鬼怒川氾濫を省みる(その1)2015/09/11

20150908_1600気象衛星
8日16時の衛星画像(画像元:NICTサイエンスクラウド)
本日11日、5時前のまだ暗いうちから自衛隊と思われるヘリの音が響いてきました。そして夕方日が暮れた今もまだヘリの行き来がベランダから見えます。昨日の鬼怒川氾濫から丸一日経ち、懸命の救出作業で助かった命もあれば、新たな不明者も増えました。被害は茨城だけでなく他県にも出ています。

このブログは災害まとめサイトではありませんが、空を見続ける者として気象や自然環境の厳しい面も幅広く見ています。今回の鬼怒川氾濫も一生のうちに数えるほども無い未曾有の災害として、思うところを記録しておこうと思いました。私が試行錯誤した過程も意識して書き綴っておきます。都合により複数回に分けましたので、順に読んでいただければ幸いです。


【雨はどこで降ってるかを知る】

9日朝から昼過ぎにかけて、台風18号が愛知から石川・福井へ縦断しましたね。リアルタイムでボイスバロットの記事用データを作りながら、関東が今夜は大雨だと言うことで衛星画像を気にしていました。すでに朝から東海地方にあった南北に延びる降雨帯が気になりました。これは18号上陸前の8日夕方には台風の腕の1本としてとても発達していたもの(右上画像)です。また下には9日から11日の各9:00に気象衛星が撮影したものを示しました。南北に伸びる巨大な雲の塊が見えますか?台風は弱体化したのに、強大な降雨帯だけが関東上空に3日間も残る形となったんです。

  • 20150909_0900気象衛星
    2015年9月9日9:00
  • 20150910_0900気象衛星
    2015年9月10日9:00
  • 20150911_0900気象衛星
    2015年9月11日9:00
降雨帯が上陸後に消えることなく維持されていたのは、18号だけでなく17号が東からもたらす湿った空気が原因だったというのはニュース解説でも流れている通り。両方の台風にはさまれて極端に移動が遅くなり、かつ大きく発達した「線状降雨帯」は、9日夜から丸一日、栃木や茨城に激しい雷雨をもたらしました。ちなみに18号が温帯低気圧宣言された9日21時時点で、17・18号の中心間距離は1799kmでした。(そこに至る過程はこちらの記事グラフを参照してください。)最後の半日は両台風が押しも引きもできないような振る舞いを見せています。

ところで「いま正に降っている雨」を知るには、気象衛星の雲画像よりもレーダーが役に立ちます。下は気象庁の「高解像度降水ナウキャスト」。このレーダー画像を見ると、帯状の大雨は東海地方あたりで始まっていたことが分かりますね。それは40時間近く経過してもまだ構造を維持しています。帯がほどけ始まったのは今日11日の夜が明けてからでした。

  • 20150909_0930レーダー
    2015年9月9日9:30
  • 20150909_1200レーダー
    2015年9月9日12:00
  • 20150911_0000レーダー
    2015年9月11日0:00


【雨がどれくらい降ってるかを知る】

さて場所は分かったけれど、どれくらい降るのでしょう?今度は雨量が気になりました。雨が強まっている自宅周辺から西側のアメダスポイントを6つ選び、気象庁サイトからデータを入手。グラフを書いてみました。今回の「雨の降り始め」は7日18時とされていますが、下記は8日0:00から11日0:00までをまとめたもの。左は10分雨量をそのままプロットしました。右は「積算雨量」、つまり10分ごとの雨量を次々に足したグラフです。

9日午後までは一般的な大雨のような上がり方ですが、9日15時頃から雨量が大きく跳ね上がりました。時々傾斜が緩むことはあっても10日朝まで継続して右上がりとなり、なんと「観測史上最大」となります。それも「ちょっと抜いた」のではなく、9月平均雨量を2日間で上回るレベルでした。茨城では下の6つのアメダスポイントのうち5つが「観測史上最大」または「9月の観測史上最高」でした。また栃木では24時間累積が600mm越え!多くのポイントで過去最高の1.5倍から2倍近くの値となりました。

時系列では10日0:20 栃木県に大雨特別警報発令、7:45 茨城県に大雨特別警報発令となります。でも夜が明ける前から「これはヤバい…」と感じ始めました。これだけの雨量増加なら、9日夜には茨城に特別警報を出しても良かったのでは…なんて思いますが、後の祭り。とにかくこの異常とも言える雨量が、やがて河川をあふれさせることとなります。

  • 雨量グラフ
    アメダスデータによる雨量グラフ
  • 雨量グラフ(積算)
    アメダスデータによる雨量グラフ(積算)

なお統計処理をしてて思ったのですが、一連の降雨統計は「雨の降り始め」とか「集計期間」をどうするかで結果が変わります。でも任意の期間から統計をまとめてくれるような気象サイトはありません。レーダー画像も同じで、気象関係サイトなどではたとえ大事なデータでも「その時見なければ消えてしまう」寿命半日程度のデータがあります。これ、なんとかしてほしいですね。このブログで伝えているとおり、数日前から見直さないと分からないことが多々あるからです。(その2へ続きます


参考:
気象や気象災害時の参考サイト(鬼怒川氾濫を省みる・その4に記載)
GoogleMapによる鬼怒川の被害地域
国土地理院による鬼怒川氾濫前後の比較地図

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