アンペール山の二つ星を観る2023/06/27

20230626_アンペール山の二つ星
いつも記事を楽しみにしている東田守生さんのブログ「月世界への招待」に「アンペール山の二つ星」と題した観察日記が掲載され、とても興味が湧きました。アンペール山は月面の名所、アペニン山脈の中にあり、その南にふたつの輝点が輝くように見える時がある、とのこと。

計算したところちょうど昨日6月26日宵に見えそうだったので、晴れ間を待つことにしました。でも日没前から前日より雲が多くなってしまい、月が見えません。今夜はダメかとしばらく室内待機。ところが1.5時間ほどしてあらためて外へ出ると西空だけ晴れ、ピンクの月が中空に浮いてるではありませんか。常に雲が流れて観察・撮影に全く不向きだったけれど、構わず望遠鏡を向けました。

アンペールの二つ星・20231220シミュレート
真っ先にアペニン山脈を見ると二つ星がきれいに見えています(左画像・中央左寄り)。この山脈は北東から南西へカタカナの「ノ」の字を描いており、途中にいくつかの凹みがあります。山脈が朝を迎えるとき、タイミングによっては凹み部分がまだ闇の中なのに、高い山頂付近はもう光っている、と言ったことがよくあります。二つ星を見るには回りが十分暗い必要があり、月面Xなどよりかなりシビアな条件かも知れません。

二つ星だけでなく、アルキメデスやアリスティルス周囲の複雑な溶岩流やドーム、あるいは熱の入り江の複雑に絡まったリッジなど楽しむことができました。クリアな空で見たかったなぁ…。雲で光量が激しく変わるため目や頭が痛くなりました。(これも一種のポケモンショック!?)観察後10分ほどで皆曇に戻ってしまいました。

20230626_09191月
今回は撮影が遅かったので星周囲の地形が少し見え始まっていました。今後のチャンスに期待しましょう。右上はLunar Reconnaissance Orbiterの標高データを使って陰影シミュレートした例。2023年12月20日20:56ごろの日照を想定しており、二つ星はオレンジ矢印のところです。北側の星(として輝く山頂)からみた太陽高度は2.0°の条件。これくらいだとちょうど良いですね。

星はおよそ177kmあまり南北に離れており、高さも違うため日照がわずかにずれます。もしかしたら片方の星だけ先行して光るわずかなタイミングがあるかも知れません。なおいくつかシミュレートした結果、下弦側では南の星が消えても北の星周囲がまだたっぷり光っているようで、二つ星は上弦側のみの現象のようです。

左は26日21時少し前の撮影で、太陽黄経差は約91.91°、撮影高度は約32.74°、月齢は8.30。この全体像でもアンペール山の二つ星が確認できますから探してみてください。月面X&LOVE地形はすっかり明るくなってますね。それにしても梅雨の時期は少し見ない間に月齢がうんと進んでしまいます。

アンペールの二つ星・20231220シミュレート
【補記】
左は前出シミュレートと同じ2023年12月20日で、時刻は18:40ごろ。これは計算上“南の星”から見た太陽高度が+1.0°のタイミングに相当します。オレンジ矢印が二つ星の位置ですが、北側は南側よりかなり小さく「光が当たり始めた直後」だと考えられます。このあたりが南北の分かれ目なのかも知れません。またこのタイミングで西側に別の光点(青矢印)が見えていますから、南の星と合わせて「別の二つ星」を構成したように感じられる可能性もあるでしょう。向こう10年ほど計算した範囲では、北の星より南の星のほうが若干早めに光を浴び始めるようです。なお太陽高度0.0°設定では二つ星のどちらも全く光りませんので、影を落とす東の山々のほうが高いことになります。

ただしこうしたシミュレーションを鵜呑みにはできません。シミュレートでは太陽位置に「点光源」があると仮定してますが、実際の太陽は面積体なので、月面であれ地球面であれ、特定の場所を照射する光量はパッと切り替わるのではなく、約0.5°の高度差の幅で徐々に増すからです。また、太陽照射を遮る東の山々は凸凹が激しいと考えられるため、太陽の方位角が少し変わっただけでも日照タイミングが変わってしまいます。

全てのケースでシミュレートする訳にも行きませんから、月面観察のタイミング予報などは参考程度に留め、できるだけ時間にゆとり持って実際に観察することをお勧めします。