気温・気圧の変化と日出没への影響2025/06/22

気温や気圧が変わると天体高度も変わる
21日の天リフ・ピックアップ作業配信で宿題が出されたように思いましたので、時間の許す範囲で考えてみました。

日出没に限らず、天体の高度は大気の影響で高度方向の位置がずれます。この厄介な「大気差」は密度の高い大気がレンズとなって、天体からの光を縦方向に曲げてしまうことが主原因。大気密度は気温、気圧、組成などに関係して決まりますが、観測者周囲だけでなく上空の状態も関係するし、低空の観察では広範囲の気温気圧分布やその流れなど不確定なものばかりです。明日の天気が分からないのと同じで、完璧な予測は無理でしょう。ただ、大気がどれくらい光を曲げるか、気温や気圧との関係を示す実測値に近い簡単なモデル計算式は幾つも作られています。

昨日の記事で取り上げた日出没時刻も気温や気圧で変わります。天リフ・山口さんが初見でそこに突っ込みを入れたのはさすがだなと思います。記事では煩雑になるので触れませんでしたが、昼時間計算は気温・気圧ともに考慮してありました。ただし年間通して定数です。このあたりは、以前にだいこもんさんが書かれたキングスレートに関する記事を取り上げた時に作っていました(→2024年8月9日記事などを参照)。通常の天文計算で大気差に気温・気圧まで考慮する場合は「標高0mの標準大気」つまり摂氏15度、1気圧(1013.25hPa)を固定値として使うのが通例です。

では気温や気圧を変えたら、日出没時刻や昼時間は具体的にどれくらい変わるでしょうか。簡単な図を冒頭に示しました。標準大気で日出や日没(太陽上部が地平に接する)にある太陽は、気温50度の環境で見たら少し下がって見えます。また気温15度のままマウナケア山くらいの600hPaで見ると更に下がります。気温上昇や気圧低下で高度が下がったぶんは地面に隠れますから、僅かながら昼時間が短くなるということ。また、顔を出した太陽が楕円やダルマに見えるのは、標高0mの大気密度がどこよりも高く、また斑っ気があることの現れです。ちなみにこの図はStellariumで描いています。Stellariumには大気シミュレーションの機能が組み込まれています。

なるべく定数で誤魔化す部分を避けて現実的な昼時間を計算したいのですが、天気の予測は不可能。せめて気温を固定値ではなく四季に応じて変えたいと思いました。そこで、日本経緯度原点(東京タワーのすぐ西にあります)に近いアメダス東京ポイント(千代田区北の丸公園の東京管区気象台)の気温平年値を使うことに。春夏秋冬、朝晩で気温が変わるので、「日出計算はその日の最低気温平年値」「日没計算はその日の最高気温平年値と平均気温平年値の平均」と仮定します。たとえばある日の平年値が「最低10度、最高30度、平均20度」だったら、日出時は10度、日没時は25度といった具合。固定値よりは現実に近いでしょう。これで一日ごと一年分のデータを組み込み、いざ計算。

日本経緯度原点のみですが、気温・気圧が変わると昼時間がどれくらい変わるかグラフにしたのが下図。A図は日々の気温が変わらない状態(平年値のまま)が基準、B図は1気圧が基準。温暖化が進み、気温が今より平均的に20度上がったら、夜が20秒くらい増えます。いっぽう、標高1000mくらいの気圧に相当する900hPaなら40秒くらい夜が長いので、夜を延ばしたいなら平地で温度上昇を待つより、少し寒くても高地を目指したほうが効率良いですね。(もっとも標高が上がると地平が下がるから、平地より早く太陽が見えてしまうので昼時間が長くなってしまう…うーん…。)

これらはあくまで数字のお遊びで、現実は予測不可能なくらい複雑です。でも「こういう効果があるんだ」と知っておくことは大事だと思います。ちなみに今回の計算では「季節による太陽視直径の変化」も組み込んでいます。これで計算しても、昨日の記事に書いた「夏至よりも昼時間が長い日がある」のは同じ傾向でした。(むしろ増えてしまったところも。)全国の気温を組み込んで比較計算なんて面倒過ぎてやりたくありませんが、少し具体化できたのは個人的に一歩前進です。

  • 気温変化による昼時間の変化

    A.気温変化による昼時間の変化
  • 気圧変化による昼時間の変化

    B.気圧変化による昼時間の変化


【昼時間】

昼というのは一般に日の出から日の入りまででしょう。明るい薄明や薄暮まで含めたいのは天文屋の性なのかも知れませんが、太陽が当たらないと話にならない農林業などでは通じません。含めるとしてもどこまでかが曖昧です。

夏至の日を「昼が最長日」ということにしてしまうと、「最長をどうやって測定(予測)するのか?」という問題も生じます。未来の測定はできないから、来年のカレンダーすら作れません。また、南半球では最長が12月になってしまうし、赤道直下では春や秋が最長なので、国によって夏至がバラバラになってしまうでしょう。

そんな定義では定義にならないため、「太陽が黄経90°を通過する瞬間」という厳格な、そして誰もが予測できる方法になってるのだと思います。文明の中で色々な解釈に発展させることは各々の自由だと思いますが、少なくとも天文学上の定義は曖昧さを無くすべきと思います。



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