地球の影と人工衛星 ― 2019/06/05
日なたに出れば影ができます。地面に落ちる自分の影、草木の影、建物の影、空を飛ぶ鳥の影…。それは地球という大きな天体でも同じこと。ただ、地球の影は宇宙の暗闇に向かってしまうでしょう。影や日なたはそれを受けるものがないと存在がわかりません。
地球影は大気の明暗か、または地球近辺にある航空機・天体などの明暗によってのみ確認できます。街中でも地球影は見えますが、明瞭に確認したいなら飛行機がお勧め。夕方日が差す側と反対の窓際席を予約しましょう。左画像は夕方に沖縄へ向かう飛行機から東の空を連続撮影したもの。向かって右が南方向、左が北方向。
雲海に日が当たらなくなる頃から「左上がりのくさび形状」に薄暗いエリアが拡大するのが分かるでしょうか。太陽が水平下から地球を照らし、影が左斜め上に伸びているのです。飛行機の窓は小さいので全容を見ることはできませんが、全体はなだらかな山型…つまり地球の形そのもの。この山の両端を担う巨大なくさびは日没後どんどん急角度になり、やがて空いっぱいに広がって境界が分からなくなります。 夜明けまで続くこの暗闇は、私たちが「夜」と呼ぶ時間。西が開けていれば、明け方の地平に地球影が没する様子も観察できるでしょう。(右は明け方に我が家のベランダから見えた地球影と満月。)
下の連続写真は茨城県から見た富士山に朝日が当たり始める様子。太陽光が山頂を赤く染め始める瞬間、その背後にまだ地球影が残っています。光は大気差の影響で観察者頭上を湾曲しながら通るため、富士山が光に満ちるのと遠方の地球影が没するのとでは微妙な位置差を感じることがあります。地球影と青空との境界はピンクや紫に染まることがあり、時に「ビーナスベルト」と称されます。原理的に晴れていれば毎朝毎晩起こりますが、空気が澄んでないとはっきりしません。日本の平地なら晩秋や冬のよく晴れた日に探すと良いでしょう。もちろん他の季節でも空が白んでなければ見えますよ。
上に紹介した地球影は大気そのものを照らす光が遮られることで見えるもの。これ以外の方法で有名なのは「月食」。地球影が満月まで届いて起きる現象ですね。月の位置から見ると地球は太陽より大きいですから、タイミングが良ければ月全体がすっぽり影に覆われるでしょう(皆既月食)。なお火星から見た地球は太陽の40分の1くらいなので、もし地球影が届いたとしても暗くなりませんよ。
空飛ぶ物体の光り方を追跡する方法も面白いでしょう。地上から飛行機を見ると、日没後なのにまだ輝いていたり、地球影に入った瞬間消えてしまうことも。更に高く飛んでいる人工衛星でも同じことが起こります。衛星の場合はとっぷり日が暮れてもまだ輝いてますね。右は人工衛星の高度と光って見える範囲の関係を示した図。低高度の衛星は地面から昇り天頂に届く前に消えてしまうけれど、高高度の衛星は天頂を越えてなお光っているでしょう。ただし、同じ大きさの衛星なら高いほど暗くなります。
5月28日の記事で、スターリンク衛星群のような衛星コンステレーション(多数の衛星で空全体をカバーする運用)の場合、可視的な影響がどうなるかシミュレートしました。この発想で、「一定高度の衛星が空を埋め尽くせば、地球影の範囲を可視化できるのではないか」と考え、やってみたのが下図です。観察地を日本経緯度原点・標高0mに設定、その上空を10000機の衛星で覆っています。ピンクの範囲は地球影によって衛星が光らない場所。各設定高度ごとに、夏至の日没から真夜中まで6種類の時間で図化しました。
衛星高度によって日照範囲がどう変わるのか読み取ってください。空を覆う衛星数が同じだと、高高度ほど天頂付近の衛星密度が増えることも見て取れますね。地球影は本来大気内の「気象光学現象」に属するようですが、ここでは天体域まで広げて記事をまとめました。これらを理解した上で前述のスターリンク衛星記事を読むと、考え方がより深まるのではないでしょうか。
参考:
1ヶ月後の皆既月食と地球影のこと(2018/06/28)
準天頂衛星システムと「みちびき」シリーズの軌道(2017/08/13)
満月のとき、地球の影はどこにいるの?(2017/08/08)
夕日に染まる国際宇宙ステーション(2016/11/29)
連続する半影月食のヒミツ(2016/08/17)
地球影は大気の明暗か、または地球近辺にある航空機・天体などの明暗によってのみ確認できます。街中でも地球影は見えますが、明瞭に確認したいなら飛行機がお勧め。夕方日が差す側と反対の窓際席を予約しましょう。左画像は夕方に沖縄へ向かう飛行機から東の空を連続撮影したもの。向かって右が南方向、左が北方向。
雲海に日が当たらなくなる頃から「左上がりのくさび形状」に薄暗いエリアが拡大するのが分かるでしょうか。太陽が水平下から地球を照らし、影が左斜め上に伸びているのです。飛行機の窓は小さいので全容を見ることはできませんが、全体はなだらかな山型…つまり地球の形そのもの。この山の両端を担う巨大なくさびは日没後どんどん急角度になり、やがて空いっぱいに広がって境界が分からなくなります。 夜明けまで続くこの暗闇は、私たちが「夜」と呼ぶ時間。西が開けていれば、明け方の地平に地球影が没する様子も観察できるでしょう。(右は明け方に我が家のベランダから見えた地球影と満月。)
下の連続写真は茨城県から見た富士山に朝日が当たり始める様子。太陽光が山頂を赤く染め始める瞬間、その背後にまだ地球影が残っています。光は大気差の影響で観察者頭上を湾曲しながら通るため、富士山が光に満ちるのと遠方の地球影が没するのとでは微妙な位置差を感じることがあります。地球影と青空との境界はピンクや紫に染まることがあり、時に「ビーナスベルト」と称されます。原理的に晴れていれば毎朝毎晩起こりますが、空気が澄んでないとはっきりしません。日本の平地なら晩秋や冬のよく晴れた日に探すと良いでしょう。もちろん他の季節でも空が白んでなければ見えますよ。
上に紹介した地球影は大気そのものを照らす光が遮られることで見えるもの。これ以外の方法で有名なのは「月食」。地球影が満月まで届いて起きる現象ですね。月の位置から見ると地球は太陽より大きいですから、タイミングが良ければ月全体がすっぽり影に覆われるでしょう(皆既月食)。なお火星から見た地球は太陽の40分の1くらいなので、もし地球影が届いたとしても暗くなりませんよ。
空飛ぶ物体の光り方を追跡する方法も面白いでしょう。地上から飛行機を見ると、日没後なのにまだ輝いていたり、地球影に入った瞬間消えてしまうことも。更に高く飛んでいる人工衛星でも同じことが起こります。衛星の場合はとっぷり日が暮れてもまだ輝いてますね。右は人工衛星の高度と光って見える範囲の関係を示した図。低高度の衛星は地面から昇り天頂に届く前に消えてしまうけれど、高高度の衛星は天頂を越えてなお光っているでしょう。ただし、同じ大きさの衛星なら高いほど暗くなります。
5月28日の記事で、スターリンク衛星群のような衛星コンステレーション(多数の衛星で空全体をカバーする運用)の場合、可視的な影響がどうなるかシミュレートしました。この発想で、「一定高度の衛星が空を埋め尽くせば、地球影の範囲を可視化できるのではないか」と考え、やってみたのが下図です。観察地を日本経緯度原点・標高0mに設定、その上空を10000機の衛星で覆っています。ピンクの範囲は地球影によって衛星が光らない場所。各設定高度ごとに、夏至の日没から真夜中まで6種類の時間で図化しました。
衛星高度によって日照範囲がどう変わるのか読み取ってください。空を覆う衛星数が同じだと、高高度ほど天頂付近の衛星密度が増えることも見て取れますね。地球影は本来大気内の「気象光学現象」に属するようですが、ここでは天体域まで広げて記事をまとめました。これらを理解した上で前述のスターリンク衛星記事を読むと、考え方がより深まるのではないでしょうか。
【衛星高度と地球影による日照位置の関係】
衛星 高度 | 地表から300km | 地表から600km | 地表から900km | 地表から1200km |
---|---|---|---|---|
日没 60 分後 |
||||
日没 90 分後 |
||||
日没 120 分後 |
||||
日没 150 分後 |
||||
日没 180 分後 |
||||
真夜中 |
- このシミュレートは架空の衛星TLE(軌道要素)を10000機ぶん生成し、ステラナビゲーターver.10で描いたものです。
- 日付は2020年6月21日(夏至)としました。他の年でもほとんど同じです。日本では夏至のころ日照範囲が最大になるようです。
- 各高度&時刻設定にちょうど観測地上空全体を覆うよう微調整してあります。他の天体や昼光・地上光などは全てカットしました。
- 元々はステラナビゲーターの衛星表示が間違いないか検証するため行ったシミュレートです。(常用していたver.8で誤表示されていたことが分かったため。)
- 上図の「真夜中」は0:00のことではなく、地平下で起こっている子午線下方通過の時刻(いわゆる極下正中)、平たく言うと太陽が観測地の真下(地球の裏側)を通過する瞬間です。日本経緯度原点で夏至の場合はおよそ23:43。このときの日照範囲はその夜のなかでいちばん小さいはずです。
- 右図は日本経緯度原点における地球影中心の最高高度角を1年分計算したもの。夏至に極小、冬至に極大となり、夏至の頃は衛星日照範囲が広いと分かります。地球影に空全体を覆ってもらうためには、太陽が天頂に見える場所の正反対(対蹠地/対蹠点)に行かなくてはならないでしょう。
- 日照範囲は時期や観測地によってかなり変化します。近い将来の衛星コンステレーション時代に備え、みなさんの地域でもぜひ検証してみてください。
参考:
1ヶ月後の皆既月食と地球影のこと(2018/06/28)
準天頂衛星システムと「みちびき」シリーズの軌道(2017/08/13)
満月のとき、地球の影はどこにいるの?(2017/08/08)
夕日に染まる国際宇宙ステーション(2016/11/29)
連続する半影月食のヒミツ(2016/08/17)