マジックムーンによる月面表現2023/05/02

2023年2月満月と4月上弦によるマジックムーン
左の月面画像をご覧になってください。どういった印象を持たれるでしょうか?通常の満月画像とは違うようだし、上弦画像の地球照を強調したものとも違うようだし…。不思議な雰囲気を受けることでしょう。

この画像は今年2月6日0時台に撮影した満月と、4月28日22時台に撮影した上弦を、それぞれ大きさを一致させて重ねた合成画像なんです。違和感なく繋げるため個別の処理を施してありますが、直径を合わせる以外にアフィン変換やモーフィングなどマッチさせるための変形処理はしていません。つまり「二枚の原画にはもともと秤動によるズレがほとんど無かった」というのが重要な点。無論、狙って撮りました。

フィルムで撮っていた時代から上弦と下弦をうまく繋げた「立体感のある月面全図」を何度か試したことがあり、また諸先輩の実践例も見せていただきました。でもいつだって秤動によるズレが立ちはだかり、理想とする像には程遠い…。

デジタル時代になってやっとフィルム代を気にせずジャンジャン撮りためることができるようになったけれど、やはり異なる日の月面はそう簡単に繋げられませんでした。逆にこのズレを利用すると3Dメガネを使った立体写真が作れるので、興味がそちらに流れてしまいました。

4、5年前から自作プログラムによる正確な秤動計算ができるようになったため、再び月面の立体表現を考えるようになりました。そんなおり、ブログ「photo.nomata」のTerujiさんが同様の合成を考えておられることを知って、情報交換しつつ、ひとまず「秤動差が極めて少ない満月+上弦または下弦」を目指すことにしました。ふたつの月相をピタリと合わせる「マジックムーン(Magic Moon or Magical Moon)」の呼称はTerujiさんの発案です。

とは言え、秤動値は天文年鑑にあるような地心秤動ではなく観測地から見た測心で計算する必要があり、しかも上弦と満月でぴったり一致するチャンスがあるとは思えない。ある程度の許容誤差を見込んで「実現し得る日時の組み合わせ」をリストアップした上で、その日にひらすら月を撮りためてゆくしかありません。スタートしたのは2021年の終わり頃だったでしょうか。(それまで太陽黄経差を意識した撮影は10年以上続けていたけれど、正確な秤動値が分からないため意識できませんでした。)

ちなみに左上画像での秤動は下記の通り(いずれも測心計算)。

  • 2月6日0:42…緯度秤動・-6.244°、経度秤動・-1.206°、太陽黄経差178.67°
  • 4月28日22:25…緯度秤動・-6.202°、経度秤動・-0.816°、太陽黄経差96.82°

2023年2-4月測心秤動(茨城県つくば市)
緯度秤動・経度秤動とも差は0.4°未満。これくらいであれば合成ズレは直径10kmくらいの小クレーター1、2個ぶん程度なので、極端に大きなサイズで閲覧しない限りほぼ目立ちません。

右図は2023年2月1日0:00から5月1日0:00まで三ヶ月間の測心秤動図の例。私の観測地に近い茨城県つくば市を代表点として計算しました。青線が薄いところは昼間、濃いところは夜間。このなかで、2月満月と4月上弦が接近していますね。数年ぶん計算を進めると、このようなチャンスが何度も見つかるのです。期間や位相にこだわらなければ図の色々なところで異なる位相同士が近い組み合わせが生まれるでしょう。秤動は年々変化するので計算年に寄ってしまいますが、1時間単位で撮影を微調整できれば測心秤動差が0.5°以内におさまるチャンスは意外にあるもの。当日の天気はどうしようもありませんけどね。

合成の方法も様々考えられます。左上画像では満月側の明るさを少し落としつつコントラストを上げ、上弦の長所である欠け際の立体感と、満月の長所である光条の広がりが両立するよう心がけました。単純な加算や加算平均だけでなく、上弦など陰影のある側を輝度信号の増加分またはマスクとして使うことも可能でしょう。作業中に面白いと思ったのは、半月時にカスプや明暗境界に現れる「単独で小さく光る地形」がどのクレーターのどの山頂なのか、ひと目で分かるようになったこと。今回の合成では月面X&LOVE地形も全部入りましたが、これも満月画像単体では特定が困難です。上弦と下弦、三日月と二十六夜月などを組み合わせるも良し。異なる位相を三種類以上組み合わせるも良し。あまり科学的な意味合いを考えず、アートとして扱うのも良し。表現方法は無限です。

3Dの球体に画像をマッピングしてちょっと回せば、こうした合成はあっという間にマッチできます。でもそれをやってしまったら面白くないし、足りない月縁部分が破綻するのでカットするしかありません。自然の巡り合わせに身を委ね、アナログで合成のチャンスをつかみ取るほうが何百倍も深い感動を味わえます。

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