アステリズム探訪[4]:急降下する鷲2017/07/11

もともと△の名前だった鷲が、あの星の名に!(下画像にマウスカーソルを乗せる前に探してみましょう。大きな画像は記事末をどうぞ。)


「急降下する鷲」の場所
画像に写っている明るい星はこと座のベガ。wiki等に書いてありますが、ベガという名前は「急降下する鷲」(落ちる鷲)を意味するアラビア語の النسر الواقع(al-nasr al-wāqiʿ/アン=ナスル・アル=ワーキ)が語源と言われます。でも元々はこと座のα星、ε星、ζ星の三角形をそう呼んでいたわけで、いつの間にかα星単独の呼び名になってしまった次第。ε星とζ星の立場はいったい…。かつて環境省が行っていた全国星空継続観察(昭和63年度−平成24年度)に参加した経験がある方は「三角形内の星がどこまで見えるか」というスケッチを描いたことを覚えていますか?

アステリズム探訪[3]で紹介した様に、わし座β・α・γの三つ星が「飛ぶ鷲」。対して、こと座α・ε・ζの三つ星が「落ちる鷲」。この対比はα星から他の二星へのラインを翼に見立てた形の違い、と考えられる事が多いようです。でもアラビアの天文学者アル・スーフィー(903年生まれ)によれば、急降下ではなく「木につかまり羽を畳んで休む鷲」という解釈をしており、私もそのほうが(絵的に)しっくりくるなぁと感じます。まぁ、上画像の星座絵は翼を広げちゃってますけどね。

アル・スーフィーのこと座(三種の写本)
アル・スーフィーは古代48星座を2世紀ごろまとめたプトレマイオスの著書を翻訳・研究しており、自身も『星座の書』という貴重な本を出版しました。『星座の書』には48星座のアラビア語名称、星座絵、解説、星座ごとの恒星位置と光度の一覧表、アラブ星伝承などが素晴らしい完成度でまとめられており、幾度となく写本が作られたようです。右はごく一部ですが、三種類の写本から「こと座」を抜粋したもの。手描きですから絵がすっかり変わっちゃうのはご愛敬。字が読めなくともパラパラ見ているだけで楽しく、また情報量に圧倒されます。右のAやBの写本で一番大きな赤丸がベガと思われ、星の近くに前述した「 النسر الواقع」が書いてありますね。星座絵は全て線対称の二対がペアで描かれています。(※→引用元は記事末参考リンクに載せました。ここから写本デジタルライブラリが閲覧可能です。)

こと座の学名はLyra、略号はLyr。α星のベガは七夕の織姫を象徴する星でもあり、おそらく北半球中緯度で暮らす多くの人に馴染み深い星でしょう。明るく目立つというだけではありません。1等星クラスの恒星を天の北極に近い順に並べるとカペラ、デネブに次いで3番目。北に近いほど「なかなか沈まない1等星」となるため、一夜の長時間、あるいは一年の長期間に渡って空を飾るのです。

もうひとつ、ベガの赤緯が絶妙の位置にあることも忘れてはなりません。天体の見かけの赤緯(視赤緯/天の赤道面から測った緯度)は、裏を返すと「その天体が天頂を通る緯度」そのものです。現在ベガの視赤緯は約38.8°ですから、日本なら山形県鶴岡市と宮城県気仙沼市を結んた辺りで天頂通過が見られます。(40年くらい前だったか、NHKが東北地方の天文愛好者と協力して煙突から昼間にベガが見えるか挑戦した番組を見た記憶があります。)北海道から九州まで考えてもベガは天頂から10°も離れません。ゲルやパオといった遊牧民のテント中央にある天窓からベガは見えたでしょうか。地面に寝転んで真っ正面に見える明るい星って、なんだか象徴的ですね。

ベガの視赤緯変化
もちろん地球の自転軸は変化するため、星の見かけ位置は時代と共に動きます。過去どう見えたかは当時の視赤緯を知る必要があります。左図はB.C.5000年からA.D.3000年までベガの視赤緯を概算したグラフ。これを見るとベガの天頂通過は地中海沿岸や黒海・カスピ海南側の地域など、星座に縁の深い地方にとって象徴的な星ではなかったでしょうか。プトレマイオスやアル・スーフィーが見たベガと今のベガとがほぼ同一赤緯なのは実に感慨深いですね。天の頂きに腰を据え、この世界をにらむ鷲。その目には何が映っているのでしょう?

  • 落ちる鷲m1

    (A)
  • 落ちる鷲m2

    (B)
  • 落ちる鷲m3

    (C)

参考(外部サイト):
World Digital Library・The Constellations …関連書のリンクもたどってみてください

今日の太陽2017/07/11

20170711太陽
朝からよく晴れています。そして今日も昼前には30度越え。茨城県内のアメダスによれば、県内の日最高気温は34.1度(大子、14:40)、33.8度(笠間、14:20)、33.7度(水戸、15:50)など。全国でも真夏日地点数が653(集計値点数の70.3%)になりました。

20170711太陽リム
左は14:15頃の太陽。中央に差しかかりつつある活動領域12665はおとなしくなってしまいました。昨日まで左リムに見えた大きなプロミネンスも光球内に入ったようです。他にいくつかのプロミネンスが見えますが、右下のものはやや緯度が高めですね。