明るい星の重星系はどこまで見えるか・Part12021/05/18

20210228_シリウス重星系
伴星を持つ1等星クラスの明るい星と言ったら、シリウスやリゲル、カストルなどを思い浮かべるでしょう。アンタレスも仲間に入れたいですね。

私のようなアマチュアの観察対象となる重星は、多くの場合「主星と伴星」のペア。トラペジウムのような多重星系や、主星または伴星が更に連星をなしているケースもありますが、どちらかと言えば少数派です。アマチュアの望遠鏡で分離不可能な分光連星も問題外。だから、「シリウスって伴星があるんだよね」という話をするとき、ほとんどの方は「あぁ、シリウスBってなかなか見えないよね」という話題で完結してしまうでしょう。

かつてシリウスBを撮ろうと奮闘して毎回玉砕していたころ、「これじゃないのか?」と疑問に思っていた星像がありました。左上画像(2021年2月28日撮影)の黄色矢印で示した星です。ゴースト等ではなく、実在の星として写ります。シリウスBも主星すぐ左上に写ってますが、方向角が微妙に似ているため、焦点距離が短い望遠鏡で露出オーバー気味に撮影すると、伴星が主星に完全に飲まれ、代わりに黄色矢印の星がシリウスBの様に写って勘違いするわけですね。写角を正確に算出し、主星からの離角を求めるとシリウスBよりずっと離れているから間違いに気付くのですが、そこまでやらない人は「シリウスB撮ったどー」と喜んでしまうでしょう。更に言うと、もっと外側にもいくつか微光星が写るため、写野の方向を正確に合わせず撮影すると全く別の星を指して「撮ったどー」になってしまうのです。重星の観察や撮影は、方位と視野角とを正確に把握して行う必要があります。

さてここからが本題。シリウスなど明るい星を調べたら、伴星がBだけではないケースがたくさんありました。たいていは10等以下の暗い星だから見過ごされがちですが、なかなか興味深いと思いました。重星カタログとして有名なWDS(The Washington Visual Double Star Catalog)を紐解くと、たとえばシリウスなら、シリウスB(8.44等)、シリウスC(12.6等)、シリウスD(14.0等)、シリウスE(14.5等)、シリウスF(13.8等)まで載っており、C以降はBより離角が大きいから露光条件によってはちゃんと撮影可能でしょう。…この面白さに気づいたのが今年2021年の2月頃でした。

重星系星図サンプル(シリウス)
明るい星の周りにある暗い伴星たちを『ひとつだけではなく全部写したい』と思い、試行錯誤をはじめました。ところがすぐ壁に当たります。伴星を同定するための星図がありません。みなさんも経験あるかと思いますが、写真星図にしろ図版星図にしろ、明るい星は大きく表現され、主星近隣の数秒角から数百秒角以内の宇宙は隠蔽されているんですよね。シリウスBのように有名なものは図化されているけれど、シリウスC以降が載ってるのは皆無。さぁ困ったゾ。

じゃあ無いなら作ってしまえ!ということで、WDSカタログを読み取って離角や方向角から星図を描き起こすプログラムを作りました。例えばシリウスでは右図のようになります。+印と×印を組み合わせたマークが主星位置。これはスパイダー回折像を使って方位合わせをする前提で描いてあります。

水色ドットはカタログが示す伴星位置(できるだけ最新の観測値)。近くの英文字は、例えばB(A)なら「A星基準で測ったB星」という意味。B星からC星を測るような伴星間の観測もあるため、どこから見てるかは重要です。また基本的にA星が主星を表しますが、主星そのものが近接連星の場合はAa、Ab…など分岐してしまうためなかなか面倒。この星図プログラムはまだ発展途上です。ちなみにシリウスDが載ってないのは、後述のようにD星だけ最新観測年代が古く(1915年)、1990年より前をカットしたからです。

20210228_シリウス重星系
かくして、最初の画像に星図を重ねたものが右画像。微光星が見やすいよう、ベースの輝度やコントラストを調整してあります。実在する星は直角線マーカーで示しました。この写野にはBのほか、CとFがあるはずでした。でも該当位置ぴったりに星像はありません。緑直角マーカー(最初の画像で黄色矢印の星)がF星に近いので、これがシリウスFの可能性もありますが、等級を考えるとちょっと明るすぎますね。いっぽう、マゼンタ直角マーカーの位置にも星像があります。これは等級がシリウスF並ですが、だいぶ位置がずれています。

実はこの星図を使った同定作業には年代の問題があります。つまり、WDSのデータは必ずしも観測年が揃っていないということ。ものによっては10年、20年、30年前のデータが「最新」として掲載されているんです。もし連星として公転してるならば、位置が大幅に変わっている可能性があります。シリウスBのように詳細に観測されていればかなり正確な軌道要素が分かっているけれど、1等クラスの伴星で判明してるケースは少ないですね。

自作星図プログラムは軌道要素が分かっている伴星について位置を修正する機能をまだ組み込んでいないため、左画像ではシリウスBがズレています(カタログ値最新は2016年の観測)。軌道が分からない大部分の伴星はどうしたら良いか、今のところアイディアがありません。ですが、とりあえず1等星クラスをどんどん撮っていって現状を確かめるのは実に面白そうです。(→Part2へ続く