鬼怒川氾濫を省みる(その2)2015/09/12

その1から続きます
継続した大雨で心配なのは河川の増水と土砂災害です。私の自宅は高台の平地にあるため、道路が大雨で川になったとしてもさほど影響はありません。でも山や川の側にお住まいの方は心配でしょう。茨城県南には水郷と呼ばれるほどの広大な田んぼと、それを支える川がたくさんあります。

【河川の状況を知る】

夜明けと共に国土交通省・河川事務所のライブカメラが使えると思い、早速閲覧開始しました。(カメラのあるサイトはここです。カメラを管理する最寄り事務所は下館河川事務所です。)近隣の大きな川は利根川水系の「鬼怒川」と「小貝川」。その他もいくつか気になる河川はありましたが作業を抱えきれないので、明け方既に大増水していた鬼怒川に絞りました。

ライブカメラ映像はとても川とは思えない光景でした。川が決壊する直前、豊水橋と川島という二ヶ所のカメラが捉えた映像と本日12日7:00の映像を比較してください。どれほど異常だったか伝わるでしょう。(画像下のボタンで切り替わります。)



※画面に豊水橋と書いてある方が鬼怒川水海道観測所のカメラです。ちなみにこの画像で豊水橋は右側画面外です。
※鬼怒川水海道観測所(北緯36度01分18秒・東経139度59分06秒)。
※川島観測所(北緯36度17分26秒・東経139度54分41秒)。

【水位の変化を知る】

ライブカメラと同時に水位もモニターしました。全国の河川を1時間置きに測定した水位は国土交通省・水文水質データベースのサイトから閲覧できます。加えて河川事務所のサイトではリアルタイムの10分間隔測定データも最大3時間まで表示されています。(どうして3時間で消してしまうんだろう?)左下図は注視していた二つの観測所の水位グラフ。平時の状態が分かるよう、9月1日0:00から9月11日12:00まで集計してみました。10日7:30から11日2:00まではピークが厳密に分かるよう10分データを使用しています。また明らかなエラー値は空欄としました。(※全ての値は速報値で、確定値ではありません。)

鬼怒川の水位変化
グラフから、9日の午後に増水が始まっていたことが分かりますね。20時頃からの増え方は異常で、わずか数時間の内に3m以上も上昇しました。断っておきますが、鬼怒川は広い河川敷としっかりした堤防がある大きな川です。普段は大雨くらいで河川敷まで水につかることはほとんどありません。バッファエリアを含む全流域が水で埋まる…しかも水位が半日で7m以上も一気に上がることなど「普通はあり得ない」と誰もが思うような川です。でもあり得ないことが現実に起きました。大量の雨に加え、線状降雨帯の方向と川の方向が一致していること、降雨帯が長時間居座ったことなど幾つも原因の重複によるところが大きいでしょう。「予期しないことが起きた」とは専門家の会見などでよく耳にするけど、プロの方々ならそれを予期しなければダメなんじゃないでしょうか。まさか100%当たらなきゃ予期と言えないなんて臆病になってるのでしょうかね?

10日朝6:30頃に越水したというニュースは7時台前半に耳にしました。越水とは堤防を越えて流れ出すことで決壊とは違いますが、堤防を削るので注意が必要だし、氾濫したことに変わりありません。すぐに近隣の知人達に連絡し、注意を促しました。雨で濡れるなんて小さいことより川の氾濫のほうがよほど一大事。「決壊してもおかしくない」という思いと「そんなことあり得ない」という気持ちがせめぎ合っていたころです。すぐ隣を流れる小貝川が決壊したのは1986年8月。若い頃釘付けになったテレビ映像が脳裏をよぎりました。

鬼怒川の水位変化
もうひとつ、右にグラフを示します。これは1時間毎にどれだけ増水(減水)したかを示したグラフです。最初のグラフの変化率、あるいは数学的に微分と言い換えても良いでしょう。平時は1時間あたり10cm前後の増減ですが、氾濫前には6時間以上に渡って毎時50cmから1m以上の増水速度でした。

増水を見極める上で「いま水位が何メートルか」と言う値も大事だけれど、「どれくらいの速さで増えているか」ということも重要ではないでしょうか。蛇口からバケツに水を汲むとき、人間は「水がたまる速さ」を感じて、速すぎたら急いで蛇口を調整しますよね?同じようにこういうグラフで危険を感じることはできないでしょうか?残念ながら河川事務所のサイトで表示される小さなグラフは上のような水位のみでした。一刻も早く避難を急がなくてはならない理由はこんなところに現れるんです。

20150912_1200気象衛星
気象衛星からは千葉県銚子の利根川河口から大量に流れ出た泥水が良く見えます(9/12・12:00の画像使用/見やすく画像処理)
上グラフの各観測所が持つ水位の過去最高値は、「鬼怒川水海道観測所」で5.63m(2001年9月11日23:00)、「川島観測所」で2.83m(1998年9月16日14:00)でした。川島ポイントでは10日を迎える前にあっさり記録更新、水海道ポイントでも7時過ぎに抜かれます。しかもそこで留まることを知らず、最終的に増水は13時ころまで続きました。「決壊」の時間とほぼ一致することになります。(その3へ続きます

参考:
気象や気象災害時の参考サイト(鬼怒川氾濫を省みる・その4に記載)
GoogleMapによる鬼怒川の被害地域
国土地理院による鬼怒川氾濫前後の比較地図

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