ガリレオ衛星の珍現象2018/07/15

木星の衛星現象としては、滅多に見られない珍しいイベントが間もなく起こるのでご紹介しましょう。積極的に紹介された事例を見たことがないのですが、自分ではとても面白い現象と思っています。

20180728エウロパの現象

A.エウロパの珍しい現象
木星は先週の7月11日に「留」を迎えました。留とは字の通り「留まる」ことを意味します。ご存じのように地球から見た外惑星は、経度が増加するように移動する「順行」と、経度が減少する移動「逆行」があります。留はこの移動が切り替わる瞬間ということです。

留の時期はこの見た目の変化以外にネタとして取り上げられることはほとんどありませんが、冒頭で述べた「珍現象」が起きる時期の目安として役立ってくれます。どんな現象か、まずは左のA図をご覧ください。これは今月28日宵の木星を描いたStellariumによるシミュレーション(天の北が上方向)。10分おきに3枚の図が並んでいますね。木星近くに四大衛星のイオとエウロパがあり、イオは木星手前を右へ、エウロパは木星背後を左へ動いています。

木星に隠れていたエウロパは19:40過ぎに姿を現しますが、そのままずっと見え続けると思いきや、何と19:55ごろにいきなり消えてしまうのです。「何事!?」と思ってしまう現象でしょう?これは「掩蔽現象」が終わった後、あまり時間が経たないうちに「食現象」が起こったのです。このような状況はいつでもまんべんなく頻発する訳ではなく、留や東矩、西矩といった時期に集中します。しかも観察場所を固定…例えば「日本の夜空で見える」と限定した場合、回数は激減するのです。現象名を正式に何と呼ぶのか聞いたことがありませんので、このブログでは「衛星の連続出没イベント」と呼ぶことにします。

2018木星の位置

B.今期の木星位置
どうしてこんな現象が起こるか、順を追って説明しましょう。まずは言葉の確認。地球から見た外惑星は前述の通り順行や逆行があって、移動幅は地球に近いほど大きくなります。今回取り上げる木星について、前回の合(2017年10月27日)から次の合(2018年11月26日)までの一周期を星図にしたものが右のB図(ステラナビゲーター使用)。

留は「順行→逆行」と「逆行→順行」の切り替わりに一回ずつ起こり、その中間に必ず「衝」がやってきます。また一回目の留の前に「西矩」、二回目の留の後に「東矩」があります。改めて時系列に書くと「合→西矩→留→衝→留→東矩→合」の流れです。

一連の状況を、第三者視点で見てみましょう。左下C図は太陽系を北側から見たもの。話を簡単にするため、惑星は円軌道で描いています。どのような位置関係のとき何と呼ばれるか、一目で分かるでしょう。西矩・東矩の「矩」というのは直角という意味で、文字通り「太陽・地球・外惑星」が直角を作っています。簡単に言うと、東矩の惑星は日が暮れたとき太陽の90°東側で南中しており、西矩では日の出のとき太陽の90°西側で南中しています。

地球と外惑星の位置関係

C.地球と外惑星の位置関係
連続出没イベントで重要なのは、この図に出ている「位相角」。位相角は「地球・惑星・太陽」がなす角で、地球から見た惑星の「光の当たり方」や「欠け具合」を決定づけていますね。この角度は惑星がどこにいるかによって変化します。合や衝の近くではほぼゼロになり、また図中のA位置とB位置では位相角が明らかに違うことも分かるでしょう。

色々作図すると分かりますが、位相角が次第に大きくなるのは正に西矩や東矩のころ。この時期は観察者の視線と太陽光の向きが異なる訳ですから、外惑星でも少し欠けて見えます。また位相角がゼロでないということは惑星本体から伸びる影の向きが視線からずれていることを意味します。

外惑星がどれくらい太陽から離れているかによって位相角は変わりますが、「太陽から遠い惑星ほど位相角の最大値は小さい」ということが直感的に分かるでしょうか(→記事末の付記参照)。これらを踏まえ、衛星連続イベントのとき惑星と衛星に何が起こっているか、拡大図で見てみましょう(右下D図)。この図も木星を北側から見ていることを想定しています。一般に天体が別天体に隠されることを「掩蔽」、また、天体が別天体の作る影に隠されることを「食」と言います。一見同じような「隠される現象」ですが、明らかに原因が違うので区別しましょう。(※この理屈だと、月食は食ですが日食は掩蔽です。)

木星の衛星現象

D.衛星の連続イベント
木星の場合、衝前後の期間は観察者視線と太陽光がほぼ一致するので、惑星本体が作る影も一致し、食と掩蔽との時間差はほとんどありません。でも位相角がだんだん大きくなるとD図のようにズレが生じ、掩蔽が終わってから食が始まるまで時間差が生まれます。この時間差は惑星の大きさ、位相角、衛星軌道半径などによって様々。もちろん衝の前と後とでは影の向きが東西反転するので、現象が見える位置や順番も変わります(下E図参照)。

位相角が最大になると惑星から遠い衛星では食・掩蔽の隙間が数時間以上に及ぶ場合もあって、「連続」とは言い難いこともあるでしょう。逆に木星のイオのように惑星に近い衛星では、掩蔽が終わってもそのまま食に移行してしまい、隙間時間が全く無い場合もあります。一般に衝や合に近いほど隙間は小さいですから、イベントがごく短時間で終わり易いことが分かるでしょう。(例:日本では見えませんが、2019年9月21日4:38JSTのエウロパでは掩蔽終了と食開始がほぼ同時!)回数もグッと減りますから、レア度が増しますね。

もちろん、地球公転面に対して衛星軌道や惑星自転軸の傾斜が大きかったり逆転しているケースでは食も掩蔽も起こらない等の複雑な状況があります。小型望遠鏡でも楽しめる木星の四大衛星でこの現象が起こってくれることは奇跡とも思える天界からのプレゼントと言えましょう。

1時間以内に収まる連続出没イベントを実際に計算すると、1会合周期平均で何十回かは世界のどこかで見えます。そのうち日本で暗い空に条件良く見えるのは2、3回あれば良いほうです。最初のA図のような機会は極めて貴重なのですね。緯度(南北)方向への影のずれも影響するため、今年はエウロパでよく起こるけれど来年はガニメデが…という具合に傾向が変わることもあります。下F図は今期の木星の位相角を示したグラフ。木星では位相角がだいたい5°以上になると連続出没イベントがだんだん多くなります。滅多に見ることができないこの現象、機会を見つけてぜひご覧になってくださいね。なお今回計算した現象日時はアーカイブ:木星の衛星現象一覧の一項目として登録しておきました。どうぞご利用ください。

  • 位相角と衛星現象の位置や順

    E.衛星イベントの位置や順
  • 2018木星の位相角

    F.木星の位相角


【付記】
参考までに、今期における火星と土星の位相角グラフも描いたので掲載しておきます。火星の位相角は最大の頃で40°を越しており、お月様に例えると「十日月」くらいの欠けた形に相当します(下の火星画像参照)。土星も最大5°以上ありますから、「満月半日前の月」程度欠けている時期もあるわけです。上記記事で「西矩・東矩頃は位相角が大きい」と書きましたが、ピッタリ極大期ということではありません。また火星のグラフから分かるように衝を軸として左右対称…という訳でもないですね。惑星軌道は楕円であること、軌道傾斜角があるため南北にもずれること、等が原因になるようです。完全にゼロにならないのも同じ原因。位相角は惑星の立場で見ると「地球と太陽との離角」に相当しますから、例えば衝効果(→2015年5月19日記事参照)の目安にもなります。

細かいことですが「見かけの位相角」とわざわざ書いてあるのは、「本当の位相角」と区別するためです。地球と惑星とは距離があるため、光が届くのに時間がかかります。つまり「今見えている惑星は少し前の姿」であって、当然そのときの位相角も少し前の状態です。ごくわずかな違いですが無視することもできない大事な事項なので、敢えて表記しました。

  • 2018火星の位相角

    G.火星の位相角
  • 2018土星の位相角

    H.土星の位相角
  • 20180511火星

    欠けた火星(2018/5/11撮影)


今日の太陽と気温上昇2018/07/15

20180715太陽
昨夜は曇り。今日も午前中はやや雲が多かったものの、昼以降は快晴となりました。

20180715太陽リム
左は13:30過ぎの太陽。相変わらず静穏です。リムには所々プロミネンスが見えていますが、凄まじい大きさのものはありません。穏やかですね。

20180715_日最高気温前日差
昨日にも増して、今日は暑い日になりました。気象庁サイトで日最高気温ランキングトップ10を比較すると、昨日は11時の時点で猛暑日を記録した地点が4ヶ所でしたが、今日はトップ10全て35度越えでした。最終的な最高気温は昨日より0.1度しか高くありませんが、アメダス・岐阜県の揖斐川ポイントと京都府の京都ポイントで昨日の7月最高記録を再度更新しています。右は気象庁サイトからの引用で、17時時点の日最高気温の「前日差」。真夏日地点数は671、うち猛暑日地点数が200。どちらも昨日の年内最高記録を更新しています。

いっぽう日照不足と多雨に悩まされている北海道では今日も大雨のところがあちこち見受けられました。7月の降水記録を更新したところもあります。また夕方からは積乱雲が発達し、長野と岐阜で記録的短時間大雨情報が発表されています。

夕空を彩る幾つもの光たち2018/07/15

20180715夕日と反薄明光線
午後から晴れ渡った空は、夕方まで雲があまり湧きませんでした。日没の頃ベランダに出ると、遠くに見える雲を真っ赤に染めた夕日から薄明光線が何本も伸びています。

雲の影が強調され、反薄明光線として東の空まで届いていました。暑苦しい空気とセミの声も一緒になって、久しぶりに見る夏らしい光景です。

20180715月と金星
日が沈む前から金星と二日月が見えていましたが、日没後30分も経つとはっきりして、とても美しい光景でした。

今夕の金星と月は10°ほどの離角がありましたが、明日の夕方は3°弱まで大接近します。晴れたら多くの人の心をわしづかみにすることでしょう。

20180715月と金星
西空には金星と月だけでなく、三日前に東方最大離角を迎えた水星と、しし座の1等星レグルスも輝いていました。水星はだいぶ低かったので、どうしても近所の電線が構図に入ってしまいます。どこに何があるかは右のマーカー付き画像をご覧ください。明日の夕方も楽しみですね。