束の間のお月見2024/03/22

20240321神酒の海付近
小型月着陸実証機SLIMの居場所に太陽光が当たり始めて6日ほど過ぎました。あと5日程で2月の通信回復時と同等の日照を迎えます。昨日は夜になってようやく風が止んでくれ、月が天頂にかかるころ比較的安定した空でお月見ができました。ただ時おり低空から雲がやって来て月面を通過するので、それを避けるように観察しました。シーイングは冬並の悪さです。

左画像は神酒の海からアルタイ断崖付近。今更ですが、ティコの光条がこんな遠くまで届いていることに驚かされます。太陽直下点(太陽が天頂に見える月面ポイント)が豊かの海西部あたりを通過中だったので、眼視だと神酒の海近辺までかなり明るく感じました。シオリ・クレーターが良く見えました。明日23日にはSLIMの経度を太陽直下点が通過するでしょう。

虹の入江がすっかり日向に出ました(下A画像)。北半球はまだ秤動が不利な期間で、入江も潰れてますね。下弦の頃には丸くなると思います。内部が肌荒れになっているJ.ハーシェル・クレーターが明暗境界から出たところ。ピタゴラスなどはまだ闇の中。

下B画像の欠け際に写っているのはアリスタルコス。いつもは眩しいくらいなのに、日が差してないと他のクレーターと変わりませんね。アリスタルコスのすぐ北東にある三日月型のプリンツ内に東壁の影がまだ残っていました。下C画像の南極域は南極点も含まれているのですが、影が多くて隠れてしまってますね。この写野では外れてしまってますが、シラー・ズッキウス・ベイスンがちょうど欠け際で、凹みがよく分かりました。

この天気も今夕まで。明日はまた大荒れ、来週は晴れ間が少ない日々とのことです。

  • 20240321虹の入江、プラトー、J.ハーシェル

    A.虹の入江付近
  • 20240321コペルニクス、エラトステネス、アリスタルコス

    B.暗いアリスタルコス
  • 20240321南極付近

    C.南極付近


月面のQuincunxを観察2024/03/20

20240319_Quincunx
18日夜に見えるはずだった「マギヌスの魔女」など月面の名所探索はあまりの強風で断念しましたが、昨夜19日夜は穏やかで、ゆっくり堪能できました。中でも「Quincunx」と呼ばれる五つの光点が良いタイミングでした。

カタカナで書くと「クウィンカンクス」になるでしょうか。一般には五つの点が作る模様のこと。と言っても五芒星の頂点のような円周的配置じゃなく、四方向に四点と真ん中に一点の合計五点。ちょうどサイコロの五の目のようなものです。(※占星術では同じ単語が別の意味で使われますからご注意。)

月面のQuincunxはコペルニクス・クレーターのすぐ北西に位置します。自前計算では昨夜22時ごろ見える予報でしたので、20時過ぎから観察を始めました。シーイングは細かな揺れが目立ちましたが、大揺れはやや少なかったです。ただ、宵から夜に向かって大幅に気温が下がり、子午線通過も相まってピントが狂いました。

コペルニクスはちょうど明暗境界にあって、内部が真っ暗。22時前には五つ+αの点が出揃い、だいたい計算通りに進行してくれました。左画像は22:00撮影画像。黄色の点線円がQuincunxです。また21:30から30分おきに22:30まで撮影した三枚を下A・B・C画像に並べました。周囲に余分な光点があるけれど、ちょっとひしゃげた五点形が少しずつ現れる様子が分かるでしょう。真ん中がずれているところは大目に見てくださいね。開始ごろは特に西側(影側)がかなり暗く、露出をのばすか感度を上げないと気付けません。下A画像は一見揃ってないように見えますが、最後のひとつ(北西の角)も光り始めていますよ。

20240319雨の海付近
元々こにはゲイ・リュサックから西へのびるカルパチア山脈があり凸凹の多い地形です。だから太陽光が射し込むとあちこちの山頂が一斉に光り出し、点の大きさも広がっていく見え方になります。近年は「月面N地形」が少しずつ浸透してきましたが、Quincunxは下D画像(2022/5/10撮影)のとおり、月面Nや月面Iの一部も入っています。月面のQuincunxは少なくとも十年以上前から知られていたようです。

今回の観察を元に補正して計算すると、向こう3年ほどの間にQuincunxが見え始める日時は次の通り。月高度が極端に低いケースは省きます。(上弦側のみ書き出していますが下弦側でも似た見え方をする可能性があるため今後検証するつもりです。)
2024年5月17日21:30・7月15日19:24・9月12日18:36・11月10日21:12・2025年04月07日18:51・2025年11月29日19:51・2026年12月18日18:23

カルパチア山脈だけでなく、コペルニクスの南にも極く小さな点状の山並みが連なっており、お皿に盛っていた米粒をぶちまけてしまったような、あるいは手おけから滴る水滴のように見えます。南北共に小さな点がらわらわ光り出す様子がとても面白い月相でした。それから撮っているときは気付かなかったのですが、右下にグルイテュイゼンの月面都市が写り込んでいました。欠け際から離れてしまったので影が薄いけれど、まだ葉脈模様が感じられますね。

コペルニクスとプラトーに挟まれた雨の海も日が当たり始めていました(右上画像)。背の低いリンクルリッジもそこそこ見えています。欠け際近くに溶岩流が写っていますね。プラトーの西にある直線山列も明暗境界で、影が多過ぎてスカスカに見えました。もう少しシーイングが良いと良かったのですが…。

  • 20240319_2130_Quincunx

    A.21:30
  • 20240319_2200_Quincunx

    B.22:00
  • 20240319_2230_Quincunx

    C.22:30
  • 20220510月面NとQuincunxの位置

    D.月面NとQuincunxの位置


上弦前の月を眺める2024/03/17

20240316南の海付近
昨夜も晴れていましたが地平から30°あたりまではモヤが多く、はっきりしません。夜半前から雲が多くなり、今日明け方にかけて度々にわか雨も降りました。宵のうちに月を眺めました。前夜より風が少ないぶんマシでしたが、相変わらず冬のようなシーイング。揺らぎが多いキャプチャでは強い画像復元系の処理で二重リムが頻出しますので、悩みどころです。

左画像の南の海付近が秤動に恵まれ、とてもよく見えました。2024年2月19日記事で「シュレディンガー谷は見えるか?」という検証をしましたが、このときの撮影と同等の秤動でした。リム沿いにリッテンハウスやシコルスキー、モールトンあたりが確認できるので、位置的にはシュレディンガー谷の一部まで届いていますが、シーイングが悪過ぎて前述の二重リムが出ています。二重リムは月の縁だけでなくクレーター周囲などコントラストのある至るところに出ますので、地形の判別を難しくする要因です。それでも2月の時より影が多い位相ですから見やすいことは確かです。

下A画像はポシドニウスからラモントにかけての構図。スミルノフ尾根などのリッジが美しい。ベッセルの影が明暗境界まで達していますね。ヤンセンの北にあるヤンセンRは、下1/3ほど暗くなっていますね。これはアルベドが違うのではなく、僅かな傾斜があって影が濃くなっているようです。上弦側でしか見えないので気付き難いです。いっぽうプリニウス谷を包むように東西に延びる地域は、北側よりも少し暗くなっています。これは傾斜地の影ではなくアルベドが低いのです。ですから位相に関係なく暗く見えます。

ラモントのそば、アラゴーから南に延びる谷がミジンコの足のようにたくさんの筋を伸ばしていました。アラゴーに寄り添うふたつのドームはじっくり見るとかなり歪なことが分かります。ドームと言うとお椀を伏せたような綺麗な形を想像してしまうのですが、これだけ大きいと均等な造成は無理だったのでしょう。ハワイのマウナケア火山やキラウエア火山だって等高線を見ると決して丸くはありません。富士山だって整った丸い等高線は上1/3くらいまでで、裾野までみると逆三角形あるいはひし形になっています。

下B画像は神酒の海周辺。ひと晩前は見えなかったテオフィルスやキリルス、カタリナが朝を迎えました。アルタイ断崖も光を浴びてます。SLIMも次第に温まることでしょう。前日より若干細かな地形が見えるけれど、まだまだ安定しませんね…。

  • 20240316ラモント、プリニウス、ポシドニウス

    A.晴れの海から静かの海にかけて
  • 20240316神酒の海付近

    B.神酒の海付近


風に曝されながらお月見2024/03/16

20240315神酒の海付近
昨夕から今朝にかけて気温が高く透明度の悪い快晴。低空には薄雲も流れていました。宵と夜半過ぎは結構な風が吹き、機材を出すか迷ったのですが、天高く輝く月に誘われて望遠鏡を向けてみました。立地の関係で、宵の撮影は周囲の車両の振動や家屋排気の影響がとても大きく、昨夕はそれに風の影響も加わって散々でした。ダメ元で撮った中から二枚掲載。

左画像は朝を迎えた神酒の海付近。フラカストリウス内の細い谷が見やすい月相なのにはっきり写ってないので、それくらいのコンディションだったと理解できます。

海の西部を南北に走る低い山脈が影を落とし、その西側がまだ真っ暗です。この30分後にもう一度見たらかなり明るくなっていてびっくり。いかにこの山脈が低く“光の決壊”がしやすいか分かります。ピッコロミニからのびるアルタイ断崖の一部が光り始めていました。

神酒の海の北西に接した大きなクレーターはテオフィルス。クレーター壁の一部が朝を迎えつつありますね。テオフィルスの西隣がSLIMのいるキリルス。16日宵にはSLIMに太陽が当たり始めるでしょう。前回通信が回復したのは2月25日19時頃でしたから、電源が同一条件で再々度復活するとしたら3月26日8時JSTごろです。はたして機器は月面二夜を過ごせるでしょうか?楽しみです。

20240315タルンティウス、コーシー、マクロビウス
もう1枚は右画像。危難の海西部や静かの海東部、豊かの海北部あたりです。タルンティウスの連鎖クレーターは全く解像しませんでした。でもコーシー周辺やガードナーのメガドームを囲むあたりに無数に点在するドームは良く見えます。画像左上、愛の入江北部にあるレーマー近くから北へ向かう太い谷はレーマー谷。画像には半分も収まっていないほど長くのびています。まだ光が当たっていませんが、谷の西にはポシドニウスがあります。昨夕は東壁が光り始めていたので、今夜見えることでしょう。

豊かの海などに見られる表層の微妙な濃淡はなかなか表現しづらい対象です。標高のある地形なら影ができるので、明暗境界に近い位相で撮影すればはっきり分かるけれど、地質の濃淡(アルベドの違い)は影ができません。明暗境界が近いと光量が減って、かえって濃淡が分かりにくくなるなります。カラーセンサーだと色の違いになってくれるので表現しやすいのですが、白黒センサーではそれも難しい。バンドパスフィルターなどを工夫すれば炙り出せるのかも知れませんね。