土星が衝を迎えました2022/08/15

20220815土星
土星が本日15日に「衝」を迎え、見頃です。

何人かの知人サイトで土星の画像を拝見するたび、自分も観察したいなぁと思っておりました。ただ、この夏は度重なる悪天、シーイングの悪さ、倒れるほどの深夜の暑さなどに阻まれてなかなか叶いません。昨夜も雲が多かったのですが、夜半過ぎに仮眠から覚めて外を見ると雲量が2割ほどに落ちていました。幸い南側の月や土星、木星周囲の雲はほとんどありませんので急きょ望遠鏡をセット、撮影してみました。

やはり度々雲が湧くような空ですから期待したほどのシーイングはありません。それでも衝のタイミングで土星を観察できる喜びが勝りました。眠い画質ですが0時過ぎの撮影画像を左に掲載します。ずいぶん環の傾きが無くなってきましたね。位相角最小まで約1.5時間前のすがたです。

2022年・土星の位相角
    【2022年8月15日の土星メモ】
  • 黄経衝の瞬時:02:10:33 JST
  • 赤経衝の瞬時:12:32:40 JST
  • 地球最接近:06:47:53 JST、8.856841 AU
  • 位相角最小の瞬時:01:55:30 JST、0.1337°


前後1.5ヶ月ほどの位相角の変化を右図に示しました。位相角とは地心・対象天体・太陽がなす角。もし位相角がゼロなら太陽・地球・対象天体が一直線に並んでいることになりますが、自然の天体ですからそんなにうまくは行きません。グラフは微妙にゼロから浮いていますね。

20220815木星
位相角が1°より小さいと衝効果が顕著になると言われます(→2015年5月19日記事参照)。今期は継続して撮影してないためよく分かりませんが、左上画像のB環はやや明るく写っているようです。比較対象が無くて残念…。

土星に続き、月を飛ばして木星を観察しました。たくさん配線した状態の機材をテレスコープイーストからウエストへ動かさなくてはならなかったため、撮影自体は簡単でもセッティングに苦労します。木星は土星より高度があり、少しだけ安定していました。乱れた気流にも流れの本流と穏やかなところがあるようです。土星よりは少しだけ写りが良くて安心しました。

ちょうど大赤斑がそろそろ隠れるような位置でしたが、何とか間に合いました。衛星も全て見えていました。撮影したけれど今回は掲載割愛。このあと月撮影に取り掛かったところで全天雲に覆われてしまい、終了…。

ところで、知人のterujiさんが土星の環の傾きや消失時期について取り上げられていたので、以下に詳しく説明を試みます。環の傾きについては以前2017年10月17日記事にて環がいちばん開いた(傾いた)時期にも取り上げていますから併せてお読みください。

ご存知のように、環が見えなくなる「環の消失」は大きく二種類あります。「地球から見て環を真横から見る位置関係のとき、薄すぎて見えなくなる」ケースと、「太陽が環を真横から照らす位置関係のとき、環が光らなくなって見えなくなる(※このときは太陽系のどこから見ても環が暗い)」ケースの二種類ですね。この位置関係はおよそ15年ごと(土星の公転の半分)に二種類とも集中した時期に起こり、次回は2025年春になります。

具体的に見てみましょう。地球から見て環を真横から見るというのは(環が土星赤道面=緯度0°に広がっているものとすれば)、地球から見た土星の中心緯度がゼロになるということ。また、太陽が真横から照らすというのは太陽から見た土星の中心緯度がゼロになるということ。お月様の秤動と同じで、惑星の中心緯度経度は常に変わるのです。前述記事に地球からみた傾き変化グラフが載っていますが、2025年前後について詳しく描くと下A図のようになります。このグラフで、青線や赤線が0°ラインと交差するところが「環の消失」の日時なのです。

二種類の消失は一回ずつとは限りません。例えば2038年から2039年に起こるケースのグラフをご覧ください(下B図)。赤線は一回のみですが青線は三回も交差してますね。このときは計4回も消失を観察するチャンスがあるのです。ただ、消失のタイミングは日本での土星の見やすさ等と関係なく起こりますから、絶対見えるとは限りません。 それぞれのタイミングと、日本の夜空での見やすさ(太陽離角や高度など)とを調べる必要があるでしょう。前回の消失は2009年晩夏でしたが、夕空低すぎてほとんど見えませんでした。その前の1995年春-夏は太陽離角が大きく見やすいものでした。この時撮影されたハッブル宇宙望遠鏡による画像が有名になりましたね。

2025年の消失は条件が悪いけれど、何とか見てみたいものです。瞬時でなくとも、前後一、二週間ほどは環が見辛い時期ですから、天気さえ良ければチャンスはあるでしょう。(月惑星研究会/ALPO-Japanサイトやアストロアーツサイトのギャラリーには過去の土星観測画像がアーカイブされているので、消失日前後の画像を調べてみてください。)

ToUcam
なお2025年の消失は「3月と5月の2回」と多くの資料に書いてありますが、下グラフから分かるように2025年11月下旬前後も中心緯度が0°に極めて近くなります。完全消失ではないけれど、同年夏・秋よりもずっと環の傾きが少ないんです。土星は宵空で見やすい位置に移動してますから、薄くなった環を観察するのに絶好の時期と言えるでしょう。極小は11月24日19:47JSTごろ。どうぞお見逃し無く!※2025年初冬に一般向け観望会を企画する方は「土星の環が見えない」ことを念頭に企画してくださいね。(日心から見た土星中心緯度は大きくなっていますから、土星の環の影はしっかり見えていることでしょう。黒線が引いてある変な星としてウケるかも。)

ちなみに2000年代初頭と言えば、アマチュアの惑星撮影と言ったらまだ民生用ビデオカメラやWebカメラ(ToUcamなど/左画像)+初代Registaxが主流でしたね。USBも1.xで低速でした。今のように惑星に最適化された廉価な専用カメラもありません。3年後の消失現象はわたしたちが惑星記録に十分な機材とノウハウを持つようになって初めてのことではないでしょうか。

  • 2025年土星の環消失

    A.2025年の環の消失
  • 2038年土星の環消失

    B.2038-2039年の環の消失

  • ご自身でプログラムが作れる方は中心緯度を計算できますが、JPL-Horizonsなどを利用することもできます。上図はJPL-Horizonsの数値結果を使いました。
  • Horizonsでは「Target Body: Saturn Barycenter」または「Target Body: Saturn」、「Observer Location: Geocentric(※地心計算)」とし、「Table Settings」で「Observer sub-lon & sub-lat」と「Sun sub-longitude & sub-latitude」を計算項目に加えてください。
  • 「Observer sub-lat」が地心から見た土星中心緯度、「Sun sub-lat」が太陽から見た土星中心緯度に相当します。
  • 日付が絞れない場合は、計算ステップを1ヶ月→1日→1時間…というように狭めながら「Observer sub-lat」と「Sun sub-lat」の符号が変わるところを探し、最終的に分単位で正確な日時を求めることが可能です。
  • いくつかのサイトや文献で確認すると消失日時が異なっていることが多いです。計算法や使用暦表により変化しますし、土星までの距離による光到達遅延時間を考慮してないサイトデータもありました。細かいところが気になる方は引用したデータがどんな前提で計算されているかご注意ください。


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