今日の太陽2022/05/18

20220518太陽
実に一週間も悪天が続き、何の観察もできませんでした。今日は夜明け前から雲が引き始め、朝から雲量3-5程度の空。昨日まで寒かった気温もぐんぐん上がっています。

20220518太陽リム
左は正午過ぎの太陽。ときおり雲が横切りながらの撮影です。もうすっかり表情が変わってしまったため、自分の頭を整理しがてら左画像に活動領域番号を振っておきました。ものすごく多いですね。しかも裏側に登場を控えている領域がまだまだ続いています。

目を引いたのが右上の淡い大きなプロミネンス。とても大きく広がっています。GONGのバックアップ画像を見ても元になった爆発を特定できなかったのですが、昨日15:00-15:30UTごろに右上のプロミネンスが高く吹き上げていたので、それでしょうか。少なくとも9時間前には大きな広がりが見え始まっています。地上が曇っていても空の上はドラマチックな光景が繰り広げられているようです。

Astronaut's Glory2022/05/18

20220517地球観測衛星Suomi
左は地球観測衛星Suomiが本日日付変更線を過ぎる前に撮影したカリフォルニア半島沖のグアダルーペ島付近(NASA-World Viewから引用)。中央上の雲間に見えるのがグアダルーペ島で、風下…南南東へカルマン渦列がきれいに伸びていることが分かります。この島は度々カルマン渦列を発生させるポイントとして有名です。

でも画像を引用したのは渦列をお見せするためではありません。この画像には別の“主役”が潜んでいます。

みなさんは飛行機から雲海をご覧になったことがありますか?太陽とは反対側の窓際席に座ることができると、タイミングが良ければ飛行機の影が雲海に映って見えることがあるんです。そして影を中心に「光輪」と呼ばれる現象がしばしば発生します(右下画像/wikiコモンズ/クリックで原画にリンク)。

IMG 7474 solar glory
虹色の(小さな)輪っかが見える気象光学現象としては「光環」「光冠」「光輪」「ブロッケン現象」などの呼び名があって混乱しますが、大きく分けて2つしかありません。光源周囲に出現するものと、光源の正反対…つまり観察者の影周囲に出現するものです。前者は光環現象に集約され、後者は光輪現象に集約されます。(※直径が大きい現象である内暈や環水平アークなどは含みません。そもそもの原理が異なります。)

飛行機の影周囲の輪はブロッケン現象と同じもの。光環(=光冠)を英語で「Corona」というのに対し、光輪は「Glory」と表現され、いわゆる「栄光」「誉れ」と同じ言葉です。日本でも光輪は阿弥陀如来の「御(後)光」と同義なので、ニュアンスが微妙に被っているところが面白い。

さて、飛行機なら雲に映る光輪が見えますが、もっと高いところではどうなるでしょう?現象そのものは起こっているはずですが、見えるかどうかはスクリーンとなる雲次第でしょう。こちらの資料によれば、スペースシャトルコロンビアによる2003年1月のフライトの際に高度278kmから確認された光輪が大気圏外で最初のケースだったようです。宇宙から見た光輪を「Astronaut's Glory」と特別に表現することもありますよ。シャトル高度で見えるということは国際宇宙ステーションからも見えるということ。例えばこの画像はISSからの光輪です。国際宇宙ステーションは現在のところ恒常的に飛んでいますから、気付きさえすれば見えるでしょう。

あらためて冒頭画像をご覧ください。カルマン渦列の左下にうっすらと虹色の輪っかが見えませんか?よくわからないという方は記事下A画像・緑点線円内をご覧ください。冒頭画像を高コントラスト・高彩度化したものです。これなら分かるでしょう。約1年前の2021年6月19日・地球観測衛星Terraによる画像も下B・Cに掲載しました。

正円であるはずの光輪が楕円になってしまうのは、各地球観測衛星が高速で周回しながら地球をベルト状に撮影しているからです。ちょうど背後に太陽がいて、写野に衛星自身の影がある位置を撮影しているとき光輪が見えるのですが、写野も影も移動方向にどんどんずれてしまいますから光輪が伸びてしまうんですね。SuomiとTerraとで楕円の向きが異なるのは周回方向が違うからです。

太陽直下の位置
グアダルーペ島周囲はかなりの確率で光輪が出現しやすい雲に覆われているため、時期さえ気をつければ容易に見つけることができます。今頃になると私は毎年のようにカルマン渦列と光輪のコラボを楽しみにしています。でもなぜ「今頃」なのでしょう?

たいていの地球観測衛星は「太陽同期準回帰軌道」という周回方法をとっており、極力太陽との位置関係を変えないように移動しつつ地球全体を撮影します。だから高確率で光輪が見える位置にいるはずなのですが、太陽を背にするのは一周につき一回。当然太陽は季節に寄って直下点緯度が変わります。夏至の日は最北に位置し、その時の直下点は「北回帰線(北緯約23.4°)」を描きます。グアダルーペ島は北緯29°あまりに位置し、夏至を挟んでプラスマイナス1ヶ月ほどは衛星が光輪を捉えやすい北限位置にあるのです(左図参照/太陽直下位置の変化)。「光輪が見やすい雲」「見やすい位置」「ついでにカルマン渦列が発生しやすい」という三条件を満たすのはこの位置の他にありません。(時々世界中を探し回るのですが、光輪自体なかなか見つけられません。)

お時間がある方はぜひ衛星画像を巡り、宇宙飛行士気分で光輪を探してみてください。

  • 20220517地球観測衛星Suomi

    A.2022年5月17日
    Suomi(強調)
  • 20210619地球観測衛星Terra

    B.2021年6月19日
    Terra
  • 20210619地球観測衛星Terra

    C.2021年6月19日
    Terra(強調)