一日が一番短かった日2022/08/17

LOD変化
今月初めころに「今年6月29日は観測史上最も短い日だった」あるいは「自転時間が最速だった」という見出しのニュースをあちこちのメディアで見かけました。

当ブログではかなり前から閏秒について取り上げており、LOD(Length of Day)、つまり一日の長さ変化を度々グラフに描いてきました。ここで言うLODとは24時間そのものではなく、24時間=86400秒に対して「地球が1回の自転に要した実時間の観測結果がどれだけずれていたか」という差分のこと。この差分は日々変化しており、例えば2020年元日から今年7月17日まで(本日公開されている最新)をグラフにすると左図のようになります。この差分がゼロから離れた状態で何ヶ月も何年も続くと、自然界(天体)基準の時刻と原子時計基準の時刻が1秒を越えるほど乖離してしまうため、閏秒調整が入るというわけです。

冒頭に書いた史上最短日のニュースを見て、個人的に「あれっ?時期尚早なのでは?」と感じました。というのも、ニュースが流れた時点でIERS(International Earth Rotation and Reference Systems Service/国際地球回転・基準系事業)から公開されていたLOD測定値は約一ヶ月前の7月5日まで(公開は約1ヶ月遅れるのが慣例)でした。左上図で分かるように緩やかな1年周期の波が極小になるのは7月中であることが多く、せめてもう半月ほど待たなければ本当に極小になったか分からないと考えたのです。もちろん本日描いたこのグラフを見れば6月29日が今年の極小オブ極小であったことはほぼ確定的ですが、それは結果論。月初めのニュースのときは勇み足に思えました。

あらためて左上図・薄紫線を見ると、細かく上下する波と、1年周期と思われる大波がありますね。公開されている最も初期の1962年まで遡って同様に描いたグラフが2021年1月8日記事にありますが、どこまで遡ってもこの大波小波があります。自転に大きな影響を与えているのは海水や大気の粘性と言われており、海の大局的な状態は太陽や月によって変化(天文潮)しますから当然と言えましょう。

試しにLODの極大極小日を全て算出したのが左上図の緑×印と青×印で、周期の平均はおよそ13.8日でした。これは1朔望月の半分より少し短く、1恒星月の半分に近く、大潮小潮の周期にも近いですね。各極小極大日の月相が気になったので、全部の日について月太陽黄経差を計算してみました(下A・B図)。10°区切りで出現頻度(回数)を示してあります。これを見る限りどの位相もまんべんなく出現しているようです。

面白いのはここからで、1年区切りで極小極大を取り出した上で同様に計算すると下C・D図のようになりました。これは偏ってると言わざるを得ません。また、ここにグラフは載せませんが、別集計によると年間極小ピークは6月13日から8月19日頃に収まり、特に年始から190-200日過ぎた頃に集中しました。確率的に一年の中で地球自転がいちばん早くなるのは7月の新月または満月ごろであると言えるでしょうか。ニュースになった今年6月29日UTの極小日はまさに新月。また、その次の極小日である7月13日UTは満月でした。このことを私は経験的に知っていたので、前述したように7月の満月過ぎのLOD発表(→1ヶ月後、つまり今月半ば)まで待って確認してからのほうが確実ではないかと考えた次第。(※斯くして本日この記事を書いたわけです。)

まぁ、どなたも気に留めないような小さな出来事ですし、旬なうちにいち早く発表したいと言う気持ちも分かりますけれど…。

  • LOD全極小日の太陽黄経差

    A.全極小日の月太陽黄経差
  • LOD全極大日の太陽黄経差

    B.全極大日の月太陽黄経差


  • LOD年間極小日の太陽黄経差

    C.年間極小日の月太陽黄経差
  • LOD年間極大日の太陽黄経差

    D.年間極大日の月太陽黄経差


参考:
日出没・暦関連の記事(ブログ内)

コメント

トラックバック