不思議な小惑星「2016HO3」2016/06/25

2016HO3軌道図byNASA-JPL
地球の準衛星とでも言われそうな天体が発見されたことを、星仲間のかすてんさんのブログ経由で知りました。あらためて元のニュースを読んでみました。NASA・JPLによる記事はこちらこちらは実物の画像あり)。アストロアーツによる紹介記事はこちら

元ニュースのタイトルには「Small Asteroid Is Earth's Constant Companion」とあります。この天体の正体はAsteroid、つまり太陽を巡る小惑星のようですね。小惑星「2016HO3」は地球の比較的近くを回っており、しかも公転周期が地球とほぼ一緒。そして公転の様子を「外から」見ると、地球につかず離れず、あたかも「地球の衛星」であるかのように振る舞っているそうです。左上図は前出のNASA記事からの引用で、記事には動画もあるのでぜひご覧ください。全く関係ないですがロータリーエンジンの図解とか、リサジュー図形を連想してしまいました。

ところで、この図や動画には少しトリックがあるように感じました。地球と太陽とがほぼ動かないように描いている(太陽−地球固定系による作図)からです。ということは、ここには描かれてないけれど、本来地球に対しての公転運動の基準にすべき背景の恒星がブンブン回ってしまってるわけですね。

2016HO3地心軌道図
この小惑星が地球に対して公転しているかどうかは、地球中心+恒星位置基準(+地球自転を排除)で考えなくては分かり辛いでしょう。

そこで、NASA・HORIZONSを利用して小惑星「2016HO3」が地球から見てどこに見えるか計算し、プロットしてみました。計算は2000年初めから2020年末まで21年間・5日おきです。右図の左半分は地球軌道を垂直に見下ろした図(黄道座標系の黄経方向の広がりを表現)、右半分は黄道と平行に見た図(黄道座標系の黄緯方向の広がりを表現)になります。また黄色の点は計算開始位置、水色点は終了位置です。地球は実際より大きく描いていますのでご注意。

右図では地球に対して遠くの恒星方向は変化しません。その代わり太陽は年1回地球の周りを回ります。もしこの図で地球を焦点として楕円軌道を描く天体Mがあれば、Mが地球を公転してるか、地球がMを公転してるかのどちらかです。前図で地球を回っているように見えた小惑星2016HO3はこの図の通り、実はある一定の範囲から外には出ていませんでした。地球を焦点とした楕円軌道とまるで異なる、なんとも奇妙な動きですね。じっくりカウントするとちゃんと21周分まわっているようですが、これでは地球を回っているとは言えそうにありません。

2016HO3軌道図
あらためて1年分だけ太陽中心に描いたのが左図(ステラナビゲーター使用)。水色矢印は地球から小惑星を見た向きです。季節変動はあるけれど一年を通して矢印は左向きで、右を向くことはありません。同様に南北方向にも揺れ動きますが一周することはないのです。ところが地球の後ろからついていくようなカメラ目線で見ると、最初のNASA画像のように1年の半分は小惑星が地球軌道の内側、残り半分は軌道の外側に見えますから、回っていると勘違いしてしまうのでした。

地球の衛星である「月」や「国際宇宙ステーション」などを地球から見ると、恒星に対して後戻りせず一定方向に移動し、周期の長短に関係なく360°の移動を完遂します。これが短期的にはケプラー運動の主従関係になることは周知の通り。地球と太陽の関係もそうなっています。しかしながら満ち欠けからも分かる通り、月から見た太陽だって空を一周しますよね。地球外から見たとき、一見してお月さまもこの小惑星のように「太陽を中心に回る星」ではないかと感じてしまうことはあるのです。例えば「空を一周する」ことに注目すると、より早い周期で運動する要因を作る「主星」を探し出せれば惑星なのか衛星なのか区別がつきそうな気もしますが、この条件で必要十分なのか素人の私には全く分かりません。ラグランジュ・ポイントにある軽い天体のように、地球に対しても太陽に対しても同じ周期で公転すると見なせるなら、主星は複数あると言ってもおかしくないケースだってあるでしょう。

宇宙はたくさんの星が互いに引き合っているため、どれがどれの衛星とか惑星とか分類することは一筋縄ではいかないようです。宇宙は実に多様で複雑。そんな思いをあらためて実感させてくれた小惑星「2016HO3」でした。