月も火星もシーイング悪く… ― 2022/12/14
一日雨が降ったおかげで昨夜から今朝は湿度が高かったものの、良く晴れました。明け方の気温が0度台まで下がり、当地では冬本番と言ったところ。色々観察したいものはあったけれど、空の方向の都合で我が家から観察しづらく、結局火星と月のみに留まりました。
火星(右下)は13日23時前、月は14日2:30過ぎに観たのですが、眩暈がするほど大気の揺らぎが酷く、為す術がありませんでした。前夜の好シーイングが嘘のようです。月ですらそうなので、火星ほど小さいとスタックしてもエラーや人工的な模様の発生が頻発します。右下画像でもリムにたくさんの裂け目ができてしまいました。
遠目に見るぶんにはきれいなんですけど、これが冬シーイングの実態なのですよね。まぁ、しかたない。
月は太陽黄経差240.78°、撮影高度は64.82°、月齢19.78。右下リムが良く見える秤動の時期に入っており、オリエンタレ盆地が見え始まっています。17日明け方をピークに、前後数日は観察好機でしょう。シーイングが悪くても、リムに沿って見て行くと一部分だけ凹んでいる(直線状になっている)ことが分かります。
合間にふたご座流星群を数えました。トータル15分ほどですが、マイナス5等級が2個、0等級が1個、2等級が2個見えました。月がなければ相当見えたと思われます。
火星(右下)は13日23時前、月は14日2:30過ぎに観たのですが、眩暈がするほど大気の揺らぎが酷く、為す術がありませんでした。前夜の好シーイングが嘘のようです。月ですらそうなので、火星ほど小さいとスタックしてもエラーや人工的な模様の発生が頻発します。右下画像でもリムにたくさんの裂け目ができてしまいました。
遠目に見るぶんにはきれいなんですけど、これが冬シーイングの実態なのですよね。まぁ、しかたない。
月は太陽黄経差240.78°、撮影高度は64.82°、月齢19.78。右下リムが良く見える秤動の時期に入っており、オリエンタレ盆地が見え始まっています。17日明け方をピークに、前後数日は観察好機でしょう。シーイングが悪くても、リムに沿って見て行くと一部分だけ凹んでいる(直線状になっている)ことが分かります。
合間にふたご座流星群を数えました。トータル15分ほどですが、マイナス5等級が2個、0等級が1個、2等級が2個見えました。月がなければ相当見えたと思われます。
今日の太陽 ― 2022/12/14
月食で地球の影を浮かび上がらせるには… ― 2022/12/14
「ほしぞloveログ」のSamさんが、皆既月食過程を連続撮影して地球影(本影)を浮かび上がらせる方法について興味深い考察をされていました(記事1および記事2)。似たようなことを私も常々考えていたので、私なりの考察を書き留めておこうと思います。
通常多くの方は月食過程を一定間隔で撮影し、あとから撮影時刻の月位置にそって並べる方法をとります。私も2022年11月9日記事の扉画像などをそのように作っています。よく月食図として描かれる「地球の影を横切る月」の構図は原点が「地心から見た地球影中心」であり、そのようにしなければ月と本影との相対関係が分からないからです。前述Samさんの記事内容は「あとから位置調整しないで済むよう、地球影中心がずれないような撮影方法はないか」という考察に帰結すると思われます。見えない地球影中心をいかにしてカメラセンサーに固定させるかはかなり難しいテーマでしょう。
そもそも地球影はどんな動きをするのでしょうか?これは以前記事にしたことがあります(→2018年6月28日記事参照)。記事内の図は赤道座標系で描いた場合の位置変化ですが、黄道座標系や白道座標系など、座標系の取り方に関係なくこの「バネのような形に沿った移動」は発生します。これは観測者が地表で自転しつつ有限距離の移動天体を観ることに起因する動きで、例えば最近の例ではオリオン宇宙船帰還撮影に際して作った視位置星図でも本体移動とは別に東西の揺れとして現れています(※地心視位置星図では左右の揺れは出ません)。またほとんどの月面秤動図は地心計算で描かれるのでリサジュー図形のような断片になるけれど、これを測心計算で描くとバネ状の軌跡が多数現れます(2021年5月5日記事最下部参照)。これも同様です。
左上図は今年11月8日月食の前日12:00JSTから三日間の地球影移動を赤道座標系で示したもの。(※追記:ご要望があったので月視位置も地心/測心それぞれ描き加えました。)横軸:赤経はEAST(左方向)ポジティブ。青線は地心から見た地球影中心視位置、緑線は測心(日本経緯度原点を代表点で計算)からの視位置、紫線は同・地心月位置、オレンジ線は測心月位置。ドットは毎30分ごと、おおよその部分月食開始と終了を黄色矢印で示しています。青線は日心・地心を結ぶ延長上にありますから、黄道の一部に他なりません。
実際の撮影では地図投影法的な歪み+レンズ収差もあり、また月高度が低ければ大気差も加わるけれど、ここでは一番大きな量となる位置変化のみ理解できるよう他は排除し、直交座標で示しました。(※そもそも大気差が気になる高度では月や地球影リムが正円で近似できないでしょう。)同様に、2025年9月の皆既月食についても右下図に示しました。更に左下がり移動例として、2015年4月4日(地球影中心の北側通過)、および2018年1月31日(地球影中心の南側通過)の図も記事下のA・B図として描きました。
図から分かるように、地表から見た地球影や月の移動は直線的ではありません。皆既月食と言う枠組みに属していても、月食ごとに様相が異なります。私たちは青線のような直線的な地球影運動と、それを横切る紫線のような直線的月運動をするものと思い込んで撮影する訳ですが、(恒星基準なら)実際は緑線のような動きであり、更にオレンジのような複雑な月運動が絡み合ってるということですね。オレンジ線は一見して等速直線運動のように見えるけれど、波打っていて、ドット間隔が時刻により変化する複雑な動きです。もちろん月が遠地点近くなのか近地点近くなのかでも移動速度は大きく変わるでしょう。
もし青線のように動くなら地球影追尾は太陽追尾モードである程度近似できますが、それでも赤緯方向は補正できませんし、平均太陽時とのずれ補正がない赤道儀では赤経方向も微妙にずれます(地球公転速度は一年周期で変化します。)。それに、実際に行いたいのは青線ではなく緑線の追尾と、緑線に対応するオレンジ線上の月の撮影なのです。これは容易に近似できる変化ではなく、太陽・地球・月の各位置や観測地によってもかなり差が出ますね。もちろん月距離はどんどん変わるため、本影直径も刻々と変化します。
2022年11月と2025年9月の月食で大きく違うのは、前者が「宵から深夜の現象/地球影の北側を月が通る」、後者が「深夜から明け方の現象/地球影の南側を月が通る」というところ。特に「月が南中前か後か」は地球影視位置に大きく影響します。今回恒星時追尾あるいは太陽時追尾で撮影された方は、位置補正後のずれが図中の「月食開始」から「月食終了」までの曲線を180°回転させたものに近い量になったことと思います。
これらの補正をメカニカルな仕組みで対応するのは少々無理があるかも知れません。月食のたびに架台を作りかえなくてはなりませんね。それよりも現実的なのはソフトウエアで補正してゆく方法でしょうか。大きく二つの方針が考えられます。ひとつは赤経赤緯に対して追尾レートを連続的に変化させる方法、もうひとつは撮影のたびに仮想地球影位置を自動導入させる方法。前者はASCOMなどで任意レートを設定する手段があるなら可能かも知れません。後者はいまどきの架台なら自動導入はたやすいでしょうから、撮影時刻に応じて予め地球影位置を計算しておけば簡単でしょう。広範囲をモザイク撮影したり、月面を小さなセンサーでモザイクするのと一緒で、月食時間を細分して地球影位置を中心に撮影するスケジュールを組み立ててしまえば自動化も可能と思います。(導入精度が大きく影響することは言うまでもありません。)
撮り直しのきかないフィルム時代に多重露光でこのような撮影を行う場合、一コマでも失敗したらアウトでした。今は個別撮影+後からコンポジットという方法論に逃げられますから、当時のような緊張を感じなくて済む代わり、なにか達成感も削られたような気がします。この撮影方法なら適度な緊張感と、努力に見合った結果がありそうでワクワクしますね。
(※記事中の図は自作プログラムによります。使用暦表:JPL-DE440。)
通常多くの方は月食過程を一定間隔で撮影し、あとから撮影時刻の月位置にそって並べる方法をとります。私も2022年11月9日記事の扉画像などをそのように作っています。よく月食図として描かれる「地球の影を横切る月」の構図は原点が「地心から見た地球影中心」であり、そのようにしなければ月と本影との相対関係が分からないからです。前述Samさんの記事内容は「あとから位置調整しないで済むよう、地球影中心がずれないような撮影方法はないか」という考察に帰結すると思われます。見えない地球影中心をいかにしてカメラセンサーに固定させるかはかなり難しいテーマでしょう。
そもそも地球影はどんな動きをするのでしょうか?これは以前記事にしたことがあります(→2018年6月28日記事参照)。記事内の図は赤道座標系で描いた場合の位置変化ですが、黄道座標系や白道座標系など、座標系の取り方に関係なくこの「バネのような形に沿った移動」は発生します。これは観測者が地表で自転しつつ有限距離の移動天体を観ることに起因する動きで、例えば最近の例ではオリオン宇宙船帰還撮影に際して作った視位置星図でも本体移動とは別に東西の揺れとして現れています(※地心視位置星図では左右の揺れは出ません)。またほとんどの月面秤動図は地心計算で描かれるのでリサジュー図形のような断片になるけれど、これを測心計算で描くとバネ状の軌跡が多数現れます(2021年5月5日記事最下部参照)。これも同様です。
左上図は今年11月8日月食の前日12:00JSTから三日間の地球影移動を赤道座標系で示したもの。(※追記:ご要望があったので月視位置も地心/測心それぞれ描き加えました。)横軸:赤経はEAST(左方向)ポジティブ。青線は地心から見た地球影中心視位置、緑線は測心(日本経緯度原点を代表点で計算)からの視位置、紫線は同・地心月位置、オレンジ線は測心月位置。ドットは毎30分ごと、おおよその部分月食開始と終了を黄色矢印で示しています。青線は日心・地心を結ぶ延長上にありますから、黄道の一部に他なりません。
実際の撮影では地図投影法的な歪み+レンズ収差もあり、また月高度が低ければ大気差も加わるけれど、ここでは一番大きな量となる位置変化のみ理解できるよう他は排除し、直交座標で示しました。(※そもそも大気差が気になる高度では月や地球影リムが正円で近似できないでしょう。)同様に、2025年9月の皆既月食についても右下図に示しました。更に左下がり移動例として、2015年4月4日(地球影中心の北側通過)、および2018年1月31日(地球影中心の南側通過)の図も記事下のA・B図として描きました。
図から分かるように、地表から見た地球影や月の移動は直線的ではありません。皆既月食と言う枠組みに属していても、月食ごとに様相が異なります。私たちは青線のような直線的な地球影運動と、それを横切る紫線のような直線的月運動をするものと思い込んで撮影する訳ですが、(恒星基準なら)実際は緑線のような動きであり、更にオレンジのような複雑な月運動が絡み合ってるということですね。オレンジ線は一見して等速直線運動のように見えるけれど、波打っていて、ドット間隔が時刻により変化する複雑な動きです。もちろん月が遠地点近くなのか近地点近くなのかでも移動速度は大きく変わるでしょう。
もし青線のように動くなら地球影追尾は太陽追尾モードである程度近似できますが、それでも赤緯方向は補正できませんし、平均太陽時とのずれ補正がない赤道儀では赤経方向も微妙にずれます(地球公転速度は一年周期で変化します。)。それに、実際に行いたいのは青線ではなく緑線の追尾と、緑線に対応するオレンジ線上の月の撮影なのです。これは容易に近似できる変化ではなく、太陽・地球・月の各位置や観測地によってもかなり差が出ますね。もちろん月距離はどんどん変わるため、本影直径も刻々と変化します。
2022年11月と2025年9月の月食で大きく違うのは、前者が「宵から深夜の現象/地球影の北側を月が通る」、後者が「深夜から明け方の現象/地球影の南側を月が通る」というところ。特に「月が南中前か後か」は地球影視位置に大きく影響します。今回恒星時追尾あるいは太陽時追尾で撮影された方は、位置補正後のずれが図中の「月食開始」から「月食終了」までの曲線を180°回転させたものに近い量になったことと思います。
これらの補正をメカニカルな仕組みで対応するのは少々無理があるかも知れません。月食のたびに架台を作りかえなくてはなりませんね。それよりも現実的なのはソフトウエアで補正してゆく方法でしょうか。大きく二つの方針が考えられます。ひとつは赤経赤緯に対して追尾レートを連続的に変化させる方法、もうひとつは撮影のたびに仮想地球影位置を自動導入させる方法。前者はASCOMなどで任意レートを設定する手段があるなら可能かも知れません。後者はいまどきの架台なら自動導入はたやすいでしょうから、撮影時刻に応じて予め地球影位置を計算しておけば簡単でしょう。広範囲をモザイク撮影したり、月面を小さなセンサーでモザイクするのと一緒で、月食時間を細分して地球影位置を中心に撮影するスケジュールを組み立ててしまえば自動化も可能と思います。(導入精度が大きく影響することは言うまでもありません。)
撮り直しのきかないフィルム時代に多重露光でこのような撮影を行う場合、一コマでも失敗したらアウトでした。今は個別撮影+後からコンポジットという方法論に逃げられますから、当時のような緊張を感じなくて済む代わり、なにか達成感も削られたような気がします。この撮影方法なら適度な緊張感と、努力に見合った結果がありそうでワクワクしますね。
(※記事中の図は自作プログラムによります。使用暦表:JPL-DE440。)