日出没の方位の話 ― 2025/06/25
夏至にちなんだ記事が続きます。天リフさんの昨日の配信で太陽の方位について皆さんが混乱されていたようなので、少しまとめてみました。
恒星と違い、日出没の太陽方位に季節変動があるのはご存知でしょう。後述しますが、最北や最南の日は必ずしも夏至や冬至と一致しません。でも夏至や冬至に近い日なのは確かです。具体的にどう変化するか、今年を例に図化すると下A・B図のようになります。国内五ケ所で計算しました。ここでの方位角とは、真北を原点として東回りに測り、真東:90°、真南180°、真西:270°とします。(※人によって南原点を採用してる場合もあるのでご注意。)
北半球では北へ行くほど振れ幅が大きくなり、札幌では真東/真西プラスマイナス30°以上ありますね。北緯60°まで行くと白夜ギリギリ、左図(Stellariumによるシミュレーション)のとおり夏至の日出没が真北プラスマイナス35°くらいになって、1日の方位変化が凄まじいでしょう。
日出没瞬間の太陽中心はまだ地平より下ですから、真東/真西に日出没するのは春分の数日前、または秋分の数日後です。グラフにもそれが現れてますね。(方位角90°・270°の線と交わるのは何日ごろか読み取ってください。)具体的な数値を確かめたい方は国立天文台・暦計算室の太陽系天体の出入りと南中のページを使うと良いでしょう。
では、1日辺りの変化量はどうでしょうか?下C・D図は方位角そのものではなく、前日からどれだけ方位が変わったかを表したグラフです。ここでのマイナス値は「北へ移動」、プラス値は「南へ移動」を意味します。方位変化は毎日同じスピードではなく、春分と秋分をピークとして波になっていますね。ほぼ動かなくなるのは夏至と冬至のころ。この頃に「北行から南行」または「南行から北行」に転じる変換点があるわけです。
日本で一番大きく変化する春分・秋分のころはだいたい1日あたり0.5°、つまり太陽1個分ほどずれて昇ったり沈んだりします。いっぽう変化が最小になる夏至・冬至のころは方位がほとんど変わりませんが、だからといって日出没が最北や最南かと言うとそうとも限りません。太陽のアナレンマを思い出してください。毎日同じ時間に同じ場所から太陽または太陽でできる影を見ると「8の字」を描く、あれですね。
下E図は日本標準時子午線に近い兵庫で計算したアナレンマ。6時、9時、12時のもので、ドットは二十四節気の位置。夏至は8の字のもっとも北にあります。ではこれを限りなく日の出の位置に近づけたらどうなるでしょうか?夏至の位置はアナレンマを赤道座標系で見た時に最北なのですが、地平座標で必ずしも方位最北と一致しないのではないでしょうか。非常に近いのは確かですが、実際に方位の変換点を計算すると夏至や冬至と少しずれることが結構あります。その日の中でも太陽が動いてしまうからですね。夏至瞬時が0:00でも23:59でも、日付で区切る限り同じ扱いになってしまうのです。
事例をひとつ挙げましょう。下F図は2026年6月の札幌から見た太陽方位角。2026年の夏至瞬時は6月21日17:24:30JSTです。いっぽう札幌から見た日の出の太陽方位角は21日が55.92922°、22日が55.92863°、23日が55.93850°。21日と22日は角度にしてわずか2秒角の差なので目で見ても全く変わりませんが、夏至の翌日22日のほうがいちばん北寄りに太陽が昇るのです。こういう例は先入観にとらわれず丹念に探すといくらでも見つかります。
これに似たことですが「見方によって違いの量が変わる」という、当たり前だけど陥りやすい事例もあるでしょう。典型的な例が「ダイヤモンド富士」に代表される、地上風景との位置比較です。左画像は少し古いけれど、1日違いで日没のダイヤ富士を茨城県某所の同じところから撮影した例。少しだけ沈む位置が変わっているのが分かるでしょう(青矢印)。山のような傾いた稜線があると、水平基準の方位角のずれではなくて稜線基準のずれのほうが重要になるのです。垂直にそびえるタワーや樹木、ナントカ岩みたいなものを前景にする場合は、どんな切り口で太陽のずれを見込んだらいいか、事前に十分なシミュレーションが必要でしょうね。
1年ごとの比較では閏日でのずれも考慮する必要があります。毎年全く同じ位置、同じ時刻から太陽を見ると、1年ごとに少しずつずれて、4年ごとに4年前の位置にほぼ戻るのです。ダイヤ富士などのロケハンでは「去年と同じでいいや」という考えじゃダメで、富士山から遠いほどずれの移動マージンが必要になります。富士山のすぐ側でダイヤ富士を撮ってる人と、100km、200km離れて撮ってる人とでは修正に必要な移動距離がまるで違うんですね。
左上画像で富士山までは約130kmありますが、もし日没方位が太陽1個ぶんずれると、だいたい1.2kmほど自分が移動しなければダイヤ富士になりません。数十メートルならカメラ担いで移動修正できても、撮影が迫ってるのにキロ単位の移動なんて無理ですよねぇ。比較対象が100km越える場合は地面の曲率まで気にする必要があります。大雑把な計算ですが必要な移動距離は2020年2月29日記事に載っていますので参考にしてください。※天体が低く、かつ地面の曲率を考慮しない概算で良ければ、地上対象までの距離L、観察天体の方位ずれをθとすると、θをラジアンにしてLを掛け算すれば必要な移動距離Mになります。
M=L×θ×2×π÷360
前述例では0.5°=0.008727radなので、130×0.008727=1.134km。日出没の場合、θは上のA・B・C・D図から読み取る程度で良いでしょう。
参考:
日出最早・日没最遅を作るアナレンマ(2017/06/29)
2017年の夏至です(2017/06/21)
2017年で最も日の出が遅いシーズンが来てます(2017/01/06)
冬の日没と太陽の位置変化(2016/12/10)
恒星と違い、日出没の太陽方位に季節変動があるのはご存知でしょう。後述しますが、最北や最南の日は必ずしも夏至や冬至と一致しません。でも夏至や冬至に近い日なのは確かです。具体的にどう変化するか、今年を例に図化すると下A・B図のようになります。国内五ケ所で計算しました。ここでの方位角とは、真北を原点として東回りに測り、真東:90°、真南180°、真西:270°とします。(※人によって南原点を採用してる場合もあるのでご注意。)
北半球では北へ行くほど振れ幅が大きくなり、札幌では真東/真西プラスマイナス30°以上ありますね。北緯60°まで行くと白夜ギリギリ、左図(Stellariumによるシミュレーション)のとおり夏至の日出没が真北プラスマイナス35°くらいになって、1日の方位変化が凄まじいでしょう。
日出没瞬間の太陽中心はまだ地平より下ですから、真東/真西に日出没するのは春分の数日前、または秋分の数日後です。グラフにもそれが現れてますね。(方位角90°・270°の線と交わるのは何日ごろか読み取ってください。)具体的な数値を確かめたい方は国立天文台・暦計算室の太陽系天体の出入りと南中のページを使うと良いでしょう。
では、1日辺りの変化量はどうでしょうか?下C・D図は方位角そのものではなく、前日からどれだけ方位が変わったかを表したグラフです。ここでのマイナス値は「北へ移動」、プラス値は「南へ移動」を意味します。方位変化は毎日同じスピードではなく、春分と秋分をピークとして波になっていますね。ほぼ動かなくなるのは夏至と冬至のころ。この頃に「北行から南行」または「南行から北行」に転じる変換点があるわけです。
日本で一番大きく変化する春分・秋分のころはだいたい1日あたり0.5°、つまり太陽1個分ほどずれて昇ったり沈んだりします。いっぽう変化が最小になる夏至・冬至のころは方位がほとんど変わりませんが、だからといって日出没が最北や最南かと言うとそうとも限りません。太陽のアナレンマを思い出してください。毎日同じ時間に同じ場所から太陽または太陽でできる影を見ると「8の字」を描く、あれですね。
下E図は日本標準時子午線に近い兵庫で計算したアナレンマ。6時、9時、12時のもので、ドットは二十四節気の位置。夏至は8の字のもっとも北にあります。ではこれを限りなく日の出の位置に近づけたらどうなるでしょうか?夏至の位置はアナレンマを赤道座標系で見た時に最北なのですが、地平座標で必ずしも方位最北と一致しないのではないでしょうか。非常に近いのは確かですが、実際に方位の変換点を計算すると夏至や冬至と少しずれることが結構あります。その日の中でも太陽が動いてしまうからですね。夏至瞬時が0:00でも23:59でも、日付で区切る限り同じ扱いになってしまうのです。
事例をひとつ挙げましょう。下F図は2026年6月の札幌から見た太陽方位角。2026年の夏至瞬時は6月21日17:24:30JSTです。いっぽう札幌から見た日の出の太陽方位角は21日が55.92922°、22日が55.92863°、23日が55.93850°。21日と22日は角度にしてわずか2秒角の差なので目で見ても全く変わりませんが、夏至の翌日22日のほうがいちばん北寄りに太陽が昇るのです。こういう例は先入観にとらわれず丹念に探すといくらでも見つかります。
これに似たことですが「見方によって違いの量が変わる」という、当たり前だけど陥りやすい事例もあるでしょう。典型的な例が「ダイヤモンド富士」に代表される、地上風景との位置比較です。左画像は少し古いけれど、1日違いで日没のダイヤ富士を茨城県某所の同じところから撮影した例。少しだけ沈む位置が変わっているのが分かるでしょう(青矢印)。山のような傾いた稜線があると、水平基準の方位角のずれではなくて稜線基準のずれのほうが重要になるのです。垂直にそびえるタワーや樹木、ナントカ岩みたいなものを前景にする場合は、どんな切り口で太陽のずれを見込んだらいいか、事前に十分なシミュレーションが必要でしょうね。
1年ごとの比較では閏日でのずれも考慮する必要があります。毎年全く同じ位置、同じ時刻から太陽を見ると、1年ごとに少しずつずれて、4年ごとに4年前の位置にほぼ戻るのです。ダイヤ富士などのロケハンでは「去年と同じでいいや」という考えじゃダメで、富士山から遠いほどずれの移動マージンが必要になります。富士山のすぐ側でダイヤ富士を撮ってる人と、100km、200km離れて撮ってる人とでは修正に必要な移動距離がまるで違うんですね。
左上画像で富士山までは約130kmありますが、もし日没方位が太陽1個ぶんずれると、だいたい1.2kmほど自分が移動しなければダイヤ富士になりません。数十メートルならカメラ担いで移動修正できても、撮影が迫ってるのにキロ単位の移動なんて無理ですよねぇ。比較対象が100km越える場合は地面の曲率まで気にする必要があります。大雑把な計算ですが必要な移動距離は2020年2月29日記事に載っていますので参考にしてください。※天体が低く、かつ地面の曲率を考慮しない概算で良ければ、地上対象までの距離L、観察天体の方位ずれをθとすると、θをラジアンにしてLを掛け算すれば必要な移動距離Mになります。
M=L×θ×2×π÷360
前述例では0.5°=0.008727radなので、130×0.008727=1.134km。日出没の場合、θは上のA・B・C・D図から読み取る程度で良いでしょう。
参考:
日出最早・日没最遅を作るアナレンマ(2017/06/29)
2017年の夏至です(2017/06/21)
2017年で最も日の出が遅いシーズンが来てます(2017/01/06)
冬の日没と太陽の位置変化(2016/12/10)