時間という摩訶不思議なもの2019/06/10

日の出
先月5月20日にキログラムの定義が「キログラム原器」から「普遍的な物理量」へ変更されました。これにより、国際単位系(SI/International System of Units)を構成する7つの基本単位全てが人工物などに頼らない、原子レベルの性質に基づく定義となります。

私が学生のころはMKS単位系で授業が進められました。長さはメートル、質量はキログラム、時間は秒。すでに使われなくなった「メートル原器」も話には聞いていました。私たちが暮らす宇宙が「三次元空間」ではなく「時空間」などと表現され始まった時代で、タイムパラドックスやらワープやら言葉のイメージばかりが先行したSF話が量産されてゆきます。アルベルト・アインシュタインさんが相対性理論を発表してから100年以上過ぎましたが、時空の歪みだとか、重力波だとか、時間の遅れだとか、ブラックホールの振る舞いとか、現実世界では未だ観測と研究の途上と言えるでしょう。

さて、こんな小難しい解説をしたいのではなく、「時間」だけ特別扱いなのは今以て抜け切れてないなぁというお話し。その最たるのが、時間単位の記数法でしょう。つい数日前に日本出身のサニブラウン選手が100m走9秒97という日本新記録を出しました。よくニュースで使われる9秒97は「9.97秒」という意味ですね。小数の97は10進法に基づく分割だから「1秒を100で割って97倍した」という値です。

でも、もともと秒という単位は1分を60分割した数値。なぜ秒の小数は60進法にしないのでしょうか?単位系で言えば「最初に秒ありき」で話が進むので、物理量が正確に定まっており、60倍すると1分、3600倍すると時です。日や年まで考えると、現在の使用法は暗黙に次の様になるでしょう。

  • 年…1日の365倍または366倍(年によって端数処理が変わる→閏日)
  • 月…1日の28倍から31倍(年と月の順に依存)
  • 日…1時間の24倍、1秒の86400倍(日によって端数増減がある→閏秒)
  • 時…1分の60倍、1秒の3600倍
  • 分…1秒の60倍
  • 秒…国際単位系で定義
  • 秒の小数…10進法による分割

なんだか…支離滅裂(笑)。もともと「年」は季節の一巡り、つまり「暑い、寒い、暑い、寒い…」という大きな自然周期を見出したところから始まり、「月」は文字通りお月様の満ち欠けの周期、「日」は昼夜の周期。それぞれ独立した天体運動だから相互変換が半端な数になることは理解できます。でも日←→時あたりから人間の考えが関わっておかしなことになってくる。24進法(12進法)であったり、60進法であったり、10進法に戻ったり…。長い伝統があって生活に溶け込んでいるとは言え、単位系の中ではいささか異端で非合理ではないでしょうか。だってこれ、地球でしか成り立たない数値ですよ。近い将来に月や火星で暮らす人間が出てきたら、24時間や365日なんて全く無意味。地球に準じた時間表現では生活にかなり不都合が出るでしょう。秒を基軸に、年月日時分に取って代わるような、どんな宇宙でも一貫して使える表記を考えても損はないと思われます。

SIロゴ
科学的な測定を考えるときは、単位(Unit)という幅だけではなく原点(Origin)も重要です。重さが0キログラムとはどういうことか、気温が0度とはどんな状態か…。同じように、何をもって時刻の原点とするか、ということです。宇宙に流れる絶対時刻は未だに最初がどうなっているか分からないので、決めようがありません。人類史だけを考えても、カレンダーの最初は文明によってまちまちですね。現在日本で使われているグレゴリオ暦は西暦表記なので、西暦ゼロ年が存在しないことも混乱を招きます。

一日という単位だけとっても、原点をどうするか迷うでしょう。生活では「朝が一日の始まり」とも表現します。太陽という目印がなければ原点が定まらないためか、かつては太陽がもっとも高くなる正午から翌日正午までを1日としたそうです。(※その名残でユリウス日の計算に0.5という端数がついています。→国立天文台・暦wiki参照)時間と時刻の正確な測定技術が進歩したので、現代の0:00は真夜中(正子/しょうし)に置き換えられたのですね。とは言え、ぽんぽんと原点を換えていい話ではない気がしますが…。

現段階では「物理的にここが時刻の最初だ」という根拠ある原点は定まっていません。私たちが使う暦も時計も、話し合って決めた「仮の原点」からの相対量です。これも時間という概念固有の状況ですね。時の記念日を迎えて、つらつら思ったことでした。