奇跡的に楽しめた皆既月食2018/02/01

20180131皆既月食
昨夕は太陽がどこに沈んだか分からないほど曇っており、夜の皆既月食は見えないかなぁ…と悲しみに暮れていました。ところが暗くなってから徐々に雲が取れ、月が隣家から顔を出す頃にはそこそこ晴れ渡ったのです。日中少し暖かかったせいもあり透明度の悪い空ですが、星月が全く見えない天気にならなかっただけでも有り難いというもの。

気温はジャスト0度。高い空で月食が始まり、そこから24時少し前までほとんど雲の通過もなく、半影食を除くほとんどの行程を楽しむことができました。上画像はたくさん撮影した中から要所要所をピックアップして合成したもの。今回はターコイズフリンジがやたら目立って印象に残りました。(※ターコイズフリンジの発色については2月2日の考察記事をご覧ください。)惜しむらくは23時台に湧いた厚い雲が部分月食終了直前に月を隠してしまい、真ん丸に戻った月を見ることは叶いませんでした。(…明け方に再々度晴れたんですけどネ。)

20180131皆既中の月とプレセペ星団
右画像は皆既最大の22:30近頃に撮影した、月とプレセペ星団。多段階露光でコンポジットしています。この頃は満月夜であることを忘れるほど周囲が暗く、毎度のことながら不思議な感覚に包まれました。満月が至近距離にあるのに暗い星々がこんなにびっしり写るなんて、実に愉快ですね。

そうそう、月食観察準備のために外へ出た瞬間目にとまったのは、満月ではなく幻月でした(下A画像)。結構明るく、幻月環も肉眼で良く見えました。このとき右の幻月は出ていませんでしたが、月食が始まる直前頃にうっすら見えました。

内暈や外接ハロも出ており(下B画像)、月食開始後もしばらく一緒に見えていました。画像を見て分かるように、月高度が高くなっているときの幻月なので、内暈から少し離れています。(→2018年1月16日記事の補足参照。)昼間から気象光学現象が続き、いかにも天気の変わり目という空。24時間後には雪かも!?との予報も出ていますが、ひとときの充実した観察タイムを送ることができました。なおこの夜の気象光学現象は後日星仲間のdocanさんに素晴らしい記録を頂きましたので、2月11日記事で詳しく解説しています。そちらもぜひご覧ください。

  • 20180131幻月

    A.幻月と幻月環
  • 20180131月の内暈

    B.月の気象光学現象


参考:
月末の皆既月食と「月色」の話(2018/01/29)
皆既月食のターコイズフリンジ(2014/11/02)
秋空の皆既月食(2014/10/08)
アーカイブ:皆既月食の一覧
アーカイブ:部分月食の一覧

2月初めの衛星画像から2018/02/01

20180201MODIS/TERRA
2月が始まりましたが、関東は夜にかけて天気が荒れそうな予報です。衛星画像を見ると既に午前中から雲がかかっていました。対して東北地方から北海道は比較的雲が少なく、いつもより地面の雪景色が良く見えます。

左はNASA-WorldViewサイトからの引用で、地球観測衛星MODIS/Terraが撮影した本日の画像。オホーツク海から南下してきた流氷が今にも接岸しそうです。流氷大回転も見えますね。早送り動画で見たいところですが、地球観測衛星の周回は撮影頻度が少ないため、キレイなパラパラアニメにならないかも…。解像度は勝っても、1地点1日辺りの撮影回数は気象衛星に完敗です。

いっぽう気象衛星ひまわりの画像を見ると、インド洋・赤道の南側に大きなサイクロンが見えます。下A画像は今日12:00の画像(画像元:NICTサイエンスクラウド)。地球に向かって左下に見える大きな渦構造がトロピカルサイクロン「CEBILE」です。今日明日あたりが勢力最大との予報。南半球はまだ夏真っ盛りなんですね。

ひまわりからはこのサイクロンの位置が見づらいので、ほぼ正面から撮影しているインドの気象衛星INSAT-3Dの同時刻画像も引用します(下B画像/画像元:インド気象局)。はっきりした目を持つサイクロンの姿が分かります。日本に来る台風の“中堅クラス”ほどの規模ですね。幸い海ばかりの場所なので、被害が出たというニュースはないようです。

  • 20180201-1200ひまわり画像

    A.気象衛星ひまわり
    2018年2月1日 12:00JST
  • 20180201-1200INSAT3D

    B.気象衛星INSAT-3D
    2018年2月1日 12:00JST


今年二回目の降雪2018/02/02

20180202雪
昨夕から降り始めた雨は、天気予報通り夜半前に雪へと変わりました。毎度お馴染み、南岸低気圧のお通りです。当地・茨城県南部では今日明け方までに固めない状態で1cmから2cm程度積もり、あちこちの屋根はまっ白。ただ、アスファルトの上だけはシャーベット状にドロドロでした。朝になっても止むことなく(左画像)、9時を過ぎてからやっと小雨に変わりました。

20180202雪
昨夜のうちに結晶が見えないか調べたのですが、降ってくる雪粒は細かな粒がグシャグシャにまとまったようなものが多く、そのかたまり全体は1月22日の大雪のときよりずっと小さく感じました。

よくよく探すと小さな六角状に発達した雪結晶が見つかるのですが、すぐ溶けてかき氷のようになってしまいます(右画像)。何枚撮影しても結晶は捉えられなくて、そのうち寒くなって撤収…。今回の雪はすぐ溶けてしまいそうです。

世界の年平均気温偏差(1891-2017年確定値)
雪が舞うような日にアレなのですが、昨日2月1日、気象庁から2017年までの「世界の年平均気温偏差」確定値が発表になりました(リンク)。1981年から2010年までの気温平均を基準としたとき、2017年は+0.38度。これは1891年の統計開始以来三番目に高い数値だそうです。ちなみに1位は2016年(+0.45度)、2位は2015年(+0.42度)ですから、ここ3年間は「今までで一番暑い3年間」ということですね。

この統計によれば、世界の気温は1世紀あたり0.73度ずつ上昇する傾向にあります。これを北半球と南半球に分けると、北半球0.78度/世紀、南半球0.69度/世紀です。右図は気象庁から公開されていたデータを元にグラフ化したもの。(同様のものが前出リンク内にもあります。)これを見て何を感じ、どう行動するかはその人次第ですね。

皆既月食の発色・デジカメとターコイズフリンジ2018/02/02

二日前の1月31日に起こった皆既月食を撮影していたとき、撮影条件によってターコイズフリンジ(ブルーベルト)の色が目立つときと目立たないときがあることに気付きました。色々検証と考察したことを書き留めておきます。ターコイズフリンジ現象そのものの考察ではありませんのであしからず。なお本記事を元に「本影の中がどうなっているか」を画像化したものは別途2月4日記事に掲載しました。本記事と併せてご覧ください。

今回私は「8枚連写」という通常スタイルで約10分おきに撮影しました。露出を何パターンか変えますから、シーン毎に「8枚連写×数パターンの露出」ということです。最後の最後で雲に阻まれましたが、今回の月食全体で504枚撮影しました。(もちろんRAW画像。)なお連写と言っても約1、2秒程度の間を置いて振動ブレを極力抑えています。

皆既月食の色考察(1)
さて、左のA1からA4の画像は皆既が始まった直後のシーン。撮影時刻と露出は表記の通りです。前述のように8枚1セットですが、1/10秒露出の最後(8枚目)がA1、1/4秒露出の最初(1枚目)と最後(8枚目)がA2とA3、1秒露出の最初(2枚目)がA4です。

注目して欲しいのは「露出が変わった前後」つまりA1とA2、およびA3とA4です。A2とA3は8枚セットのひと続きなので見た目は一緒ですが、露出が変わったところは青やシアン成分が随分違う感じがしませんか?撮影した瞬間ビックリしました。露出を切り替えて次を撮影するのに十数秒しか経ってませんから、天候急変など自然要因で色が変化したとは考えにくいですね。

露出以外のカメラ設定は変えてませんが、この撮影の場合ホワイトバランスがオートでしたので、カメラ自身がコマごとに内部設定値を変えています。だから見た目の色合いが変化したのです。「オートになっている設定はユーザーが触らなくてもカメラ自身の判断で変わってしまう」という落とし穴を覚えておきましょう。参考までに内部記録されていた色温度と色補正(カブリ補正)の値は以下の通りでした。

  • 【A1】色温度:5100、色補正:+4
  • 【A2】色温度:3350、色補正:-3
  • 【A3】色温度:3350、色補正:-3
  • 【A4】色温度:3200、色補正:-7


皆既月食の色考察(2)
では、撮影画像の色温度をソフトウェアで強制的に変えてみましょう。サンプルとして上のA2を使います。デフォルト(カメラ判断)では「色温度:3350、色補正:-3」だったものを右画像のB1からB4のように変えてみました。色補正も強制的に全て0です。CTが小さいほど青っぽく、大きいほど黄やオレンジが強くなりましたね。フィルム時代から写真を撮っている方は、フィルムの種類に「デイライト用」や「タングステン用」があったことを覚えているでしょう。デジカメをオートで使ってるとあまり意識しませんが、用はホワイトバランス補正のこと。どんなデジカメにもプリセットで昼光とか蛍光灯とか曇天とか、たくさんのモードがありますね。

快晴の日なたできちんと発色するようなモードが「ホワイトバランス:昼光」で、標準とされます。昼光は5000ケルビンというように光源の「色温度」が決まっています。電球やロウソクなど「顔が黄色やオレンジに染まる」ような光源は温度が低く、2000とか3000になるでしょう。蛍光灯なら4000、フラッシュ(ストロボ)なら6000という具合。デジカメの場合表現が逆になるので間違えそうですが、例えばB1画像は「光源が3000ケルビン(オレンジ色っぽい)なので、足りない青光を強くして補正しましたよ」という意味。これは後からソフトウェアで補正するときも同じで、色温度の値を下げるほど青味が強調されてしまうのです。

デイライト用ポジフィルムで月食撮影した頃を覚えている方は、B3あたりが一番フィルム発色に近いと思いませんか?フィルム発色が5000から5500ケルビンに合わせてあるからですね。デジカメがフィルムと大きく違うのは「後からいくらでも色温度を変えられる」「1度刻みで細かい微調整ができる」という点。フィルムの場合、光源色を合わせておかないと発色がおかしくなります。特に天体写真では光源という考え自体が無いですから、プリントの色でかなり苦労させられました。

皆既月食の色考察(3)
ソフトで強制的に色温度を変えることで、発色基準を統一させることができます。そこで最初のA1からA4の4枚を全てCT4000にしたものをC1からC4としました(左画像)。更にC1とC3について、色が変わらないように注意しながら「全体の明るさのみを調整」、それぞれC2とC4に近くなるか試したのがD1からD4です。(D2はC2と同じ、D4はC4と同じ。)

いかがでしょう?色温度を統一させれば、どう撮ったとしても色味が大きく変わらないことが分かりますね。皆既月食の画像を組み立てるとき、画像1枚のみを調整しまくる事が多いと思いますが、可能なら現象全体を一貫した色温度にしてから作業すべきと思います。トーンカーブやレベル調整、カラーバランス調整などでRGBを個別に微調整するのは、この後の作業です。(最初にいじってはいけません。)

皆既月食の色考察(4)
ダメ押しでもうひとつ。(実はここが核心部分。)C1からD1、C3からD3を生成した手順を、一番最初の「カメラ任せの色温度」のままの画像に適用したらどんな差が出るでしょうか。結果が右のE1からE4です。(E2はA2と同じ、E4はA4と同じ。)色温度を統一してないので、カメラ判断の色温度が高かったA1の発色がE2と違いますね。分かってしまえば当たり前のことですが、実際に体験・検証するまでは不思議でした。恐らく世界中の多くのデジカメが「皆既月食を色温度が低いシーンと勘違い」したため、A2のように青味の強い画像が撮影者をビックリさせたのでしょう。

カメラ内のアルゴリズムはブラックボックスなので、特に暗い皆既月食で「どんな状態がどんな色温度と解釈されるか」までは分かりません。(事実、A1画像はオートでも色温度がノーマルでした。)もちろん「センサー上に占める月の面積」「背景の光害や通過する薄雲を含め、月以外の光が混入しているか」「フィルターを使っているか」「中央重点測光か多点測光か」などでもCT値は変わります。カメラメーカーによっても解釈は異なるでしょう。もちろんこの記事のお話しはRAW画像のみに言えることです。JPEGなど圧縮や減色を施した画像はその時点で発色や階調が強制固定されてしまいますのでご注意。

オートモードのカメラが赤い月を見て「色温度が低い」と判断し、勝手に青味を引き上げました。その結果フィルムでは写らなかった青光の成分が強調され、新たな現象の発見(出現?)につながった…。デジカメ時代になって皆既月食のターコイズフリンジが突然乱発した背景には、こんな事情があったのではないかと想像しています。

もうひとつ考察サンプルを作りました。上段は部分食が始まる直前の20:32撮影、下段は記事に使ったA2の月で、それぞれを同じ色温度にして並べてみました。本来肉眼に近い色に統一するには月食進行に関わらず5000ケルビン付近の色温度で統一した画像処理をすべきです。ターコイズフリンジを発色させようと意図して色温度を変えた場合、月食前の月がどんな色になってしまうか比べてみましょう。みなさんだったらどうしますか?(何が正解とか間違いとか、そう言うことではありません。)

皆既月食の色考察(5)



参考:
皆既月食のターコイズフリンジ(2014/11/02)