紫金山・ATLAS彗星はまだ順調に増光中 ― 2024/08/31
紫金山・ATLAS彗星(C/2023 A3)がそろそろ肉眼等級になっている時期ですが、残念なことに確認できません。彗星が太陽に近く、かつ南側に入り込んでおり、地上から見て死角にいるからです。こうした死角があることは彗星や小惑星など移動天体を追いかけてるプロアマ以外に知られることが少ないと思います。以前に書いた「彗星が見えない」ひとつの理由に解説がありますからご覧ください。当然ながら光度観測も8月上旬を最後に途絶えています。
この彗星は一時期「核が崩壊して暗くなってしまうかも」と報道され、がっかりした方も多いでしょう。太陽観測衛星SOHOから見えれば確認できるのですが、少し遠い軌道なので写りません。半ば諦めていたところ、Spaceweather.comの8月27日記事で、同じ太陽観測衛星のSTEREO衛星に写っていたことを知りました。調べたところ、8月1日8時UTから22日0時UT過ぎのショットまで実に730枚以上の証拠写真が残されていました。
左画像はその一枚(STEREOのサイトから引用)。彗星以外の星も分かるよう、マーカーを入れました。ご存知のようにSTEREO衛星は古く、立体的に太陽コロナのCMEなどを観測する二基の衛星のうち一基(STEREO-Behind)は既に壊れています。左上画像は生き残っているSTEREO-Aheadの撮影。画質は荒いものの、彗星の尾もちゃんと見えていますね。STEREO-Aは現在地球より少し先を太陽公転しており、太陽や惑星、彗星、背景恒星の位置関係が地球から見た場合とかなりずれます。今回はこれが幸いして、地球から見えない彗星が見えたと言うわけ。ちなみにSOHOは地球・太陽の直線上(L1ポイント)にいるため、地上から見た太陽、惑星、恒星の位置関係とほぼ一緒の景色が見えます。今後このSTEREOのように地球軌道を先行・後行する衛星がたくさん配置されたら、地球接近小惑星の監視などを含めた死角が無い太陽系の立体観測が可能になるんじゃないかと期待しています。
8月6日0時UTから18日0時UTまで抜粋49枚の画像を使い、GIFアニメ化してみました(右画像)。クリックすると再生します。彗星位置にマーカーを付けてあります。ファイル軽量化のため白黒トリミングしてあるのでご容赦を。
この画像のころは7等台と当初の予報通りで、崩壊している兆しは感じられません。本当に消えてなくなるまで彗星の動向は全く分かりませんから、過大評価も過小評価もせず、フラットな気持ちで準備を怠らず待ちましょう。
9月20日前後には日本の空に戻ってきます。明け方の東空、超低空ですから、見晴らし良い場所を探しておきましょう。以前にも書きましたが、場所選定に利用できるのがオリオン座。三つ星の下、オリオン大星雲が昇ってくるところと彗星の赤緯がほぼ一緒です。『オリオン大星雲を高度5°あたりで観察・撮影する状況』と思ってください。ただし背景はもう明るいです。(※航海薄明開始ごろまで彗星は5、6°以上高くなりません。)10月頭までこの状態が続き、少し間を置いて今度は夕空に姿を現します。素晴らしい姿が観察できるといいですね。
この彗星は一時期「核が崩壊して暗くなってしまうかも」と報道され、がっかりした方も多いでしょう。太陽観測衛星SOHOから見えれば確認できるのですが、少し遠い軌道なので写りません。半ば諦めていたところ、Spaceweather.comの8月27日記事で、同じ太陽観測衛星のSTEREO衛星に写っていたことを知りました。調べたところ、8月1日8時UTから22日0時UT過ぎのショットまで実に730枚以上の証拠写真が残されていました。
左画像はその一枚(STEREOのサイトから引用)。彗星以外の星も分かるよう、マーカーを入れました。ご存知のようにSTEREO衛星は古く、立体的に太陽コロナのCMEなどを観測する二基の衛星のうち一基(STEREO-Behind)は既に壊れています。左上画像は生き残っているSTEREO-Aheadの撮影。画質は荒いものの、彗星の尾もちゃんと見えていますね。STEREO-Aは現在地球より少し先を太陽公転しており、太陽や惑星、彗星、背景恒星の位置関係が地球から見た場合とかなりずれます。今回はこれが幸いして、地球から見えない彗星が見えたと言うわけ。ちなみにSOHOは地球・太陽の直線上(L1ポイント)にいるため、地上から見た太陽、惑星、恒星の位置関係とほぼ一緒の景色が見えます。今後このSTEREOのように地球軌道を先行・後行する衛星がたくさん配置されたら、地球接近小惑星の監視などを含めた死角が無い太陽系の立体観測が可能になるんじゃないかと期待しています。
8月6日0時UTから18日0時UTまで抜粋49枚の画像を使い、GIFアニメ化してみました(右画像)。クリックすると再生します。彗星位置にマーカーを付けてあります。ファイル軽量化のため白黒トリミングしてあるのでご容赦を。
この画像のころは7等台と当初の予報通りで、崩壊している兆しは感じられません。本当に消えてなくなるまで彗星の動向は全く分かりませんから、過大評価も過小評価もせず、フラットな気持ちで準備を怠らず待ちましょう。
9月20日前後には日本の空に戻ってきます。明け方の東空、超低空ですから、見晴らし良い場所を探しておきましょう。以前にも書きましたが、場所選定に利用できるのがオリオン座。三つ星の下、オリオン大星雲が昇ってくるところと彗星の赤緯がほぼ一緒です。『オリオン大星雲を高度5°あたりで観察・撮影する状況』と思ってください。ただし背景はもう明るいです。(※航海薄明開始ごろまで彗星は5、6°以上高くなりません。)10月頭までこの状態が続き、少し間を置いて今度は夕空に姿を現します。素晴らしい姿が観察できるといいですね。
【余談1】
かつて静岡県の西村栄男さんが発見した二つの彗星「C/2021 O1」および「C/2023 P1」について分析した2023年8月18日記事をご覧頂くと分かりますが、太陽の向こう側からやって来る彗星や小惑星は地球上のどんな望遠鏡でも探し出せません。直径が数百kmあったとしても無理です。地球が公転して位置を変えても、それをかいくぐって相手も移動するような軌道がありえるのです。実際、西村さんの彗星はまさにそんな状態で、発見から確認までにかなり時間を要しました。
太陽系内を周回する小天体ではなく恒星間を移動するようなタイプは太陽重力場の影響をあまり受けることなく、監視の目を避けるような緩やかなカーブで地球へ飛来する可能性があるでしょう。地球から見たら突然太陽から大きな天体が降ってきたように見えます。このような天体をいち早く探し出すためにも、地球以外の観測視点を持つことは重要に思います。(左上図は冒頭画像撮影時のSTEREO位置。HEEはHeliocentric Earth eclipticの略で、太陽を原点とした地球の軌道面座標。)
【余談2】
8月18.0日UT時点で、STEREO-Aは地球からおよそ22.7°前方にありました。地球から見た太陽位置(レグルスの少し西付近)に対して、STEREO-Aからは黄道に沿った方向に約22.7°東にずれて見えることになります(しし座の後ろ足付近)。STEREO-Aカメラ写野は更に太陽の東(太陽から地球へ向かうCME)を見ていますから、写野背景はおとめ座の上半身辺りだと絞り込めます。大雑把ながら人力プレートソルビングですね。ちなみに私は自作プログラムを作ってSTEREO-Aから見える恒星や太陽、惑星、彗星を表示させ、背景を特定してゆきました。
かつて静岡県の西村栄男さんが発見した二つの彗星「C/2021 O1」および「C/2023 P1」について分析した2023年8月18日記事をご覧頂くと分かりますが、太陽の向こう側からやって来る彗星や小惑星は地球上のどんな望遠鏡でも探し出せません。直径が数百kmあったとしても無理です。地球が公転して位置を変えても、それをかいくぐって相手も移動するような軌道がありえるのです。実際、西村さんの彗星はまさにそんな状態で、発見から確認までにかなり時間を要しました。
太陽系内を周回する小天体ではなく恒星間を移動するようなタイプは太陽重力場の影響をあまり受けることなく、監視の目を避けるような緩やかなカーブで地球へ飛来する可能性があるでしょう。地球から見たら突然太陽から大きな天体が降ってきたように見えます。このような天体をいち早く探し出すためにも、地球以外の観測視点を持つことは重要に思います。(左上図は冒頭画像撮影時のSTEREO位置。HEEはHeliocentric Earth eclipticの略で、太陽を原点とした地球の軌道面座標。)
【余談2】
8月18.0日UT時点で、STEREO-Aは地球からおよそ22.7°前方にありました。地球から見た太陽位置(レグルスの少し西付近)に対して、STEREO-Aからは黄道に沿った方向に約22.7°東にずれて見えることになります(しし座の後ろ足付近)。STEREO-Aカメラ写野は更に太陽の東(太陽から地球へ向かうCME)を見ていますから、写野背景はおとめ座の上半身辺りだと絞り込めます。大雑把ながら人力プレートソルビングですね。ちなみに私は自作プログラムを作ってSTEREO-Aから見える恒星や太陽、惑星、彗星を表示させ、背景を特定してゆきました。