水星探査機BepiColomboと水星地形2023/07/01

BepiColombo 3rd flyby, Jun 2023
ESAとJAXAの共同ミッション、水星探査機ベピ・コロンボが6月下旬に三度目の水星フライバイを行いました。その際に撮影した水星画像(左画像/ESAサイトから引用)を見たとき、久々に心躍りました。水星と言う惑星は太陽に近いが故に探査が難しく、1975年3月に接近したマリナー10号と2011年3月に周回軌道へ投入されたメッセンジャーの二基からしか知見を得ていません。ベピ・コロンボの画像が届くまで、水星の最新画像と言ったら十数年前にメッセンジャーが撮影したものしかなかったわけです。

何枚かの画像を見た範囲では、月面に似た表面がクレーターや崖などに覆われ、いっぽうで大きく広がった海のような地形は見当たりません。しばらく眺めているうちに、どうにも特定したい気持ちに駆られました。月面なら見慣れていますが水星は全く知らないので、せっかく目の当たりにした画像に何が写っているか分からないもどかしさ。そこで、IAUが公開している太陽系天体の名称や位置、種別などのGISデータを使ってマッチングできないかやってみることにしました。

ふだんから月面の向きを揃えるのに使っている自作プログラムを水星版に改造、ついでに画像に写っているクレーター位置を頼りに「どこからどんな向きで撮ったか」という条件を絞り込むプログラムを別途作り、マッチングさせてみました。それが右下画像です。中央付近ではほぼ一致、周辺は1°程度のずれが残りましたが、急ごしらえのアプリでここまで分かれば上々でしょうか。(※探査機と水星との実際の距離や搭載カメラ特性が分かりませんので、マッチングずれの主原因は画像歪み補正などを全く行ってないためと考えられます。)

水星地形のマッチング
水星のクレーターには音楽家、画家、彫刻家、文筆家など芸術分野に秀でた方々の名が多数見受けられます。右画像、中央少し上の大きなクレーター「Kunisada」は浮世絵師の歌川国貞のこと。日本関係では清少納言、千利休、井原西鶴、夏目漱石、吉川英次(よしかわひでつぐ=吉川英治)など誰もが知ってる面々のほか、宗谷(南極観測船)、ちきゅう(地球深部探査船)などの名称も充てられています。

地形種別では通常のクレーターのほか、Catena(連鎖クレーター)、Rupes(断崖)、Dorsum(尾根)、Vallis(谷)など月面地形でもよく見かけるものがありますが、Oceanus(海)やLacus(湖)、Sinus(入り江)など“水”に関する種別は今のところありませんでした。(水星なのに…。)他方、月面では使われないFacula(白斑)がけっこうありました。これは小惑星ケレスで有名になった高輝度の土地(ケレスでは塩化合物の堆積と考えられている)に使われた地形種別です。水星の高輝度域が何でできているか、これから解明されて行くでしょう。他にもドーナツのように二重に壁があるクレーターや、クレーター外が広域に渡って不自然に暗い地形、逆に広範囲に明るいところなどもあって興味は尽きません。

一連の図化作業を通して、水星地形が気軽に一望できる地図が無いことに気がつきました。IAUサイトでは前出のオンライン地図や15枚に分けたPDF地図も公開されていますが、もっと「月面ポスター」的にざっくり見たいときは何かと不便。そこで、NASAの画像ライブラリからメッセンジャーの画像を引用し、地形名を描き込んだ地図を作ってみました。それが下画像A…F。水星を立方体で囲んだとき、それぞれの面に平行投影された図になります。2023年6月現在、水星に登録されている573の地形を全て描いたので見づらいところもありますがご容赦を。

20230701外合を迎える水星
小さなクレーターに名前がついているのに、すぐ横の大きなクレーターが名無しのまま…といったところがあちこちにありました。まだまだ探査が進んでいない惑星ですから、今後どんどん付けられてゆくでしょう。(※実際、ベピ・コロンボ探査に際して付けられたと思われる2018年以降の命名地形がたくさんあります。)なお水星南半球の下F画像を加工中に、NASAの元画像が間違って左右反転していることに気がつきました。どなたかNASAに知り合いがいる方は指摘してあげてください。また地形名GISファイルも、同じ地形が重複登録されてるケースが複数ありました。ヒューマンエラーかも知れませんが、水星探査がまだまだ途上で、こなれてない様子が伺い知れて微笑ましい…。ちなみに下F画像中央右寄りにDisney(Walter Elias Disney/映画監督・アニメーター)のクレーターがあります。ちゃんとミッキーマウスの形をしていて、これまた微笑ましい。

本日7月1日、水星は今年二度目の外合を迎えます。左画像は太陽観測衛星SOHOサイトからの引用で、本日の水星。いちばん遠い外合時でも木星−地球間の1/3程度しか離れないご近所惑星なのに、地上からでは満ち欠けが分かる程度。アマチュアの小さな望遠鏡では地形など到底見えない小さな惑星。探査機ベピ・コロンボは水星地図作りが目的ではないのでしょうが、フライバイの度に新たな命名がなされるかも知れませんね。様々な観測機器による今後の成果を多いに期待しましょう。

  • 水星マップ:経度0度

    A.中央経度0°・中央緯度0°
  • 水星マップ:経度90度

    B.中央経度90°・中央緯度0°


  • 水星マップ:経度180度

    C.中央経度180°・中央緯度0°
  • 水星マップ:経度270度

    D.中央経度270°・中央緯度0°


  • 水星マップ:北半球

    E.下方経度0°・中央緯度90°
  • 水星マップ:南半球

    F.上方経度0°・中央緯度-90°


参考:
水星の尾をとらえる(2023/04/26)
アーカイブ「水星の尾の見頃」