月17日記事内に右図を掲載しました。これがまさに月軌道がずれてゆく様子そのものです。いっぽう各惑星は概ね黄道に沿った場所に分布し、かつ各惑星ごとに公転し、日々ゆっくり移動します。水星・金星・火星以外は移動が大きくありませんし、どの惑星よりも月のほうが圧倒的に速く移動するため、いったん月軌道が惑星に近くなったら「まとまった期間に同じ惑星が連続して掩蔽される」という傾向があるのです。
今回は日本から天王星の掩蔽が見えました。では2022年に「世界のどこかで天王星掩蔽が見えた回数」をご存知ですか?なんと12回もあったんですよ!最初が2月8日、最後は12月6日。来年にかけては火星掩蔽が5回、木星が4回、天王星もまだ続いてて3回、海王星が3回起こります。そういえば毎月のように「今夜は月と木星が接近」などとささやかなニュースが流れますが、掩蔽とは究極の接近なのです。惑星が掩蔽されるのは(世界規模で考えたら)さほど珍しくはないんです。
月食も惑星掩蔽も世界中でそれなりに起こっているけれど、「日本で見えるかどうか」「見やすいかどうか」ということはまた別問題。私たちが手軽に行き来できる陸域は限られますからね。下表に月食と惑星掩蔽の予報(2035年まで)を掲載しました。見やすいものがあったらぜひ観察計画してください。なお下表は日本経緯度原点(東京)で見える条件でセレクトしています。月食は月が見えれば観察場所の制限はありませんが、惑星掩蔽は東京で起こらないけれど地方では起こる、といったケースもあります。見逃さないよう、天文情報誌やサイトを入念に調べてみてください。
【月食/日本で見える2023-2035年の予報】
月食最大日時(JST) | 種別 | 食分 | 月高度(°) |
---|---|---|---|
2023年5月6日 2:22:53 | 半影月食 | -0.042 | 23.1 |
2023年10月29日 5:14:06 | 部分月食 | 0.126 | 9.0 |
2025年9月8日 3:11:47 | 皆既月食 | 1.368 | 24.2 |
2026年3月3日 20:33:41 | 皆既月食 | 1.155 | 35.2 |
2027年7月19日 1:02:59 | 半影月食 | -1.063 | 28.6 |
2028年7月7日 3:19:46 | 部分月食 | 0.395 | 11.5 |
2029年1月1日 1:52:04 | 皆既月食 | 1.252 | 59.3 |
2030年6月16日 3:33:23 | 部分月食 | 0.507 | 9.0 |
2031年6月5日 20:44:07 | 半影月食 | -0.816 | 18.7 |
2031年10月30日 16:45:33 | 半影月食 | -0.315 | 0.2 |
2032年4月26日 0:13:39 | 皆既月食 | 1.198 | 39.1 |
2032年10月19日 4:02:29 | 皆既月食 | 1.109 | 21.9 |
2033年4月15日 4:12:40 | 皆既月食 | 1.098 | 11.1 |
2033年10月8日 19:55:12 | 皆既月食 | 1.355 | 31.9 |
2034年4月4日 4:05:49 | 半影月食 | -0.224 | 16.2 |
2035年2月22日 18:05:01 | 半影月食 | -0.048 | 6.7 |
- 自作プログラムによる計算です。若干の誤差を含みますのでご了承ください。
- 日本経緯度原点を観測地として、月食最大時に月が空に上っているケースをピックアップしました。
- 食分とはどれくらい欠けるかを数値化したもので、皆既食では1.0より大きくなります。また部分食では0以上1以下、半影食ではマイナスの値になります。
【月による惑星掩蔽/日本で見える2023-2035年の予報】
最接近日時(JST) | 掩蔽される惑星 | 離角(°) | 月高度(°) |
---|---|---|---|
2023年1月29日 11:31:10 | 天王星 | 0.089 | 3.9 |
2024年5月5日 12:46:07 | 火星 | 0.011 | 27.1 |
2024年7月25日 6:57:36 | 土星 | 0.137 | 18.7 |
2024年12月8日 18:40:46 | 土星 | 0.227 | 42.8 |
2024年12月9日 17:56:32 | 海王星 | 0.173 | 51.8 |
2029年10月26日 19:52:36 | 天王星 | 0.209 | 6.4 |
2030年6月1日 11:46:13 | 火星 | 0.131 | 76.2 |
2030年4月8日 10:59:34 | 天王星 | 0.217 | 30.1 |
2031年5月22日 14:34:38 | 土星 | 0.076 | 57.0 |
2034年2月18日 6:50:20 | 水星 | 0.231 | 13.7 |
2034年10月26日 1:36:30 | 木星 | 0.143 | 27.0 |
2034年2月22日 16:10:58 | 海王星 | 0.150 | 53.5 |
2034年4月18日 16:06:49 | 海王星 | 0.275 | 16.8 |
- 自作プログラムによる計算です。若干の誤差を含みますのでご了承ください。
- 日本経緯度原点を観測地として、最接近日時に月が空に上っているケースをピックアップしました。
- 最接近とは、月中心と隠されている惑星中心との離角が最小になる瞬時です。掩蔽(潜入/出現)の日時ではありません。
- 惑星掩蔽の日時は観察場所に強く依存します。ご自身が観る予定地で見えるかどうか、何時ごろになるのかといったことを予めシミュレーションソフトで検証してください。
- 昼間で全く見えないケースも含みます。