今度はSOHOに写り始めた紫金山・ATLAS彗星2024/10/08

20241007-2006UT_SOHO-C3
見かけの上で太陽に近づく紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)が、ついに太陽観測衛星SOHOのLASCO-C3カメラ写野に現れ始めました。日本時間で日付が8日に変わる少し前からです。左画像はSOHOサイトからの引用で、7日20:06UTC(8日5:06JST)の画像。今後どんどん全体が見えてくるので、もう少し溜まったらアニメーションにしてみましょう。約三日後に写野を脱し、宵空へステージを移します。

画像内の日付マーカーは2024年10月5日記事掲載の進路予報を組み合わせたもの。UTC表記で2時間おきにマークしてあります。また、10月8日0:00JST現在の軌道要素で計算すると次の通り。

・近日点通過日: 2024年9月27日 17:45:36 UTC(0.391411 AU)
・地心太陽離角最小: 2024年10月9日 09:56:54 UTC(3.497°)
・地球最接近: 2024年10月12日 15:11:30 UTC(0.472419 AU)


SOHOのカメラに写るほど太陽に近いと言うことは「位相角」が180°に近いと言うこと(下A図)。位相角とは「彗星」ご本人から見た太陽と地球の離角です。つまり「地球-彗星-太陽」の順に直線状に並んでいるのです(下B図・リンク)。金星で言うと内合に近い状態ですね。地球はしっぽ側から彗星を見ていることになり、その先に太陽があります。

太陽や地球に接近する彗星が明るく見えるのは「天体が光源に近い」「観察者が天体に近い」といった距離の効果が大きいおかげですが、もうひとつ、今回のような合の位置に近い彗星は身に纏った粒子が「前方散乱」を起こすことによって想定より光度が増す事例が少なからずあるようです。現在の紫金山・ATLAS彗星が予報を大きく上回っているのもそのせいではないかと言われます。いずれ観測と研究が進んで諸々判明したら嬉しいですね。

なお「前方散乱」と「衝効果」は似て非なるものですからお間違え無きように。そもそも彗星は今「衝」にいません。(衝および外合は位相角がゼロに近い。)衝効果を引き合いに出すなら寧ろ「後方散乱」で、視線方向は真逆です。

  • 紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)の位相角

    A.位相角
  • 20241009軌道図

    B.軌道図(10月9日)


彗星と関係ありませんが、朝に太陽データをまとめていたらXクラスフレアが発生していました。右下に活動領域が密集し過ぎて位置特定が困難ですが、活動領域13839かな?

NOAAによるX線フラックスは下C図の通りです。途中M7クラスまで落ちてはいますが、トータル2時間以上強い状態が続きました。SDOやSOHOの画像でも激しい爆発の様子が確認できます。これ、彗星にぶつかる???

  • 20241008_X線フラックス

    C.GOES X線フラックス
  • SDO_20241007_193532_1024_0131

    D.SDO
  • SOHO-C2-20241007-2112

    E.SOHO C2カメラ


STEREO-A写野に戻ってきた紫金山・ATLAS彗星2024/10/06

20241006_STEREO-A
太陽観測衛星SOHOよりひと足早く、STEREO-Aの写野に紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)が再登場。8月以来です。

左は本日6日14:17JSTごろの画像。ディティールが全く分からないほど明るい彗星が横切りつつあります。上向きの白い縦線(スミア+ブルーミング)が出てしまうほどの明るさなんですね。背景がノイズやコロナ、CMEなどの影響で見辛いけれど、星を特定してみました。明るい星が暗かったり見えなかったり逆転現象が起きてますが、特定できた恒星の位置関係は合っています。

ご存知の通り10月に入り太陽面で強いフレアが度々発生、やや大規模なCMEが地球付近まで飛んできている最中なんですね。下A図はNOAAのWSA-ENLIL SOLAR WIND PREDICTION、要するに太陽風予報です。コロナ放出の度にプラズマの大波となって地球軌道まで押し寄せる訳ですが、同じ地球軌道を回るSTEREOたちにとっても機器エラーを起こすほど影響があります。実際STEREO-Aの画像は2日から4日の間が空いてしまい、しかも復旧後はご覧のようにすり切れて壊れかけたビデオ映像みたいな画質になってしまいました。下B図は4日から5日にかけての画像を使ったGIFアニメ。太陽“風”とは言うけれど、本当に波のようですね。※タイムマークはUTです。

もうほとんど壊れてしまったSTEREO-Behind(L5に配置)のぶんまで頑張るSTEREO-Ahead(L4に配置)は、地球より少し先を回っています。(Lはラグランジュ点。)振り返るとてんびん座やさそり座の広がる位置に地球と彗星、それに金星が輝いている訳ですね。ううっ、見てみたい!しばらく大海原は時化ているから鮮明に見える日が来るかどうか分かりませんが、あたたかく見守りましょう。

  • 太陽風とSTEREOの位置

    A.太陽風予報(説明図)
  • 20241004太陽風予報

    B.太陽風予報(動画)


気象衛星がとらえた金環日食の月影2024/10/03

20241002_0150JSTひまわり画像
日本時間で今日未明に金環日食が起こりました。日食中心帯はハワイの南海域から赤道をまたぎ、南米を横切って大西洋に抜けるコースです。

もちろん日本からは全く見えませんでしたが、日本の気象衛星ひまわり9号はハワイまでカバーしていますから、日食月影が写ることは予報できました。左画像は本日3日1:50の画像(画像元:NICT)。朝焼けに染まる太平洋のやや北寄りに暗い部分が広がっていますね。ハワイ付近では1:30JST前ごろ日出時に日食が始まっている「日出帯食」でした。左画像はそこから少し経って、月の影が赤道に向かう途中の様子です。

影の付近を切り出してアニメーションにしたのが右下画像。クリックして再生してください。ひまわりから見えない向こう側に移動しつつ南下してゆく様子が分かるでしょうか。

今回の日食はまさにアメリカの気象衛星GOES-18(WEST)とGOES-16(EAST)のためのような位置でした。下A・B画像として、日食月影を捉えたそれぞれの衛星画像を掲載します(画像元:RAMMB/画像処理・地図等は筆者)。金環日食ですから皆既食ほど影が濃くありませんが、それでも月の影があることははっきり分かりますね。なおGOES-16に写ってるブラジル北東の巨大な渦はハリケーン「KIRK」。

20241002_ひまわり日食
気になるのが、「金環日食中に紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)は見えたのか」ということ。両者を一枚に収めた画像がそのうち天体写真投稿サイトに出てくることを期待します。

次の日食は来年3月と9月の部分食。それぞれ北極圏と南極圏をカバーする高緯度日食です。最大食分が0.8を越えているので人工衛星が捉えられるぎりぎりの減光と思いますが、高緯度ですからかなり見え難いでしょうね。その次は2026年2月の「南極金環日食」と8月のグリーンランド皆既日食。これまた高緯度日食です。一日中夜が来ない空での日食なんて新鮮で幻想的…。

  • 20241002_1730UT_GOES18

    A.GOES18-17:30UT
  • 20241002_1900UT_GOES16

    B.GOES16-19:00UT


参考:
アーカイブ「静止気象衛星による日食月影の可視範囲」

宇宙を飛ぶ青い鳥は幸せを呼ぶか?2024/09/14

20240914_Blue Walker-3
AST SpaceMobile社がBlue Walker 3(以下BW3)を打ち上げたのはちょうど2年前、2022年9月でした。世界各地で「明るい人工衛星がまた増えた」と噂になり、あちこちでその光跡が観測されています。

BW3は実験機(プロトタイプ)であり、右下画像((C)AST SpaceMobile社)の様に板状のフェーズドアレイアンテナを敷き詰めた平面アーキテクチャが特徴です。大きさは8メートル四方(約64m²)、間取りなら40畳、土地なら20坪。こんな形状なので、地上からアマチュアの望遠鏡でもなんとか形が捉えられるそうです。

今宵たまたま私宅上空でほぼ天頂通過だったので、カメラを用意してまっていました。ところが日没と共に雲が増えてしまい万事休す。それでも定刻にシャッターを切り続けていたらたまたま雲間から数コマとらえることができました(左画像)。

形状は先日観たNASAの宇宙ヨットACS3(約9メートル四方)に似てますが、BW3はアンテナ面を地上に向けっぱなしですから明滅は無く、安定した光り方です。左上画像は上方向が北で、画像中心のアルビレオ(βCyg)の少し北側で最高高度=最高光度でした。雲が邪魔で見えなかったけれど、見えた範囲ではデネブより暗くアルビレオよりずっと明るかったです。Heavens-Aboveの予報光度1.7等と言うのはほぼ合ってると思いました。今日を含めて三日間の高高度パスが続くので、明日・明後日も見てみようと思います。

Blue Walker3
ところでAST SpaceMobile社はつい三日前の9月12日にBW3そっくりな実用機「Blue Bird」を5基まとめて打ち上げました。同じBlueの名で「あれっ?」と思ったら、こちらは実用機だったんですね。いよいよダイレクトモバイル通信事業に乗り出すようです。「Blue Bird A」から「Blue Bird E」まで、衛星番号はそれぞれ61045から61049まで連番、14日時点でCelestrak.orgなどから軌道要素が入手可能、つまりプラネソフト等で追いかけられます。明日朝には幅30°+α程度で並んで飛行する低空パスがあります。空の条件が整ったところでは1等台の明るい『Blue Bird Train』が見えるかも知れません。将来的に数千基レベルの打ち上げが予定されているようで、あちこちに一等級の衛星が飛び交う時代になると考えると憂鬱です。

なおスターリンクもモバイル通信用の衛星が半年以上前から打ち上げ始まっており、DTCタイプ(Direct To Cellphone)と呼ばれています。Heavens-Above予報サイトなどでは衛星名にDTCが付与されているので区別がつきます。近年のスターリンクトレインは青っぽく見えますが、あれもDTCの特徴らしい。通信特性上、モバイル用衛星はあまり高く上げないことが予想され、Blue BirdシリーズもスターリンクDTCも500km未満(大抵は300-400km程度)で運用されるようです。つまり、地上から見ると「より明るい」ということですね。はぁ…。

スターリンク高度分布
(追記)参考までに14日現在のスターリンク遠地点高度(地面からの高さ)分布を図化したので左に掲載しておきます。DTCタイプは低めの軌道に設定してあることが一目瞭然ですね。近地点高度との差は最小0.030km、最大41.181km、平均2.227kmで、全機がほぼ円軌道と見なせるため省略。

左図を見る限り、何十もの衛星を一度に予定高度に打ち上げても、軌道を離脱して高度を下げてしまう衛星が新旧問わず一定の割合で存在することも分かります。

(24.09.20追記)
打ち上げ後にしばらく「Blue Bird」の呼称で呼ばれていましたが、その後「SPACEMOBILE-001」から「SPACEMOBILE-005」までの呼び名に変更されたようです。衛星名で検索するときはこちらを使うと良いかも知れません。三桁の番号付きと言うことは1000機上げるつもり???