最後の長征5号Bを観察2021/05/08

20210508長征5号B
昨日は浮かないお天気で、夜半前まで雨が残りました。日付が今日になり、回復傾向になる予報は出ていたものの、湿度が高くて霧に覆われそうな大気状態でした。よもや、ここまで晴れるとは…。もうすぐ落下する長征5号Bロケットが見えるラストチャンスがいきなりやってきました!

晴れてきたのが2時前頃、通過パスは2:54。ゆっくり計画する暇はありません。我が家からは低くて完全に見えない位置だったため、最低限の機材を持って近くの公園へ向かいました。まだしっとりしている芝や木々。音が響かず、いつもより静かに感じます。

長征5号B通過の20分程前にコアモジュール天和の通過パスもあったので、まずそれを撮影。ところが霧と光害とで強烈なカブリが発生しました。写ってはいるけれど、どうもおかしい。調べると、なんとレンズが曇っています。キャップを取って数分でも曇ってしまう湿度でした。

20210508長征5号B
これは困った…ヒーターなど持ってきてないし、長めのフードを付けていたけれど、それでも曇ってしまいます。仕方がないので、撮影直前まで羽織っていたシャツで拭いていました。

かくして撮影したのが左上画像。一応カラー画像なのですが、あまりにも光害かぶりがひどいため、可能な限りソフトウェア機能でかぶり除去をしてあります。左上にカシオペア座、中央から右にかけてアンドロメダ座やペガススの四辺形の一部が写っています。肝心の長征5号Bは目視では全く見えず、ぱっと見た限りでは画像上でも分かりませんでした。もう落下してしまったか…。

予報位置を何度も何度も見ているうち、星のように見えていたものが人工的な点線を描いていることに気が付きました。線状の軌跡ばかり探していたため見逃していたのです。あらためてその弱々しい点像を浮き立たせるように画像処理したのが右上画像。赤矢印に挟まれた位置に点滅する軌跡が見えていますね。予報位置ぴったりでした。不規則ながら10秒間でおよそ3.5回の点滅、どうやらランダムに回転しているようです。錐揉み状態なのでしょうか?

20210508長征5号B・位置と高度
朝時点での軌道要素で今日一日ぶんを描いたのが左の軌道図(TLE元期5月7日11:34:37UTC)。上の画像は東北地方を2:50過ぎに通過したコースです。このときの高度は220km前後。かなり低いですね。超低高度衛星技術試験機「つばめ(SLATS)」が飛んだ大気抵抗の大きい高度です。

全体としても昨日の図より更に赤く(=低く)なっていることが分かるでしょう。この図内では最低高度157.417km、最高高度238.246km。今日中に落下しそうなペース。でもスペースクラフト・セメタリーに落下させるコースはもう過ぎてしまった(正に今朝観察したコース、または一周後のコース)ので、明日まで高度を維持させるのか、別の場所に落とすのか…。さぁて、どうなりますか?(※落下せずに明日朝まで持ちこたえているとすれば、明日明け方にも日本上空通過の条件良いパスがあります。条件良いパス=落下の危険も大きいということですけど…。)

20210509長征5号B・位置と高度
【5月9日10時追記】
今朝時点の軌道要素で9日一日ぶんの軌道図を描きましたので左に掲載します(TLE元期5月8日12:31:57 UTC)。この図内での最低高度は133.279km、最高高度は196.947kmまで下がりました。本日昼頃に落下予想が集中しているようです。左図によれば大西洋→地中海→アラビア半島→インド洋を通るコースでしょうか。

20210509長征5号B・落下地点
【5月9日14時追記/修正】
米国・第18宇宙管制飛行隊(18th Space Control Squadron)によると、長征5号Bは9日11:14JSTごろ、北緯22.2°、東経50.0°付近で大気圏再突入したとのこと(→Space-Track経由のtweet)。また中国の発表では「11:24JSTに北緯2.65°、東経72.47°へ落下した」とのこと(左図/赤線は左上図に同じ)。

現時点で落下目撃や破片などは確認されていません。一点に集中することはないため、広範囲に散った可能性はありますが、過疎地であっても人が住む陸域や島国の上空での落下シーケンスであったことがとても気にかかります。ほんの5分、10分早かったら、地中海諸国や中東の人口密集地だった可能性もありますし…。(※10日付記:情報を読み返して整理していたところ、18SPCS発表文が落下ではなく「reentered atmosphere」になっていたことに気が付き、記事と地図を修正しました。失礼しました。)