今年最大の満月=スーパームーンなのか?2021/05/25

2021年5月・月の視直径変化
未定義なのに、世間ではとうとう「今年最大の満月」=「スーパームーン」という認識になってしまったようです。毎年感じることながら、本当にこれで良いのかな?

明日の皆既月食に関する各種ニュースで「スーパームーン」という表現をしていないのは国立天文台くらいでした。何ら定義のない用語ですから、独自の定義を明示して使うなり、不明瞭なら使うのを避けるなり、使う指針を決めることが筋であると思われます。ところが現状そうなっていません。

ここで言うスーパーは見かけの大きさ=満月視直径が「大きい」ことの形容。本来の「スーパー」は特大とか特上とか、めったに無いことを表す名詞・形容詞ですから、使う頻度が増すほど価値がなくなるでしょう。「市民のみんながスーパーマン」なら、つまりは「全員普通の人」ですよね。今月の満月は今年の満月の中では最大ですが、地心計算で比べたら4月27日の満月瞬時が33′ 25.0037″、明日5月26日の満月瞬時が33′ 25.8731″で、差はわずか0.8694″。日本の平均的な大気のゆらぎより小さい量です。今月がスーパーなら先月もスーパーで然るべき。

また、満月比較は一般に地心計算なので、地表で観察している私たちは地心順位と異なる月の大きさを見ています。4月がスーパーではなく今月のみがスーパーと言い張っても、「じゃあ観察場所や時間の差は考えなくて良いのか」ということになるでしょう。

記事内に今月の月直径/距離の地心計算/測心計算の図を掲載しました。一日内の変化を無視した場合、人工衛星がそうであるように、南中のころの月が“自分に”一番近くて大きく、また地球の反対側の月が(見えないけど)遠くて小さくなり、測心ならではの振動が生まれることが分かるでしょう。満月ではないけれど、昨夜や今夜の月の南中時は「地心計算の満月瞬時」よりはるかに大きく、4月5月の地心差など全く問題になりません。このちぐはぐな比較でスーパーと言い張ることはどうにも納得できませんね。

2021年5月・月の距離変化
「今年はこの色が流行」「これが最先端のファッション」「来年のトレンドは云々…」といった表現に胡散臭さを感じる方は少なくないでしょう。マスメディアでのこのような表現は真偽に関係なく「意図的に誘導している」ことになるため、フェイクかどうか確かめる前に消費者心理を動かしてしまいます。悪く言えば「洗脳」。

独り歩きしている「スーパームーン」も同類でしょう。完全にイベント志向に陥ってる気がしませんか。十分に分かっている人同士が使うならともかく、大勢の天文初心者や関心を持ってない人も読むメディアや天文関連施設・天文情報サイトで『未定義』に使う表現ではないと考えますがいかがでしょうか。きちんと定義・計算して使っているケースすら見たことがありません。間違ったまま進む伝言ゲームのようです…。国立天文台が頑なに使わないでいることはとても好感が持てます。すばらしい。

今日あらためて精密計算してみましたが、1900年始から2099年末まで2474回の全満月のなかで、明日の満月は地心計算で201位、測心計算では166位という視直径でした。(※暦表JPL-DE440sを使った自作プログラムによる計算/測心位置は当ブログ基点の茨城県つくば市。)個人的には20位以内(1%程度)、緩めてもせめて50位以内だけを「スーパームーン」にしたいなぁ。

参考:
アーカイブ「大きい満月」
アーカイブ「小さい満月」