金星、怒濤の接近イベントを楽しもう ― 2023/02/13
明後日2月15日の宵に、金星と海王星が見かけ上の大接近を起こします。最接近時はもう沈んでしまうため見えませんが、その離角はなんと42.8″角!(地心計算)。分角の間違いではありませんよ、秒角です。月面で言うとコペルニクス・クレーターの見かけ直径と同程度なんです。
左はその様子をStellariumでシミュレートしたもの(※薄暮光は除いてあります)。時刻は21:30JST、場所は現象が薄暮中に見えるであろうネパールの首都カトマンズ。両惑星の模様まで同時に見えるほど近いですね。
金星は1月23日に土星と20.7′角まで接近を果たしましたが(→2023年1月24日記事参照/当地は悪天で見えず終い)、これを皮切りに初夏まで海王星、木星、天王星、火星に次々と接近、合間には月とも毎月接近しますので、「怒濤の接近イベント」が続くことになります(下表)。海王星接近のような稀に見る超接近はもとより、写真映えする月接近、木星接近なども見物ですね。
金星は宵の明星や明けの明星として空の一定領域に長く留まる惑星ですから、立て続けの接近イベントは金星固有の特徴と言えるかも知れません。記事末に1900年から2100年まで201年間に起こる「月+7惑星の相互接近」を全て数えた組み合わせ表を掲載しました。これを見ると、早い周期で空を移動する月に次いで金星の多さが見て取れます。興味が湧いた方は会合周期を深く調べてみてください。
金星と「月+6惑星」の接近回数はどんな変化をするのでしょうか?右グラフは2000年から2030年までの31年間を調べて積み上げ棒グラフにしたもの。青色は別惑星との接近回数、黄色は月との接近回数、赤矢印が今期です。1年を三ヶ月ごと4ブロックに分けて集計しました。現実的に観察可能な回数にするため測心計算とし、天体離角5°以内、太陽離角15°以上の制限を付けています。内合と外合の期間は太陽に近すぎ、例え惑星同士が接近しても観察できません。特に外合は数ヶ月に及ぶため、グラフの所々が空白になっています。いっぽうで今年の1-3月のように回数がぐんと多くなることも時々あるようです。
回数増加は金星だけでは成し得ず、惑星たちが空の特定範囲に集まっていることが必須。そう言えば2022年は6月以降の半年間、惑星がまとまって見えていましたね(→2022年6月1日記事参照)。その締めくくりとして、各惑星が次々と金星にハイタッチしながらゴールイン、宵側から明け方側へ引っ越す、というのが今回の怒濤の接近イベントを引き起こしている訳です。
月をのけ者にして話を続けてしまいましたが、金星と月の接近も面白いです。最接近離角の変遷を調べたのが左グラフ。周期性があるような、無いような…。月半径は約0.25°ですから、これより近い接近は「月による金星の掩蔽」が地球のどこかで見えることになります。グラフ内の赤縁丸は、最接近時刻に測心地点で0.3°以内のケース。2021年11月8日に見えた金星掩蔽も入ってますね。
今回調べた1900-2100年の範囲だと、2月15日の海王星接近は金星の接近イベント全体のなかで7位の近さ。実は2022年4月28日明け方にこれより近い海王星接近が起きており、5位(月を除けば1位!)でした。今回並の近さではずっと先、2084年12月24日に水星接近があり、東経20°付近で観察可能です。見栄えする木星接近はやはりかなり未来の2082年3月7日がいちばん離角が小さいですが、これも日本では見えません。 太陽が沈んでいる時間に日本で見え、金星にかなり近いとなると、2037年7月22日宵の土星接近くらいになってしまいますね(右下図/Stellariumによる)。なかなか起きないなぁ…。
たくさん起こりそうでもなかなか見ることができないのは天文現象の宿命。それに、同じ天体接近でも見るたび違う条件、異なるシチュエーション、変化する心境のなかで対峙するのですから、ひとつとして同じ光景はありません。今回の怒濤の接近イベントもじっくり楽しむとしましょう。どうぞお見逃しなく。
参考:
いよいよ宵空で金星とすばるがランデブー(2020/04/03)
金星と木星が夕空で接近中(2019/11/22)
月・金星・木星の接近はなかなか起こらない(2017/11/17)
金星はなかなか火星に接近しない!?(2016/11/23)
左はその様子をStellariumでシミュレートしたもの(※薄暮光は除いてあります)。時刻は21:30JST、場所は現象が薄暮中に見えるであろうネパールの首都カトマンズ。両惑星の模様まで同時に見えるほど近いですね。
金星は1月23日に土星と20.7′角まで接近を果たしましたが(→2023年1月24日記事参照/当地は悪天で見えず終い)、これを皮切りに初夏まで海王星、木星、天王星、火星に次々と接近、合間には月とも毎月接近しますので、「怒濤の接近イベント」が続くことになります(下表)。海王星接近のような稀に見る超接近はもとより、写真映えする月接近、木星接近なども見物ですね。
【2023年前期・金星の天体接近イベント/5°以内/日本経緯度原点での測心計算】
天体1 | 天体2 | 最接近日時JST | 離角 | 天体1太陽離角 | 天体2太陽離角 |
---|---|---|---|---|---|
金星 | 土星 | 2023-01-23 07:12:20 JST | 0.346° | 22.225° | 22.204° |
金星 | 月 | 2023-01-23 21:09:01 JST | 3.366° | 22.359° | 23.011° |
金星 | 海王星 | 2023-02-15 21:27:28 JST | 0.012° | 27.549° | 27.548° |
金星 | 月 | 2023-02-22 20:23:15 JST | 1.977° | 29.087° | 29.325° |
金星 | 木星 | 2023-03-02 14:03:44 JST | 0.489° | 30.782° | 30.817° |
金星 | 月 | 2023-03-24 21:14:16 JST | 0.350° | 35.502° | 35.487° |
金星 | 天王星 | 2023-03-31 06:07:20 JST | 1.218° | 36.790° | 36.843° |
金星 | 月 | 2023-04-23 23:10:49 JST | 0.716° | 41.172° | 41.259° |
金星 | 月 | 2023-05-23 23:08:16 JST | 1.490° | 44.947° | 45.152° |
金星 | 月 | 2023-06-22 09:27:00 JST | 3.346° | 44.019° | 43.791° |
金星 | 火星 | 2023-07-01 09:48:26 JST | 3.563° | 41.828° | 45.321° |
金星は宵の明星や明けの明星として空の一定領域に長く留まる惑星ですから、立て続けの接近イベントは金星固有の特徴と言えるかも知れません。記事末に1900年から2100年まで201年間に起こる「月+7惑星の相互接近」を全て数えた組み合わせ表を掲載しました。これを見ると、早い周期で空を移動する月に次いで金星の多さが見て取れます。興味が湧いた方は会合周期を深く調べてみてください。
金星と「月+6惑星」の接近回数はどんな変化をするのでしょうか?右グラフは2000年から2030年までの31年間を調べて積み上げ棒グラフにしたもの。青色は別惑星との接近回数、黄色は月との接近回数、赤矢印が今期です。1年を三ヶ月ごと4ブロックに分けて集計しました。現実的に観察可能な回数にするため測心計算とし、天体離角5°以内、太陽離角15°以上の制限を付けています。内合と外合の期間は太陽に近すぎ、例え惑星同士が接近しても観察できません。特に外合は数ヶ月に及ぶため、グラフの所々が空白になっています。いっぽうで今年の1-3月のように回数がぐんと多くなることも時々あるようです。
回数増加は金星だけでは成し得ず、惑星たちが空の特定範囲に集まっていることが必須。そう言えば2022年は6月以降の半年間、惑星がまとまって見えていましたね(→2022年6月1日記事参照)。その締めくくりとして、各惑星が次々と金星にハイタッチしながらゴールイン、宵側から明け方側へ引っ越す、というのが今回の怒濤の接近イベントを引き起こしている訳です。
月をのけ者にして話を続けてしまいましたが、金星と月の接近も面白いです。最接近離角の変遷を調べたのが左グラフ。周期性があるような、無いような…。月半径は約0.25°ですから、これより近い接近は「月による金星の掩蔽」が地球のどこかで見えることになります。グラフ内の赤縁丸は、最接近時刻に測心地点で0.3°以内のケース。2021年11月8日に見えた金星掩蔽も入ってますね。
今回調べた1900-2100年の範囲だと、2月15日の海王星接近は金星の接近イベント全体のなかで7位の近さ。実は2022年4月28日明け方にこれより近い海王星接近が起きており、5位(月を除けば1位!)でした。今回並の近さではずっと先、2084年12月24日に水星接近があり、東経20°付近で観察可能です。見栄えする木星接近はやはりかなり未来の2082年3月7日がいちばん離角が小さいですが、これも日本では見えません。 太陽が沈んでいる時間に日本で見え、金星にかなり近いとなると、2037年7月22日宵の土星接近くらいになってしまいますね(右下図/Stellariumによる)。なかなか起きないなぁ…。
たくさん起こりそうでもなかなか見ることができないのは天文現象の宿命。それに、同じ天体接近でも見るたび違う条件、異なるシチュエーション、変化する心境のなかで対峙するのですから、ひとつとして同じ光景はありません。今回の怒濤の接近イベントもじっくり楽しむとしましょう。どうぞお見逃しなく。
【二天体が5°以内まで接近する回数/月と7惑星】
水星 | 金星 | 月 | 火星 | 木星 | 土星 | 天王星 | 海王星 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
水星 | - | 417 | 1828 | 307 | 275 | 260 | 261 | 255 |
金星 | 188 | - | 1797 | 149 | 198 | 203 | 204 | 208 |
月 | 966 | 1358 | - | 1982 | 2174 | 1971 | 2254 | 2127 |
火星 | 121 | 114 | 1693 | - | 94 | 107 | 114 | 111 |
木星 | 123 | 146 | 1952 | 84 | - | 22 | 33 | 30 |
土星 | 117 | 152 | 1778 | 91 | 20 | - | 12 | 17 |
天王星 | 119 | 152 | 2033 | 95 | 31 | 11 | - | 7 |
海王星 | 116 | 153 | 1933 | 92 | 28 | 14 | 7 | - |
- 自作プログラムによる計算で、1900年から2100年まで201年間の集計です。月惑星位置は地心計算によります(※後述)。
- 青文字は太陽離角制限なしの最接近回数、赤文字は最接近時に太陽離角が15°以上という制限付き最接近回数(概ね地上観察可能と考えられる回数)です。
- 測心計算のほうが現実的ですが、地球自転による視点移動で短時間のうちに同じ天体同士の接近が複数回起こってしまう“計算上のばたつき”が発生することがあります。この重複を排除するため地心計算としました。
- 従って実際に地上から見た場合(測心計算で考えた場合)、5°よりわずかに離れてしまうケースも含まれると考えられますので御了承ください。
- 天体が別天体の近くにある(一定の離角以内にある)状態は、最接近瞬時を迎える事象そのものと本質的に違いますが、どちらも「天体の接近」と表現されます。当記事では最接近瞬時に焦点を当てており、「この日時以外は近くに見えない」ということではありませんのでお間違えなく。「満月」と「満月瞬時」の関係に似てますね。
参考:
いよいよ宵空で金星とすばるがランデブー(2020/04/03)
金星と木星が夕空で接近中(2019/11/22)
月・金星・木星の接近はなかなか起こらない(2017/11/17)
金星はなかなか火星に接近しない!?(2016/11/23)