2019年の台風3号が本州南岸で発生 ― 2019/06/28
気象庁によると、27日18:00、本州南岸を通過中であった熱帯低気圧が台風3号「セーパット/SEPAT」になりました。直前の台風2号発生から127日と15時間後、2号消滅からは119日3時間が経っています。三ヶ月近く台風がなかったのですね。
左は発生時の気象衛星ひまわり画像(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。日本付近は日没を迎えつつあって暗いので、可視光ではなく赤外線白黒画像を使いました。赤点線円は台風中心の直径1000km円を表します。
今回はかなり本州に接近してから台風になりました。ほとんどの低気圧や台風がそうであるように、中心位置から離れたところでも大きな被害が発生します。今回も熱帯低気圧接近前から風雨は強まっており、台風発生がニュースになった頃はすでに関東近くまで影響が及んでいました。「台風になってないからと言って用心しないのは危険」であることを物語っています。
多くの台風は日本から南に離れた暖かい海域で台風に発達するため「気持ちを準備し災害に抗する猶予」があるけれど、本州近くで台風になったものがないわけではありません。試しに気象庁ベストトラックを使って1951年以降の台風発生位置分布+初動方向を描いてみると、下A・B図のようになりました(今回の台風3号は速報位置、それ以前は確定位置)想像以上に多いんですね。油断大敵。
このところの天気予報やニュースが「台風になるかならないか」「梅雨入りするかしないか」といった“イベント偏重”になっていることがとても気になりました。命や財産を守るのに必要な情報は、それではないはずです。報道した瞬間に市民へ届くわけではないから、「情報伝達のタイムラグ」も十分に考慮すべきでしょう。深夜に警戒することを夜のニュースで発表してもなすすべがありません。24時間前に耳に入らないと、たいていの社会人は行動できないんです。
なおフィリピン東海上には新たな熱帯低気圧が発生しており、今回の台風と似た振る舞いをしています。また台風3号と少々前後しますが、アメリカ西海岸近くにも東太平洋エリアでは今年初のTropical Storm「ALVIN」が発生しました。用心してくださいね。
【追記】
気象庁によると台風3号は28日15:00に温帯低気圧へと変わり、21時間という短時間で台風活動を終えました。
星仲間のかすてんさんが年代別の発生位置マップをご所望とのことなので、10年刻みで色分けしてみました。詳しく見ていただくため、西側のごく一部をカットして拡大率を上げました。日付変更線近くのものの多くはハリケーンからの越境台風です。
1977年台風1号から今回の3号までは台風毎のACE値(Accumulated Cyclone Energy/台風蓄積エネルギー)を全経路に渡って加算し、これを位置マーカーの直径に反映しました。(※発生時の勢力ではありませんのでご注意!!)位置が重なってしまうケースも多いため、半透明にしてあります。
特にACEが大きいものは番号を振りました。重なって見辛いのですが、文字と同じ色の大きな丸が近くに描かれています。ACEが大きい台風=勢力が大きいとは限らず、弱いままでも長期間活動すれば大きな値になります。どの年代の、どのあたりで発生した台風が大きなエネルギーを持つことになったか一目瞭然ですね。念のため、過去に強い台風が無かったと言うことではありません。1976年以前の台風ベストトラックに風速データが無くて計算できないだけなので誤解の無いようにお願いします。
気象庁によると台風3号は28日15:00に温帯低気圧へと変わり、21時間という短時間で台風活動を終えました。
星仲間のかすてんさんが年代別の発生位置マップをご所望とのことなので、10年刻みで色分けしてみました。詳しく見ていただくため、西側のごく一部をカットして拡大率を上げました。日付変更線近くのものの多くはハリケーンからの越境台風です。
1977年台風1号から今回の3号までは台風毎のACE値(Accumulated Cyclone Energy/台風蓄積エネルギー)を全経路に渡って加算し、これを位置マーカーの直径に反映しました。(※発生時の勢力ではありませんのでご注意!!)位置が重なってしまうケースも多いため、半透明にしてあります。
特にACEが大きいものは番号を振りました。重なって見辛いのですが、文字と同じ色の大きな丸が近くに描かれています。ACEが大きい台風=勢力が大きいとは限らず、弱いままでも長期間活動すれば大きな値になります。どの年代の、どのあたりで発生した台風が大きなエネルギーを持つことになったか一目瞭然ですね。念のため、過去に強い台風が無かったと言うことではありません。1976年以前の台風ベストトラックに風速データが無くて計算できないだけなので誤解の無いようにお願いします。
月面地形が見やすい範囲はどこまでか? ― 2019/06/28
月を撮影するみなさんは、「月面の向き」をどのように合わせていらっしゃるでしょうか?太陽面でも同じですが、特に観察・観測用写真では、天体の向きをある程度正しく揃える技術がとても大切だと考えています。カメラを頻繁に付け外しする移動観測者にとっては大きな問題点かも知れません。
「三日月の傾斜を比較する」など一部の目的を除き、月面画像は南北を上下に揃える習わしです。地図のように北を上向きにする場合と、望遠鏡が逆像になることを踏まえて南を上向きにする場合と二通りの主流があるようですが、どちらにしても正しい南北を見つけなくてはなりません。この場合の南北も「天の南北方向」と「月の自転軸の南北」とふたつの意味がありますね。当サイトのアーカイブ「月の形」では必ず月自転軸の北を上方向にしています。
撮影中わずかの間だけ追尾モーターを止めて天体移動を確かめることで分かるのが天の東西方向。これと垂直に天の南北方向も決められるでしょう。目印が少ない太陽黒点観察でよく使うやり方です。ところが月でも太陽でも自転軸方向を見つけるのは簡単に行きません。国立天文台サイトにあるような月の自転軸や太陽の自転軸を観測日時から計算し、天の南北と自転軸の見かけのずれ角(Position Angle)だけ回転させて…と言う具合に手間がかかります。
いくらなんでもこれは面倒なので、私は月の場合に限り「クレーター位置から自転軸方向を求める」という自作プログラムを作って対処してます。このプログラムに秤動や撮影像直径を与えれば、正確なクレーター位置を描いてくれるので、それに合わせて撮影像を回転させるだけ。回転誤差を0.1°以内まで追い込めます。左上画像はその作業中の様子。(※普段絶対に見せない画像です!!)15年ほど前にプロトタイプをExcelのVBAマクロで作って以来、言語やプラットフォームを変えつつ進化させ、今はJavaScriptアプリとしてブラウザがあればどこでも動かせるので快適になりました。クレーター名、直径範囲を制限したクレーター、赤道、中央子午線、経緯度メッシュなども表示できます。もちろん撮影することができない月面の裏側も表示可能。
さてここからが本題。いま「月面地形が見やすい日時」の計算を行っているのですが、これに先だって「そもそも地形が見やすいのは明暗境界から何度くらいまでなんだろう?」と疑問に思った次第。よく「欠け際が見やすい」と言いますが、じゃあ具体的に欠け際からどれくらい離れたら見難くなるのか、と。
さっそく前述の月面描画ソフトを改造し、「太陽直下点」を与えることでその点を軸とした緯線のような「太陽等高度線」を描けるようにしました。その上で、前出のアーカイブ「月の形」から四種の月相を選んで重ねてみました(下A−D画像)。 赤線は赤道、青線は中央子午線、赤線と青線の交点が月面座標中央、そしてオレンジ線が明暗境界(0°)から太陽直下点(90°)まで10°ごとに引いた太陽等高度線。月面のこの線上から太陽を見ると、方位が違っても太陽高度は同じになります。つまり影ができる条件は一緒と言うこと。ここで言っているオレンジ線の角度とは、太陽直下点を北極点、明暗境界を赤道に置き換えたときの「北緯」に相当する角度ですが、この角はその地点における太陽高度にほぼ等しいと考えて問題ありません。もちろん実際の影は地形標高や傾斜量で様々に変化します。
あらためて見ると、極端に平たいリンクルリッジ(Wrinkle Ridge)のような地形は10°以下でないと見えませんが、多くの地形は20°あまり離れても影ができ、望遠鏡で楽しめる範疇でしょう。40°を越えるとアペニン山脈のような高く険しい山でもさすがに影が出なくなりますね。 2019年5月18日記事に掲載したリュンカー山とその周囲のリンクルリッジも検証してみました(右上画像)。やはり十分な高さや傾斜が無いことと、月縁に近いので長い影ができても狭まってしまいますが、それでも明暗境界から10°未満なら見えそうだと分かります。個人的には0°から20°までが起伏の目立つ面白いエリアかなと感じました。大雑把に言うと太陽は平均29.5日で月を一周しますので、赤道近くでは1時間あたり0.5°太陽高度が変化します。この速度で地形の見やすさが変わってゆく訳ですね。明暗境界に地形が現れてから約40時間(=20°の範囲÷時速0.5°)、大目に見て二日程度というところでしょうか。ほぼいつも影ができてる両極以外はこの判断で良いかと思われます。
「三日月の傾斜を比較する」など一部の目的を除き、月面画像は南北を上下に揃える習わしです。地図のように北を上向きにする場合と、望遠鏡が逆像になることを踏まえて南を上向きにする場合と二通りの主流があるようですが、どちらにしても正しい南北を見つけなくてはなりません。この場合の南北も「天の南北方向」と「月の自転軸の南北」とふたつの意味がありますね。当サイトのアーカイブ「月の形」では必ず月自転軸の北を上方向にしています。
撮影中わずかの間だけ追尾モーターを止めて天体移動を確かめることで分かるのが天の東西方向。これと垂直に天の南北方向も決められるでしょう。目印が少ない太陽黒点観察でよく使うやり方です。ところが月でも太陽でも自転軸方向を見つけるのは簡単に行きません。国立天文台サイトにあるような月の自転軸や太陽の自転軸を観測日時から計算し、天の南北と自転軸の見かけのずれ角(Position Angle)だけ回転させて…と言う具合に手間がかかります。
いくらなんでもこれは面倒なので、私は月の場合に限り「クレーター位置から自転軸方向を求める」という自作プログラムを作って対処してます。このプログラムに秤動や撮影像直径を与えれば、正確なクレーター位置を描いてくれるので、それに合わせて撮影像を回転させるだけ。回転誤差を0.1°以内まで追い込めます。左上画像はその作業中の様子。(※普段絶対に見せない画像です!!)15年ほど前にプロトタイプをExcelのVBAマクロで作って以来、言語やプラットフォームを変えつつ進化させ、今はJavaScriptアプリとしてブラウザがあればどこでも動かせるので快適になりました。クレーター名、直径範囲を制限したクレーター、赤道、中央子午線、経緯度メッシュなども表示できます。もちろん撮影することができない月面の裏側も表示可能。
さてここからが本題。いま「月面地形が見やすい日時」の計算を行っているのですが、これに先だって「そもそも地形が見やすいのは明暗境界から何度くらいまでなんだろう?」と疑問に思った次第。よく「欠け際が見やすい」と言いますが、じゃあ具体的に欠け際からどれくらい離れたら見難くなるのか、と。
さっそく前述の月面描画ソフトを改造し、「太陽直下点」を与えることでその点を軸とした緯線のような「太陽等高度線」を描けるようにしました。その上で、前出のアーカイブ「月の形」から四種の月相を選んで重ねてみました(下A−D画像)。 赤線は赤道、青線は中央子午線、赤線と青線の交点が月面座標中央、そしてオレンジ線が明暗境界(0°)から太陽直下点(90°)まで10°ごとに引いた太陽等高度線。月面のこの線上から太陽を見ると、方位が違っても太陽高度は同じになります。つまり影ができる条件は一緒と言うこと。ここで言っているオレンジ線の角度とは、太陽直下点を北極点、明暗境界を赤道に置き換えたときの「北緯」に相当する角度ですが、この角はその地点における太陽高度にほぼ等しいと考えて問題ありません。もちろん実際の影は地形標高や傾斜量で様々に変化します。
あらためて見ると、極端に平たいリンクルリッジ(Wrinkle Ridge)のような地形は10°以下でないと見えませんが、多くの地形は20°あまり離れても影ができ、望遠鏡で楽しめる範疇でしょう。40°を越えるとアペニン山脈のような高く険しい山でもさすがに影が出なくなりますね。 2019年5月18日記事に掲載したリュンカー山とその周囲のリンクルリッジも検証してみました(右上画像)。やはり十分な高さや傾斜が無いことと、月縁に近いので長い影ができても狭まってしまいますが、それでも明暗境界から10°未満なら見えそうだと分かります。個人的には0°から20°までが起伏の目立つ面白いエリアかなと感じました。大雑把に言うと太陽は平均29.5日で月を一周しますので、赤道近くでは1時間あたり0.5°太陽高度が変化します。この速度で地形の見やすさが変わってゆく訳ですね。明暗境界に地形が現れてから約40時間(=20°の範囲÷時速0.5°)、大目に見て二日程度というところでしょうか。ほぼいつも影ができてる両極以外はこの判断で良いかと思われます。
参考までに、月面標高データを使って傾斜量を計算したので、表側(地球から見える側)のみマッピングしたものを右に掲載しました(作図中心を月面中心とした正射投影図法)。標高に関わらず、青いところほど傾斜が緩やかで、赤や黄色ほどキツい斜面になります。月面の「海」に相当するところはみんな青いですね。
青い平原の中、薄緑色の筋が絡み合っているところが「溶岩の皺」とされるリンクルリッジで、太陽が低い位置から照らさないと分からないほど起伏が浅い地形。静かの海や豊かの海、雲の海には特に多いことが分かります。逆に赤や黄色のところは太陽がある程度高くても影ができますから立体感を感じられるでしょう。上記と合わせて観察の参考にしてください。
青い平原の中、薄緑色の筋が絡み合っているところが「溶岩の皺」とされるリンクルリッジで、太陽が低い位置から照らさないと分からないほど起伏が浅い地形。静かの海や豊かの海、雲の海には特に多いことが分かります。逆に赤や黄色のところは太陽がある程度高くても影ができますから立体感を感じられるでしょう。上記と合わせて観察の参考にしてください。