夕日に染まる国際宇宙ステーション2016/11/29

20161129星図
みなさんは日没後の空なのに、まだ高い雲や遠くの飛行機が赤く染まっているのを見たことがあるでしょうか。注意深く観察すれば、当たり前のように見える現象です。地上に太陽光が届かない時間でも、日の入り直後や日の出直前なら太陽光は上空を照らしています。

実は日の出・日の入りから1時間以上離れた時間でも、もっと高いところにある物体で同じ現象を楽しむことができます。そう、人工衛星です。

本日当地では16:30少し前に日が沈みました。1時間半以上経った18時過ぎ、南西に輝く金星の近くから国際宇宙ステーション(ISS)が飛んでくるパスがありました。左図はHeavens-Aboveによる予報です。時刻が書いてある実線がISSのルートですが、星図の中央(天頂)近くのペガスス座南側で途切れていますね。これは「地球の影に入って消えてしまう」位置なのです。

夕日色ISSの解説図
そのあたりで太陽が届かなくなるわけですから、そこでISSが「夕日色」に染まることが予想されます。この理屈を図解すると右のようになるでしょう。(※これは以前「おもしろ!ふしぎ?実験隊」サイトに投稿した記事からの引用です。)別の天体が地球の影に入ることを難しく言うと「地球による食」。月が隠れれば「月食」。月食が赤く染まるのも元々は夕日の色から来てます。この「食」はISSなど地球を周回する人工衛星だけでなく、静止衛星でも起こる現象です。そして食の瞬間、それらの天体は人知れず夕日色に染まっているのです。

朝日で赤く染まったISS
もちろん逆に考えると、地球の影に出入りする瞬間にISSクルーが外を見ると“夕日”や“朝日”が見えるはず。(※ISSは90分で地球をひと巡りするので、実際は夕方でも朝でもないでしょうけれど。)左画像は2014年12月にISS内から撮影されたもので(引用元:NASA)、右端にギラギラ光るのが朝日。船体が真っ赤(ピンク?)に染まってますね。ISSからは日の出入りが1日30回あまり見えるけれど、日本で見えるのはその中のせいぜい1、2回。その数秒間を地上から観察してみようという訳です。

夕日に染まる現象はISS観察中に偶然見たり写ったことは何度もありますが、現象単独で狙うのはほぼ初めて。帰宅が遅れて準備もままなりませんでしたが、ぶっつけ本番でやってみました。といっても技術的に難しいことは何もなく、星を追いかけるガイド撮影の必要もないため、カメラを三脚に付けて待つだけでした。…とは言え、はっきり夕日色に撮るためには幾つかの注意が必要です。やってみたい方のために、私なりの留意点を幾つか書いておきます。

20161129夕日に染まるISS
  • 背景がなるべく暗いチャンスを選ぶ。街明かりの強い方向も避ける。(不要な変色を避けるため。)
  • ISS高度が一番高くなるときに消えるようなチャンスを狙う。(自分に対してISSがもっとも接近するときに現象が起こるとはっきり見える。)
  • ISSが露光オーバーにならないようにする。(色が分からなくなるため。)
  • できるだけ長焦点(望遠)のレンズで撮る。(分解能を上げるため。)
  • フィルターの使用はしない。天体用赤外カット改造カメラも避ける。可能な限りニュートラルに撮影。
  • RAW撮影して、背景をできるだけニュートラルグレーに仕上げる。
  • うまく行かなくても諦めず、何回も挑戦。失敗を恐れずたくさん実践経験を積み考える。

というわけで、右上画像が本日の成果です。地球の影に隠れる直前、見事に夕日色のISSが写りました。85mmレンズ+APS-Cカメラですが、どれほど狭い範囲を撮ったかは、マーカーを書き込んであるうお座の星々と前出の星図とを対応させてください。星図にはもう線が載ってないエリアを撮影しています。でも肉眼では微かに見えていました。(※星図の線は計算上太陽光が当たらなくなったところで途切れていると思いますが、実際は大気の屈折で回り込んだ薄明光によって、それ以降も10秒程度は淡く見えています。)この夕日色は肉眼では分かり辛いですが、双眼鏡なら確認できます。ぜひご覧になってください。

12月2日のISSと惑星の大接近もお忘れなく!(→関連記事はこちら。

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