水星の尾をとらえる2023/04/26

20230409水星の尾
観察から二週間あまり経ってしまいましたが、4月上旬の良く晴れた宵空で「水星の尾」を撮影し、ようやく画像化や分析が終わりましたので掲載します。「彗星=ほうき星」ではなく、惑星のほうの「水星」の尾です。

地球型惑星のうち太陽に最も近い水星にも淡い大気があることは随分前から突き止められていました。その大気は太陽風によって一部が吹き流され、中に含まれているナトリウム原子がまるで彗星の尾のように伸びているそうです。時期によっては地球からも観測でき、近年ではアマチュアによる観測例も増えました。肉眼では困難ですが、電子機器を媒介すればモニター越しに観望可能でしょう。

私がこれを知ったのは2020年より少し前だったと思います。自分でも撮ってみたいと思い、ナトリウム光だけを通すバンドパスフィルターを用意したり機材選定をして準備だけはすぐできたのですが、諸事情でなかなか撮影の機会がありませんでした。今年こそはと、この4月にようやく実現に漕ぎ着けたわけです。

左上画像は4月9日の撮影、右下画像は4月10日の撮影です。約20分角以上の尾が確認できます。画像上方向を天の北方向に揃えてあり、尾の向きは太陽と反対方向にぴったり一致しました。この尾はたいへん淡い光ですから、一般には高い山など透明度の良い場所で撮影すべきなのですが、これらの写真は我が家のベランダ越しに室内で撮っています。透明度が良いところなら、この5倍以上は伸びていると思われますが、海抜30m程度の関東平野部でも天気次第で存在が確認できると分かりました。

20230410水星の尾
ナトリウム原子の発光は光学屋にはおなじみのオレンジ色で、トンネル内で見かけるナトリウムランプのあの色。天体写真家にとって光害とされるD2=588.995nmとD1=589.592nmという波長ですから、光害カットフィルターを内蔵してるカメラなどでは撮影できません。でも可視光の一部なので、市販カメラでも十分撮影が可能です。(※今回は白黒CMOSカメラを使いました。)

最大離角時など水星が高く見えていれば尾が写せる…と考えるのは早合点で、論文などを読むと見頃の時期というものがありそうです。噛み砕いて言うと「水星の近日点-太陽-水星」がつくる角度(=近点角)がプラスマイナス60°付近になるときに明るくなるそうです。この辺りはやや難しいので、説明を含め、計算上の見頃一覧を別途アーカイブにしました。2年ほど前に自分用に用意したものを、当記事に合わせて再計算・公開した次第。ご興味のある方はご利用ください。

今年はこのさき水星が見やすい時期が少なく、尾の観察チャンスは来年1月の明け方に持ち越しのようです。我が家から明け方の水星は全く見えないので、機材を抱えて徒歩移動を余儀なくされるのが難点…。いっぽうで透明度の高さは冬のほうが期待できます。少ないチャンスを活かして観察を続けようと思います。

参考:
アーカイブ「水星の尾の見頃」