プラトーに射す一筋の光2023/11/22

20231121_1740プラトー
昨夕は月面北半球にあるプラトー・クレーターでRay現象が予報されていました(→2023年11月17日記事参照)。当地・茨城県南部は午後から雲が広がり、天気予報も夜半までは雲が多いとのこと。天気ばかりは時の運。どうにもなりません。

それでも万が一のために色々準備していると、16時ごろから晴れ間が広がりました。隣家の屋根から月が顔をのぞかせています。このまま3時間くらい持ちこたえてくれと念じつつ、撮影準備を進めます。ときおり雲が通過するものの、予定時刻の18時が近づくと安定した良い空になりました。

今回の目標はふたつ。ひとつはプラトーRay現象の開始時刻を見極めること。もうひとつは「月世界への招待」ブログの東田さんが2023年3月30日の観察日記で紹介されていた「グルイテュイゼン男爵の月面都市」を観察すること。他にも色々ありましたが、とりあえずこの二つを叶えたい。前述のRay予報は18:00ごろ見え始まるということなのですが、念のため20分前から撮影開始(冒頭画像)。10分おきに同一条件で撮り進める予定でした。ところが17:50までは順調に進んだものの、再び雲が頻繁に横切るようになってしまい、18時以降は朧月、18:10以降は完全に曇ってしまいました。再び月が見えてきたのは19時ごろでした。

20231121_1800プラトー
今回はRayに注目するため、撮影と画像処理は露出オーバー気味に行っています。シーイング対策としてフィルターを付けている都合で反射ゴーストが出ています。低照度の対象ですから背景に対するコントラストが著しく低いため、本来ならノーフィルターで撮影すべきだったかも、というのは後で気付いた反省点です。

Ray現象そのものをモニターで最初に確認できたのは17:48ごろ。ゲインを上げ下げしている途中に微かな光の筋がクレーター底を照らし始めていたのです。カメラに写ったのは17:53ごろ。18:00の撮影でもよく分かります(右画像)。ただし普通に撮ったのではダメで、真っ白になるくらい露出を伸ばしたりゲインを上げないとダメでした。まぁ、これは予想していた通り。

赤矢印の隙間から入った太陽光が黄色楕円点線のところを細長く照らしているのが分かるでしょうか。このスリムなスリット光線こそRay現象として理想的な姿。ちょっと大げさですが、夢にまで見た光景でした。

20231121_1911プラトー
1時間以上過ぎた19:11の撮影(左画像)では、もう露出オーバで撮らなくてもクレーター内に入り込むいくつものRayが写るようになりました。ここまで過ぎると林の影みたいになって、他のクレーターでも起こる「一般的なRay現象」の見え方です。今回は「プラトーに最初に差し込む一筋の光」を捉えることにあったので、まずは成功と言えましょう。

ピコ山の長い影も印象的。アルプス谷のあいだを走る細い谷も写りました。Lunar100の99番目「Ina」もかろうじて写ってますね。雲のせいもあるけれど、日が暮れる前や薄明時のほうがシーイングは安定していました。海外の有名月面写真家が「日没少し前のほうが写りが良い」とおっしゃっていた意味が少し分かりました。

もう一つの目標「月面都市」は17:40にRay撮影を始める前に撮影(下A画像)。筋状に並ぶ山脈などをようやく捉えることができました。拡大してしまうとただの月面地形ですが、おそらく小さな望遠鏡で強拡大すると細部がぼけて、都市景観らしくなるのでしょうね。個人的には一緒に写っているトリスネッカー谷のほうが道路網に見えます。画像上辺のアペニン山脈内にはアンペール山の二つ星付近が写っており、二つ星ではなくこと座ε星のような「ダブル・ダブル」になっていて笑ってしまいました。

Ray撮影後は直線壁あたりも撮ってみましたが、シーイング最悪に戻ってしまい、写りは良くありません(下B画像)。直線壁と平行するバート谷の北端には谷を挟むように大きなドームがあります。これくらいの月齢だと出張っているのがよく分かりますね。デランドルの少し下にあるレクセルBに縦線が入っています。スタックエラーかと勘違いするほどはっきりした黒線ですが、ここには地震でできる断層みたいな段差があって、その影が見えているのです。この線は下弦側で見ると白っぽく変化します(下C画像)。だから谷や溝ではなく断差だと分かるのです。画像下辺・明暗境界の真っ暗なクレーターはティコ。もう一週間もしないうちに光条を湛えて明るく輝くでしょう。

途中雲の邪魔が入って経過が追えなかったけれど、なんとか二つの目標を達成できてほっとしました。結果はあらためて細かく分析し、今後のRay予報精度向上に役立てたいと思います。

【メモ】
現象開始を11月21日17:50:00としたとき、プラトー基準点(IAU)における太陽高度は約0.943°。1.000°(18:00:54)では既に始まっていると考えて良い。


  • 20231121グルイテュイゼンの月面都市、アペニン山脈、プトレマイオス

    A.グルイテュイゼンの月面都市付近
  • 20231121プトレマイオス、直線壁、デランドル

    B.直線壁付近
  • 20231121レクセルBの線

    C.レクセルBの縦線


20231121_1740プラトー
【追記】
「月世界への招待」サイトの東田さんが詳細な観察をされています(撮影日記2023/11/21を参照)。さすがベテランだけあってしっかり撮影されて感動しました。東田さんの報告では既に17:38撮影画像でRayが写っていたとのこと。そこで、私が撮影した17:40画像を再処理してみると、確かに淡いRayが写っていました。

そのまま掲載しても全く見えないだろうと思いますから、白黒反転したものを左に載せました。記事冒頭画像と同じトリミングで、中央がプラトーです。こうすると臨場感は消え失せますが、光線の様子は確認しやすいでしょう。プラトー内には確かに黒い筋がありました。

観察中も確かに違和感があって、17:48ごろ最初に見つけたとき「いや、もうこんなに伸びてるんかい!?」と思ったのです。一気に射し込む可能性も無くはないですが、それにしてももっと前から光が見え始めていただろうと。仮に17:30JSTだとするとプラトーから見た太陽高度は約0.839°。案外Rayのスタートは0.8°あたり(今回なら17:22:36ごろ)だったかも知れませんね。ただ現象初期は誰が見ても光ってるという状態ではないため、どの時点を現象開始と表現するかは一考の余地があります。



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