水星の尾が見ごろです2024/03/23

20240322水星の尾
3月下旬になり、宵の西空でポン・ブルックス彗星(12P)が人気上昇中。その影でひっそり水星も見頃を迎えています。25日に東方最大離角なのですが、この時期は宵の黄道が立っているため太陽に対して高度が増す方向に離れることになって、通常の最大離角より見やすいのです。例えば次回の東方最大離角(今年7月25日)頃はかなり寝た黄道になるので、今回と比べてみれば見やすさの違いが一目瞭然でしょう。

そしてタイミングを合わせたように「水星のナトリウムの尾」が来週にピーク時期を迎えます。こんな幸運は滅多にありません。残念ながら来週の天気予報が壊滅的なので、昨夕に撮影してみました。

左上画像は市民薄暮の約17分後から30秒露出×17枚のスタック画像。明るい白丸が水星で、左上にむかってうっすらと尾が伸びていますね。右下の暗い影は電線です。水星はこんな短時間でも移動するので、メトカーフコンポジットしなくてはなりません。おまけに高度10°前後の超低空ですから恒星が大気で浮き上がってしまい、各コマのアラインメントが大変です。

撮影時のTAA(真近点角/True Anomaly Angle)がまだ30°未満のためピークには達していませんが、それでも予測通りに見えてくれました。万が一来週にチャンスがあればまたトライしようと思います。時期や条件についてはアーカイブ「水星の尾の見頃」をご覧ください。

夜は雲が増える予報でしたがしばらく持ちこたえそうだったので、月が高くなった頃を見計らって望遠鏡を向けました。シーイングは前夜より良好でした。ひと晩前は暗かったアリスタルコスがすっかり明るくなっていました。下A画像は欠け際で夜明けを迎えつつあるリュンカー山を含めた画像。もう少し待てばリュンカー山が円環状に見えたと思います(→2023年9月5日記事参照)。アリスタルコス外周を蛇のように取り巻くアグリコラ山脈。その舌の先、ニールセンからリュンカー山に向かってのびるリッジと、ヘロドトスAから南のマリウスに向かうリッジが対称になっていて印象的です。

下B画像はアリスタルコスから南側の様子。マリウス周囲のドーム群が鳥肌のようです。マリウス谷も見えますね。立派な光条を持ちながら、お隣にコペルニクスという大御所があるせいで目立たないケプラー。両者の光条が絡んでいるあたりを「パズルの眼」をもって眺めるのが面白いです。

下C画像は朝を迎えたシッカルトや、すっかり明るいシラーあたり。ナスミスとフォキュリデスが靴跡のようです。カプアヌス近くのConcentric Craterのひとつ、マルトも見えますね。

4カットほど撮影したのち急にシーイングが落ちたと思ったら、薄雲が空を覆っていました。もっと撮りたかったのですが雲に追いつかれてしまっては仕方ありません。せめて虹の入江をカメラに収めたかったけれど、無念…撤収しました。

  • 20240322アリスタルコス付近

    A.アリスタルコス北側付近
  • 20240322アリスタルコス、マリウス、ケプラー

    B.アリスタルコス南側付近
  • 20240322シラー、シッカルト、湿りの海

    C.シッカルト付近


束の間のお月見2024/03/22

20240321神酒の海付近
小型月着陸実証機SLIMの居場所に太陽光が当たり始めて6日ほど過ぎました。あと5日程で2月の通信回復時と同等の日照を迎えます。昨日は夜になってようやく風が止んでくれ、月が天頂にかかるころ比較的安定した空でお月見ができました。ただ時おり低空から雲がやって来て月面を通過するので、それを避けるように観察しました。シーイングは冬並の悪さです。

左画像は神酒の海からアルタイ断崖付近。今更ですが、ティコの光条がこんな遠くまで届いていることに驚かされます。太陽直下点(太陽が天頂に見える月面ポイント)が豊かの海西部あたりを通過中だったので、眼視だと神酒の海近辺までかなり明るく感じました。シオリ・クレーターが良く見えました。明日23日にはSLIMの経度を太陽直下点が通過するでしょう。

虹の入江がすっかり日向に出ました(下A画像)。北半球はまだ秤動が不利な期間で、入江も潰れてますね。下弦の頃には丸くなると思います。内部が肌荒れになっているJ.ハーシェル・クレーターが明暗境界から出たところ。ピタゴラスなどはまだ闇の中。

下B画像の欠け際に写っているのはアリスタルコス。いつもは眩しいくらいなのに、日が差してないと他のクレーターと変わりませんね。アリスタルコスのすぐ北東にある三日月型のプリンツ内に東壁の影がまだ残っていました。下C画像の南極域は南極点も含まれているのですが、影が多くて隠れてしまってますね。この写野では外れてしまってますが、シラー・ズッキウス・ベイスンがちょうど欠け際で、凹みがよく分かりました。

この天気も今夕まで。明日はまた大荒れ、来週は晴れ間が少ない日々とのことです。

  • 20240321虹の入江、プラトー、J.ハーシェル

    A.虹の入江付近
  • 20240321コペルニクス、エラトステネス、アリスタルコス

    B.暗いアリスタルコス
  • 20240321南極付近

    C.南極付近


月面のQuincunxを観察2024/03/20

20240319_Quincunx
18日夜に見えるはずだった「マギヌスの魔女」など月面の名所探索はあまりの強風で断念しましたが、昨夜19日夜は穏やかで、ゆっくり堪能できました。中でも「Quincunx」と呼ばれる五つの光点が良いタイミングでした。

カタカナで書くと「クウィンカンクス」になるでしょうか。一般には五つの点が作る模様のこと。と言っても五芒星の頂点のような円周的配置じゃなく、四方向に四点と真ん中に一点の合計五点。ちょうどサイコロの五の目のようなものです。(※占星術では同じ単語が別の意味で使われますからご注意。)

月面のQuincunxはコペルニクス・クレーターのすぐ北西に位置します。自前計算では昨夜22時ごろ見える予報でしたので、20時過ぎから観察を始めました。シーイングは細かな揺れが目立ちましたが、大揺れはやや少なかったです。ただ、宵から夜に向かって大幅に気温が下がり、子午線通過も相まってピントが狂いました。

コペルニクスはちょうど明暗境界にあって、内部が真っ暗。22時前には五つ+αの点が出揃い、だいたい計算通りに進行してくれました。左画像は22:00撮影画像。黄色の点線円がQuincunxです。また21:30から30分おきに22:30まで撮影した三枚を下A・B・C画像に並べました。周囲に余分な光点があるけれど、ちょっとひしゃげた五点形が少しずつ現れる様子が分かるでしょう。真ん中がずれているところは大目に見てくださいね。開始ごろは特に西側(影側)がかなり暗く、露出をのばすか感度を上げないと気付けません。下A画像は一見揃ってないように見えますが、最後のひとつ(北西の角)も光り始めていますよ。

20240319雨の海付近
元々こにはゲイ・リュサックから西へのびるカルパチア山脈があり凸凹の多い地形です。だから太陽光が射し込むとあちこちの山頂が一斉に光り出し、点の大きさも広がっていく見え方になります。近年は「月面N地形」が少しずつ浸透してきましたが、Quincunxは下D画像(2022/5/10撮影)のとおり、月面Nや月面Iの一部も入っています。月面のQuincunxは少なくとも十年以上前から知られていたようです。

今回の観察を元に補正して計算すると、向こう3年ほどの間にQuincunxが見え始める日時は次の通り。月高度が極端に低いケースは省きます。(上弦側のみ書き出していますが下弦側でも似た見え方をする可能性があるため今後検証するつもりです。)
2024年5月17日21:30・7月15日19:24・9月12日18:36・11月10日21:12・2025年04月07日18:51・2025年11月29日19:51・2026年12月18日18:23

カルパチア山脈だけでなく、コペルニクスの南にも極く小さな点状の山並みが連なっており、お皿に盛っていた米粒をぶちまけてしまったような、あるいは手おけから滴る水滴のように見えます。南北共に小さな点がらわらわ光り出す様子がとても面白い月相でした。それから撮っているときは気付かなかったのですが、右下にグルイテュイゼンの月面都市が写り込んでいました。欠け際から離れてしまったので影が薄いけれど、まだ葉脈模様が感じられますね。

コペルニクスとプラトーに挟まれた雨の海も日が当たり始めていました(右上画像)。背の低いリンクルリッジもそこそこ見えています。欠け際近くに溶岩流が写っていますね。プラトーの西にある直線山列も明暗境界で、影が多過ぎてスカスカに見えました。もう少しシーイングが良いと良かったのですが…。

  • 20240319_2130_Quincunx

    A.21:30
  • 20240319_2200_Quincunx

    B.22:00
  • 20240319_2230_Quincunx

    C.22:30
  • 20220510月面NとQuincunxの位置

    D.月面NとQuincunxの位置


上弦前の月を眺める2024/03/17

20240316南の海付近
昨夜も晴れていましたが地平から30°あたりまではモヤが多く、はっきりしません。夜半前から雲が多くなり、今日明け方にかけて度々にわか雨も降りました。宵のうちに月を眺めました。前夜より風が少ないぶんマシでしたが、相変わらず冬のようなシーイング。揺らぎが多いキャプチャでは強い画像復元系の処理で二重リムが頻出しますので、悩みどころです。

左画像の南の海付近が秤動に恵まれ、とてもよく見えました。2024年2月19日記事で「シュレディンガー谷は見えるか?」という検証をしましたが、このときの撮影と同等の秤動でした。リム沿いにリッテンハウスやシコルスキー、モールトンあたりが確認できるので、位置的にはシュレディンガー谷の一部まで届いていますが、シーイングが悪過ぎて前述の二重リムが出ています。二重リムは月の縁だけでなくクレーター周囲などコントラストのある至るところに出ますので、地形の判別を難しくする要因です。それでも2月の時より影が多い位相ですから見やすいことは確かです。

下A画像はポシドニウスからラモントにかけての構図。スミルノフ尾根などのリッジが美しい。ベッセルの影が明暗境界まで達していますね。ヤンセンの北にあるヤンセンRは、下1/3ほど暗くなっていますね。これはアルベドが違うのではなく、僅かな傾斜があって影が濃くなっているようです。上弦側でしか見えないので気付き難いです。いっぽうプリニウス谷を包むように東西に延びる地域は、北側よりも少し暗くなっています。これは傾斜地の影ではなくアルベドが低いのです。ですから位相に関係なく暗く見えます。

ラモントのそば、アラゴーから南に延びる谷がミジンコの足のようにたくさんの筋を伸ばしていました。アラゴーに寄り添うふたつのドームはじっくり見るとかなり歪なことが分かります。ドームと言うとお椀を伏せたような綺麗な形を想像してしまうのですが、これだけ大きいと均等な造成は無理だったのでしょう。ハワイのマウナケア火山やキラウエア火山だって等高線を見ると決して丸くはありません。富士山だって整った丸い等高線は上1/3くらいまでで、裾野までみると逆三角形あるいはひし形になっています。

下B画像は神酒の海周辺。ひと晩前は見えなかったテオフィルスやキリルス、カタリナが朝を迎えました。アルタイ断崖も光を浴びてます。SLIMも次第に温まることでしょう。前日より若干細かな地形が見えるけれど、まだまだ安定しませんね…。

  • 20240316ラモント、プリニウス、ポシドニウス

    A.晴れの海から静かの海にかけて
  • 20240316神酒の海付近

    B.神酒の海付近