貴重な満月ハロ現象の連写記録2018/02/11

20180131月食と日周
左の画像をご覧ください。なんだか不思議な絵面ですね。ロケットの打ち上げ?火球の落下?そもそも何で丸い画像??

実はこれ、星仲間のdocanさんから届いたばかりの魚眼画像です。docanさんは毎年冬期に「星空の12時間日周撮影」にチャレンジしているのですが、最近は星だけでなく月や人工衛星の通過も加えたバリエーション豊かなものを目指しているそうです。当ブログの2014年12月18日記事から12月27日記事に至る一連の12時間日周画像も、docanさんとノウハウを交換しながらの撮影でした。やってみると分かりますがとても苦労が多く、それ故やりがいのある挑戦だと思います。

さて左画像は去る1月31日の皆既月食時に撮影されたひと晩の日周でした。皆既時間帯以外は当然満月ですが、露出は星に合わせてあるそうです。ですから最終的なコンポジットで星がかき消え、青空のようになってしまうのは仕方ないでしょう。それを承知での撮影と言うことです。冬至からだいぶ経つので最初と最後はかなり明るくなっていますが、もともと満月夜ですし雲も多かったですから、気にするほどではありませんね。それにしてもちょうど皆既時間に月の光跡が細くなっているのは興味深いです。

実はこの撮影設定が幸いして、今まで見たことないような「月のハロ現象」の連写に成功しています。連写から生成した動画は実に面白い映像でした。当ブログの仕様上、静止画しかご紹介できませんが、連写全体から10コマ厳選してどんな気象光学現象が写っていたかご紹介しましょう。下表の左列はオリジナル画像、右列は極端なアンシャープマスク処理でコントラストと色彩を強めています。また主な天体名・現象名を書き込みました。自信がある方は最初に左列だけ見て、ご自身で何を見つけられるか試してください。なお連続性維持のため時刻表記を30時間制にしています。(例:1月31日27:45は2月1日3:45と同じ。)

【月食の円形魚眼連写(抜粋)・2018年1月31日・by docanさん】
元画像 解説 強調画像
20180131-1745a

17:45
撮影開始です。空のほぼ全周を円形に写せるレンズを使い、敢えて北空にシフトしています。(だから天の赤道より南側はほとんど写っていません。)左が西空、右が東空、上が南方向です。天体位置によって上下左右が大きく変化しますからご注意ください。日没からまだ40分程度しか経っていません(航海薄暮時間帯)ので薄暮が明るいですね。満月はまだ森の中。ホットピクセルとは同一ピクセルに出てしまう飽和ノイズで、星ではありません。デジカメではたくさん写るので厄介です。
20180131-1745b

17:45(強調)
20180131-1912a

19:12
19時を過ぎ、月高度は28°近くになりました。すばるの子午線通過が18:46頃なので、すばると北極星を結ぶラインのややカペラ寄りに天頂があります。月の内暈が良く見えますね。また彗星の尾のように伸びる幻月環を伴った幻月が確認できます。幻月環は月を貫き水平に伸びますので、月から幻月へ向かうラインは雲ではなく幻月環の可能性が高いです。
20180131-1912b

19:12(強調)
20180131-2017a

20:17
当初から内暈上部が少し明るいと感じましたが、ここにきてはっきりしました。この内暈には外接ハロが接していたのです。(※この現象は光源高度に応じてタンジェントアーク→外接ハロ→タンジェントアークと連続的に変化します。外接ハロは内暈上部だけでなく下部でも接します。)幻月や幻月環は薄れてしまいました。

※内暈と外接ハロの分離→2016年8月10日記事など参照。
20180131-2017b

20:17(強調)
20180131-2024a

20:24
月高度は約42°。ひとつ前の画像から7分しか経っていませんが、外接ハロと内暈の分離が進んでいます。驚いたことに、月と全く関係ない西空に幻月環が見えていました。これが雲でないことは前後の連写で容易に確認できます。(これこそが連写する最大のメリット。)もし天頂向きカメラだったら、天頂が幻月環の中心だと確認できます。
20180131-2024b

20:24(強調)
20180131-2028a

20:28
ひとつ前の画像からわずか4分後。外接ハロと内暈の分離は更に進みました。西空の幻月環は消えましたが、それを作り出した雲が東へ流れ、幻月環を伴う幻月が月近くに現れました。氷粒の移動まで感じられて良いですね。
20180131-2028b

20:28(強調)
20180131-2230a

22:30
時刻は一気に2時間飛びます。急に暗くなりましたね。月は皆既となり、ちょうど皆既が最大になる頃よく晴れていたようです。月高度は約64°。微光星が一気に増え、満月夜なのに皆既中は星が良く見えると言うことがよく分かります。また月によって照らされる雲が夕焼けのようにオレンジ色になっているのも印象的。
20180131-2230b

22:30(強調)
20180131-2400a

24:00
月高度約71°。ちょうど真夜中のこの画像には度肝を抜かされました。今まで断片的にしか見えなかった幻月環が、360°つながっています。星を頼りに天頂位置を+印で示しました。画像では内暈のほうが大きく感じますが、それは魚眼効果(ディストーション)によるもの。天頂からポルックスまで約20.5°、月からプロキオンまで約22.5°。この月高度では内暈と幻月環の直径はさほど変わりません。
20180131-2400b

24:00(強調)
20180131-2849a

28:49
月は西空約25°まで下がりました。薄曇りの空にはまだ内暈や幻月が見えます。月が低くなったため、内暈上部は外接ハロではなくややV字型の上部タンジェントアークに変化しました。また更にその上に虹色のベルトが見えます。上向きに凸であることから上部ラテラルアークと思われます。
20180131-2849b

28:49(強調)
20180131-2916a

29:16
天文薄明が始まりました。月高度は20°弱。幻月環を伴った幻月がまだ見えていますね。上画像でラテラルアークがあった位置に、今度は下向き凸のアークが出ています。これは環天頂アーク。はっきり分かりませんが、ラテラルアークと一緒に見えていたかも知れません。
20180131-2916b

29:16(強調)
20180131-2954a

29:54
連写最後のコマです。月高度は12.5°で森に隠れてしまいました。航海薄明開始後5分以上経過していますが、まだ上部タンジェントアークが確認できます。タンジェントアークが内暈より目立つときもあるのです。
20180131-2954b

29:54(強調)

なかなか撮影機会がない月の気象光学現象、出現していても気付けない淡さ、皆既月食を挟む連写記録…。どれをとっても素晴らしい貴重な記録と思いました。気象光学現象の長時間追尾撮影は昼夜を問わずいつかやってみたい夢ですが、天体撮影とは違う技術的課題が色々あります。そもそも出現日時を予測できないですから、何よりまずこのような素晴らしいチャンスに巡り会いたいもの。画像を提供してくださったdocanさんに深く感謝いたします。

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